【陰陽アイドル大戦】ふぇすた座出張ライブ Feat.幽霊!
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勝負! 越後座 1
廃寺で祈祷をする真蛇を止めに動きまわり、穢ノ神の腕を倒した騒動など全く聴こえないどこか平和な雰囲気もある床町のはずれにある廃れた神社では、ふぇすた座と越後座との御前披露のために慌ただしく準備が進んでいた。
華叢大戦以前に建てられたという謂れを持つ古い神社ではあるが、昨今はすっかりさびれ幽霊のすみれと慎太を除いて近寄るものはいなかった境内には、久々にたくさんの人が集まっている。
桐山 撫子もふぇすた座の舞芸者としてステージに立つためにすみれと西宮 彩を呼んで打ち合わせをしていた。
「越後座……グランスタの動向を見ていて……思い当たるんだけど……何かを“勝ち急いでいる”感じがするね。詳細は……まだ……確信がないけどね……。ただ、渋蔵鷹人君は勝つための舞芸で勝ち抜く意志で闘っていると思うよ」
「そうですね。確かに勝ち急いでいる感じもしますが、その目的がいまいちはっきりしないのが不気味なところです。鷹人君と八咫子ちゃんが袂も別れてしまったのもグランスタの意向に従えるか、従えないかによるものでしょうし」
「恐らく……グランスタの在り方がそうなんだろうね。ある意味……否定はできないか……」
すみれは一度だけ見た黒山 忍の冷酷な顔を思い出し身体が震えてしまう。
そっと寄り添うように撫子が傍によって自らの立てた作戦を提案する。
「すみれさんにはついていけない話をしててごめん。確認だけど、すみれさんは巫だったって事は笛を演奏できるよね? あたしが創った楽曲があるんだけど……一緒に舞台に立って伴奏をお願いしたいんだ。楽譜にイロハを書いて用意したけど……大丈夫?」
「はい。譜面は読めますので何度か練習をすれば大丈夫かと思います」
「うん。それならよかった。楽譜を覚えたらあたしの歌と合わせようか。ちゃんと息を合わせやすい様にあたしも巫で合わせたしね。きっと……大丈夫」
「私はどうすればいいですか?」
「西宮さんは状況に応じて適時でOKだよ。リハで判断してね♪」
「わかりました。すみれさんは一番初めのライブに立ちますし、音合わせは早めにしておかないとですね」
限りある時間を最大限利用して撫子たちは歌と音、踊りをすり合わせていった。
あちこちでリハーサルの音が混じり合い、今か今かとふぇすた座と越後座との御前披露を楽しみに集まった人々のボルテージも次第に上がっていく。
ふぇすた座もそれなりに名が広まっており彼らを目的に見に来る者がいる一方、煌びやかな装飾がライトに照らされた越後座は見る者の目を引き寄せる派手さがあった。
これからどんなステージが始まるのか。
期待に胸を膨らませていると陰陽師の銀狐がふぇすた座のステージに上がり、スポットライトを浴びた。
「ようこそ。今宵はふぇすた座と越後座の“御前披露”と相成る。どうか楽しんでいってほしい。まずはふぇすた座からは一浜 遥華が引き受ける。対する越後座は桜稜郭一と名高い座に所属していた山吹が演出に回った狐狼黄燐が舞台に上がるそうだ。それでは、“御前披露”の舞台をご覧あれ!」
煌びやかなステージに上がった狐狼黄燐は金に物を言わせた演出ながら上分の山吹が演出に回ったこともあり、越後座周辺に立つ人々を惹きつけていく。
「さーって、いっちょいってみようぜ新米芸道。傾奇ってのがどういうことかこの【noisy cat】が魅せたげよーじゃないの」
傾奇者によって派手にアレンジされた振袖六駆衣装を粋に着こなした遥華もステージに上がると夜桜六絃琴をロック調にかき鳴らし、散羅李図夢で激しく動き見えそうで見えない色気で観客の目を引き寄せる。
ガンガンにビートを刻みサビの部分に差しかかるとパーティトラップを発動させ、舞台にすみれを登場させるとドライアイスで一気におどろおどろしい雰囲気に変貌するステージ。
