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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

世界のどん底で愛をさけぶ神獣

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世界のどん底で愛をさけぶ神獣

リアクション

■思い出せ、あなたは決して、『マゾ野郎』などではない――(1)

「サラマンダー様、私と……アマービレの歌、聞いていってください!」
 背中の六枚羽を広げた楢宮 六花が神獣のアマービレと共に空へと飛び立ち、翼の銀飾りの中心に複雑な魔法の文様が描かれた長い杖を掲げ、生じた風切り音をも音色として使いながら、どこか懐かしさを感じさせる、ささやかな人の営みの幸せを謳った歌を歌う。

 今日の善き糧、くださりたもう、暖かなるは陽の光

 今日の善き日、おまもりたもう、勇ましきは金の剣

 今日の善き夜、みちびきたもう、静かなるは月の光

 今日の善き夢、おささえたもう、疾風なるは銀の剣


「サラマンダー様が守ってきたものを……人間や他の種族たちの祈りと、生き物らしい幸せを、どうか……!」
 遥か昔、サラマンダーが尊い存在として崇められていた頃の記憶を思い出してもらえるように、六花はアマービレと寄り添いながら歌声を届ける。
「そのような記憶、私は既に持ち合わせておらぬ!」
 歌声はサラマンダーの咆哮にかき消されるが、サラマンダーの反応は、六花の歌がサラマンダーに届いたことの証。

 ――今は届かなくとも、いつか思い出してくれるような歌を――

 この歌がいわば、橋頭堡となって次に続く歌をサラマンダーへ届けていく。


「サラマンダーの気持ち、少しだけですけど、分かる気がします。
 芸事でも同じだと思います。自分は評価や他人からの感謝のために芸事に励んでいるわけではないのに、そればかり取り沙汰されてしまうといつしか、自分の立ち位置を見失ってしまうような。評価や他人からの感謝に、自分が踊らされてしまうような」
 神獣ミグラテールに騎乗した空花 凛菜が、サラマンダーへの共感を心に抱きつつミグラテールと共に歌声を届ける。自分が思ったようなことを、昔のサラマンダーも思ったのではないか――
「…………」
 サラマンダーから、明確な回答は引き出せない。ただそれは、歌が届いていないというよりは、凛菜の仮定が的を得ているからこそ、それを認めることで付け入られることへの抵抗という意味合いが強かった。
「私の場合、特効薬は観客の皆さんの笑顔を思い出すことです。思いつめていたものがスッ、と消えて、細かいことを気にしないようにしよう、的な気分になれますよ」
 サラマンダーへの助言を歌に乗せて届けたところで、凛菜は視線を一瞬、塔の上のクロノスへと向けた。
(クロノスさんは私のスタイルを見て、歌を聞いて、何か感じませんか?)
 語りかける視線に気づいたのか、クロノスがサッ、と奥に引っ込んでしまった。『やりたいようにやればいい』と啓示を送りつつも、フェスタ生の行為がどうしても気になってしまう様子であった。


「人々から感謝されたりするのに、飽きた、ですって……?
 そんなくだらない理由で本来の役目を放棄するなんて、ちっぽけな誇りね……」
 矢野 音羽が冷めきった視線を、サラマンダーへぶつける。
「はっはっは! そのような目で見られることはとうに慣れきっておる!」
 対するサラマンダーは、音羽の視線を受けて何やら生き生きとした様子だった。
「……うわぁ」
 音羽のドン引き度がさらに上がる。慌てて白波 桃葉が駆け寄り、声を掛ける。
「ほ、ほら、サラマンダーがああなったのって啓示のせいだって言ってたじゃん? そりゃまぁ、素質があったって言われたらそうかもしれないけど……とりあえず元に戻ってもらって、本当のことはそれから聞こう?」
「そうね……尊敬できない神獣の相手くらい出来ないと、これから先やっていけないわよね……」
「あ、あはは……」
 もはや苦笑する他ない桃葉の視界に、はくまホワイトを連れた藤崎 圭が映った。
(圭、ナイスタイミング!)
 目線で圭にこっちに来るように指示してから、音羽の肩を叩いて視線を促す。
「はくまも協力してくれるって。みんあで一緒に頑張ろ? ね?」
「はくまさんとホワイトちゃんに? ……あの変な神獣はあまり関わりたくないけど仕方ないわね……」
 そう口にしてはいるものの、口元は先程までと比べ大分、柔らかくなっていた。要因はいろいろあるが、最大はホワイトの存在だろう。
(ホワイト可愛いからね。……それじゃ、やりますか!)

