【陰陽アイドル大戦】ハレの都にケの巨影
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■最強の穢ノ神“炎の冠”の脅威
「ふむ、“炎の冠”といったか。……確かに強大だ、足が震えているよ」
地面を揺らしながら自らの後方、大樹オンバシラを破壊せんと迫る最大最強の穢ノ神、“炎の冠”。その絶望的なまでに強大な敵を前にして、ウサミ 先輩はそう口にしつつも、『先輩』の文字が描かれた胸を張って、刀を抜く。
(ここで『後輩達』を護れずして、どうして先輩を名乗れようか)
伊達や酔狂で自分はこんなキャラクターを演じている訳ではない――不退転の決意を固めたウサミ先輩が息を大きく吸って、声を張り上げる。
「かかって来るがいい! 後ろに後輩が居る限り、ウサミ先輩は最強なんだぜ」
そうして一歩を踏み出し、“炎の冠”の足元へ接近すると、抜いた刀で斬りつける。返ってくる感触にハッキリとした手応えは感じられないが、それでも二度、三度と攻撃を続けていけば、足を止めた“炎の冠”が塵を払うように、作り出した炎を地面へと浴びせてきた。
「本物の神剣は炎を払ったと聞く。ならば紛い物でも、防ぐくらいはして見せたまえ!」
刀に発破をかけながら、ウサミ先輩が高速で構えをとり、その速さを乗せて大上段から斬りつける。
「……うあちちちちちちぃ!!」
だが流石に全てを防ぐことはできず、炎に巻かれたウサミ先輩が地面を転がる。火傷を負う前に火は消せたが、ピンク色の着ぐるみがすっかり黒焦げになってしまった。
「……闇落ち? いや、最近流行りの祟咬だろうか? ……まぁいい。まだ終わりではないよ。自分の足で立って前に進めるうちは、ね」
今の攻撃で体力を相当削られはしたものの、それを表には出さずに『先輩』としての矜持を保ちながら、ウサミ先輩が刀を手に再び“炎の冠”へ攻撃を加えていく――。
(あの巨大な穢ノ神の中にアルカさんが居るのですね。助けるにしてもこの瘴気です。まずは消耗させることに力を尽くしましょう!)
エイリル・プルフーの握った長い杖のような武器が、瘴気の力によって大鎌へと変化する。
「それじゃ行きますよー! あたしの動きが見えますか?」
地面を蹴って、エイリルがオンバシラへと迫る“炎の冠”に接近し、大鎌を振るう瞬間瘴気の力を開放することで攻撃に勢いをつける。その分狙いが定まらなくなるが、何せオンバシラの半分ほどもある巨体である。エイリルの目の前の物体全てが“炎の冠”の身体なのだから外しようがなかった。
「ひゃあ、危ない!」
瘴気の力を利用しての攻撃を何度か浴びせていると、目障りに感じたのか“炎の冠”が足元へ炎を落としてきた。周囲がまるで炎の海に変わってしまうような広範囲の炎だったが、エイリルはギリギリのところで炎に巻き込まれずに回避する。
(ふー、危なかったです。……あっ、今のであたしを排除できたと思ってるみたいですね)
一旦建物の陰に隠れて様子を伺っていたエイリルが、“炎の冠”の注意が頭上へと向いているのに気付く。
(今がチャンスですね! 集中して……行きます!)
自身の瘴気を極限まで集中させ、点になるまで圧縮したそれを拳の内に秘め、建物の陰から飛び出すと同時に足へ向けて振り抜く。拳から放たれた瘴気の弾が“炎の冠”の足に触れた直後、大きな爆発が生まれた。
「ウオオオオオオ!!」
攻撃を受けた“炎の冠”が叫びをあげ、身体を後退させる。倒れるまでは至らないまでもかなりのダメージを与えることができた様子であった。
「ハァ、ハァ……今のは、かなり消耗させられましたかね?」
エイリルが再び建物の陰に隠れ、成果を確認して疲労の浮かんだ顔に一瞬、笑顔を浮かべた。
「アルカ……何故、こんなことを? 君の行動は君を大切に想う者のためなのか?」
階段を登りながら、アーヴェント・ゾネンウンターガングが“炎の冠”の中に居るというアルカへ問うような言葉を口にする。
(……アルカを助けられなければ、何も知ることはできない。彼女を大切に想う者のためにも、必ず助けてみせる!)
