【陰陽アイドル大戦】その妖狐、我が母につき
リアクション公開中!
リアクション
【4:いざ、大虎退治!】
時間は幾らか遡り、妖狐との戦いが行われていた丁度その頃。
式神たちとの戦いも佳境を迎えていた。
「くそ……キリがないな……!」
水希は思わずはき捨てた。
ダメージは確かに蓄積されている。そして味方に損壊は殆どない。けれど、決定打も与えられていないせいか、多少のダメージなど全く感じていないかのように、式神の動きは鈍ることがなかった。
勿論、身体を覆っていた赤黒いもやは薄れていたし、傍目には判り辛いがその輪郭が危うくなっている部分も無くもない。だが、痛覚を持たない式神故か、その力は破壊されるまで変化しないと言うことなのかもしれない。
手ごたえはあるのにまるでそれが結果として見えてこないことに、生徒たちの心が疲弊していく中「落ち着いて」と迅が声を上げる。
「確実に削れてるいるよ。集中して、核の近くを狙えば――……」
「そうとも、諦めてる場合じゃねぇぜ!」
そう言って、飛び出したのは陽介だ。
「迦楼羅、いくぜ!」
炎鳥・迦楼羅と融合した陽介は、陽気・妖翼によって低空飛行で式神との距離をキープしながら、呼び起こした半妖の力で、フレア・バレルを式神に向かって放った。それで倒せる、とは思っていない。陽介の役目は直接火炎支援とも呼ぶものだ。少しでもダメージを与えること、そして飛び回って攻撃を続けることで、他の仲間たちも攻撃しやすくなるもので、足を狙うリリィや、胴を狙う水希の攻撃を助けつつ、素良のように囮役に近い働きにもなっている。そんな陽介を支えるのは睡蓮寺 小夜だ。
「わたしは……みんなにも傷ついてほしくない……」
傷付くのは怖い、けれど仲間や小次郎、陽介が傷付くのはもっと怖い。そんな気持ちでぎゅっと拳を握り締めて、小夜は式神を見据えて破魔弓を構えた。
「やれる事を、精一杯やるんだ……!」
そうして、後ろから陽介達を守るために、八咫烏の矢で式神を狙い撃つ。その名の通り、八咫烏の恩寵たる光の矢は式神に突き刺さると、その箇所の赤黒い霧を霧散させると、散った光の名残が更に闇の力を弱める結界となって仲間たちを援護する。
未熟な自分にできる事は、少ない。それでも兄、陽介の力になりたい。そして
『小夜の歌は、何だか力が湧いて来るよ』と言ってくれた小十郎のために、小夜はニンブル・ブレスで二人を援護する。
そんな中、隠れるのを止めて前へ出ていた水希は、式神の前を左右に移動を繰り返すことで、横ぶりの攻撃を誘発させるように動いていた。踏み潰そうとする縦の動きとは違い、横払いに爪を薙ぐその動きは存外に早く、その範囲も広くなる。爪の切っ先やその勢いが生む衝撃波にも似た風が肌の上を刻んでいくが構わず、水希は横ぶりの攻撃のリズム――単調なそれをすぐに把握すると、続けて自らへと払われ、迫る腕を踏み台にして高く跳躍した。狙ったのは、大虎の顔面だ。
「後でお酒奢ってあげるから。そろそろ沈みなさい」
妖虎の手甲で渾身の力で殴りつけると、巨体に衝撃が響いたのか一瞬式神がたたらを踏み、そこへ再び陽介のフレア・バレットと小夜の八咫烏の矢が追い討ちをかける。
そうして、二人の援護に、次々と仲間たちの攻撃が決まっていき、状況が幾らか巻き返そうとした、その時だ。
邪魔者を追いかけて、洞穴の幾らか奥まで入り込んできてしまったことに気付いたのか、生徒たちの攻撃が煩わしくなったのか、式神は一同から興味を失ったようにくるりと向きを変えると、再び結界の方へと突き進みはじめたのだ。
「しま……!」
「どうしても外へ出る気のようだね……!」
一瞬皆の顔色が変わったが、その状況に備えている者もいる。小十郎だ。
「ここから先は行かせない……来るならば、ここがお前の死地と知れ」
仲間たちが攻撃に専念している間、小十郎は式神が地上に行かぬようにと防壁の前へと陣取って精神一到をはかっていたのだ。取り越し苦労となる可能性があっても、万が一に備えておく――それが今、功を制しようとしていた。
