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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

ディアグラータの異界回廊

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ディアグラータの異界回廊

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■“暴剣の獅子”

「貴様らは俺に傷をつけた『払魔の英雄』と似た匂いがする。……憎い、憎いぞぉ!」
 憎しみを滾らせた声を発し、ゾロールが両手に握った剣を振るい、フェスタ生を襲う。側面からの攻撃も背中から伸びた腕に握られた剣が防ぎ、攻防に隙のない立ち振る舞いをしているように見えた。

(腕の多いのって一見有利そうに見えて、結局使いこなせないことがままあるけど、ゾロールは違うみたいね……!
 でも、ドラグリウスのことをとっても憎んでいるみたい。そっちに注目が行きがちなら……!)
 ゾロールの立ち振る舞いから、少しでも有利に導けそうな情報を引き出したクロティア・ライハが距離を保ったまま、ジェムを仕込んだナイフから雷の刃を放つ。
「ふん! 先程から小賢しい!」
 雷の刃はゾロールの肉体に当たっただけで、ほとんど影響を与えていないように見えた。実際それで倒し切るのを狙っているのではなく、攻撃の邪魔をすることで仲間が攻撃、回避をしやすくなるのが狙いだった。
(ああ言ってるってことは、効いていないわけじゃないものね。このまま続けるわよ!)
 雷に注意を向けてくれたら御の字、とばかりに細かく移動しつつ、クロティアが攻撃を繰り出し続ける。

「勝負よ、ゾロール!」
 烈火迸る刀剣の切っ先を突きつけ、弥久 風花がゾロールの正面から挑む。
「その剣、その立ち姿――貴様ァァァ!!」
 風花の振る舞いにかつての怨敵、ドラグリウスの姿を見たのだろう、ゾロールが憎しみを露わにした叫びとともに風花を攻め立てる。風花も果敢に応戦し、基本回避を試みつつ避けられない軌道の剣戟には自分の剣を当てて防ぐ。
「私も払魔の英雄の称号を持つ戦士! この程度は切り抜けてみせる!」

「ドラグーンの力をもってしても、互角か……。やはり敵は強大だ」
 風花とゾロール、二人の戦いを遠距離より観察していたウサミ 先輩が、戦闘に介入するタイミングを伺う。
「ここで行けば……いや、まだだな。今はまだ、動く時ではない」
「ひゃー、でっかくて強そうで悪そうな悪魔が、やっぱりでっかくて強かったよー。ちょっと休憩ー」
 炎の剣と雷の剣、二刀を地面に刺してそれを支えに、宇佐見 蘭子が肩で息をする。一対複数の中での一対一ではあるが、それでも一対一で交戦して帰ってこれるだけの実力はあっても、一息で倒せるほどゾロールは弱くはなかった。
「蘭子、敵の動きや癖をよく見るんだ。ドラグーンの者を援護するように立ち回るのを意識しよう」
 ウサミ先輩のアドバイスを、蘭子はうんうん、と頷きながら頭に叩き込んでいった。

「あれがドラグリウスの残した刻傷でござるか。胸に十字って……案外カッコイイのでは?」
 ゾロールの側面に回り、彼の挙動を観察していた白川 郷太郎が彼の胸に刻まれた十字の傷を見つけてそんな感想を小声で口にする。
(……しかし、“暴剣の獅子”……カッコいいなぁ。絶対強いって思ってたけどやっぱり強い。
 拙者にもあれだけの力があれば、あの時あんな結末にならなかったのに……)
 側面から後方に移動し、その位置から刃のない柄だけの剣を振るう。背中から伸びた腕の一本を狙ったかまいたちは、しかしその腕が振るった剣に弾かれてかき消された。
「中距離から見えない斬撃でも攻撃を通せない、か……ならば隙を見ての一点突破狙いでござるな」
 もう一度かまいたちを放ち、自身は距離を空ける――。

「はぁっ!!」
「ふんっ!!」
 風花とゾロール、両者一進一退の攻防が続く。だが実際、ゾロールは風花以外からも攻撃を受けつつ、風花に対し二刀のみで互角に持ち込んでいる。
(……四刀攻撃を捌ける自信は、流石にないわね。でも、ここで戦っているのは私一人じゃない。
 四刀攻撃に移行する時には必ずなんらかの予兆があるはず。そしてその瞬間を狙って妨害の手を入れてくれたなら……!)