だが曲調はあえてロックの激しめのところを崩すことなく、そのままかき鳴らしステージの雰囲気とのギャップで怖さを引き立てていく。
ステージに現れたすみれも激しい曲に合わせるようにビュンビュンと素早く飛び回り、ドライアイスの霧を撒きあげて観客の恐怖を誘う。
観客も突然現れた幽霊に驚き、狂乱する動きに怖さと一緒に目が離せなくなっている。
最後の一音まで激しい曲をそのままに貫き、音の余韻に溶け込むようにすみれは宙に消えていった。
遥華と狐狼黄燐との勝負は煌びやかさと派手さに加え山吹の知名度もあり、視線は越後座の方へ集まりふぇすた座はやや不利な状況である。
続いてステージに上がったのは傷だらけの慎太を抱き締めるすみれを見てこみ上げてきた物を感じた想いを歌詞にして新曲を携えてきた弥久 風花だ。
もちろんこの新曲はすみれと慎太に一番に聴かせている。
風花は綺麗なレースをあしらった服装の上から革ベルトを沢山巻きつけた冒涜的な服装の傾奇碁漆句炉利衣太班駆【傾奇碁漆句】を着こみ、装飾が派手な和風デザインのマイクである傾奇舞句を手に彩と一緒にステージに立つ。
「この曲は慎太君とすみれさんからは年の差や幽霊と生者の垣根を越えつつ、ラブになりそうなライクの想いと慎太君から年上の友達を一生懸命守ろうとするハードボイルドな良い男になる素質の匂いを感じたままに曲にしたモノよ! 聴いてちょうだい! 『まだ見守りたい』!!」
即興ともいえるまだ見守りたい 【曲:祭りのバラード】は華乱葦原で定番の和風バラード曲でまとめられている。
慎太とすみれの仲の良さをモチーフに全部で6番目まであり、『恋をする若者を見守る老人』を見守るパートの1番から始まり、楽しげな若者たちの様子と障害となる周辺状況の2番へと続き、若者たちに迫る困難な状況 一念発起して若者たちを守ろうとする3番に変転。
老人の決意と心情。必死に頑張るが引き離されそうになる若者たちの4番から、長く生きてきた老人の無力感。老人の頑張りを知った知己の協力でハッピーエンドの5番となり、最後は幸せそうな若者たちの後年、老人の頑張りを知った元若者たち、現夫婦が子供を連れてお礼を言いに尋ねて来る6番の構成となっていた。
元々はの名ある神社だったはずのこの神社を知っている年配の人たちは老人視点に同調し、若者たちを守ろうとする老人を応援する気持ちを抱き、比較的年齢の若い人たちは親しみやすい和風ラブソングに耳を傾け恋する若者に想いを寄せていく。
曲に合わせ彩が踊り、その踊りに合わせるように風花は祭りバラードに乗せるように堂々と演じられる天下御免の和風ラブソング、天下御免羅舞存句を抑揚をつけて歌い上げ風花の歌と彩の踊りの双方で派手に観客を魅了する。
曲も最高潮となる6番では踊中に見せる微笑みで観客を骨抜きにする華のかんばせを振りまき観客の視線をくぎつけにしていった。
短くも長い曲に続いてステージに用意されたのはなんと麻雀卓であった。
なにが始まるのだろうと視線も麻雀卓に集まる。
そこへ登場したのは麻雀の牌から顔と四肢が生えた着ぐるみ……いや半妖の天地 和とアドベンチャーマントを巻いた小鈴木 あえかにステージでも映える衣装に着替えた慎太の3人である。
和は不意に高級麻雀セットをジャラジャラし始めて口を開く。
「皆……麻雀を知っているかー! この麻雀という遊戯には、この音に悪霊を退散させる力があるとも言われてるぞ! ちなみにわたしは麻雀お化け、いいお化けだから退散しないよ!」
アイスフィールドで観客たち寒気を感じさせると、飛炎を使って人魂を作って周囲に浮遊させて観客を驚かす。
慎太も突然現れた人魂に肩が上がったのが近くに居たあえかには分かった。
びくついた反応を示したことに気付かれた慎太はやや恥ずかしそうにそっぽを向く。
「おおっと、こんな処に悪霊が!」
