天に抗う人々の為のスケルツォ
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2.世界を思う者達のコルス 2
「†タナトス†さんがどのように考え、事情があり、行動しているかを、私は知りません。ですが、レイニィさんやネヴァーランドに暮らす方々は、神様は大切な人で、皆を楽しい気持ちにして笑顔にしてくれたと、神様のいないネヴァーランドは考えられない、と仰られて、この一番星に想いを乗せてくださりました」
筒見内 小明は高揚する一番星の光をステージに溢れさせながら、落ち着いた様子で†タナトス†に語りかけた。
「……†タナトス†さんが神様の一部分だけであるのか、詳しい事は私には分かりませんが、ネヴァーランドに暮らす人々に死と混乱をもたらすだけなら、もっと他に方法があった筈です。それをしなかったあなたが、真に悪神であるとは思えません。だから、あなたを止めたい。そして、ネヴァーランドに暮らす人々の想いをきちんと受け止めて頂きたい……そう、願っています」
粉雪のジュエルを纏いながら、小明はエアロポルタティフを奏でた。
ネヴァーランドに暮らす人々が抱いていた明るい気持ちや楽しい気持ちは形のないもの。
でも、掛け替えのない輝きだ。
それらの想いを乗せた一番星を†タナトス†に届けるために――。
小明は幻想的な光のステージ上でパフォーマンスを続けた。
「『悪神†タナトス†』さん」
ライブの最後に、小明は†タナトス†に呼びかけた。
「ご自身がそう名乗られた以上、それがあなたの名前であり、それは恥ずべきものではなく、あなたを表す真名であると私は思います。だから私はそのお考えを尊重し、そうお呼びします」
「呼んでくれるだけじゃなくて、その名をこの世界にずうっと語り継いでくれると嬉しいな」
ステージを降りる小明に、†タナトス†は手を振ったのだった。
「なぁ、あんた……本当はこんな事したくないんだろう?」
行坂 貫は†タナトス†に問いかけた。
「俺にはあんたが殺されたがってるようにしか見えない! 自分を殺しに来そうな雰囲気だといいながらその態度を改めないのは、殺されたいもしくは殺しに来て欲しいと思っているからだろ? 神だってどうにかなるなんて言いながら態と攻撃を受けるまねしたのも、攻撃を助長させているよな? あんたは自分の死の先に何を求めているんだ?」
「君は僕と話をするだけのために来たのかい?」
「聞け、†タナトス†! それに……! 今回の呪殺には抗おうとしてるのは何故だ? 時期か? 殺し方か? 殺してくる相手か? それとも他の理由があるのか?!」
「……ライブする気がないのなら、僕のステージを始めるよ」
†タナトス†がタクトを振り上げると、影のオーケストラが再び音を奏で始めた。
ステージ下の人々に再び不穏な空気が漂い始める。
(貫、どうしよう)
近衛 詩歌が不安げな顔で貫を見た。
【君を想う】2人の想いは、言葉だけでは今の†タナトス†には届かないのだ。
「だったら……あんたと共鳴してみせるよ、ライブでな!」
貫のペンダントのオニキスが光り、詩歌が頷く。
詩歌がハーモナイズギターをかき鳴らし、奏でるのは「君を想う」。
現れた自分の影を力強く踊らせながら、貫は歌い始めた。
全てを抱えて 背負い込んで 潰れそうな君 言って欲しい 言ってくれなきゃ 僕は気づけないしわからない
聖浄なるナイトヒムが周囲の騒音を吸い取り、貫の歌声と詩歌のギターだけを響かせる。
聞きたい事と言いたい事がぐちゃぐちゃになってしまう。
それでも、貫は†タナトス†に気持ちを届けたかった。
(1人でできる事思いつく事なんてたかがしれてるんだよ。どーせ殺されようとしてるのもアンタ1人で出した結論だろ? 1人で何でもかんでも抱え込まずに少しは周りを頼れ! 3人よれば文殊の知恵とはいかないかもしれないが1人で考えるよりはマシな答えが出るかもしれないだろ! アンタ今全然楽しそうには見えないぞ!)
大丈夫とか頑張れなんて 無責任な事言えるほど 君を知らないわけじゃない 守りたいとか頼って欲しいなんて 我が儘言えるほど 君を知ってるわけでもない
(自称本物が力取り戻して弱ってるからこんな手段しか取れなかったんだろ? そういう時は手伝ってくれって言えよ! 手を貸してくれって頼れよ! それともこうすれば俺たちが来てお前が望んだ結果になるからこんなことしたのか?! だったら大成功だよ、この野郎!)
貫の歌声は響く。
その歌声に寄り添い、詩歌もギターを弾き続ける。
(ねぇ、†タナトス†さん、貴方は、嘘もついていないけど本当の事も言っていないよね? それに詩歌は……私は知っている――「アイドルの力は、誰かを殺す為の力じゃない! 運命も何もかも抗って、越えて、理想を現実にする為の力だ!」――だから詩歌はこの力を振るうんだ!)