攻撃を真正面から受ければひとたまりもないのは判っている、けれど退くつもりはない、とその態度が語っている。その覚悟を知ってかどうか、式神はそんな小十郎へ正面から突撃に向かう。
「っち……間に合えよ……!」
「お願い、守って……!」
咄嗟に陽介は踵を返して小十郎の下へと戻りながら、アーククリスタルで結界を張ると、小夜も同じく山の神々へと祈りをささげることで光の網を生み出して小十郎を守ろうと動いた。勿論、それで完全に防ぎきることは出来なかったが、二人の祈りが届いたかのように、一瞬式神の動きが阻まれ、鈍る。そして、それで十分だった。
「行くぞ……!」
不撓によって備え、五虎討――大戦の折、五匹の妖虎を一度に薙ぎ払ったという謂れを持つまさにうってつけの刀を構えると、渾身の断斬を放った。大上段から振り下ろされる一撃は、今まさに振り下ろそうとしていた牙の威力を盛り返して、深々と斬りつけた。
前足が丁度手の位置からざっくりと縦に裂かれる形にされ、流石の式神も獣の咆哮を上げて結界から数歩を退いていく。
その瞬間、追いついていた生徒たちの猛追が始まった。
「こっちよ、虎さん!」
叫びと同時、深冬が投擲術で式神の視線を一瞬引くと、そのタイミングを狙ってリリィの氷丸招来と水希の飛苦無がその目を狙った。左右両方の目に一度に攻撃を受けて、その視界が塞がったからだろう、式神は咆哮を上げると見境なく暴れ始めた。形振り構わなくなった攻撃には秩序はなく、周囲一体を薙ぎ払おうとしていたが、それこそ銀河が狙っていた一撃だ。
不撓によって構えていたそこへと振り下ろされる一撃を全身で受け止める。自分を狙った一撃であればひとたまりもないところだが、これはただ乱暴に振り回されただけの攻撃だ。ぎりぎりで受けきると、それに報いるような一撃が式神に襲い掛かった。自分を襲おうとした腕を断ち切らんばかりに裂き、式神が怯んだところで、続けて繰り出すのは天地双閃だ。
「陰と陽を織り混ぜた最高の一撃、どうかご笑覧あれ」
刀に陽の気をはべらせた一撃の直後、陰の気をはべらせた追撃が式神を襲う。更にはそこへ延寿が極火二刀に炎を纏わせた鉤つき鎖鎌で首を掻き切ろうと動いたが、その瞬間、式神の纏っていた赤黒いもやが一気に噴き上げると、大きく抉られていた筈の式神の体が再び元の形を取り戻した。
「っ、まだダメなの……!?」
「ううん! まだだよ!」
延寿が眉を寄せるが、更に続くのはジュレップだ。暴れる式神が自らの正面へと襲い掛かる中、バックステップでそれをかわしながら、自分に噛み付こうとするその大きく開いた口へと、投擲術で火車剣を投げ込んだ。
途端、飲み込んだ奥で小さな爆発が置き、式神は悶えるように咆哮を上げて足を止めた。ハリボテならば中身は弱い筈、と見込んだ通り、今までよりも激しくダメージを負った気配に、今まで盾であり囮でありとして動いていた素良が攻撃に転じた。
「いくのら……!」
闘鬼の拳を召喚した素良はその拳を式神へと叩き込んだ。右手しか使えない素良の一か八かの攻撃は、式神の胴へと命中すると、これまでの攻撃の蓄積がついに、その表層を抉ってその奥にある核――獣の形に折られた折り紙らしきものが露出する。
「あれだ!!」
その瞬間、懐へと飛び込んだのは那智だ。追い込まれて核が露出した事で我武者羅になった大虎が、その前足を大きく振り払ったその先で構えを取ると、その刀身で一撃を受け止める。
「ぐ……ッ」
那智を狙ったものではないが、威力は十二分だ。刀が折れてしまいそうな衝撃を何とか耐えた、次の瞬間。我がに受けたそれに報いんとばかりの強烈な一撃を、核へ目掛けて叩き込んだ。既に核を露出していたその胴は、その一撃で抉れ、刀はその中心の折り紙へと届いた。
切っ先が紙を破り、千切っていくと同時、獣の身体は輪郭を崩し、霧散していく。
「やった……!!」
赤黒い瘴気のもやを残して、式神が消滅する様子に一同がほっと息をつくのも束の間。破れた符が自動的に燃えようとしたのか、ぼっと火に包まれていく。
「っと、危ない……!」
それらを咄嗟に朱が掴むと、その手に残った紙には、何かの術の痕が残っていた。この事件を引き起こした者へ繋がる確かな証拠を掴んだ事に、一同は顔を見合わせると、その成果に強く頷いたのだった。
