みんなでレッツ犯罪!? バビフェス開催!
リアクション公開中!
リアクション
4.輝けるGOOD STAGE、終わらないHEAT UP
石川 五右衛門はアイドルたちと共にライブを楽しみ始めている。
そのノイズは薄まり、表情も変わっているように見えた。
しかし、この事態にバビロン芸能事務所が黙っているわけはない。
どうした五右衛門、とステージ下から騒ぎ、何とか五右衛門を引き戻そうとしている関係者の姿もあった。
「もう、分かってるんでしょ? 五右衛門ちゃん」
シャーロット・フルールはそう、五右衛門に語りかけた。
「無くなった命は戻ってこない、強盗殺人なんてダメだって。ボクのパパやママも…ねぇ、そうだよね?」
五右衛門は返事をしなかった。
まだ、素直に頷くことはできないのだろう。
シャーロットは笑顔を作り、こう言った。
「ノイズなんかに負けて、取り返しのつかない事をしちゃダメだよ。鼠小僧ちゃんもきっと悲しむでしょ? じゃ、五右衛門ちゃんにちゃんと分かってもらうために、ボクたちとライブ対決だよっ!」
【リトルフルール】が仕掛けたのは、「フェスタサーカス」であった。
まずステージに現れたのは、弥久 風花だった。
風花はフェイクブラッドの血糊をたっぷり使い、ステージ上に横たわっていた。
(まったくどうしてくれるのかしら? さっき、私のケチャップ増し増しハンバーガーをはたき落としてくれたのってバビロン芸能事務所の所属の関係者よね?! おかげで、折角の服が酷い事になっちゃったわ! この落とし前はしっかり付けてあげないと!!)
死体役をしながら風花はそんな事を考えていたのだが……舞台はあくまでシリアスに進行する。
横たわる風花の傍にはアレクス・エメロードの猫、星獣の「レオン」が寄り添い、悲しげに風花の頬を舐めた後、そのまま傍らで動かなくなった。
藍屋 むくと梧 双葉がコーラスフラワー、そしてフルールオブライフと共に風花の傍に立ち、悲しみの歌を歌う。
藍屋 あみかがアイススカルプチャーでコーラスフラワーと同じ氷像を生み出すのは、シャーロットとウィリアム・ヘルツハフトが作る氷の森の中だ。
その森のなかで、虹村 歌音もむくと共にバラードを口ずさみ、この世に残される者の悲しみを歌う。
(大切な人を失くした悲しみ……心にぽっかりと穴が開いたような寒々しい喪失感や、凍てつく氷のような心の痛みがどんなものなのか、このライブで五右衛門さんに分かってもらわなきゃいけないよね)
(みんなのたのしい気持ちがつづくようにね。どこかでだれかがおむねをいためて、ないちゃうようなブームは、ぜったいに止めなきゃってむくもおもうよ)
むくと歌音は視線を合わせ、歌声を響かせる。
そこに、奏梅 詩杏の歌声も加わった。
「どうして誰かを悲しませるのですか…?」
木漏れ日ギターを奏でるあみかと共にリトルコスモスを演奏しながら、詩杏はスポットマイソングの光を集め、観客に語りかける。
「誰かを泣かせるのは、悲しませる事は、その人に一生消えない傷を作る事なのです…」
殺人を流行させてはならない。
ハーモナイズプレイに乗せ、詩杏は歌に台詞に感情を込めた。
「誰にもつけないでほしいのです…! 目には見えない、消える事のない心の傷を…」
詩杏と共にギターを奏でながら、あみかもその演奏に思いを込める。
仲間ともに奏でる曲がアンチテーゼ・ノイズになるように。
そして、観客に語りかける。
「この舞台であたたかい何かが、心に生まれてくれたらうれしく思います」
妹のむくと視線を合わせ、頷いて見せながらあみかはギターの音を観客へと届ける。
「誰かの悲しみを楽しむようなことだけは、広めてはいけないんです」
ふと、五右衛門に視線があった。
彼女はなにかいいたげな表情であみかやリトルフルールのアイドルたちの方を見ていた。
あみかは五右衛門に向けて微笑み、言葉を続けた。
「つらい気持ちがあるなら、その痛みの分だけやさしくなってほしいから……」
そして、あみかがむくとともにステージ上にオリオンの光を瞬かせると、歌音はその上にメロディリウムの幻想空間を作り出し、ウィンターファンファーレの雪を降らせた。
ウィリアムとシャーロットはその空間の中で踊り、悲しみを表現する。
(五右衛門が流行らせようとしている「強盗殺人」には、必ず「犠牲者」が生まれる……遺族も友人も、大切な者を永遠に喪ったことを嘆き、悲しみにくれるはずだ)
(失われた命は永遠に戻らない……残されるのは、悲しみだけだよっ!)
