【陰陽アイドル大戦】その妖狐、我が母につき
リアクション公開中!

リアクション
【5:妖狐の脅威】
洞穴の入り口付近で、式神の大虎が倒されようとしていたのから遡ること数分。
その中心では妖狐との戦いも激しさを増していた。
「……ッ、……!」
妖狐からの絶え間ない攻撃が続き、前衛を維持する兵十郎や風花、囮としてかき回し続けている平平や梅太郎、回避を繰り返しているツカサたちにも疲弊が見える。
「まったく、しつこいわね……!」
対して、妖狐のほうはダメージもなく、一見しては疲労も無いようだったが、その表情には苛立ちが表れていた。地力の高い妖狐と言えど、こうも連続で術を使い続けては流石に集中力も落ちてきているのだろう。
そのタイミングを見計らい、行動に出たのは火澄 悠だ。
仲間たちへと視線で合図を交わすと同時、悠は幻獣カムイの力を借りてその背に妖翼を広げると、そちらに注意の向けられる前に兵一郎の洞穴を震わすような大声が響く。
勿論、ライブの時のようにはいかないが、ほんの僅かでもその意識を引いたその隙に、平平の猫騙しが炸裂した。戦闘の最中ではそのお音もやはりさほど意識を引くことは出来ないのだが、一瞬一瞬も積み重ねればその意識は逸れ、その間で隠形の術によって身を隠していた悠は妖狐の背後へと回りこむとそこから一気に翼を使って距離を詰めた。
岩や影に紛れて妖翼で一気に接近してくるのに、妖狐も一瞬反応が遅れたようだったが、そこは流石と言うべきか直ぐに身体を捻って応じてくる。
「やっぱりそう簡単にゃいかないか……!」
当然、その可能性は悠も織り込み済みである。炎の弾が迎撃してくるのに、悠もまた氷丸招来の礫によって幾らか相殺すると、殺しきれない炎がちりちりと肌を炙るのにも構わず直進して、その手を妖狐に向けて伸ばす。が、どんな攻撃も通さない、と言う自信からだろう。妖狐は避けようとする気配もなクツリと哂って目を細めた。
「無駄よ。至近距離からだろうと、私の結界は――」
……しかし。
その手から突然刀が手放されたかと思うと、そこからから続いたのは、ふにゅ、というなんだか柔らかな感触を伝える音だった。
「は……?」
妖狐が驚きにきょとんと目を瞬かせたのも無理はない。伸ばされた悠の手は、なんと妖狐の獣耳を掴んでいたのだ。何故か結界に阻まれなかったのは、攻撃の意志がまったくない動作だったからだろう。多分。
ともかく。
「ふふふ、侮ったな妖孤さんよ……その耳思う存分にモフってやろう……!」
にやりと笑った悠の手はそのまま妖怪の大きな耳をやわやわとモフる。ふわふわすべすべと上質の毛並みはうっとり夢見心地にさせる手触りの良さだ。
「おお……これは……たまらん」
「や、やめ、っちょ、やめなさいよっ、や、あっ」
そのまま調子に乗ってモフモフし続けるのに「いいなあ……」と梅太郎がちょっと羨ましそうにしていると、はっと風華が「あみかちゃん!」と声をかけた。その声に頷いて、あみかは自らの幼獣の名を高々と呼ぶ。
「ファーブラ!」
瞬間、あみかとファーブラの歌声が合わさって共鳴し光の波動が洞穴に広がる。世界の違いから本来の力の出ない状況下での歌は、その護りの力を発揮することは出来なかったが、本来の目的は光そのものだ。薄暗い洞穴内に灯った燐光は、淡くともそこに影を生み出す。
そして――そのタイミングで梅太郎が飛び出したが、妖狐も自らの作る影に、その狙いを悟ったようだ。
「私を縫い留められると思ったのかしら?」
悠を振り払ったその手が、梅太郎にその先を変えようとした瞬間。平平が真正面から妖狐に向かって飛び込んだ。
「特攻? 無駄なことを!」
妖狐は嘲笑と同時に火柱を生んで、飛び込んできた平平の身体を包みこんだ。ごうっという激しい音と共に一瞬にしてその体が燃え尽きた、かに見えた。
「……なっ!?」
燃えつきた灰への違和感に一瞬眉を寄せ、はっと顔色を変えた。燃え尽きたそれは平平ではなく身代わり平平君人形だ。妖狐がそれに気付いて、視線を巡らせた時にはもう遅い。炎柱で視界の塞がっていたその瞬間で飛び込んでいた梅太郎の簪が、妖狐の影を地面へ縫いとめていた。