階段を登りきり、開けた場所に出たアーヴェントが、ここまで運んできた攻城兵器を“炎の冠”の方角へ向けて据える。西洋風にペイントし直されたそれはユニークなデザインであるが、発射される弾は直撃すれば“炎の冠”とて無傷では済まないだろう。
「音で聞け!
目で見据えよ!
葦原を穢す者よ!
我等こそ、貴様を打ち砕く九命陣炎冠裁刃!
ここに見参!」
そして“炎の冠”に向けて、派手な柄の手拭いを振り回しながら派手な装飾のマイクを通じて声を響かせる。さらに仕掛けていた演出用の爆弾を炸裂させ、“炎の冠”の意識をより強く自分に向けようと試みる。
『…………』
その目論見は、“炎の冠”が顔をアーヴェントに向けたことで一応の達成を見た。
「……発射!!」
間髪入れず、アーヴェントが大砲の引き金を引く。弾が発射された反動で身体が後ろに転がり、弾の行方を見ることができなかった。
(だが今の一撃、全くの無傷とはいかないはずだ。ここでもうひと押し、足元を崩してバランスを崩させる――?)
術を行使しようとしたアーヴェントが、違和感に気付いた時には“炎の冠”から放たれた炎の壁が迫りつつあった。砲弾は確かに胴体に命中したが、それだけで“炎の冠”が倒れることはなく、派手な演出により完全に自分の位置を晒していたアーヴェントは、“炎の冠”にとって格好の的になっていた。
「炎の冠よ、このままでいいのか!
王であるというならば、君を縛る支配に抗え!
君は人に利用され、朽ちていく器なのか!」
もはや避けられないと判断したアーヴェントは、最後に思いのままに叫んだ。それは自分が脱落した後の隙作りという面もあったし、せめてただ利用されるまま終わらせてやりたくないという自身の願いでもあった。
「後は任せたぞ、皆……!」
直後、炎の壁に弾かれる形でアーヴェントが高所から落とされ、火だるまになって地面を転がる。
「……はは……今日は転がってばっかりだな……」
そこでアーヴェントの意識は途切れた。
「仲間が……。なるほど、最強の穢ノ神は伊達じゃない、というわけだね」
他の仲間に抱えられていくアーヴェントを見送り、鴇田 風真が前進を続ける“炎の冠”の背中を見つめ返す。
「……とりあえず、僕はやれるだけの事をしてくるよ。“炎の冠”といったかな? こっちを向いてもらおうか」
両の手に雷の玉を生み出した風真が、まずは挨拶代わりに足元目掛けて撃ち込む。玉は“炎の冠”の足に当たって弾けるが、それ止まりで注意を向けることはできない。
「……威力が足りない、か。だったらこれで……!」
首にかけた小さな石を握り、半妖としての力を高める。頭に付けた角が自身の妖力を効率的に術へと変換し、先程よりも高密度の雷玉が生まれる。風真の手を離れた雷玉が先程同様“炎の冠”の足で弾け、しかし先程以上の音と衝撃をもたらした。
『…………』
そして“炎の冠”が風真の方を振り向き、風真と同じように手に炎の玉を生み出すと、投げつける。
「威力は分かっている、掠ることも許されないだろうね」
妖力を背中に集め、飛翔する羽を生み出して迫る炎玉を回避する。できる限り不規則に動くことで行動を読ませないようにしつつ、巨大かつ高熱の炎玉を余裕をもってかわす。それでも風真の身体は熱風に翻弄され、少しでも気を抜けば炎に突っ込んで爆発炎上の危機であった。
「危険なのも分かっている、だがここで諦めるわけにはいかない」
回避と回避の間の僅かな時間に妖力を集め、手に雷玉を生み出す。今度はそれを足ではなく、攻撃の起点となっている腕へと撃ち込む。
「神経が麻痺してくれればありがたいが……それが無理なら腕が使用不可になるまで撃ち込む!」
その後も風真は回避に集中しつつ、隙ある時に雷玉を“炎の冠”の腕に撃ち込み、少しでも敵の抵抗を減じようとしていた。
(アーヴェントさんと龍造寺さんの離脱はキツイわね……鴇田さんが頑張ってくれてるけど、“炎の冠”の足が止まらないわ)
