【陰陽アイドル大戦】ふぇすた座出張ライブ Feat.幽霊!
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黄泉の瘴気と陰陽師 3
延寿と悠が真蛇と対面している時。
悠の援護をしていたリーゼロッテ、そして死屍累々のメンバーは黄泉憑きの骸が次々に動きが止まって言ったことに気付いた。
「あ、誰かが戸を開けたみたいだね。瘴気が薄くなってる」
「一番手は取られたか」
「まぁいいじゃねぇの。これでやっと楽に宝物庫へ行けるんだしよ」
「ようやくね。もうさっさと真蛇をやっつけて越後座とのライブを見に行くわよ」
動きを止めた骸たちを蹴散らして宝物庫へと入る死屍累々のメンバー。
殿を務めていたツカサとノイ、エイリルは黄泉の瘴気が霧散し動きが止まった黄泉憑きを一掃するために宝物庫へは入らず残っている黄泉憑きを倒しにかかった。
「輝海行くぞ」
「応よ」
蒼砥は真蛇に向かって桜花招来で桜の花びらを召喚し、宝物庫内に花弁を散らせて目潰しに利用する。
輝海もそれに合わせてカットライトで室内を照らす薄暗く古びた一番大きな照明を一瞬落としてから、忍法猫騙しで自分のいる場所とは違うところで破裂音などの物音を発生させ、そちらに気を向けようとした。
真蛇の視線が輝海の鳴らした音の方へ向いた時、輝海は隠れ身の術で桜の花びらに隠れるように気配を消し忍び足で真蛇へ接近。
別方向からは蒼砥が浮摺足で地面からほんのわずかに浮き上がって極力足音を殺して滑るように接近すると、氷丸招来で服の裾を縫いとめるように氷のつぶてを打ち出し輝海がそれに合わせる形で影縫いによって動きを止める。
「おっし!」
「ちょっとこっちの話を聴いてもらおうかね」
「ならば俺からもいいか?」
事の成り行きを見守っていた貫が前に出てきて先程言えなかった言葉を紡ぐ。
「俺はお前を理解はしたいと思ってるからな。敵だから分かり合えないなんてことは無いだろ? お互い納得は出来なくても理解は出来るかもしれないだろう? 敵を知り己を知れば百戦危うからずともいうしな」
「その声は先程の戸の向こうから無駄なことを聴いてきたあいつか」
「気付いてくれてありがとう。で、なぜ桜稜郭を狙うのか答えてもらおうか。お前の執着してる誰かもしくは何かがあそこに居たりするのか? それとも目的の達成に必要な何かがあそこにあるのか?」
「簡単なこと。この葦原を本来の姿へ立ち返らせるためさ」
「そのために黄泉憑きなんてもんを起こしてやがるのか」
「それは副産物でしかない。まぁ、それで人間も妖怪も数が減ってくれるのならそれに越したことはないがな」
「ではなぜ本来の姿へ立ち返らせるために穢ノ神を復活させた」
「そうだぜ。穢ノ神も向かわせてたみたいだし、桜稜郭に何かあるのか? 政治的な思惑? 個人的な遺恨? 呪術的な何か? 或いは穢ノ神の他の部位? そこんところ教えてくれよ」
「穢ノ神の本体が桜稜郭にあるからこそ。そこで完全な姿にさせるためには必要不可欠といえば分かるか」
「分かりたくもないわね。わたしとしては仮面の下の美少年をぜひとも拝みたい所だけど」
貫を中心に輝海やアリアが真蛇に追及していく。
蒼砥は妖眼幻視で少しでも真意を探る。
その後ろではエステルが室内をチェックして漁る場所の目星を付けていた。
ついでに真蛇の身につけている衣服にも意識を向けると狩衣などから、かなり高位の陰陽師であることがわかった。