そしてそのほんの僅かな隙こそを狙って飛び出していた者がいる。シャーロットだ。
「ボクらの出番だよっウィリーちゃんっ♪」
妖翼を広げ、ウィリアムを抱えながら文字通り一気に妖狐の近くまで飛び上がったシャーロットは気合と共にどこか楽しさを隠し切れない様子で、高々と声を上げる。
「ヘイちゃんにはバレバレだけど、これ使いたかったんだよね♪ ボクのとっておきのオリジナル妖術、百火夜光っ! おいでっ! マイフレイミングアニマルズっ♪ かかれ~♪」
一声と共に現れた虎、ライオン、熊、ゾウ、鳩などの姿をした炎の猛獣たちは、シャーロットの声と共に一斉に妖狐に向けて突撃していく。
が。
「ふ……ふふ、ふふふ! その程度で私の結界は破れないわよ」
妖狐の哄笑の響く通り、球形の結界は今までになく激しくたわんでいるものの、それが破れる様子はない。シャーロットの妖術は強力な攻撃ではあるが、広範囲に向けられる攻撃は的を絞っているものではないため、単一の相手に対すると余剰が大きく、妖狐の張った結界とはその質の相性が良くなかった。
ダメか、と一瞬シャーロットたちの間で緊張が走る。
しかし、その結界のたわんだ瞬間を目掛け、既に動いていた者がある。
「今が、チャンスだ!」
ツカサの声を合図にするように、ノイの放った鬼火がたわんだ部分の最も大きな箇所、その中心へと灯ると、その一点へ向けてツカサのボルト・バレットが放たれ、その着弾と同時に優希と雲人の刀がそこへ振り下ろされた。
一撃目、陽の気をはべらせた優希の鍛練用・逆刃斬鬼刀と雲人の黒龍斬刀が薙ぎ払われて妖狐の際まで結界が軋んだような音を立てると、息つく暇もなく二撃目、陰の気をはべらせた二人の刃が放たれた。ツカサ、ノイの術による追撃を巻き込むようにしてクロスする瞬間。
「こいつで!! どうだああ!!」
優希の雄叫びが響くと同時に、びりっとまるで布裂けるような高い音を立てて、妖狐の結界は裂けていったのだった――……
洞穴の入り口付近で、式神の大虎が倒されようとしていたのから遡ること数分。
その中心では妖狐との戦いも激しさを増していた。
「……ッ、……!」
妖狐からの絶え間ない攻撃が続き、前衛を維持する兵十郎や風花、囮としてかき回し続けている平平や梅太郎、回避を繰り返しているツカサたちにも疲弊が見える。
「まったく、しつこいわね……!」
対して、妖狐のほうはダメージもなく、一見しては疲労も無いようだったが、その表情には苛立ちが表れていた。地力の高い妖狐と言えど、こうも連続で術を使い続けては流石に集中力も落ちてきているのだろう。
そのタイミングを見計らい、行動に出たのは火澄 悠だ。
仲間たちへと視線で合図を交わすと同時、悠は幻獣カムイの力を借りてその背に妖翼を広げると、そちらに注意の向けられる前に兵一郎の洞穴を震わすような大声が響く。
勿論、ライブの時のようにはいかないが、ほんの僅かでもその意識を引いたその隙に、平平の猫騙しが炸裂した。戦闘の最中ではそのお音もやはりさほど意識を引くことは出来ないのだが、一瞬一瞬も積み重ねればその意識は逸れ、その間で隠形の術によって身を隠していた悠は妖狐の背後へと回りこむとそこから一気に翼を使って距離を詰めた。
岩や影に紛れて妖翼で一気に接近してくるのに、妖狐も一瞬反応が遅れたようだったが、そこは流石と言うべきか直ぐに身体を捻って応じてくる。
「やっぱりそう簡単にゃいかないか……!」
当然、その可能性は悠も織り込み済みである。炎の弾が迎撃してくるのに、悠もまた氷丸招来の礫によって幾らか相殺すると、殺しきれない炎がちりちりと肌を炙るのにも構わず直進して、その手を妖狐に向けて伸ばす。が、どんな攻撃も通さない、と言う自信からだろう。妖狐は避けようとする気配もなクツリと哂って目を細めた。
「無駄よ。至近距離からだろうと、私の結界は――」
……しかし。
