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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

【陰陽アイドル大戦】ハレの都にケの巨影

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【陰陽アイドル大戦】ハレの都にケの巨影

リアクション

■その頃、大霊廟にて――

「はいはーい、オレ急いでるから。またねー」
 妖怪王の大霊廟を、麒麟に乗ったレキ・ガルハーツが全速力で翔けていく。お守りにと身に着けていた水晶の光によるものか、幸運にも瘴気に侵された土人形に遭遇することなく、最下層にある祭壇へと辿り着く。祭壇は“炎の冠”が出現した際に突き破られて破壊されており、その手前に結界が敷かれ、中では夕崎 ゲーテがレキの接近に対して振り返ることなく儀式に集中していた。
「こんにちはー……っと。ま、快く出迎えてくれるなんて思ってないからその反応でいいけど。
 でもこれだけは答えてほしいかな。ゲーテさん、オレとゴリ……鷹人さんのキラフェス、見てくれた?」
 レキの声に、ゲーテの動きが止まった。それは少なくとも話を聞いている証だと思うことにして、レキは言葉を続ける。
「お前を笑顔にさせてあげなよって言ったら鷹人さん、迷わず萌えキュンポーズしてくれたけど、ちゃんと大笑いしてくれた?」
「……笑ったというか、呆れたというか。ま、そういうところが彼らしいよね」
 それだけを答えて、ゲーテは再び沈黙する。レキは話を今現在へと切り替えて言葉を送る。
「今からゲーテさんの邪魔しなきゃいけないんだけど。このままオレ達に止められて失敗しました、じゃグランスタでのお前の立場が危うくない? もし結界が破られなくても、穢ノ神がやられれば制御役が悪かったってお前の責任だ。そしたら守るものも守れなくなるだろうし、アルカを犠牲にした覚悟も、お前を自分で止めなかった鷹人さんの我慢も無駄になる。お前は責務を果たさなきゃいけない。違う?」
 はぁ、と呆れるような息を吐くのがレキには聞こえた。
「違っていようがどうだろうが、それを俺がわざわざキミに答えてやる義理はないかな。
 アルカも鷹人も、自分でそうすると決めただけのこと。それが無駄になるから俺がどうしなきゃいけないとか、あるわけがないだろう」
 再び、沈黙が降りる。こうなってはレキもこの状況を打開する策が満足に打てない。レキとしては鷹人が望んだ『ゲーテが道を踏み外しそうになったら止めてほしい』というのを叶えつつも、ただ止めるだけではない状況に持っていきたかったのだが、この時点ではそれは難しいようだった。
(なんつーか……オレが言っていいのかわかんないけど、アレだよね。社会ってホント、汚いよね)


「悪いが急いでいる……押し通らせてもらうよ」
 睡蓮寺 陽介が放つ風の刃、睡蓮寺 小夜が見舞う光の矢に数多の土人形が打ち倒される中、それらをすり抜けて迫ってきた土人形へ、堀田 小十郎は溜めのない動作で攻撃に移り、鎧と鎧の間を的確に斬りつけて戦闘不能に追い込む。
「悪ぃ、見落としたぜ」
 申し訳無さそうな顔を見せた陽介と小夜へ、小十郎は気にするなと言うように微笑んで二人を労う。
「この暗さの中、二人とも十分やってくれている。……急ごう、何かあった時に行動に移れるよう、祭壇には早く着いておきたい」
「うん……!」
 小夜が歌の力で、一行に癒やしと敏捷の恩恵を授ける。
(わたしは、誰かが傷つくのも、亡くなるのも嫌だよ……。傷つく人、傷つけた人、そして残された人、全員……笑顔がなくなっちゃう)
 このまま事態を静観すれば、きっと誰かが、いや、複数の者が命を落とすだろう。決してそれを望んでいないはずなのに、事態がそのような方向へと導いてしまう。
(だから――わたしは、わたしにできる事をしよう……!)
 自分の力は微々たるもの、けれどそれを悲しむでもなく、悔やむでもなく、全力を以って行使する。――そんな覚悟を秘めた小夜の術は、一行へ大きな突破の力をもたらすのであった。

