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【陰陽アイドル大戦】その妖狐、我が母につき

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【陰陽アイドル大戦】その妖狐、我が母につき

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【3:真実はいずこに在りや】



 そうして、兵一郎と風花が仲間たちの盾として立ち塞がる間、同じように前線にあったウィリアム・ヘルツハフトは、彼らが耐えている間の隙をついての攻撃を挑んでいたが、簡単にはいかなかった。
「……ッ、結界か」
 妖狐と戦う上でその俊敏さ以上に厄介だったのは、彼女を守っている結界の存在だ。それは、透明な球のような形状をしていて、妖狐の体全てを包んでいて生半可な攻撃はその前で弾かれて通らないのだ。
 そうとなれば、ウィリアムは直ぐに回避と防御に切りかえて動き回るしかない。なんとなれば、ウィリアムの役目は今この時ではなくその後であるからだ。
 その代わりに、前線から一歩を退いたところで立ち回って戦線を維持しているのは風間 梅太郎平 平平で、梅太郎が飛苦無を投擲術で妖狐に向かって投げつける傍ら、平平は忍び足と隠形の術で岩などの遮蔽物に隠れながら妖狐へと接近する。
「これはどうでござるかな!?」
 結界に守られていても、その影そのものは結界の外へ伸びるものだ。影縫いで一瞬その動きを鈍らせると、その顔目掛けて打水風船を叩き付けた。直接顔に届くことは無くとも、顔近くに水をぶちまけられれば、知性のあるものなら一瞬怯むものである。
 殆ど嫌がらせのようなものであるが、それでも苛立ちを招くことで注意を引き、仲間たちを意識の外へとやることが出来た。
 そうして平平が囮を引き受けて走り回る間で、兵十郎たち前線二人の守りを抜け、後衛に及びかけた岩を、梅太郎がエスクワイアソードで間に入ってブロッキングで防ぐと、同様に炎に対しては瑠亜の祈祷が召喚した白蛇水神の幻影がその尾を振るった。水の塊である巨大な白蛇の攻撃は、妖狐自身にはその結果に弾かれても、砕けた雨は仲間に降り注ぎ、絶え間ない防衛線に傷ついたその身体を癒していく。
 そんなめまぐるしい戦況に耳を澄ませながら、あみかと風華の歌もまた続いていた。
 プリーストである自分たちには、この葦原の世界ではその力を存分に発揮できないとは知りながら、それでも二人は仲間たちに僅かにでも力になればと、その恩寵が薄れるたびに歌声を重ねていく。それが、前線で戦う仲間たちの背中を押すと信じて。

 そうして、リトルフルールの面々が前線を維持しながら、来るチャンスを測っている間、山の神々への祈祷によって生み出された光の網と共に自らの背で守りながら、エステルは銀狐と共に最後尾で一同を見守る此花に向けて「なーなー」と声をかけていた。
「此花はこの封印の経緯を知ってるのかー? 内輪揉めや処刑はどの辺まで事実なんだ?」
「嘘言うたり、誤魔化そうとしても無駄なことどすえ?」
 その言葉に、朝霞 枢が妖眼幻視――その感情の色を見逃すまいと目に妖気を集め、最後列にいた瑠亜も思わず聞き耳を立てたところで、ふう、と小さく溜息を吐き出して此花は「父上やその先代からの又聞きだけれどね」と前打ってから口を開いた。
「二十年前……桜の丸の地下、つまりここね。その奥に異常が生じて、おびただしい黄泉の瘴気が溢れ出したのだそうよ」
 それを止めることは当時の誰にもできず、強力な妖怪であり陰陽師であった銀狐の母親が、自分を犠牲にしてその異常を塞ノ門ごと封印したのだという。
「……それがどないして、処刑されただなんて伝わったんどす?」