時間は幾らか遡り、妖狐との戦いが行われていた丁度その頃。
式神たちとの戦いも佳境を迎えていた。
「くそ……キリがないな……!」
水希は思わずはき捨てた。
ダメージは確かに蓄積されている。そして味方に損壊は殆どない。けれど、決定打も与えられていないせいか、多少のダメージなど全く感じていないかのように、式神の動きは鈍ることがなかった。
勿論、身体を覆っていた赤黒いもやは薄れていたし、傍目には判り辛いがその輪郭が危うくなっている部分も無くもない。だが、痛覚を持たない式神故か、その力は破壊されるまで変化しないと言うことなのかもしれない。
手ごたえはあるのにまるでそれが結果として見えてこないことに、生徒たちの心が疲弊していく中「落ち着いて」と迅が声を上げる。
「確実に削れてるいるよ。集中して、核の近くを狙えば――……」
「そうとも、諦めてる場合じゃねぇぜ!」
そう言って、飛び出したのは陽介だ。
「迦楼羅、いくぜ!」
炎鳥・迦楼羅と融合した陽介は、陽気・妖翼によって低空飛行で式神との距離をキープしながら、呼び起こした半妖の力で、フレア・バレルを式神に向かって放った。それで倒せる、とは思っていない。陽介の役目は直接火炎支援とも呼ぶものだ。少しでもダメージを与えること、そして飛び回って攻撃を続けることで、他の仲間たちも攻撃しやすくなるもので、足を狙うリリィや、胴を狙う水希の攻撃を助けつつ、素良のように囮役に近い働きにもなっている。そんな陽介を支えるのは睡蓮寺 小夜だ。
「わたしは……みんなにも傷ついてほしくない……」
傷付くのは怖い、けれど仲間や小次郎、陽介が傷付くのはもっと怖い。そんな気持ちでぎゅっと拳を握り締めて、小夜は式神を見据えて破魔弓を構えた。
「やれる事を、精一杯やるんだ……!」
そうして、後ろから陽介達を守るために、八咫烏の矢で式神を狙い撃つ。その名の通り、八咫烏の恩寵たる光の矢は式神に突き刺さると、その箇所の赤黒い霧を霧散させると、散った光の名残が更に闇の力を弱める結界となって仲間たちを援護する。
未熟な自分にできる事は、少ない。それでも兄、陽介の力になりたい。そして
『小夜の歌は、何だか力が湧いて来るよ』と言ってくれた小十郎のために、小夜はニンブル・ブレスで二人を援護する。
そんな中、隠れるのを止めて前へ出ていた水希は、式神の前を左右に移動を繰り返すことで、横ぶりの攻撃を誘発させるように動いていた。踏み潰そうとする縦の動きとは違い、横払いに爪を薙ぐその動きは存外に早く、その範囲も広くなる。爪の切っ先やその勢いが生む衝撃波にも似た風が肌の上を刻んでいくが構わず、水希は横ぶりの攻撃のリズム――単調なそれをすぐに把握すると、続けて自らへと払われ、迫る腕を踏み台にして高く跳躍した。狙ったのは、大虎の顔面だ。
「後でお酒奢ってあげるから。そろそろ沈みなさい」
妖虎の手甲で渾身の力で殴りつけると、巨体に衝撃が響いたのか一瞬式神がたたらを踏み、そこへ再び陽介のフレア・バレットと小夜の八咫烏の矢が追い討ちをかける。
そうして、二人の援護に、次々と仲間たちの攻撃が決まっていき、状況が幾らか巻き返そうとした、その時だ。
邪魔者を追いかけて、洞穴の幾らか奥まで入り込んできてしまったことに気付いたのか、生徒たちの攻撃が煩わしくなったのか、式神は一同から興味を失ったようにくるりと向きを変えると、再び結界の方へと突き進みはじめたのだ。
「しま……!」
「どうしても外へ出る気のようだね……!」
一瞬皆の顔色が変わったが、その状況に備えている者もいる。小十郎だ。
「ここから先は行かせない……来るならば、ここがお前の死地と知れ」
仲間たちが攻撃に専念している間、小十郎は式神が地上に行かぬようにと防壁の前へと陣取って精神一到をはかっていたのだ。取り越し苦労となる可能性があっても、万が一に備えておく――それが今、功を制しようとしていた。
攻撃を真正面から受ければひとたまりもないのは判っている、けれど退くつもりはない、とその態度が語っている。その覚悟を知ってかどうか、式神はそんな小十郎へ正面から突撃に向かう。