大げさに人魂に驚いたフリして和がまたジャラジャラと麻雀を鳴らすと人魂がふと消えた。
「ふっすぐ消えてしまうなんて、余程悪い奴だったんだろうね!」
ふふんと胸を張っているとすみれがすぅっと姿を現しゆらゆらと揺れながら和とあえか、慎太の周りを浮遊し始める。
あえかは怖がるように慎太にしがみついてみせ慎太もあえかを守るように肩を抱いてみせた。
「やや、また別の霊が!」
人魂同様に麻雀をジャラジャラするが今度は消えない。
すみれは楽しそうに飛んでおり、とても悪い幽霊には見えなかった。
「しぶとい霊だ! 最後までやる必要がありそうだから、誰か、手伝ってくれないかー! ホントは4人用だけど、みんなはチームで相談していいよ! なんたってわたしは強いんだからね!」
「じゃあわたしは慎太くんとペアを組みましょうか」
「おう。麻雀のルールはさっき教えてもらったしな」
「ふふ。よろしくお願いします」
和が観客席から名乗り出た人たちをみんなステージに上げ、2組のペアに振り分けていく。
そして、麻雀の席に着くと今まで浮遊していたすみれがあえかの傍に寄ってきた。
先程まで怖がる演技をしていた手前、恐る恐るといった風にすみれに声をかける。
「もしかして、あなたも麻雀をやりたいのですか?」
コクコクと頷いて笑顔を見せるすみれ。
あえかは三人寄れば文殊の知恵とすみれを仲間に入れることにした。
和がフェスタにきて初めて作曲した、麻雀アイドルとしての自分のテーマソングである曲『運命は麻雀のように』【曲:初めてのポップ】をBGMに麻雀ライブが始まった。
卓を囲みながら和はしなやかな舞いの動きを取り入れた牌捌きでなめらかで柔らかな美しさを香わせ魅せると、あえかもコアチェックと誰何心眼で当たり牌をハッタリで当てたりしていく。
「うんうん。筋がいいねぇ」
「そういうお前さんもアイドルの割りには強いじゃないか」
「アイドル雀士を名乗っているんだから、そう簡単には負けないよ」
あえかも和に対抗するように天津舞いを取り入れ、空中に浮くと一回転して牌を捨てたりと格好良く牌を扱う。
それでもやや不利な状況は続いてしまう。
「うーん……何か一発逆転できる能力とかありませんか?」
「あったらもう言ってるって」
「そうですよね。あ、幽霊さんは生前どんな事をしていたのですか? 幽霊になった理由とか、……それからの出来事や二人の出会いとかを教えてはくれませんか。もしかしたら逆転一手が見つかるかもしれません」
「本当に見つかるのかよ。まぁ、隠してるわけじゃないし教えるけど」
慎太とすみれはマイクに声が入らないようにしながら2人の馴れ初めを話し始めた。
すみれは華叢大戦のさなかに生まれた非常に力の強い巫で、生前もこの神社に勤めており、天寿を全うした後も人々を守るために幽霊となって結界の力に同化したのだと話す。
慎太とは神社に迷い込んだ犬に餌をやっているのを見かけて出会ったのだと答える。
「そんなことが……あ、この一手はどうです?」
「うわー難しいけど……これでどうだ!」
和はとても楽しそうに誰が勝ちそうか負けそうか、何故そうなのか、状況を解説してハラハラさせるのも忘れずにアナウンスしていく。
始めは和が有利だったがだんだん雲行きが怪しくなっていき、とうとうあえかたちにすら負けてしまった。
「ぎゃー! 桜稜郭の人はみんないい雀士になれるね!」
和の降参に合わせてあえかがパーティートラップを使い、和が座っている座席をドカーンと跳ね上げる仕掛けを発動。
盛大に吹き飛ぶがすみれは消えたりしなった。
「麻雀の勝敗はつきましたが、幽霊さんは消えませんね。ということは……いい霊に違いありません。麻雀は人も半妖も、お化けさえも幸せにするものなんですね」
グッドスマイルで魅力的な笑顔を見せ、観客の視線を一瞬だけ自分に集めることですみれが悪い幽霊ではないことをアピールして麻雀卓が片付けられる。