ディアグラータの異界回廊
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■ヴェリオンのウタ、解放の時
「……ちぃ、俺は悪役なのかよ。いつもながら扱いが荒れぇよ、クソマスター」
ライブ前、配役を聞かされたアレクス・エメロードがふてくされた態度を見せる。
「まぁまぁアレク君。アレク君の役回りもみんなと同じ、大事なものだから。ね?」
「そうだぞ。それに悪役だけじゃない、歌音の歌うウタの歌詞にある『虹の橋』を掛ける役もあるだろう」
「……まぁ、頼まれたからにゃ、やってやるけどよ」
虹村 歌音とウィリアム・ヘルツハフトになだめられつつ、アレクスの視線がマスター……シャーロット・フルールへと向く。
「いぇーい♪ 久々のリーニャちゃんとのライブだー♪」
「わーい! 翼の試練って聞いて、すっごくワクワクしてたの! シャロさんたち皆とライブするのも楽しみなの!」
キャッキャッとはしゃぐシャーロットとリーニャ・クラフレット。既にライブ前から楽しさいっぱい、といった様子の二人に、アレクスの表情が少しだけ和らぐ。
(……ま、自分が楽しいって思えねぇ奴に、人を楽しませられる訳がねぇ。
見てろよリンアレル。そろそろヴェリオンだっけか? 十分光も溜まってきただろ。
俺達『リトルフルール』の楽しいをその目、その耳に焼き付けて、とっととウタを解放しちまいな!)
そこまで思ったところで、リーニャがアレクスの視線に気付いてそちらを向き、意地悪な笑顔でこう言った。
「ツン髪くん! 後で身長ギュッギュッってやらせて! ツン髪くんはミニマムサイズになればいーの!!」
「うっせ! 身長並んだからって調子のんじゃねー!」
……そうしてすっかり緊張も解れたところで、『リトルフルール』のライブが幕を開ける――。
ステージの端から、一人の少女――歌音が歩いてくる。次いで反対側から、それぞれ天上の国への誘い人である妖精と天使――シャーロットとリーニャが翼を広げてやって来た。
あなたのウタは、天にも届く力を秘めている。
さあ、私達と一緒に、行きましょう――
歌音の頭上までやって来てそう告げた後、ステージの中央まで移動する。しかしただ真っ直ぐ飛ぶだけでは面白みが足りないと思ったのだろう、シャーロットとリーニャはじゃれ合うように手を繋いで抱きついたり、くるくると空中を回りながらダンスを舞う。二人の羽からひらひら、と光る羽根が舞い降り、見る者を楽しませた。
しかしちょっとはしゃぎ過ぎたおかげで、歌音が二人を見失ってしまったようにキョロキョロと辺りを見回す仕草を見せる。てへ、と舌を出して反省の素振りを見せてから、リュートを取り出し音色を響かせれば、その音楽をよく知る歌音は顔を輝かせ、小走りにステージ中央へとやって来た。
待てぃ!
お前のウタの力、我の野望に利用させてもらうぞ!
そこへ上空から、長く大きな翼を持つ乗機を駆る悪の魔法使い――アレクスが現れ、操縦する魔機から紅く燃える炎――実際には演出のみで、全く熱くない――を吐いて歌音を襲う。
突如現れし悪の魔法使い
だけど安心めされよお客人
姫には勇猛なる騎士がついている!
直後、神獣アルカに乗った騎士――ウィリアムがアレクスと対峙する位置に登場する。
神獣の騎士、名をウィリアムといいけり!
剣を抜いたウィリアムが、アルカと共に魔機を駆るアレクスと数合、斬り合う。接触の瞬間装飾として散りばめられたジェムが光を放ち、激しい剣戟を演出すると、観客から大きな歓声が上がった。
遊びは終わりだ! これでお前を虹の彼方に葬ってやろう!
アレクスが天に向かって腕を上げれば、空中に七つの光弾が生まれる。それぞれ虹の七色に染まった光弾が弾け、四方八方からウィリアムへと迫る。
彼の者に妖精と天使、神獣の加護を与えん――
そこへシャーロットとリーニャが舞い降り、ウィリアムの掲げた剣に羽根が降りたかと思うと、キラキラと光を放つ。
これぞ伝説に謳わる翼の神剣
放て高らかに! 空高く翼の道を作り出せ!