その手から突然刀が手放されたかと思うと、そこからから続いたのは、ふにゅ、というなんだか柔らかな感触を伝える音だった。
「は……?」
妖狐が驚きにきょとんと目を瞬かせたのも無理はない。伸ばされた悠の手は、なんと妖狐の獣耳を掴んでいたのだ。何故か結界に阻まれなかったのは、攻撃の意志がまったくない動作だったからだろう。多分。
ともかく。
「ふふふ、侮ったな妖孤さんよ……その耳思う存分にモフってやろう……!」
にやりと笑った悠の手はそのまま妖怪の大きな耳をやわやわとモフる。ふわふわすべすべと上質の毛並みはうっとり夢見心地にさせる手触りの良さだ。
「おお……これは……たまらん」
「や、やめ、っちょ、やめなさいよっ、や、あっ」
そのまま調子に乗ってモフモフし続けるのに「いいなあ……」と梅太郎がちょっと羨ましそうにしていると、はっと風華が「あみかちゃん!」と声をかけた。その声に頷いて、あみかは自らの幼獣の名を高々と呼ぶ。
「ファーブラ!」
瞬間、あみかとファーブラの歌声が合わさって共鳴し光の波動が洞穴に広がる。世界の違いから本来の力の出ない状況下での歌は、その護りの力を発揮することは出来なかったが、本来の目的は光そのものだ。薄暗い洞穴内に灯った燐光は、淡くともそこに影を生み出す。
そして――そのタイミングで梅太郎が飛び出したが、妖狐も自らの作る影に、その狙いを悟ったようだ。
「私を縫い留められると思ったのかしら?」
悠を振り払ったその手が、梅太郎にその先を変えようとした瞬間。平平が真正面から妖狐に向かって飛び込んだ。
「特攻? 無駄なことを!」
妖狐は嘲笑と同時に火柱を生んで、飛び込んできた平平の身体を包みこんだ。ごうっという激しい音と共に一瞬にしてその体が燃え尽きた、かに見えた。
「……なっ!?」
燃えつきた灰への違和感に一瞬眉を寄せ、はっと顔色を変えた。燃え尽きたそれは平平ではなく身代わり平平君人形だ。妖狐がそれに気付いて、視線を巡らせた時にはもう遅い。炎柱で視界の塞がっていたその瞬間で飛び込んでいた梅太郎の簪が、妖狐の影を地面へ縫いとめていた。
そしてそのほんの僅かな隙こそを狙って飛び出していた者がいる。シャーロットだ。
「ボクらの出番だよっウィリーちゃんっ♪」
妖翼を広げ、ウィリアムを抱えながら文字通り一気に妖狐の近くまで飛び上がったシャーロットは気合と共にどこか楽しさを隠し切れない様子で、高々と声を上げる。
「ヘイちゃんにはバレバレだけど、これ使いたかったんだよね♪ ボクのとっておきのオリジナル妖術、百火夜光っ! おいでっ! マイフレイミングアニマルズっ♪ かかれ~♪」
一声と共に現れた虎、ライオン、熊、ゾウ、鳩などの姿をした炎の猛獣たちは、シャーロットの声と共に一斉に妖狐に向けて突撃していく。
が。
「ふ……ふふ、ふふふ! その程度で私の結界は破れないわよ」
妖狐の哄笑の響く通り、球形の結界は今までになく激しくたわんでいるものの、それが破れる様子はない。シャーロットの妖術は強力な攻撃ではあるが、広範囲に向けられる攻撃は的を絞っているものではないため、単一の相手に対すると余剰が大きく、妖狐の張った結界とはその質の相性が良くなかった。
ダメか、と一瞬シャーロットたちの間で緊張が走る。
しかし、その結界のたわんだ瞬間を目掛け、既に動いていた者がある。
「今が、チャンスだ!」
ツカサの声を合図にするように、ノイの放った鬼火がたわんだ部分の最も大きな箇所、その中心へと灯ると、その一点へ向けてツカサのボルト・バレットが放たれ、その着弾と同時に優希と雲人の刀がそこへ振り下ろされた。
一撃目、陽の気をはべらせた優希の鍛練用・逆刃斬鬼刀と雲人の黒龍斬刀が薙ぎ払われて妖狐の際まで結界が軋んだような音を立てると、息つく暇もなく二撃目、陰の気をはべらせた二人の刃が放たれた。ツカサ、ノイの術による追撃を巻き込むようにしてクロスする瞬間。
「こいつで!! どうだああ!!」
優希の雄叫びが響くと同時に、びりっとまるで布裂けるような高い音を立てて、妖狐の結界は裂けていったのだった――……