氷の森に降る雪は、やがて血塗られた遺体を覆い隠していく。
そして歌のクライマックスになり、双葉が歌音と声を合わせ、より力強くハーモニーを奏でる。
「なぜ簡単に人を殺すの? 命は唯一つ。死んだらもう二度と会えないのに、なぜ簡単に人を殺すの?」
双葉は歌音とともに、エタニティシャインの光の花をステージ上に弾けさせた。
「残された家族や友人は、その理不尽な死を悲しみと共に受け止めなくてはならないのよ?」
そして、ここから舞台は急展開を見せた。
シャーロットが炎の衝撃波で悲しみの氷の森を打ち砕き、詩杏とあみかがギターを激しくかき鳴らす。
横たわっていた風花も飛び起きて、元気のアピールとばかりに氷の樹木を打ち砕いた。
そして、アレクスが待っていましたとばかりに猫のレオンを星獣ブレイズレオンに進化させ、こちらも炎とともに復活を演出。
さらに詩杏がアイスフィールドでこの破片が激しく飛散して見えるように演出を加え、盛り上げる。
周囲にはダイヤモンドダストのような輝きが散った。
「我らフェスタサーカスもとい、百華盗賊改め方リトルフルール☆ 悲しみ生み出す強盗ちゃんをやっつけろ♪」
シャーロットがそう、観客に向かって声を張る。
「いでよ、ボクらの船! 飛翔宝船! 夜明けと共に出動だ☆」
くるん、とステージ上でバク転すると、シャーロットは無重力空間を生み出し、共演者たちを宙に浮かべた。
そして風花、詩杏とともに飛翔宝船に乗り込むと、「捕物ライブ」を開始した。
「いい? 五右衛門ちゃんも他の皆も、強盗殺人なんてさせてあげないんだからね☆」
シャーロットはそう宣言すると、飛翔宝船を発進する。
アレクスは驚いている観客にシャイニーオーディエンスの光の輪を配布し、自分たちを応援するようにアピールした。
「みんなにも、シャロたちを応援してもらうぜ! なんならまだ暴れてる奴らに投げつけてくれてもいい! 五右衛門がまだ変なことしそうなら、容赦するな!」
アンチテーゼ・ノイズを観客へと送りながら、「それでも暴れる奴はバングル型のを出現させて御用だ」とアレクスは叫ぶ。
ステージに残った双葉はローリービートで観客を盛り上げながら、アレクスの光の輪を受け取った観客に向け、さらにクラリティエールの光の球を届け、「投げて!」とアピールした。
「私達を応援して! ステージがもっと盛り上がるように!」
双葉は観客に向け、そう声をかけた。
「人類平和が一番でしょ! 犯罪をはやらせるという考えには断固反対よ!! 私たちの考えに賛同してくれる人は光の玉をステージに投げてほしいの!」
この声に賛同した観客が光の球を一斉に投げる。
そして、歌音は歌う歌を群雄割拠行進曲に変え、船に乗った仲間たちを応援する。
ウィリアムはこの歌声に合わせ、剣戟の声を響かせ、迫真のアクションパフォーマンスを繰り広げた。
(我々が示した二つの未来……この場の者たちが最終的にがどちらを選ぶかなど、考えるまでもないだろう?)