覚えていてください 君を想っています たとえ誰かが君を拒んで否定したとしても 顔を上げてください 君を想っています たとえ君自身が君を否定したとしても
(全てを抱え込むのは強さじゃない。何も語らないのは否定や拒絶を恐れる弱さだ。俺に話せなんて言わない! だが話せる相手が1人もいないなんて思っているならそれはアンタの思い込みだ!)
思いを込め、歌う。
貫はその歌に、自分を重ねているのか。
詩歌と目が合い、貫は小さく笑った。
(貴方が抱えている真実を教えて)
ギターを手に、詩歌は†タナトス†を見つめた。
(確かに詩歌達はネヴァーランドの死を止めたいよ……でもだからって貴方の全部を否定する訳じゃない。貴方が現状を作ったのは、それ相応の理由があるはず。でも教えてくれなきゃ何もわからない。それって詩歌達が間違ってたとしても、全く気づかないんだよ-!)
ハーモナイズプレイに乗せて、その思いが届くように。
ギターを弾く詩歌の額に汗が光る。
(時には光となって埋もれた真実を照らし出し、そして時には誰かの影となり彼らの力として支援する――それが詩歌が探偵として、アイドルとして見出した道。貫のパフォーマンスがより力強くなるように、演奏が少しでも力強く支えるような物になるように――!)
目覚めのクロスコードが詩歌に力を与え、その音は観客の心に渦巻いた負の感情をかき消すように響き渡った。
演奏が終わり、海練のような歓声がステージ下から押し寄せた。
†タナトス†は何かを堪えるような、感極まったような表情で貫と詩歌から顔を背けていた。
だがその態度に、2人は何かが確かに彼へと伝わったことを感じ取ったのだった。
「さぁ、†タナトス†。ライブは俺で最後のぜ」
天導寺 朱はステージへと降りたった。
父なる樹のヴァイオリンを手にした朱は、チェシャ猫の見た夢が見せる空間演出で、楽しげに合唱する植物をステージ上に呼び出した。
楽しげな笑い声が響き、表現されるのは笑い声の絶えないネヴァーランド。
だが朱は途中から、曲を止めて植物や笑い声を消して、人形の動きを止めた。
(†タナトス†がもし、既に死んでいった者に対して、何の感情も浮かべないような相手なら……今度こそ本気で懲らしめるのぜ)
再び朱はヴァイオリンを奏でる。
ナイト・レクイエムは厳かな旋律は人々の心に死者との思い出を呼び起こす。
†タナトス†がその光景に何らかの心の動きを見せるのではないかというのが朱の狙いだった。
(ネヴァーランドの人々と神様の距離感は近かったらしいからな。永遠の死に陥ったクレセントハートと知り合いだった可能性があるのぜ。ついでに言えば……神様が『死のない世界』を作った理由も、誰か大切な者の死によるものではないか……俺はそう思うのぜ、†タナトス†)
ヴァイオリンを奏でながら、朱は†タナトス†を見つめた。
「さぁ、アンタには何が見えたのぜ?」
「………」
†タナトス†はへらりと笑っているにように見えたが、その瞳が揺れているのを朱は見逃さなかった。そして†タナトス†はゆっくりと、どこか悔しげに口を開く。
「全く、やってくれるよね」
ライブは終わり、観客はアイドルたちのステージに惜しみない賞賛を贈っていた。
だが、†タナトス†は本心でどう思ったのか。
アルネヴ・シャホールは自分のライブを邪魔された†タナトス†が激高してなにかしでかすのではないかという憂いを持っていた。
「この理想郷に不幸の種を撒いて、人々をクレセントハートに変え、永遠の命を奪う。そんな事をして、誰が喜ぶ?」
そう、アルネヴは†タナトス†に問いかけた。
「パーフェクトハートになったボクも実感しているよ。不死の肉体に、負の感情から解放された心……その素晴らしさを!! それを奪われたら、怨むのも当然さ。でもね……お前を呪う儀式の為に生贄にされかけた人も居るんだ。人間同士が傷つけ合う、醜い世界……まるで地球と同じだ」
もしも†タナトス†がこちらに敵意を見せるなら、アルネヴにはすぐに攻撃に転じる用意があった。
クレセントハートが呪いの儀式を始めたのも、全て†タナトス†のせいだ。
穏やかで美しかった理想郷は、醜く穢れてしまった。
傷ついたのはクレセントハートやパーフェクトハートだけじゃない
月喰いだって、自我を持たず 殺戮の為に創られた哀れな生物。
命を弄ぶ†タナトス†は万死に値する――アルネヴの心には憎悪が渦巻いていた。
「罪深き神よ、お前の理想は何だ? その薄汚れた翼で何処を目指す?」
「そんなに悪口言われたら悲しいな。せっかく、ライブを楽しく終わったのに」
†タナトス†はそう言って肩をすくめてみせた。
敵意など、害意など全く無いような態度だった。
「僕はライブが好き。君たちは素晴らしいものを見せてくれた。それは、何も否定しようのないことさ。ほら、君もそんなに怖い顔しないで? 僕はもう、白旗振って逃げ帰ってあげるからさ」
じゃあね、ありがとう。
そう言い残し、†タナトス†は影のオーケストラとともに去っていった。


