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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

世界のどん底で愛をさけぶ神獣

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世界のどん底で愛をさけぶ神獣

リアクション

■思い出せ、あなたは決して、『マゾ野郎』などではない――(2)

「……こそーっと」
 周囲に人の姿が見えないのを確認して、クロノスが身を乗り出し、地上の様子を見ていた。「興味ありませんよー」と言いたげな顔をしてはいるが、目線はしきりに地上へと向けられている。
「!」
 その時、自分の方向に飛んでくる何かを見つけ、クロノスが手をかざす。一瞬の後、手に収まったそれは投擲用のハチェットだった。柄の部分に何かがくくりつけられているのを見つける。
「…………」
 やっぱり「興味ありませんよー」と言いたげな顔のまま、クロノスはそのくくりつけられていた紙を解いて、中に書かれていたことに目を通し始める――。

「……とりあえず、興味は持ってもらえたみたいね。これでどうなるかしら」
 塔を見上げ、クロティア・ライハがよしよし、と頷く。
「後は……そうね、折角だからゲームにでも誘ってみますか。
 大層な身分らしいけど、それが誘わない理由にはならない。ゲームをやる意味、なんて考えたことない。
 やってみた方が早いわよ、何事もね」
 実は先程、放り投げたハチェットに新作ゲームの情報も合わせてくくりつけていた。もしそちらにも目を通していたなら、まぁ流石にこの場でいきなり一緒にプレイとはいかなくとも、いつかその気になってくれるかもしれない。

「……スマッシュガールズ?」
 クロノスがそのゲーム情報が書かれた紙に目を通していると、地上から「ゲームしましょー!」と声が聞こえた。
「するわけないじゃんー」
 そう口にしつつも、クロノスの目は紙から離れることはなかった。


「……えっと、塩対応? よくわからないけど……」
 睡蓮寺 小夜が首をかしげ、堀田 小十郎睡蓮寺 陽介が言葉に詰まったような表情を見せた。
「サラマンダーさんは、わたし達人の想いが重荷になっちゃった、のかな……。
 だとしたら……それは、とっても悲しいなって……」
 しゅん、と肩を落とす小夜を励ますように、小十郎が声をかける。
「少し見ただけ故に、確信は持てないが……彼は人の想いに負担を感じるような性格ではないだろう。
 誰に仕え、剣を振るうかは彼自身が決めることだ。……理由については些か奇抜とは思うが」
「それな! 気高いのは結構、けどそれで悪魔にまでなるたぁ、行動が飛躍しすぎだぜ。
 でも、ま、そういうバカは嫌いじゃねぇな!」
「に、兄さんっ。元とはいえ神獣に対して言い過ぎですっ」
 小夜にたしなめられ、陽介がわりぃわりぃ、と頭を掻く。
「サラマンダーのおかげで続いてきた未来があんのに、それを忘れるたぁ、とんでもねぇぜ!
 小十郎、小夜。俺達でど忘れしちまったサラマンダーの記憶、呼び覚まそうぜ!」
「ああ」
「……うん!」
 陽介の声に、小十郎と小夜が頷いた――。

(道は無数に分かれている……だが、すべての道には必ず始まりがある。
 抱いていたはずの初心を忘れてしまうのは……悲しいものだ)
 ゆっくりとした動作で、小十郎が剣を抜く。辺りを飛び交う灼熱の炎に刀身が照らされ、赤く煌めく。
(サラマンダー、あなたが剣を執った理由を……『初心』をもう一度、その心に浮かべてくれたなら嬉しい)
 向いた先には、模擬刀を手にした陽介が立っていた。彼から立ち昇る気迫は、まるで剣が本物であるかのような印象を与えた。
「人間は根絶やしだ! 地上は悪魔が支配するのだ!」
 野性的な、獰猛な雰囲気をむき出しにして駆ける陽介を、小十郎は地に足を着け、どっしりとした構えで迎え撃つ。舞台用の剣であるため打ち合いはできないはずだが、二人の振るう剣は実際に打ち合い、火花を散らしているかのような錯覚をもたらしていた。
(わたしは……もう一度ちゃんと、「ありがとう」って伝えたい……!
 その上で、サラマンダーさんが本当にしたいことをしてほしい……)
 二人の気迫のこもった演武を、小夜が神獣小狼丸と共にウタで彩る。昔の出来事、『大戦禍』をはじめとする無数の戦いで自分が為してきたことを思い出してもらうために。
「あの頃の戦いは、こんなもんじゃなかったんだろ……! もっと派手に、もっと盛大にいくぜ!」
 陽介の身体が空へと浮かび、落下の勢いを乗せた斬撃を小十郎へと浴びせる。小十郎は身を捩ってその攻撃を回避しすぐさま、地を蹴って着地後の隙を晒す陽介へ飛びかかるようにして反撃の一刀を繰り出す。刀と刀が接触したように見え、二人が弾かれるようにして一定の距離を空けた位置で立ち止まった。
「……確かに、私はあの戦いにて武を振るい、人々を結果として守った。
 だがそんなもののために、戦ったわけではない! もっと形に表せぬものが――」
 そこまで発したところで、サラマンダーはそれ以上言葉を口にできなくなる。
「思い出せ、戦いの記憶を。
 お前が戦い、残したモノには――確かに、意味があったのだから」
 小十郎が踏み出し、陽介に連撃を浴びせる。陽介は防戦一方となり、最後の薙ぎ払いは刀が間に合わず、かろうじて致命傷を避ける動きでもって受ける。
「小癪な! これで終わりにしてやる!」
 手負いの悪魔が放った、渾身の一撃。空中から降り注ぐ灼熱の光球が、しかし小十郎の足元から伸びた光の橋で遮られる。
「はあっ!」
 小十郎は光の橋を渡り、光球を剣で断ち切る。崩れる光の橋を足場にしてすべての光球を切り裂き、呆然と立ち尽くす陽介に飛び降りざまの振り下ろしを浴びせれば、ニヤリ、と笑った陽介がゆっくりと地面に倒れていった。