 枢が問うと、此花は難しい顔で一瞬ちらりと銀狐を見やると「当時は、妖怪と人間が争っていたのよ」溜息のように声を出す。
「人間が妖怪によって守られている、と言う情報は、要らない混乱を招きかねなかったのね。元々、銀狐のお母様も半妖だと偽って陰陽師をされていたのだもの。それで……その封印によって不在になった事を隠すために、「内輪もめの結果陰陽師が処刑された」とでっちあげられたの」
「ふーん……」
 それはそのまま銀狐に伝えられたのだ、と言う説明に、なんだかややこしい、という顔をしてエステルは「じゃあ」と質問を続ける。
「要石が銀狐の母親だってしってたのに、何で黙ってたんだー?」
 その言葉に銀狐も思わず此花の方を見る。その視線を感じながら、一瞬詰まったような顔をして、此花は「それは」と僅かに言い辛そうにしながら口を開いた。
「……銀狐にとって、お母様はとても大事な方だもの」
 もう既に処刑されていると聞かされて消沈し、人を憎んでいた彼に、人を守るためにその身を犠牲にしたのだと伝えることは銀狐を酷く傷つけることになるのではないか。そんな気持ちが此花の口を噤ませていたのだ。
 それを聞きながら、銀狐がどこか嬉しさや申し訳なさを滲ませた複雑な表情をしていると、そんな銀狐と此花との顔を見比べながら、エステルは無邪気に「じゃあー」と質問を続ける。
「此花は銀狐のことが好きなのか? それはおにーちゃん的なアレなのか? それとも乙女心的なソレなのか?」
「えっ」
「え?」
 二人分の声がし、意外な質問に銀狐と此花がそれぞれ目を瞬かせつつ顔を見合わせると、思わずといった様子で此花がふふ、っと声を上げた。
「そうね……この人、ほっとけないでしょう? 人前には出たがらないし、こんなだし……何というか、年上の弟のようなものかしら」
「お、弟……?」
 その回答が意外、というより、頼りなく見られていたらしい、と言う事実に軽くショックを受けたように銀狐が思わず漏らしていると「そういう話をしてる場合やないやろ?」と多少呆れたように枢が二人の前へと飛び出ると、前線をすり抜けてきた流れ弾の前へ身を躍らせた。
 そうして枢がエステルの張っていた光の網で幾らか威力の落ちた炎を氷丸招来による氷のつぶてで相殺すると、その態度で現在がまだ戦闘の最中であることをエステルたちへ伝えると、「ところで」と口を挟んだのはこれまで此花たちの会話を聞き、その事情を確認していた死 雲人だ。
「再封印ってことは、倒す必要は無いんだよな。こんなことを聞くのもなんだが……弱点ってのはあるのか?」
「ちょっち、待ってえな」
 現状の打破のためにとそんな質問をした雲人に、枢が思わず声を上げた。
「妖狐はんは封印前から桜稜郭を守ってはったんやろ? それなら正気に戻して、再封印せずともなんとかなる方法あるんちゃうやろか」
 自分の母親を封印せなアカンなんて、そんな哀しいことさせとおないし、と続けた枢は、手伝えることだったら何でもさせてもらう、とその想いを伝えたが、銀狐は難しい顔で首を振った。
「方法は……無い」
 強い諦めの混じった言葉に、そんなはずはない、と反論しかかった枢はぐっとそれを飲み込んで視線を妖狐へと戻した。何とかなる筈だ、と言うのは容易いが、それ以前にまずは妖狐を正気に戻すことができるかどうか、という問題がある。
「試してみんことには、しょうもないわな」
 そうして、瘴気が和らがないか、と天狗の狛笛を取り出すとその音色を洞窟に響かせ始めた。枢の化け楽による柔らかそうな猫の手も、平平時であれば人を楽しませるような魅力を放っていたが、戦いの最中であるためか、その芸は妖狐を乱すことは無い様だった。
「それなら、これはどうかしら?」