「(神像だけでも欲しいなー。神話の通りなら穢ノ神封じてたこれは神代の遺物ってことじゃないか? ロマン溢れるなぁー! 他にも何かあるかなー! わっくわく! でも何でそんな大事な物がこの廃寺にあったんだろな?)」
エステルの疑問は口に出さなければ伝わらない。
パートナーの輝海よりも後ろに居ることもあり、誰もエステルの変化には気づかない。
真蛇との問答は続く。
そしてそのやりとりを真剣に聴く者が一人。
床下から侵入した深冬だ。
「(仮面と烏帽子の隙間から覗くあの髪……色も長さも見覚えがあるような……? ……渋蔵 鷹人くん? ええと、まさか、そんな……? ……でも、もしもそうなら――)」
「一つ確認。キミはグランスタとはお知り合い?」
「グランスタ? あぁ。良好な協力関係を築かせてもらっているよ」
「(え!? 穢ノ神の腕で桜稜郭を蹂躙しようとしているのは、グランスタってことなの!? ……待って。もしかしたらグランスタも把握していない、渋蔵くんの独断かもしれないわ。……何にせよ、まだ全部わたしの推論に過ぎないし。全ては、真蛇の仮面を砕いてその素顔を暴いてから……よね)」
タイミングを見計らっていた深冬は誰何心眼で真蛇の位置を把握すると、床の隙間から変わり身【桜】であっという間に自身の身を桜の花びらに変えて宝物庫へと入り込むと桜に紛れて投擲術で仕込み毒針を仮面に向かって放った。
だが、その針は影縫いを剥がして自由になった真蛇の盾の結界術で弾き飛ばされ真蛇は飛んできた方を睨む。
「真蛇が渋蔵くんかどうかだけでも知りたかったのに……」
「仮面をしていればその中身を知りたくなるでしょう? 美少年の顔、拝ませてもらいます!」
アリアが真蛇の仮面を狙って飛びかかると炎の術符が飛んでくる。
「いいか。次こそは穢ノ神を完全な姿にしてみせる」
真蛇はそう言い残し転移術でその場に人型の紙を残して消えてしまった。
「……くそっ俺は、誰かの一方的な思惑で、誰かの大事なモンを壊されんのが、一番嫌いなんだ!」
蒼砥の叫びは宙に浮きどこにも届かない。
輝海も同様に悔しさを感じるが気を取り直してエステルになにか気になるものはあったか訊いた。
「ロマンがたくさんあった!」
「ならば良し!」
「良いのかよ!?」
天河のツッコミが冴えわたり空気が軽くなる。
黄泉の瘴気は祈祷する者もいなくなったことで完全に霧散した。
これで穢ノ神は方向性を見失うことになるだろう。
瘴気が霧散したことで骸たちは魂が抜けおちるように崩れ落ちる。
「終わった……の?」
「あぁ。終わったんだ。お疲れ」
「ううん。那智くんが俺を守ってくれたからだよ。ありがとう」
「俺の方こそ。遥がずっと踊り続けてくれたお陰で動きやすかった」
「そっか。じゃあ、彼らをきちんと埋葬しなおしてあげようか。今度は穢れを祓うためではなくて、安らかに眠れるように、ね」
神拍子を踊り続けた遥とその遥を守り通した那智はようやく終わったと一息つき、崩れ落ちた骸たちを墓に戻すために動き始めた。
「やっぱりこういう事をきっちりやっとくのも大切だと思うからさ……なんて、しんみりしてる場合じゃねーよな、早く終わらせちまおうぜ、瑶!」
「うん。そうだね……みんな、安らかに眠ってね」
宝物庫に集まっていた他の仲間も遥と那智の動きを見て手伝いだす。
あとは方向性を失った穢ノ神の腕から桜稜郭を守ることができればいい。
「死者は在るべき眠りに御還りなさいな。どうか、その御魂が安らかであらんことを」
彼らの願いはひとつだけ。
華乱葦原に住む住人たちの笑顔を守ること。
その願いを後方に託し、彼らは無理やり起こされた骸たちを眠りに着かせるために供養していった。