麒麟の上から弥久 風花が現在の状況を確認し、苦戦を強いられていることを改めて感じる。“炎の冠”の意識を惹き付けようとしたアーヴェントが炎に巻かれ、仲間によって安全な場所まで運ばれたのは幸いとしても、“炎の冠”に当たる戦力を失ったのは痛手であった。
「やはり狙うべきは頭部で御座るな。おそらくアルカ殿もそこに居るはずで御座る」
「……こうなることも、アルカさんにとっては承知の上だったのでしょう。命を捨てるほどの覚悟と悲しみ……それはとても想像し切れないものでしょう」
同じく麒麟に乗る平 平平、彼の後ろに乗る合歓季 風華がそれぞれ声を発し、舞芸者を退けながらなおも突き進む“炎の冠”、その頭部に意識を向ける。
「……もちろん、助けに行くわよ。彼女がグランスタ生として私達の妨害をしてきたことは忘れていないけど、八咫子さんがあんなにも必死な目をして頼んできたんだもの。それに元々、あの夢遊病の患者みたいな穢ノ神には目覚ましの一撃を食らわせる予定だったしね」
「風花殿は相変わらずで御座るな……。だが拙者もアルカ殿を助ける気持ちは同じで御座る」
「私もです。八咫子さんの悲痛なお姿、放ってはおけません。“炎の冠”がその心を抑えられてただ壊すだけのモノにされていることも、逃げ惑う樹京の皆さま方も合わせて、心穏やかに眠れるように」
そうして、風花が“炎の冠”を上から見下ろす高い位置に上り、風華を後ろに乗せた平平はちょうど“炎の冠”の顔の位置を飛び、平平曰く『怖い顔』の鼻っ面を吹っ飛ばしてやる瞬間を狙う。
「むうっ! これは少々厳しいで御座るな」
しかし、“炎の冠”が振り回す腕や放つ炎の術に攻撃の機会をなかなか得られず、回避するのが精一杯であった。
「平平さん、一旦こちらの大砲を置いてきてはいかがでしょう」
「そうした方がよさそうで御座るな! 風華殿、しっかり掴まっていてくだされ!」
大砲を背負っていることで生じている回避の困難さを解消するため、平平が麒麟を飛ばして一旦戦場を離脱する。そして抜けた穴を補うように風花が麒麟を操り、“炎の冠”の意識を自分へと向けるように立ち振る舞う。
(戦っているのは私たちだけじゃない、だからちょっとくらい予定と違ったって大丈夫! 必ずその頭カチ割って、アルカさんを助け出すわ!)
自分に向けられた炎の玉を高度を下げることで回避し、稼いだ速度ですれ違いざまに抜いた刀で斬りつける。手に伝わる感触にはいまいち効いているという実感が無かったが、自分に攻撃が向けられていることは全く効果がないわけではないと信じて、攻撃を続ける。
「アタシたち、かなり押されてる状況じゃない? 流石最強の穢ノ神ってカンジ?」
リーゼロッテ・リスタリアの声に、火澄 悠が確かに、と同意の返事を返す。
「リーゼロッテは仲間の援護を頼む。オレは式神召喚の詠唱に入る、暫く離脱することになるが……頼む」
「オッケー! ふふ~ん、悠に対して絶好のアピールチャ~ンス♪」
「……聞こえてるぞ」
調子のいいリーゼロッテに呆れつつ、悠が式神召喚に必要な詠唱のために戦場を一旦離脱する。
「さあ、九命陣炎冠裁刃のオープニングナンバー! アゲてくよ~!」
“炎の冠”が生み出す炎にも負けない、燃え盛る炎のような熱く猛々しい曲が周囲を満たし、同じく“炎の冠”を倒すために集まった者たちに力を与える。“炎の冠”が繰り出す炎にすら負けない炎を使えるような感触に、舞芸者の士気も上がる。
「キミの視線を釘付けにするような、サイッコーに燃えるライブを見せてあげるね♪」
麒麟の背から演奏しつつも、リーゼロッテは“炎の冠”のどこを狙えばより効果的な一撃を与えられるかを探っていた。
「傷をつけても、噴き出す瘴気が傷を覆っちゃうなら……一点に攻撃を集中させて供給を絶たせればいいよね♪
みんな~、アタシの狙ったところを集中的に狙っちゃって!」
仲間に呼びかけ、リーゼロッテが人でいうところの関節部に矢を撃つ。矢自体は大したダメージとならず、瘴気によって少しした後に消されてしまうが、他の仲間がそこを目標として集中的に攻撃を行い、結果として“炎の冠”の抵抗力を効果的に減じる役目を果たした。