「っち……間に合えよ……!」
「お願い、守って……!」
咄嗟に陽介は踵を返して小十郎の下へと戻りながら、アーククリスタルで結界を張ると、小夜も同じく山の神々へと祈りをささげることで光の網を生み出して小十郎を守ろうと動いた。勿論、それで完全に防ぎきることは出来なかったが、二人の祈りが届いたかのように、一瞬式神の動きが阻まれ、鈍る。そして、それで十分だった。
「行くぞ……!」
不撓によって備え、五虎討――大戦の折、五匹の妖虎を一度に薙ぎ払ったという謂れを持つまさにうってつけの刀を構えると、渾身の断斬を放った。大上段から振り下ろされる一撃は、今まさに振り下ろそうとしていた牙の威力を盛り返して、深々と斬りつけた。
前足が丁度手の位置からざっくりと縦に裂かれる形にされ、流石の式神も獣の咆哮を上げて結界から数歩を退いていく。
その瞬間、追いついていた生徒たちの猛追が始まった。
「こっちよ、虎さん!」
叫びと同時、深冬が投擲術で式神の視線を一瞬引くと、そのタイミングを狙ってリリィの氷丸招来と水希の飛苦無がその目を狙った。左右両方の目に一度に攻撃を受けて、その視界が塞がったからだろう、式神は咆哮を上げると見境なく暴れ始めた。形振り構わなくなった攻撃には秩序はなく、周囲一体を薙ぎ払おうとしていたが、それこそ銀河が狙っていた一撃だ。
不撓によって構えていたそこへと振り下ろされる一撃を全身で受け止める。自分を狙った一撃であればひとたまりもないところだが、これはただ乱暴に振り回されただけの攻撃だ。ぎりぎりで受けきると、それに報いるような一撃が式神に襲い掛かった。自分を襲おうとした腕を断ち切らんばかりに裂き、式神が怯んだところで、続けて繰り出すのは天地双閃だ。
「陰と陽を織り混ぜた最高の一撃、どうかご笑覧あれ」
刀に陽の気をはべらせた一撃の直後、陰の気をはべらせた追撃が式神を襲う。更にはそこへ延寿が極火二刀に炎を纏わせた鉤つき鎖鎌で首を掻き切ろうと動いたが、その瞬間、式神の纏っていた赤黒いもやが一気に噴き上げると、大きく抉られていた筈の式神の体が再び元の形を取り戻した。
「っ、まだダメなの……!?」
「ううん! まだだよ!」
延寿が眉を寄せるが、更に続くのはジュレップだ。暴れる式神が自らの正面へと襲い掛かる中、バックステップでそれをかわしながら、自分に噛み付こうとするその大きく開いた口へと、投擲術で火車剣を投げ込んだ。
途端、飲み込んだ奥で小さな爆発が置き、式神は悶えるように咆哮を上げて足を止めた。ハリボテならば中身は弱い筈、と見込んだ通り、今までよりも激しくダメージを負った気配に、今まで盾であり囮でありとして動いていた素良が攻撃に転じた。
「いくのら……!」
闘鬼の拳を召喚した素良はその拳を式神へと叩き込んだ。右手しか使えない素良の一か八かの攻撃は、式神の胴へと命中すると、これまでの攻撃の蓄積がついに、その表層を抉ってその奥にある核――獣の形に折られた折り紙らしきものが露出する。
「あれだ!!」
その瞬間、懐へと飛び込んだのは那智だ。追い込まれて核が露出した事で我武者羅になった大虎が、その前足を大きく振り払ったその先で構えを取ると、その刀身で一撃を受け止める。
「ぐ……ッ」
那智を狙ったものではないが、威力は十二分だ。刀が折れてしまいそうな衝撃を何とか耐えた、次の瞬間。我がに受けたそれに報いんとばかりの強烈な一撃を、核へ目掛けて叩き込んだ。既に核を露出していたその胴は、その一撃で抉れ、刀はその中心の折り紙へと届いた。
切っ先が紙を破り、千切っていくと同時、獣の身体は輪郭を崩し、霧散していく。
「やった……!!」
赤黒い瘴気のもやを残して、式神が消滅する様子に一同がほっと息をつくのも束の間。破れた符が自動的に燃えようとしたのか、ぼっと火に包まれていく。
「っと、危ない……!」
それらを咄嗟に朱が掴むと、その手に残った紙には、何かの術の痕が残っていた。この事件を引き起こした者へ繋がる確かな証拠を掴んだ事に、一同は顔を見合わせると、その成果に強く頷いたのだった。