二人に背を押される形で、ウィリアムが両手で剣を握り直し、渾身の一撃を見舞う。剣から発せられた風に光弾が、そしてアレクスが吹き飛ばされる。静かになった空に向けて歌音が手を掲げれば、そこに虹の架け橋が現れた。
この広い空に 虹の橋を架けよう
手を繋いで 色を重ねて 世界を輝かせよう
歌いながら歌音が、一歩一歩、虹の橋を歩いていく。傍らにはアルカに乗ったウィリアムが付き添いながらコーラスでウタに花を添え、虹の先ではシャーロットとリーニャが「こっちだよっ!」と手を振りながら歌音の到着を待っていた。
あなたは、種族の垣根を超える橋を掛ける者
ようこそ、妖精と天使の国へ――
虹の橋の先に着いた歌音を、ウィリアムがアルカの背に誘う。そして歌音とウィリアムを乗せたアルカに、シャーロットとリーニャが並んで飛ぶ。
「……だー! ちったぁ加減しろコノヤロー! 戻ってくるのに苦労しただろー」
吹き飛ばされたアレクスも、シャーロットたちに文句を言いつつ戻ってきて一緒に飛ぶ。
煌めく未来(あす)を紡ぐ メロディを奏でて
ほら君も一緒に 歌を歌おうよ
君だけのその色が 世界を彩る 7th Color
気付けば、この場に集った翼ある者たちが揃って、それぞれ手を――手に相当するものを――繋ぎ、ウタを重ねていた。ひとつになった輪から光が生まれ、大きな光となってヴェリオンに吸い込まれると、ついに縁まで達した光が空へと伸びる。伸びた先、ちょうどステージの真上で光は魔法陣を描いた。
――実に良き“ウタ”であった。
だがまだ完成ではない。完成には――
ドリアディナの声を聞いたリンアレルが、ステージに立つ。
「ヴェリオンの紡いだウタの、最後――」
すぅ、と息を吸って、リンアレルがヴェリオンの紡いだウタの最後を補うウタを響かせる。
この手を伸ばして 私はあなたと手を取り合おう
それを発動の合図として、魔法陣から光の帯が伸びる。
伸びた先はドリアディナの根元。『異界回廊』の奥の奥、『門』の頭上だった――。
「地球様、ありがとうございました。地球様の導きのおかげで、無事装置が起動できました。
聞こえますか、地球様? このウタを、地球様に捧げます」
神子が手を組み、地球様に感謝を捧げていた。
頭上でひときわ大きな光が生まれたかと思うと、光が波のように進み、異界回廊の奥へと流れ込んでいく。
「これが、ヴェリオンのウタ……わぁ、なんかうまく言い表せないけど、素敵な感じ!」
聞こえてくるウタは、勇ましくもあり、そして優しくもあるものだった。困難に立ち向かう力を与え、そして帰ってきた者たちを労い、癒やす力を持ったウタ。
「こんな歌を、私も歌ってみたい……! ううん、歌うんだ!」
蒼い猫目石の髪飾りに触れて、自分のウタが少しでも多くの生きるものに届くようにと願って、ウタを歌う――。
「最後まで聞いてくれて、ありがと。ドリアディナも、場所を貸してくれてありがとね」
ドリアディナの幹を撫でて、藤がふふ、と微笑む。
「私のウタは、照らす光になれたかな」
「……ちぃ、俺は悪役なのかよ。いつもながら扱いが荒れぇよ、クソマスター」
ライブ前、配役を聞かされたアレクス・エメロードがふてくされた態度を見せる。
「まぁまぁアレク君。アレク君の役回りもみんなと同じ、大事なものだから。ね?」
「そうだぞ。それに悪役だけじゃない、歌音の歌うウタの歌詞にある『虹の橋』を掛ける役もあるだろう」
「……まぁ、頼まれたからにゃ、やってやるけどよ」
虹村 歌音とウィリアム・ヘルツハフトになだめられつつ、アレクスの視線がマスター……シャーロット・フルールへと向く。
「いぇーい♪ 久々のリーニャちゃんとのライブだー♪」
「わーい! 翼の試練って聞いて、すっごくワクワクしてたの! シャロさんたち皆とライブするのも楽しみなの!」
キャッキャッとはしゃぐシャーロットとリーニャ・クラフレット。既にライブ前から楽しさいっぱい、といった様子の二人に、アレクスの表情が少しだけ和らぐ。
(……ま、自分が楽しいって思えねぇ奴に、人を楽しませられる訳がねぇ。
見てろよリンアレル。そろそろヴェリオンだっけか? 十分光も溜まってきただろ。
俺達『リトルフルール』の楽しいをその目、その耳に焼き付けて、とっととウタを解放しちまいな!)
そこまで思ったところで、リーニャがアレクスの視線に気付いてそちらを向き、意地悪な笑顔でこう言った。
「ツン髪くん! 後で身長ギュッギュッってやらせて! ツン髪くんはミニマムサイズになればいーの!!」
「うっせ! 身長並んだからって調子のんじゃねー!」
……そうしてすっかり緊張も解れたところで、『リトルフルール』のライブが幕を開ける――。
ステージの端から、一人の少女――歌音が歩いてくる。次いで反対側から、それぞれ天上の国への誘い人である妖精と天使――シャーロットとリーニャが翼を広げてやって来た。
あなたのウタは、天にも届く力を秘めている。
さあ、私達と一緒に、行きましょう――
歌音の頭上までやって来てそう告げた後、ステージの中央まで移動する。しかしただ真っ直ぐ飛ぶだけでは面白みが足りないと思ったのだろう、シャーロットとリーニャはじゃれ合うように手を繋いで抱きついたり、くるくると空中を回りながらダンスを舞う。二人の羽からひらひら、と光る羽根が舞い降り、見る者を楽しませた。
しかしちょっとはしゃぎ過ぎたおかげで、歌音が二人を見失ってしまったようにキョロキョロと辺りを見回す仕草を見せる。てへ、と舌を出して反省の素振りを見せてから、リュートを取り出し音色を響かせれば、その音楽をよく知る歌音は顔を輝かせ、小走りにステージ中央へとやって来た。
待てぃ!