 ゾロールの二刀同時横薙ぎを、風花が両方の剣で受け止める。
 その時、背中の腕が大きく伸び、風花を包み込むように、そして握った剣を突き出す動作を見せた――。

「!」
 ひらめきのようなもの――ゲーム的にはキャラの頭の上に『!』マークが飛び出た状態――を得たクロティアが、予め用意していたハチェットを取り出し、ゾロールの足元を狙って投げつける。
(ゲームで鍛えたエイム力で当たって!)
 そんな思いが通じたか、地面スレスレを回転しながら飛んだハチェットはゾロールの脚を打つ。腕は四本だが脚は二本、その一本に打撃を入れられれば、いかなゾロールとて“暴剣”と称する四刀攻撃を全力で放つことはできない。ゾロールに動揺する様子は見られなかったが、四刀目の攻撃タイミングが明らかにズレていた。
「その剣、貰ったぁぁぁ!!」
 そしてこれこそが好機とばかり、風花が二つの剣を一刀のように、全力の一振りを浴びせる。それでも剣は折れはしなかったが――剣自体の強度はさほどでもないが、そこにゾロールの意思が流れ込んでいたため――、ゾロールの体勢を大きく崩すことに成功した。

「今こそ好機! 一気に攻めるのだ!」
 ゾロールの体勢が崩れるのを見たウサミ先輩が仲間に檄を飛ばすと共に、自身も行動に移る。集めた魔力を解き放ち、ゾロールの足元から凍てつく吹雪を噴き上がらせる。
「おのれっ!」
 視界を奪われつつも、ここはいわばゾロールのホームグラウンド。完全に足を止める事はなかったものの、位置を変えながら噴き出す冷気を止めるのに意識を奪われる。ようやく冷気の噴出を防いだ直後、ゾロールは上空から無数の火球が降り注ぐのを認める。
「ウオオォォ!!」
 その数はとても避けきれるものではなく、しかしゾロールは決して退くことなく、咆哮を放って火球を四刀で弾いていく。切り裂かれなかった火球は着弾して破裂、ゾロールの身体を焼くが火種は小さくなっていたため、ダメージを与えはしているが怯むほどではなかった。
「いっくぞー! 必殺、カラミティブリンガー!」
 ウサミ先輩が攻撃に出るタイミングで、蘭子も自らの身体と武器に風を纏って飛び出し、二刀攻撃を浴びせる。ゾロールも二刀をもってよく防いでいるが、さらに二刀を振るうことはできず、防戦一方に立たされる。

「目覚めよ翠雷! 怒の雷を解き放て!
 暴剣よ、異形の悪魔ゾロールよ、いざ参る!」
 そして、蘭子の攻撃を捌き切り、退けた矢先、郷太郎が刀身に炎のように波打つ緑色の雷を宿し突撃する。片方の剣は蘭子を退けた際に使用しており、この攻撃に対処できるのは四刀のうち一刀だけになっていた。対する郷太郎も一刀のみだが、そこには全力の意思が込められていた。

「ぐっ……!」

 かざした一刀を弾き、郷太郎の剣がゾロールの肉体に届く。鋼のような身体は刀身を数センチ食い込ませたところで留めるが、それでもドラグリウスが一撃を与えた時以来、二千年の間無傷であったゾロールに再び、傷を刻む結果となった。
「貴様……やってくれたな!!」
 荒々しく郷太郎を退け、ゾロールが睨みつける。その視線を浴びて、郷太郎はニヤリ、と微笑んだ。
 ――今ので、奴に認められた、と――。
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