「渋蔵が言ってたのは、この事かよ。ゲーテの奴、本当にアルカの嬢ちゃんを犠牲にするつもりかよ」
 層を下り、祭壇へと向かう傍ら、陽介が気分悪く吐き捨てるように呟く。
「グランスタにいる奴らは何かと訳アリだってことは知ってたさ。だが……これは度が過ぎるだろうが……!」
「……夕崎が何を想って今回の行いに協力しているかは知らない。司馬さんや渋蔵のように、何かしらの事情があるのやもしれん」
 返ってきた小十郎の言葉に、陽介が小十郎の顔を見る。もしやゲーテの行動を容認しているのでは、一瞬そんな事を思いかけた陽介だったが、小十郎の表情を確認してそれが思い違いだったと悟る。
「それでも人を……学友を死に追いやる手段が、正しい道であってたまるか……!」
「そうだ、こんな事は絶対、馬鹿げてる。人の命は誰かに委ねるものじゃねぇ。そのことをキッチリ分からせてやる」
 陽介の言葉に頷き、小十郎が前方を見据え先を急ぐ。

 ――もしあいつが本当に道を踏み外しそうになるなら、止めてやってほしい――

 脳裏に鷹人の言葉が蘇る。それは決して簡単な事ではない、鷹人がそれを知らないはずはない。
(それでも、彼は私達に託してくれた。お前の想い、しっかり届けよう。
 その上で……私は私の意志で君を止めるよ、夕崎……!)

 聞こえてきた複数の足音に、レキがはぁ、と息を吐く。とりあえずオレの出番はここまでかな、とポツリと呟いて身を引き、代わるように小十郎と陽介、小夜、行坂 貫がゲーテの前に姿を現した。
「堀田さん、先に俺に彼と話をさせてください」
 声をかけた小十郎が頷くのを見て、貫が結界の近くまで慎重に歩み寄り、ゲーテを目を凝らして見つめる。彼の目に映る“色”は、白とも黒ともつかぬ色だった。
「なあ、夕崎。多分まともに答えちゃくれないんだろうけどさ、何でこんなことしてんだ?
 今までのお前の行動を見てれば、グランスタに従う何らかの理由があるのは判る。だが、それはお前が人殺しになってまで成し遂げなければならないものか?」
 貫の言葉に、ゲーテは振り返らない。目に見える色にも変化はない。
「このままではアルカ・ライムは死ぬんだろ? そしてお前が操る炎の冠が多くの命を奪うんだろ? そんな多くの命を背負って、お前は笑えるのか? ……まあ、お前がなりたいものがアイドルとかではなく、グランスタにとって都合の良い駒だって言うなら笑える必要はないだろうが。
 そうじゃないなら、取り返しがつくうちに手を引くのも賢さじゃないか?」
「五月蠅いなぁ、取り込み中なのが見えないのかな?」
 色に変化が生じ、ゲーテが貫に振り返らないまま、声だけを飛ばす。明らかな拒絶の意志に、貫はしかし堪えた様子もなく続ける。
「お前が何をやっているのかは見えてるさ。けど、お前が何を想っているのかは見えないな」
「それがアイドルってものだろう。……いや、アイドルに限らず人間が、かな。キミは自分の思っていることを簡単に口にするような人間が良いものだと思うのかい?」
「時と場合によるんじゃないかな。素直もアイドルの魅力として成立すると思うぜ」
 貫の言葉に、ゲーテからの返答は無かった。
「俺から見て、お前はアイドルとして十分な実力者だと思う。そんなお前がグランスタにただ使われてるだけとは思えないんだよな。むしろグランスタさえも利用しようとしてる気が……いや、これは買いかぶりすぎかな?」
「盛大に買い被っておいていいよ、損はさせない。俺はアイドルなんだから」
「それを今の状況でサラリと言えるところも、な」
 貫が背を向け、仲間の下へ戻ろうとする。と、その背中へゲーテの言葉が飛んだ。
「一つだけ答えておいてあげる。俺は最後に笑いたいから、わざわざこんな面倒まで引き受けてるのさ」
「……そうか。ありがとな」
 振り返り礼を言って、貫が仲間の下へ戻る。バトンを受け取った小十郎が代わりに進み出る。
「私は渋蔵からの想いを受けて、夕崎、君を止めるためにここに来た。……だがそれだけでは君を止める理由にならない。
 これだけは答えてほしい……君は自らの行いが人を死に追いやる、それを本当に良しとするのか?」
「そこの小さいのにも言われた気がするね。アルカのことはアルカが――」
 レキが一言ツッコミを入れる間もなく、小十郎がごく自然に、動作だけでゲーテの言葉を止める。
「ライムさんが望んでいるかどうか、ではない。夕崎ゲーテという人間がそれを許容するかどうか、だ」
「……なるほどね」
 それきり、ゲーテは黙り込んでしまった。その表情を窺い知ることはできない――。
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