ザ・ウィンドアップ・ディーヴァ
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リアクション
プロローグ
エーデルシュタイン研究所。
すでに破棄されて久しい、その奥深くには、いまだ稼働しているひとつの部屋が存在した。
執拗なまでに冷房の効いたその部屋は、高々としたモニターやインターフェース類に囲まれており、それらの目や耳は、ただひとつの棺めいたカプセルに向けられているのである。
――アメジスト・クラヴィア。
ソウルドロップを生み出した稀代の科学者、エーデルシュタイン博士が生み出した眠れるディーヴァ。
そしてあるいは、コアメモリーに迫ることのできる、手がかりのひとつでもあった。
そのアメジストが眠っているカプセルを挟んで、二つの集団が対峙している。
フェスタのアイドルを含む、リベレーターたちと――そのスクールメイト、ハル率いるドミネーターのバンド部隊である。
「ハル、やっぱりドミネーターに……」
「学校に来られなくてごめんね、泰河。でもママの言うことは絶対なの」
いつも通り、明るく快活に笑うハル。
だが、その所作には、およそ意思や信念――かつてのハルが抱いていたものは、まるきり感じられない。
よくできた人形めいてごく自然で、だからこそ泰河の目には、ひどく不自然に映るのだった。
「本当は学校のみんなにも、ドミネーターのカルチャーに触れてほしいんだけど……今は姉さん優先だから」
「その姉さんを、ドミネーターの……誰かの言いなりにしていいのか?」
薄暗く影の落ちたハルの瞳を、泰河は悲しげに見据える。
だがハルは、泰河の言葉にムッとして怒りを表した。
「ママはみんなのママなんだから、言いなりとか言わないでよ!
姉さんだってママのそばにいたほうが、幸せに決まってるんだから!」
ハルの言葉に「そうだそうだD.D.様に従いやがれ!」と周りのドミネーターがガヤを入れる。
それ対して、リベレーターたちは「ふざけんな俺たちのハルちゃんを返しやがれ!」とファン丸出しの応酬を返した。
こうして二者は、互いに楽器をかき鳴らし、芸器を見せ合いながら威嚇しあった。
「……とにかく、そんな危なっかしい目つきをしたハルのことを、ほっとくわけにはいかない。
ここにいるのがお前の姉さんだっていうなら、なおのことだ!」
二者のハルモニアとディスコードの高まりに応じてか、アメジストのカプセルを挟んで二つのステージがせりあがる。
「やれるもんならやってみなさい!
――さあ、ショータイムよ!」
■目次■
1ページ プロローグ・目次
2ページ 琥珀の歌姫
3ページ 猛攻
4ページ 瞳の中の少女
5ページ 敗北
6ページ 紫水晶の歌姫
7ページ 紅玉の歌姫が奏でるは、破壊の旋律
8ページ ディスコード∪ハルモニア
9ページ あなたの“音”を、聞かせて
10ページ アメジストの目覚め、ハルとの別れ
11ページ エーデルシュタイン研究所
12ページ プロフェッサーズノート 1
13ページ プロフェッサーズノート 2
14ページ エピローグ