激しい動きに魅せられ、観客が声援を送る。
さらに、あみかとむくが覚醒した幼生神獣のファーブラに乗り込み、観客の頭上へと飛び上がった。
「みんな、しあわせになるために生きてるっておしえてもらったの。自分だけじゃなくてみんなで、むくもそう思うから、とどいてほしいな」
むくはローリービートに乗せて歌声を響かせ、あみかがギターをそれに合わせながらアンチテーゼ・ノイズを音に乗せる。
そして2人はファーブラの背からオリオンの光を観客の頭上へと振らせた。
「捕り物ライブ♪ 五右衛門ちゃんの危険行動には神々のイエローカード! タライで警告、ペナルティだよっ?」
維新の乱撃、タピオの獰猛、で勇ましくアピールするシャーロット。
船で接近し、からかうように「まだやるの?」と声をかけるシャーロットに、五右衛門はとうとう「もうしないよ!」と声を上げた。
ついに観念したようである。
「やっとわかったらしいな、五右衛門!」
アレクスがははっ、と笑って五右衛門に近づく。
「強盗殺人が格好良いだなんて言い始めるようじゃ、かつての義賊様も落ちぶれたもんだぜ。だせぇよ、そんなの」
「そう……だよねぇ」
「ああ。一流の盗っ人は、んな血生臭せぇ事しねぇ。誰にも気づかれず、目当てのもんをかっ攫うんだよ。んで後で品は返すんだ。そのほうが、格好良いだろ?」
「だけど、まだ……」
五右衛門の視線の先では、ノイズに影響された観客がまだ残っていた。
そこで、シャーロットが再び声をかける。
「盗賊ちゃんを追い詰めろ☆ 観客の皆も手伝って♪」
「僕も頑張ってサポートするのですよー! 皆で協力して、悪い人は逮捕なのです!」
船の上から詩杏もそう声を上げる。
ノイズの晴れた観客らは、リトルフルールのアイドルたちに応え、暴れている者たちを取り押さえにかかった。
そしてここに、風花も飛び込んでいく。
「ぐ、ぐふっ…いい加減にしなさい…!」
風花は暴れている者たちを押さえつけ、旅人の長杖で打ち据えた。
「あの子はもう理解してるんだから、みんなも目を覚ましなさい! 犯罪なんて、世の中にありふれたモノを流行らせるなんて、天下の大泥棒の五右衛門が情けない、ってね!」
見栄も張れず、粋でもない、凡俗に落ちるのならば芸能神失格だ。
五右衛門にはそれが分かったのだと、風花は暴れる者たちを叱咤した。
「掛かる上は、神妙にお縄に付きなさい!」
騒ぎが集結していく。
その様子を見届け、シャーロットはライブの最後にワンダフルパレードの花火を繰り出した。
ライブ成功、そして凱旋というわけだ。
そして、全てのライブの最後に現れたのは【DreamerS】だった。
「お二人の大切な芸器。少しの間」
天草 燧が仲間2人の使う芸器にハルモニアチューニングを施す。
ステージ横から五右衛門の様子を見ながら、ノーラ・レツェルが「もう少しだよ」と言った。
「バビプロが五右衛門さんに何かしたことは確実…そしてまだ、諦めてない。だけど、僕たちが五右衛門さんに寄り添うことで、きっとノイズは払える」
「ええ。そうすればきっと、五右衛門さんもバビプロのアイドルたちも今夜はよく眠れるはずです」
合歓季 風華が微笑み、頷く。
自分たちのライブを最後に、犯罪を流行らせようという動きは止めてみせる。
3人はその決意とともにステージに立った。
「僕らは夢を見歌い続ける……たとえ、それがどれだけ滑稽に映るとしても」
ライト・メモリーを手にステージに立った燧は、ディヴィニティの力を発動する。
そして、風華が観客に向けて呼びかけた。
「皆様はよく眠れていますか? 穏やかに、よく眠れていますか?」
客席から応えるように歓声が沸き起こる。
「望む全ての方にねむねむの加護を。よき眠りとよき目覚めを……」
風華は五右衛門の方を見た。
「五右衛門さん、あなたにも誰かに届けて見たい笑顔があったはず。その夢を思い出してみませんか?」
このライブに託すのは、眠りへの思い。
自分のフェスタでの原点「安眠祈願のネムキエル・ねむねむお姉さん」としてよき眠りを歌えるように――風華は心を新たにした。
(もう、バビプロのノイズにはこの会場を支配させません。私達はこのライブで、穏やかな歌曲で皆様に眠りを説きます……明日の目覚めを思えるように、自分と誰かの未来を思えるように……!)