 その様子に、続いて舞を踊り始めたのはHSL0005091#アリサ・ホープライト}だ。神拍子で周囲を清めようと、舞うのは黄金丸と孔雀の袖飾りで豪華絢爛に装った華やかな剣舞だ。極彩色の袖飾りが煌きながら揺れ、黄金色の刀がきらきらと閃く。周囲に漂う瘴気がそんな光と好対照で、アリサの姿は魅力的に浮き上がる、が、それまでだ。厳かなその舞は自らの周囲を清めることはできても、瘴気を消せるわけではないようだ。
「……っ、ダメか……」
 結局、瘴気を消すには妖狐を再度、結界の要として封印をし直すしかないようだ、という認識は、枢たちの中に苦く広がったが、それに俯いているような時間は無い。
「そもそも、封印しなおすにも、彼女を止めなきゃならないんだからな……!」
 桃城 優希はどこか悔しげなアリサの集中を引き戻した。
 そう、今はまだ妖狐との戦闘の最中で、此花たちが会話をしている間も、優希は向かってくる妖狐からの攻撃を避けようと走り回っていたのだ。
 避けきれそうに無いものは、幅が広く厚い刀である逆刃斬鬼刀でブロッキングしてなんとかやりすごしているが、岩の塊が飛んでくるとそれでは防ぎきれない。
「アリサ!」
 助けを求めるような声と同時、アリサの祈祷によって生まれた光の網が広がると、それを岩が受け止めている間に優希は近くの岩陰へと転がり込む。
「結界はどうにかなりそうなの?」
 そんなアリサの問いに、軽く乱れた息で複雑そうに優希は首を振った。
「はあ……なかなか、簡単にいきそうにないな」
 そんな優希と同様に、攻撃を回避しつつ、様子を伺っているのは界塚 ツカサ、そして加賀 ノイだ。互いに互いの視覚をカバーしあいながら、動き回る妖狐からの攻撃を避け、あるいはノイの氷丸招来で相殺し、としながら妖狐を観察する。
「幻術の類を使って来ませんから、見失うことが無いのは幸いですね」
 結界の術を張り続けているからなのか、あるいは正気を失っている今、そういった術を使うことが出来ないでいるのかは判らないが、妖狐からの攻撃は、強力ではあるが単純なものばかりだ。おかげで軌道が読みやすい、とノイは「上です!」と術の来る方向に声を上げて全員の注意を促す。
 そうして回避はそれなりに成功し、そうでなければ田乃神への祈祷で回復してやりすごしていたが、ツカサは難しい顔だ。
「だけど、結界の基点が見つからないな……」
 妖狐はかつて陰陽師を務めていたのだから、結界もその術の類だろうと見当をつけて観察を続けていたのだが、結界を張るための基点となる場所が見つからないのだ。念のため、回避の合間で壁などを探し、あるいは他の仲間の攻撃を受けた際の影響を見ていたが、属性的な有利不利も余り見られない。
「もしかしたら、結界を張る術の基点は、妖狐自身なのかもしれません。
「結界の弱い場所ってのも無さそうだしな……あの球体、妖狐を中心にしてるようだし」
 他の仲間たちの攻撃に妖狐が気を取られている隙で、同様に結界の観察をしていた雲人も、難しい顔で二人の会話に混ざる。
「符か何かの媒介を使っているのかもしれないな……となると、外からどうにかできる代物では無いのかもしれない」
 だからこそ、妖狐も姿を隠す真似もせず、ただああして単調な攻撃をしているのかもしれない。それだけの自信がある、ということだ。難しい顔をする一同だったが「それなら」と優希は口を開く。
「強硬手段しかないんじゃないか?」
「乱暴な手段だけど……それしかなさそうかな」
 ツカサも同意すると、雲人は頷いて妖狐を見やり「確かにな」とその目を細めた。
「結界も万能じゃないだろう。薄い膜が覆ってるようなもんだ」
「攻撃を受けたとき、その箇所がいくらかたわんでいる気配があります。ですから……」
 ノイの言葉に、一同はその言葉の意味を受け取って頷くと、ぐっとそれぞれの武器を決意と共に握り締めた。
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