お前のウタの力、我の野望に利用させてもらうぞ!
そこへ上空から、長く大きな翼を持つ乗機を駆る悪の魔法使い――アレクスが現れ、操縦する魔機から紅く燃える炎――実際には演出のみで、全く熱くない――を吐いて歌音を襲う。
突如現れし悪の魔法使い
だけど安心めされよお客人
姫には勇猛なる騎士がついている!
直後、神獣アルカに乗った騎士――ウィリアムがアレクスと対峙する位置に登場する。
神獣の騎士、名をウィリアムといいけり!
剣を抜いたウィリアムが、アルカと共に魔機を駆るアレクスと数合、斬り合う。接触の瞬間装飾として散りばめられたジェムが光を放ち、激しい剣戟を演出すると、観客から大きな歓声が上がった。
遊びは終わりだ! これでお前を虹の彼方に葬ってやろう!
アレクスが天に向かって腕を上げれば、空中に七つの光弾が生まれる。それぞれ虹の七色に染まった光弾が弾け、四方八方からウィリアムへと迫る。
彼の者に妖精と天使、神獣の加護を与えん――
そこへシャーロットとリーニャが舞い降り、ウィリアムの掲げた剣に羽根が降りたかと思うと、キラキラと光を放つ。
これぞ伝説に謳わる翼の神剣
放て高らかに! 空高く翼の道を作り出せ!
二人に背を押される形で、ウィリアムが両手で剣を握り直し、渾身の一撃を見舞う。剣から発せられた風に光弾が、そしてアレクスが吹き飛ばされる。静かになった空に向けて歌音が手を掲げれば、そこに虹の架け橋が現れた。
この広い空に 虹の橋を架けよう
手を繋いで 色を重ねて 世界を輝かせよう
歌いながら歌音が、一歩一歩、虹の橋を歩いていく。傍らにはアルカに乗ったウィリアムが付き添いながらコーラスでウタに花を添え、虹の先ではシャーロットとリーニャが「こっちだよっ!」と手を振りながら歌音の到着を待っていた。
あなたは、種族の垣根を超える橋を掛ける者
ようこそ、妖精と天使の国へ――
虹の橋の先に着いた歌音を、ウィリアムがアルカの背に誘う。そして歌音とウィリアムを乗せたアルカに、シャーロットとリーニャが並んで飛ぶ。
「……だー! ちったぁ加減しろコノヤロー! 戻ってくるのに苦労しただろー」
吹き飛ばされたアレクスも、シャーロットたちに文句を言いつつ戻ってきて一緒に飛ぶ。
煌めく未来(あす)を紡ぐ メロディを奏でて
ほら君も一緒に 歌を歌おうよ
君だけのその色が 世界を彩る 7th Color
気付けば、この場に集った翼ある者たちが揃って、それぞれ手を――手に相当するものを――繋ぎ、ウタを重ねていた。ひとつになった輪から光が生まれ、大きな光となってヴェリオンに吸い込まれると、ついに縁まで達した光が空へと伸びる。伸びた先、ちょうどステージの真上で光は魔法陣を描いた。
――実に良き“ウタ”であった。
だがまだ完成ではない。完成には――
ドリアディナの声を聞いたリンアレルが、ステージに立つ。
「ヴェリオンの紡いだウタの、最後――」
すぅ、と息を吸って、リンアレルがヴェリオンの紡いだウタの最後を補うウタを響かせる。
この手を伸ばして 私はあなたと手を取り合おう
それを発動の合図として、魔法陣から光の帯が伸びる。
伸びた先はドリアディナの根元。『異界回廊』の奥の奥、『門』の頭上だった――。
「地球様、ありがとうございました。地球様の導きのおかげで、無事装置が起動できました。
聞こえますか、地球様? このウタを、地球様に捧げます」
神子が手を組み、地球様に感謝を捧げていた。
頭上でひときわ大きな光が生まれたかと思うと、光が波のように進み、異界回廊の奥へと流れ込んでいく。
「これが、ヴェリオンのウタ……わぁ、なんかうまく言い表せないけど、素敵な感じ!」
聞こえてくるウタは、勇ましくもあり、そして優しくもあるものだった。困難に立ち向かう力を与え、そして帰ってきた者たちを労い、癒やす力を持ったウタ。
「こんな歌を、私も歌ってみたい……! ううん、歌うんだ!」
蒼い猫目石の髪飾りに触れて、自分のウタが少しでも多くの生きるものに届くようにと願って、ウタを歌う――。
「最後まで聞いてくれて、ありがと。ドリアディナも、場所を貸してくれてありがとね」
ドリアディナの幹を撫でて、藤がふふ、と微笑む。
「私のウタは、照らす光になれたかな」