ネムキエルの分響聴飾、ネムキエルの輝天煌翼、ネムキエルの遥聖祷衣、身に着けたそれらに衣装負けせぬよう、風華は歌声とともにアンチテーゼ・ノイズを観客へと届ける。
歌うのは『邯鄲の夢』である。
ノーラは歌声をネプチューンエコーに乗せ、揺蕩う気持ちに任せてセージの飛翔で飛び立った。
「ねぇ五右衛門さん、きみの夢は何かなぁ?」
ナチュラル・サンシャインで、眠たくなるような温かな陽だまりを作り出しながら、ノーラは歌う。
そこに燧がスムースパラディアを合わせ、観客を優しい世界へと誘う。
風華はそこにウィンターファンファーレの雪をきらきらと降らせていく。
そして観客の頭上へとエタニティシャインの光の花を咲かせながら、燧のネムキューブを鍵盤のように並べて音を奏でた。
燧はU.チェイスブルーミングの花々をステージ上に歌わせ、コーラスさせながら風華に合図を送った。
ファルベライゼの効果により、風華の衣装にもフリルが現れる。
花と光の中で背の羽根をパタパタと動かして見せ、風華は眠りの先に待つ穏やかな境地を観客に向けてアピールした。
「お昼寝も微睡みも、全て一瞬の間に過ぎて終わってしまう…楽しい事は一瞬で、嫌なことは長く感じて、五右衛門さんもそうじゃない?」
ノーラはそう、五右衛門に語りかけた。
「楽しい、ってきっと…自分の一番したいことをやってこそ。その時に輝くものだとぼくは考える。だから今一度思い出して、一番やりたかったことを。それが本当に、バビプロのいう犯罪ブームを起こすことなのか、強盗殺人を犯すことなのかどうか」
自分のやっていること、やりたいことが誰かの幸せになるように。
五右衛門もかつては、そんな考えだったのではないか――。
そう問いかけるノーラの前で、五右衛門は大きく頷いてみせた。
「分かって、くれたのですね?」
風華が声をかけると、五右衛門は「あたしが悪かったよ」と口にした。
自分はいつの間にかすっかりおかしくなっていたに違いない、と。
「何だか、ずっと眠ってて……今起きた気分だよ。どうしちまってたんだろうねぇ、この五右衛門様がさ」
照れくさそうに笑う五右衛門。
バビプロの他のアイドルたちも、みんな顔を見合わせ、ぎこちなく拍手をし始めた。
歓声で沸き返る会場からは、ノイズの気配も消えていた。
【DreamerS】の3人、そしてライブを行ったその他大勢のアイドルたちの気持ちがついに通じたのだ。
石川 五右衛門はアイドルたちと共にライブを楽しみ始めている。
そのノイズは薄まり、表情も変わっているように見えた。
しかし、この事態にバビロン芸能事務所が黙っているわけはない。
どうした五右衛門、とステージ下から騒ぎ、何とか五右衛門を引き戻そうとしている関係者の姿もあった。
「もう、分かってるんでしょ? 五右衛門ちゃん」
シャーロット・フルールはそう、五右衛門に語りかけた。
「無くなった命は戻ってこない、強盗殺人なんてダメだって。ボクのパパやママも…ねぇ、そうだよね?」
五右衛門は返事をしなかった。
まだ、素直に頷くことはできないのだろう。
シャーロットは笑顔を作り、こう言った。
「ノイズなんかに負けて、取り返しのつかない事をしちゃダメだよ。鼠小僧ちゃんもきっと悲しむでしょ? じゃ、五右衛門ちゃんにちゃんと分かってもらうために、ボクたちとライブ対決だよっ!」
【リトルフルール】が仕掛けたのは、「フェスタサーカス」であった。
まずステージに現れたのは、弥久 風花だった。
風花はフェイクブラッドの血糊をたっぷり使い、ステージ上に横たわっていた。
(まったくどうしてくれるのかしら? さっき、私のケチャップ増し増しハンバーガーをはたき落としてくれたのってバビロン芸能事務所の所属の関係者よね?! おかげで、折角の服が酷い事になっちゃったわ! この落とし前はしっかり付けてあげないと!!)