「否定的な見方も多いかと思いますが……騎士様が本当にただの特殊な趣味の方であるなら、あのように多くの従者が付き従うでしょうか。『偉大な四神獣が一柱』として長く人々から感謝の念を受けられるでしょうか」
「ドラゴンがサラマンダーの今の姿を知らなかったってことは、サラマンダーが人間に牙を向けて暴れ回っていた、わけじゃない。
 昔も今も、人は神獣に守られ、同時に試されてきた。サラマンダーもその役割を担っていたけど、『天啓』……ゾロールも言っていた、ゾロールを変えてしまったそれが、サラマンダーをも変えた」
 小鈴木 あえか千夏 水希が互いに、思うところを言葉にする。
「本来なら人間の敵となるところを、天啓によって歪められたと考えるのが妥当なら、サラマンダーとその眷属が人間に失望した出来事があったと考えるのが妥当」
「形ばかりの感謝、騎士様の心情を無視した供物など、人間の方にも非があったのでしょう。
 故に、ただ昔の記憶を呼び起こすだけでは足りません。騎士様を満足させる『これから』を示せなければなりません」
 水希がちら、とあえかを見て言う。
「これから、のところは任せた。人間の可能性、思い描く未来を見せてやって欲しい。神獣が手を貸したくなるような夢を、な。
 私は……そう、火に油を注ぐ役割ってやつさ」
「千夏さん、言っていたじゃないですか。サラマンダーは人間に牙を向けなかった、って。大丈夫ですよ、きっと」
 ニコリと笑うあえかにどうだか、と呟いて、水希が進み出る。
「思い出せ、一番大事なものを。……私がお前の世界を、壊してやる」
 漆黒の翼を広げ、楽器を手に、黄昏の歌から過去が――『大戦禍』が起きる前のアーディバルが再現される。空を飛ぶ神殿が、美しく整えられた森が、そこに住まう神獣と人間が、それが幻であるとわかったとしても本物であると見紛うほど精巧に再現されていた。
「そう、これはあんたの記憶。口では忘れたと言っていても、消えずに残り続けているもの」
 そして、その穏やかな光景に紅く、ヒビが走る。神殿が崩れ、森が焼け、大地は避け、街が一瞬にして業火に包まれ、灰と化す。
 逃げ惑う人間の頭上に炎が降り注ぎ――。

「なんだその手は? いらないんだろ?」

 水希の不敵な笑みとともに放たれた言葉で、サラマンダーは半ば無意識に、自分が人間を守るように手を伸ばしていたことに気づく。
「――――!!」
 直後、サラマンダーの周囲の温度が徐々に上がる。噴火の予兆を感じ取った水希が流石に危険と判断して動き出そうとするより早く、あえかがサラマンダーの腕にすがりついた。
「騎士様が伸ばしてくれた手をわたし達が取るためには、どうすればよかったのでしょう。
 せめてもう一度あの頃に戻って、一緒に戻って、そこからやり直しさせてもらって……」
 噴き上がっていた熱が、重しを載せられたように溜まる。
「……これからをもう一度、今度はわたし達の隣を一緒に歩んでほしいのです」
 あえかが横目で水希を見、はぁ、とため息を吐いた水希があえかの横に立つ。
 二人が紡ぐノクターンに、サラマンダーの熱気が鎮まっていった――。
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