 ひんやりとした雰囲気の中、操り人形に踊りをさせつつ、桃葉が衣装の力も借りたセクシーなダンスでライブの開幕を彩る。
「音羽はもう大丈夫かな? サラマンダーをすごく気持ち悪がっていたようだけど」
「はくまとホワイトのおかげで持ち直したってところね」
「そうか、よかった。今までにいないパターンだったから、わからなくはないけどね」
 一緒に踊る圭とそんな会話を交わしつつ、音羽の奏でる横笛の調べに合わせ、ダンスを続ける。
「本来の自分のお仕事が何だったか、思い出してもらいましょう」
 空間に涼やかな霧霞が生まれ、爽やかな雰囲気は過去の記憶を呼び起こさせんとする。
「過去の記憶など、とうに捨てた! 今の姿こそが私の使命、私のあるべき姿である!」
 そのように吠えるサラマンダーだが、全身から過剰なまでに炎を噴き出している姿は、ひんやりと迫る冷気から身を護るための抵抗に他ならない。そうやって自分を奮い立たせていないと、過去の自分を思い出してしまうのだ。
「ええい! そんな目をして私に迫るな!」
「音羽、効いてるわよ! もっと盛り上げていきましょう!」
「複雑な気分だけど……盛り上げるのには同意ね。ホワイトちゃんも一緒に、ね」
「チュウ!」
 はくまから一時的に借りたホワイトの応援を受け、音羽が圭と二人、カンタレーヴェで広く知られている伝承を元にした歌を紡ぐ。そこから桃葉とはくまを加え、全員での合唱へとつなげていく。
「何だ、この奥から沸き起こる高揚感は……!? 私はこの歌に感動しているとでも言うのか!?」
 サラマンダーは自らの感情に戸惑っているようだった。それは長い時を経ても、彼がかつての自分を忘れていなかったからこそ。
「……ふぅ。少しは思い出したかしら?」
 歌い終えた音羽が問いかければ、サラマンダーはどこか恍惚とした様子で吠える。
「……やはり私は、無関心で冷めきった視線こそが好ましい!」
「…………うわぁ」
 音羽のドン引き度がさらに上がった。


 辺りに立ち込める熱気は、少し気を抜けばそのまま飲み込まれてしまいそうなほど。
 その中にあっても、ジュヌヴィエーヴ・イリア・スフォルツァは涼やかに、巻物のような楽器を広げそこから鍵盤の音を響かせる。
(たとえ、サラマンダー様の誇りを傷つけてしまうのだとしても……。
 わたくしたちはきっと、これからも、感謝の気持ちを届け続けるのだと思いますわ)
 すぐ傍を熱波が駆け抜け、ドレスから発される水滴を瞬く間に蒸発させる。それでもジュヌヴィエーヴは、サラマンダーの心を少しずつでも解きほぐせるように――小さな雨の雫が、やがて燃え盛る炎を鎮めるように――一音一音、染み入るような音を奏でる。
(守っていただくことは、決して『当たり前』ではありません。
 神獣様たちと、わたくしたち人間と。ずっと共に同じ世界で生きていたいから、少しでも歩み寄りたいから、お互いに与えて……与えられて。
 そうした感謝を繰り返して、今のセブンスフォールがあるのだと思います)
 隣で神獣のムジカも、力の込められたウタをサラマンダーへ聞かせる。やがて、ウタを阻もうとしていた炎の勢いが衰え、サラマンダーがしきりに頭を振る仕草を見せ始めた。

 ――Lets ’dicere caritas
 Flores in in ventum in mari usque ad caelum
 Quanto magis vos mihi in latus――


 ジュヌヴィエーヴがムジカと共に空へと上がり、感謝を込めた黄昏のウタを紡ぐ。
(守ってくださることへの感謝だけでなく。わたくし達を――人間を、大好きでいてくださることへの感謝を)
 頭を上げたサラマンダーの目に、優しく降る雨とそこにかかる虹が映った――。
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