死体役をしながら風花はそんな事を考えていたのだが……舞台はあくまでシリアスに進行する。
横たわる風花の傍にはアレクス・エメロードの猫、星獣の「レオン」が寄り添い、悲しげに風花の頬を舐めた後、そのまま傍らで動かなくなった。
藍屋 むくと梧 双葉がコーラスフラワー、そしてフルールオブライフと共に風花の傍に立ち、悲しみの歌を歌う。
藍屋 あみかがアイススカルプチャーでコーラスフラワーと同じ氷像を生み出すのは、シャーロットとウィリアム・ヘルツハフトが作る氷の森の中だ。
その森のなかで、虹村 歌音もむくと共にバラードを口ずさみ、この世に残される者の悲しみを歌う。
(大切な人を失くした悲しみ……心にぽっかりと穴が開いたような寒々しい喪失感や、凍てつく氷のような心の痛みがどんなものなのか、このライブで五右衛門さんに分かってもらわなきゃいけないよね)
(みんなのたのしい気持ちがつづくようにね。どこかでだれかがおむねをいためて、ないちゃうようなブームは、ぜったいに止めなきゃってむくもおもうよ)
むくと歌音は視線を合わせ、歌声を響かせる。
そこに、奏梅 詩杏の歌声も加わった。
「どうして誰かを悲しませるのですか…?」
木漏れ日ギターを奏でるあみかと共にリトルコスモスを演奏しながら、詩杏はスポットマイソングの光を集め、観客に語りかける。
「誰かを泣かせるのは、悲しませる事は、その人に一生消えない傷を作る事なのです…」
殺人を流行させてはならない。
ハーモナイズプレイに乗せ、詩杏は歌に台詞に感情を込めた。
「誰にもつけないでほしいのです…! 目には見えない、消える事のない心の傷を…」
詩杏と共にギターを奏でながら、あみかもその演奏に思いを込める。
仲間ともに奏でる曲がアンチテーゼ・ノイズになるように。
そして、観客に語りかける。
「この舞台であたたかい何かが、心に生まれてくれたらうれしく思います」
妹のむくと視線を合わせ、頷いて見せながらあみかはギターの音を観客へと届ける。
「誰かの悲しみを楽しむようなことだけは、広めてはいけないんです」
ふと、五右衛門に視線があった。
彼女はなにかいいたげな表情であみかやリトルフルールのアイドルたちの方を見ていた。
あみかは五右衛門に向けて微笑み、言葉を続けた。
「つらい気持ちがあるなら、その痛みの分だけやさしくなってほしいから……」
そして、あみかがむくとともにステージ上にオリオンの光を瞬かせると、歌音はその上にメロディリウムの幻想空間を作り出し、ウィンターファンファーレの雪を降らせた。
ウィリアムとシャーロットはその空間の中で踊り、悲しみを表現する。
(五右衛門が流行らせようとしている「強盗殺人」には、必ず「犠牲者」が生まれる……遺族も友人も、大切な者を永遠に喪ったことを嘆き、悲しみにくれるはずだ)
(失われた命は永遠に戻らない……残されるのは、悲しみだけだよっ!)
氷の森に降る雪は、やがて血塗られた遺体を覆い隠していく。
そして歌のクライマックスになり、双葉が歌音と声を合わせ、より力強くハーモニーを奏でる。
「なぜ簡単に人を殺すの? 命は唯一つ。死んだらもう二度と会えないのに、なぜ簡単に人を殺すの?」
双葉は歌音とともに、エタニティシャインの光の花をステージ上に弾けさせた。
「残された家族や友人は、その理不尽な死を悲しみと共に受け止めなくてはならないのよ?」
そして、ここから舞台は急展開を見せた。
シャーロットが炎の衝撃波で悲しみの氷の森を打ち砕き、詩杏とあみかがギターを激しくかき鳴らす。
横たわっていた風花も飛び起きて、元気のアピールとばかりに氷の樹木を打ち砕いた。
そして、アレクスが待っていましたとばかりに猫のレオンを星獣ブレイズレオンに進化させ、こちらも炎とともに復活を演出。
さらに詩杏がアイスフィールドでこの破片が激しく飛散して見えるように演出を加え、盛り上げる。
周囲にはダイヤモンドダストのような輝きが散った。
「我らフェスタサーカスもとい、百華盗賊改め方リトルフルール☆ 悲しみ生み出す強盗ちゃんをやっつけろ♪」
シャーロットがそう、観客に向かって声を張る。
「いでよ、ボクらの船! 飛翔宝船! 夜明けと共に出動だ☆」