「ふむ、“炎の冠”といったか。……確かに強大だ、足が震えているよ」
地面を揺らしながら自らの後方、大樹オンバシラを破壊せんと迫る最大最強の穢ノ神、“炎の冠”。その絶望的なまでに強大な敵を前にして、ウサミ 先輩はそう口にしつつも、『先輩』の文字が描かれた胸を張って、刀を抜く。
(ここで『後輩達』を護れずして、どうして先輩を名乗れようか)
伊達や酔狂で自分はこんなキャラクターを演じている訳ではない――不退転の決意を固めたウサミ先輩が息を大きく吸って、声を張り上げる。
「かかって来るがいい! 後ろに後輩が居る限り、ウサミ先輩は最強なんだぜ」
そうして一歩を踏み出し、“炎の冠”の足元へ接近すると、抜いた刀で斬りつける。返ってくる感触にハッキリとした手応えは感じられないが、それでも二度、三度と攻撃を続けていけば、足を止めた“炎の冠”が塵を払うように、作り出した炎を地面へと浴びせてきた。
「本物の神剣は炎を払ったと聞く。ならば紛い物でも、防ぐくらいはして見せたまえ!」
刀に発破をかけながら、ウサミ先輩が高速で構えをとり、その速さを乗せて大上段から斬りつける。
「……うあちちちちちちぃ!!」
だが流石に全てを防ぐことはできず、炎に巻かれたウサミ先輩が地面を転がる。火傷を負う前に火は消せたが、ピンク色の着ぐるみがすっかり黒焦げになってしまった。
「……闇落ち? いや、最近流行りの祟咬だろうか? ……まぁいい。まだ終わりではないよ。自分の足で立って前に進めるうちは、ね」
今の攻撃で体力を相当削られはしたものの、それを表には出さずに『先輩』としての矜持を保ちながら、ウサミ先輩が刀を手に再び“炎の冠”へ攻撃を加えていく――。
(あの巨大な穢ノ神の中にアルカさんが居るのですね。助けるにしてもこの瘴気です。まずは消耗させることに力を尽くしましょう!)
エイリル・プルフーの握った長い杖のような武器が、瘴気の力によって大鎌へと変化する。
「それじゃ行きますよー! あたしの動きが見えますか?」
地面を蹴って、エイリルがオンバシラへと迫る“炎の冠”に接近し、大鎌を振るう瞬間瘴気の力を開放することで攻撃に勢いをつける。その分狙いが定まらなくなるが、何せオンバシラの半分ほどもある巨体である。エイリルの目の前の物体全てが“炎の冠”の身体なのだから外しようがなかった。
「ひゃあ、危ない!」
瘴気の力を利用しての攻撃を何度か浴びせていると、目障りに感じたのか“炎の冠”が足元へ炎を落としてきた。周囲がまるで炎の海に変わってしまうような広範囲の炎だったが、エイリルはギリギリのところで炎に巻き込まれずに回避する。
(ふー、危なかったです。……あっ、今のであたしを排除できたと思ってるみたいですね)
一旦建物の陰に隠れて様子を伺っていたエイリルが、“炎の冠”の注意が頭上へと向いているのに気付く。
(今がチャンスですね! 集中して……行きます!)
自身の瘴気を極限まで集中させ、点になるまで圧縮したそれを拳の内に秘め、建物の陰から飛び出すと同時に足へ向けて振り抜く。拳から放たれた瘴気の弾が“炎の冠”の足に触れた直後、大きな爆発が生まれた。
「ウオオオオオオ!!」
攻撃を受けた“炎の冠”が叫びをあげ、身体を後退させる。倒れるまでは至らないまでもかなりのダメージを与えることができた様子であった。
「ハァ、ハァ……今のは、かなり消耗させられましたかね?」
エイリルが再び建物の陰に隠れ、成果を確認して疲労の浮かんだ顔に一瞬、笑顔を浮かべた。
「アルカ……何故、こんなことを? 君の行動は君を大切に想う者のためなのか?」
階段を登りながら、アーヴェント・ゾネンウンターガングが“炎の冠”の中に居るというアルカへ問うような言葉を口にする。
(……アルカを助けられなければ、何も知ることはできない。彼女を大切に想う者のためにも、必ず助けてみせる!)
