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「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

天に抗う人々の為のスケルツォ

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天に抗う人々の為のスケルツォ

リアクション

◆第二章 心へと届く歌◆
――1――

 柚姫が何個か余ったみかんを持ってステージを降りると、シックな黒のドレス、夜色ゴシックを着た空花 凛菜が登場する。
 その振る舞いは、どこか気品を感じさせるものだ。
 お嬢様っぽい雰囲気の凛菜だが、無理矢理誰かを生贄にするような今回の儀式には、許しがたいものを感じている。
 しかし、今のクレセントハート達に言葉、つまり理性で訴えかけても意味をなさないだろう。
 そう判断して歌、すなわち感情で訴えかけようと、マイクパフォーマンス等は行わず、ステージに上がってすぐに歌い始める。
 アイドルとしての自分を理解し、ある程度の場数を分できた風格を感じさせる目覚めのクロスコードをまとっているため、優しい中にも力強さを感じるパフォーマンスだ。
 物怖じしない強かさ、揺れない心の冷然のクロスコードもまとい、落ち着いた雰囲気もある。
 さらに、ピクシートーンの可愛らしく伸びる高音域の声で歌い、不思議な癒やしと楽しさを聴く人に与えている。
 凛菜は確実に、今の自分に出来うる全力のライブパフォーマンスを行っていた。
 凛菜自身の持つ気品もあわさり、観客達は彼女のパフォーマンスから目が離せない。
 やがて曲が終わると、その余韻を残したままステージを降りていく。

 凛菜のパフォーマンスの余韻が消え去らないうちに、と橘 樹辿 左右左の2人がステージへ上がる。
 2人は、「夢の世界へ案内する」ことをコンセプトにしたパフォーマンスを行うつもりでいた。
 そのために左右左は優しげで柔らかな雰囲気のテンダーピエロの衣装を身にまとい、肩には手乗りサイズの白いふわあまひつじを乗せて、カラフルお菓子カゴを持っての登場だ。
 あまり表舞台には立ちたくない左右左だが、羊が大好きなのもあってまんざらでもなさそうだ。
 ステージに注目しているとは言え、クレセントハート達の怒りが消えたわけではない。
 樹が安心してパフォーマンスを行えるよう、左右左は樹に安心感を与えようとセキュアステージを行う。
 このために別世界のスタイルで登場したのだ。
 その効果は本来のものより低くなっているが、樹の気持ちは落ち着いているようだ。
 さらに高揚する一番星で光のステージを上手く活かし、観客の注目を集める。
 これに合わせて樹が伝導する者の書を開き、観客に向かって語りかける。
「日が落ちて星が見えるね。目が冴えてまだ眠れないなら、僕が本を読み聞かせてあげようか。妖精と男の子の、楽しいお話だよ」
 樹は開いた伝導の書を本に見立てて時折ページをめくり、物語を紡ぎ始めた。
「――しかしその日に限って、なぜか道に迷ってしまいました。
途方に暮れて歩き回っているとやがて開けた場所に出て、少し向こうに明るい光が見えました」
 男の子が妖精に出会うところまで語ると、子守唄のような優しい曲調の「Fairy Ring」を流し、妖精が踊るシーンは歌って表現する。
 左右左は樹が歌っている近くまで移動しつつ、真夜中のトロイメライを使って安らかで穏やかな幻想的世界を演出していく。
 樹の歌や語りに合わせて動き、その足元ではふわあまひつじが可愛らしく飛び跳ねたりくるくる回ったりしている。
 樹は歌の最初は教会聖歌で静かに、後半になり男の子が妖精と一緒になって踊るシーンでは聖浄なるナイトヒムで高らかに歌い上げた。
 歌いながら左右左に何かの繭を軽く投げて渡すと、左右左はカラフルお菓子カゴから取り出したマシュマロと共に繭を真夜中のトロイメライでできた球体宇宙に浮かせ、幻想的な雰囲気を高め観客達にステージを夢の世界のように感じさせる。
 やがて男の子は踊り疲れてその場で眠ってしまい、曲もここで終わった。
 歌が終わると左右左は一礼してステージを降りていく。
 翌朝、彼が自室のベッドで目を覚ますシーンからは、再び樹の読み聞かせで語られる。
「――記憶を頼りにあの草原へもう一度行ってみると、妖精がいたあたりに、きのこが輪を描くように生えていました。
 今でもあれは夢なんかじゃなかったと、そう思うのです」

 どこか不思議な雰囲気のまま樹と左右左のパフォーマンスが終わり、樹もステージを降りると初の試みに挑戦しようとしている黒瀬 心美がステージに上がる。
 今回は持ち歌である「紅の誓い」をバラードにアレンジして披露するつもりなのだ。
 心美がアイドルを目指し始めて1年程経つが、バラードをステージで歌うのは初めてだった。
 バラードを選んだのは、今回必要とされているのが心美の得意とする勢いがある熱いライブではなく、癒やしのライブだからである。
 そのせいか、心美の表情は少し緊張しているようにも見える。
 ステージに上がると、心美はまず一筋の光明で自身を照らして神秘的な雰囲気を作り、ムーンライトクライでソロパートを月のようにあでやかで抒情的に演奏する。
 ロックと違って勢いに任せられないバラードでは、雰囲気が大切だし普段以上に演奏のミスが許されない。
 心美は自分の想いの全てを声に乗せ、力強く人々の心に届けるためにロッキンボイスを使って歌う。
 自分を信じ、全力で行われた心美のパフォーマンスは、確かに観客達の心へと心美の想いを届けたようだ。
 ここまでのパフォーマンスと心美の歌によって、クレセントハート達の様子が少しずつ変化してきたように見える。
 それはまだ明確な変化ではないかもしれないが、表情や雰囲気が少しずつ柔らかなものになってきていた。
 心美もステージ上でそれを感じたのか、演奏を終えると満足げに微笑みながらステージを降りていく。

 いい笑顔でステージを降りる心美と交代するようにステージに上がったのは、ノーラ・レツェルだった。
 真夜中のトロイメライで光のステージの上に幻想的な空間を作り出すと、ほんのりと光る星のかけらを浮かべて夜空を表現する。
 おもちゃの舞踏会で星のかけらとホワイトラビットチョコを動かし、自分ではなくホワイトチョコでできたうさぎをメインにするようだ。
 準備が整うと、ネヴァーランドの人々をイメージして作った歌を披露する。
「星が瞬く夜のこと 一人のうさぎさんは歩いていました
 暗く歩きにくい道を いつも歩かない道を」
 歌う時には一筋の光明で自身を照らし、ノーラらしい穏やかで優しい歌声で物語を紡いでいく。
「ふと寂しくなって泣いてしまって そうして涙が枯れたとき、気付きました
 暗いのは月がないからで でも、星があるっていうことを
 星はずっとうさぎさんを見守って 道をかすかに照らしていました」
 歌に出てくる月、星、うさぎはネヴァーランドの人達を象徴しているのだろう。
 それぞれが何を象徴しているのか、当てはめて考えてみるとノーラが歌を通して伝えたいことが見えてくるに違いない。
「気付いたら、怖さは消えていきました ぼくは一人じゃない
 ぼくにも強くなれる存在がある そうして強くなっていきました」

 ノーラの歌が最後まで優しい雰囲気のまま終わると、クレセントハート達の表情や雰囲気は、先程までと比べてまた少し柔らかくなっているように見えた。
 少しずつだが確実に、ここまでのライブパフォーマンスはクレセントハート達が受けているノイズの影響を薄めている。
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