くるん、とステージ上でバク転すると、シャーロットは無重力空間を生み出し、共演者たちを宙に浮かべた。
そして風花、詩杏とともに飛翔宝船に乗り込むと、「捕物ライブ」を開始した。
「いい? 五右衛門ちゃんも他の皆も、強盗殺人なんてさせてあげないんだからね☆」
シャーロットはそう宣言すると、飛翔宝船を発進する。
アレクスは驚いている観客にシャイニーオーディエンスの光の輪を配布し、自分たちを応援するようにアピールした。
「みんなにも、シャロたちを応援してもらうぜ! なんならまだ暴れてる奴らに投げつけてくれてもいい! 五右衛門がまだ変なことしそうなら、容赦するな!」
アンチテーゼ・ノイズを観客へと送りながら、「それでも暴れる奴はバングル型のを出現させて御用だ」とアレクスは叫ぶ。
ステージに残った双葉はローリービートで観客を盛り上げながら、アレクスの光の輪を受け取った観客に向け、さらにクラリティエールの光の球を届け、「投げて!」とアピールした。
「私達を応援して! ステージがもっと盛り上がるように!」
双葉は観客に向け、そう声をかけた。
「人類平和が一番でしょ! 犯罪をはやらせるという考えには断固反対よ!! 私たちの考えに賛同してくれる人は光の玉をステージに投げてほしいの!」
この声に賛同した観客が光の球を一斉に投げる。
そして、歌音は歌う歌を群雄割拠行進曲に変え、船に乗った仲間たちを応援する。
ウィリアムはこの歌声に合わせ、剣戟の声を響かせ、迫真のアクションパフォーマンスを繰り広げた。
(我々が示した二つの未来……この場の者たちが最終的にがどちらを選ぶかなど、考えるまでもないだろう?)
激しい動きに魅せられ、観客が声援を送る。
さらに、あみかとむくが覚醒した幼生神獣のファーブラに乗り込み、観客の頭上へと飛び上がった。
「みんな、しあわせになるために生きてるっておしえてもらったの。自分だけじゃなくてみんなで、むくもそう思うから、とどいてほしいな」
むくはローリービートに乗せて歌声を響かせ、あみかがギターをそれに合わせながらアンチテーゼ・ノイズを音に乗せる。
そして2人はファーブラの背からオリオンの光を観客の頭上へと振らせた。
「捕り物ライブ♪ 五右衛門ちゃんの危険行動には神々のイエローカード! タライで警告、ペナルティだよっ?」
維新の乱撃、タピオの獰猛、で勇ましくアピールするシャーロット。
船で接近し、からかうように「まだやるの?」と声をかけるシャーロットに、五右衛門はとうとう「もうしないよ!」と声を上げた。
ついに観念したようである。
「やっとわかったらしいな、五右衛門!」
アレクスがははっ、と笑って五右衛門に近づく。
「強盗殺人が格好良いだなんて言い始めるようじゃ、かつての義賊様も落ちぶれたもんだぜ。だせぇよ、そんなの」
「そう……だよねぇ」
「ああ。一流の盗っ人は、んな血生臭せぇ事しねぇ。誰にも気づかれず、目当てのもんをかっ攫うんだよ。んで後で品は返すんだ。そのほうが、格好良いだろ?」
「だけど、まだ……」
五右衛門の視線の先では、ノイズに影響された観客がまだ残っていた。
そこで、シャーロットが再び声をかける。
「盗賊ちゃんを追い詰めろ☆ 観客の皆も手伝って♪」
「僕も頑張ってサポートするのですよー! 皆で協力して、悪い人は逮捕なのです!」
船の上から詩杏もそう声を上げる。
ノイズの晴れた観客らは、リトルフルールのアイドルたちに応え、暴れている者たちを取り押さえにかかった。
そしてここに、風花も飛び込んでいく。
「ぐ、ぐふっ…いい加減にしなさい…!」
風花は暴れている者たちを押さえつけ、旅人の長杖で打ち据えた。
「あの子はもう理解してるんだから、みんなも目を覚ましなさい! 犯罪なんて、世の中にありふれたモノを流行らせるなんて、天下の大泥棒の五右衛門が情けない、ってね!」
見栄も張れず、粋でもない、凡俗に落ちるのならば芸能神失格だ。
五右衛門にはそれが分かったのだと、風花は暴れる者たちを叱咤した。
「掛かる上は、神妙にお縄に付きなさい!」
騒ぎが集結していく。
その様子を見届け、シャーロットはライブの最後にワンダフルパレードの花火を繰り出した。