階段を登りきり、開けた場所に出たアーヴェントが、ここまで運んできた攻城兵器を“炎の冠”の方角へ向けて据える。西洋風にペイントし直されたそれはユニークなデザインであるが、発射される弾は直撃すれば“炎の冠”とて無傷では済まないだろう。
「音で聞け!
目で見据えよ!
葦原を穢す者よ!
我等こそ、貴様を打ち砕く九命陣炎冠裁刃!
ここに見参!」
そして“炎の冠”に向けて、派手な柄の手拭いを振り回しながら派手な装飾のマイクを通じて声を響かせる。さらに仕掛けていた演出用の爆弾を炸裂させ、“炎の冠”の意識をより強く自分に向けようと試みる。
『…………』
その目論見は、“炎の冠”が顔をアーヴェントに向けたことで一応の達成を見た。
「……発射!!」
間髪入れず、アーヴェントが大砲の引き金を引く。弾が発射された反動で身体が後ろに転がり、弾の行方を見ることができなかった。
(だが今の一撃、全くの無傷とはいかないはずだ。ここでもうひと押し、足元を崩してバランスを崩させる――?)
術を行使しようとしたアーヴェントが、違和感に気付いた時には“炎の冠”から放たれた炎の壁が迫りつつあった。砲弾は確かに胴体に命中したが、それだけで“炎の冠”が倒れることはなく、派手な演出により完全に自分の位置を晒していたアーヴェントは、“炎の冠”にとって格好の的になっていた。
「炎の冠よ、このままでいいのか!
王であるというならば、君を縛る支配に抗え!
君は人に利用され、朽ちていく器なのか!」
もはや避けられないと判断したアーヴェントは、最後に思いのままに叫んだ。それは自分が脱落した後の隙作りという面もあったし、せめてただ利用されるまま終わらせてやりたくないという自身の願いでもあった。
「後は任せたぞ、皆……!」
直後、炎の壁に弾かれる形でアーヴェントが高所から落とされ、火だるまになって地面を転がる。
「……はは……今日は転がってばっかりだな……」
そこでアーヴェントの意識は途切れた。
「仲間が……。なるほど、最強の穢ノ神は伊達じゃない、というわけだね」
他の仲間に抱えられていくアーヴェントを見送り、鴇田 風真が前進を続ける“炎の冠”の背中を見つめ返す。
「……とりあえず、僕はやれるだけの事をしてくるよ。“炎の冠”といったかな? こっちを向いてもらおうか」
両の手に雷の玉を生み出した風真が、まずは挨拶代わりに足元目掛けて撃ち込む。玉は“炎の冠”の足に当たって弾けるが、それ止まりで注意を向けることはできない。
「……威力が足りない、か。だったらこれで……!」
首にかけた小さな石を握り、半妖としての力を高める。頭に付けた角が自身の妖力を効率的に術へと変換し、先程よりも高密度の雷玉が生まれる。風真の手を離れた雷玉が先程同様“炎の冠”の足で弾け、しかし先程以上の音と衝撃をもたらした。
『…………』
そして“炎の冠”が風真の方を振り向き、風真と同じように手に炎の玉を生み出すと、投げつける。
「威力は分かっている、掠ることも許されないだろうね」
妖力を背中に集め、飛翔する羽を生み出して迫る炎玉を回避する。できる限り不規則に動くことで行動を読ませないようにしつつ、巨大かつ高熱の炎玉を余裕をもってかわす。それでも風真の身体は熱風に翻弄され、少しでも気を抜けば炎に突っ込んで爆発炎上の危機であった。
「危険なのも分かっている、だがここで諦めるわけにはいかない」
回避と回避の間の僅かな時間に妖力を集め、手に雷玉を生み出す。今度はそれを足ではなく、攻撃の起点となっている腕へと撃ち込む。
「神経が麻痺してくれればありがたいが……それが無理なら腕が使用不可になるまで撃ち込む!」
その後も風真は回避に集中しつつ、隙ある時に雷玉を“炎の冠”の腕に撃ち込み、少しでも敵の抵抗を減じようとしていた。
(アーヴェントさんと龍造寺さんの離脱はキツイわね……鴇田さんが頑張ってくれてるけど、“炎の冠”の足が止まらないわ)
麒麟の上から弥久 風花が現在の状況を確認し、苦戦を強いられていることを改めて感じる。“炎の冠”の意識を惹き付けようとしたアーヴェントが炎に巻かれ、仲間によって安全な場所まで運ばれたのは幸いとしても、“炎の冠”に当たる戦力を失ったのは痛手であった。
「やはり狙うべきは頭部で御座るな。おそらくアルカ殿もそこに居るはずで御座る」
「……こうなることも、アルカさんにとっては承知の上だったのでしょう。命を捨てるほどの覚悟と悲しみ……それはとても想像し切れないものでしょう」
同じく麒麟に乗る平 平平、彼の後ろに乗る合歓季 風華がそれぞれ声を発し、舞芸者を退けながらなおも突き進む“炎の冠”、その頭部に意識を向ける。
「……もちろん、助けに行くわよ。彼女がグランスタ生として私達の妨害をしてきたことは忘れていないけど、八咫子さんがあんなにも必死な目をして頼んできたんだもの。それに元々、あの夢遊病の患者みたいな穢ノ神には目覚ましの一撃を食らわせる予定だったしね」
「風花殿は相変わらずで御座るな……。だが拙者もアルカ殿を助ける気持ちは同じで御座る」
「私もです。八咫子さんの悲痛なお姿、放ってはおけません。“炎の冠”がその心を抑えられてただ壊すだけのモノにされていることも、逃げ惑う樹京の皆さま方も合わせて、心穏やかに眠れるように」
そうして、風花が“炎の冠”を上から見下ろす高い位置に上り、風華を後ろに乗せた平平はちょうど“炎の冠”の顔の位置を飛び、平平曰く『怖い顔』の鼻っ面を吹っ飛ばしてやる瞬間を狙う。
「むうっ! これは少々厳しいで御座るな」
しかし、“炎の冠”が振り回す腕や放つ炎の術に攻撃の機会をなかなか得られず、回避するのが精一杯であった。
「平平さん、一旦こちらの大砲を置いてきてはいかがでしょう」
「そうした方がよさそうで御座るな! 風華殿、しっかり掴まっていてくだされ!」
大砲を背負っていることで生じている回避の困難さを解消するため、平平が麒麟を飛ばして一旦戦場を離脱する。そして抜けた穴を補うように風花が麒麟を操り、“炎の冠”の意識を自分へと向けるように立ち振る舞う。
(戦っているのは私たちだけじゃない、だからちょっとくらい予定と違ったって大丈夫! 必ずその頭カチ割って、アルカさんを助け出すわ!)
自分に向けられた炎の玉を高度を下げることで回避し、稼いだ速度ですれ違いざまに抜いた刀で斬りつける。手に伝わる感触にはいまいち効いているという実感が無かったが、自分に攻撃が向けられていることは全く効果がないわけではないと信じて、攻撃を続ける。
「アタシたち、かなり押されてる状況じゃない? 流石最強の穢ノ神ってカンジ?」
リーゼロッテ・リスタリアの声に、火澄 悠が確かに、と同意の返事を返す。
「リーゼロッテは仲間の援護を頼む。オレは式神召喚の詠唱に入る、暫く離脱することになるが……頼む」
「オッケー! ふふ~ん、悠に対して絶好のアピールチャ~ンス♪」
「……聞こえてるぞ」
調子のいいリーゼロッテに呆れつつ、悠が式神召喚に必要な詠唱のために戦場を一旦離脱する。
「さあ、九命陣炎冠裁刃のオープニングナンバー! アゲてくよ~!」
“炎の冠”が生み出す炎にも負けない、燃え盛る炎のような熱く猛々しい曲が周囲を満たし、同じく“炎の冠”を倒すために集まった者たちに力を与える。“炎の冠”が繰り出す炎にすら負けない炎を使えるような感触に、舞芸者の士気も上がる。
「キミの視線を釘付けにするような、サイッコーに燃えるライブを見せてあげるね♪」
麒麟の背から演奏しつつも、リーゼロッテは“炎の冠”のどこを狙えばより効果的な一撃を与えられるかを探っていた。
「傷をつけても、噴き出す瘴気が傷を覆っちゃうなら……一点に攻撃を集中させて供給を絶たせればいいよね♪
みんな~、アタシの狙ったところを集中的に狙っちゃって!」
仲間に呼びかけ、リーゼロッテが人でいうところの関節部に矢を撃つ。矢自体は大したダメージとならず、瘴気によって少しした後に消されてしまうが、他の仲間がそこを目標として集中的に攻撃を行い、結果として“炎の冠”の抵抗力を効果的に減じる役目を果たした。