ライブ成功、そして凱旋というわけだ。
そして、全てのライブの最後に現れたのは【DreamerS】だった。
「お二人の大切な芸器。少しの間」
天草 燧が仲間2人の使う芸器にハルモニアチューニングを施す。
ステージ横から五右衛門の様子を見ながら、ノーラ・レツェルが「もう少しだよ」と言った。
「バビプロが五右衛門さんに何かしたことは確実…そしてまだ、諦めてない。だけど、僕たちが五右衛門さんに寄り添うことで、きっとノイズは払える」
「ええ。そうすればきっと、五右衛門さんもバビプロのアイドルたちも今夜はよく眠れるはずです」
合歓季 風華が微笑み、頷く。
自分たちのライブを最後に、犯罪を流行らせようという動きは止めてみせる。
3人はその決意とともにステージに立った。
「僕らは夢を見歌い続ける……たとえ、それがどれだけ滑稽に映るとしても」
ライト・メモリーを手にステージに立った燧は、ディヴィニティの力を発動する。
そして、風華が観客に向けて呼びかけた。
「皆様はよく眠れていますか? 穏やかに、よく眠れていますか?」
客席から応えるように歓声が沸き起こる。
「望む全ての方にねむねむの加護を。よき眠りとよき目覚めを……」
風華は五右衛門の方を見た。
「五右衛門さん、あなたにも誰かに届けて見たい笑顔があったはず。その夢を思い出してみませんか?」
このライブに託すのは、眠りへの思い。
自分のフェスタでの原点「安眠祈願のネムキエル・ねむねむお姉さん」としてよき眠りを歌えるように――風華は心を新たにした。
(もう、バビプロのノイズにはこの会場を支配させません。私達はこのライブで、穏やかな歌曲で皆様に眠りを説きます……明日の目覚めを思えるように、自分と誰かの未来を思えるように……!)
ネムキエルの分響聴飾、ネムキエルの輝天煌翼、ネムキエルの遥聖祷衣、身に着けたそれらに衣装負けせぬよう、風華は歌声とともにアンチテーゼ・ノイズを観客へと届ける。
歌うのは『邯鄲の夢』である。
ノーラは歌声をネプチューンエコーに乗せ、揺蕩う気持ちに任せてセージの飛翔で飛び立った。
「ねぇ五右衛門さん、きみの夢は何かなぁ?」
ナチュラル・サンシャインで、眠たくなるような温かな陽だまりを作り出しながら、ノーラは歌う。
そこに燧がスムースパラディアを合わせ、観客を優しい世界へと誘う。
風華はそこにウィンターファンファーレの雪をきらきらと降らせていく。
そして観客の頭上へとエタニティシャインの光の花を咲かせながら、燧のネムキューブを鍵盤のように並べて音を奏でた。
燧はU.チェイスブルーミングの花々をステージ上に歌わせ、コーラスさせながら風華に合図を送った。
ファルベライゼの効果により、風華の衣装にもフリルが現れる。
花と光の中で背の羽根をパタパタと動かして見せ、風華は眠りの先に待つ穏やかな境地を観客に向けてアピールした。
「お昼寝も微睡みも、全て一瞬の間に過ぎて終わってしまう…楽しい事は一瞬で、嫌なことは長く感じて、五右衛門さんもそうじゃない?」
ノーラはそう、五右衛門に語りかけた。
「楽しい、ってきっと…自分の一番したいことをやってこそ。その時に輝くものだとぼくは考える。だから今一度思い出して、一番やりたかったことを。それが本当に、バビプロのいう犯罪ブームを起こすことなのか、強盗殺人を犯すことなのかどうか」
自分のやっていること、やりたいことが誰かの幸せになるように。
五右衛門もかつては、そんな考えだったのではないか――。
そう問いかけるノーラの前で、五右衛門は大きく頷いてみせた。
「分かって、くれたのですね?」
風華が声をかけると、五右衛門は「あたしが悪かったよ」と口にした。
自分はいつの間にかすっかりおかしくなっていたに違いない、と。
「何だか、ずっと眠ってて……今起きた気分だよ。どうしちまってたんだろうねぇ、この五右衛門様がさ」
照れくさそうに笑う五右衛門。
バビプロの他のアイドルたちも、みんな顔を見合わせ、ぎこちなく拍手をし始めた。
歓声で沸き返る会場からは、ノイズの気配も消えていた。
【DreamerS】の3人、そしてライブを行ったその他大勢のアイドルたちの気持ちがついに通じたのだ。