【陰陽アイドル大戦】ふぇすた座出張ライブ Feat.幽霊!
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勝負! 越後座 6
今までの前座と序ノ口たちの芸は上分の山吹に匹敵する勢いがあった。
「このまま行けば……」
「もしかしたら勝てるかもしれないね」
「あぁ」
絶望的な状況だった始めに比べ今やあの越後座に勝てるのではないかという希望が見え始めた慎太とすみれ。
そこへ最終演目者になった堀田 小十郎が接近し声をかけてくる。
「慎太といったか。己が身が傷つ事も厭わず、誰かを守ろうとするその姿勢……天晴だ。その勇気に……応えずして何が武芸者か。私の武を、君たちに捧げよう。もうひと頑張りだ。皆でこの神社を守るとしよう」
「本当か」
「もちろんだ。相手のトップ……山吹に対し、己が全霊の演武を以て挑むとしよう。慎太、すみれさん……力を貸してくれないか」
「もちろんだ!」
「私も……ここまで来たらここに存在したい」
神社が取り壊されてしまうことは仕方がないことだと諦めていたすみれはここにはいない。
小十郎、睡蓮寺 陽介、睡蓮寺 小夜、慎太、すみれ、5人の気持ちはひとつだった。
「いくぞ。この演武でふぇすた座を勝利に導こう」
「安心していいぞ。小十郎がどんなことをしたって決して慎太とすみれに危害を加えることはないぜ」
「想いはひとつ。2人に手は、ださせない……」
「いくぜ小十郎、小夜……俺たち、幻想演武の在り方を、魅せてやろうぜ!」
気を引き締めて小十郎たちはステージに上がる。
そして陽介は語り部として炎鳥・迦楼羅【陽魂の幻獣】の陽気を取り込むと、陽気:妖翼で飛び上がって観客の目を惹く。
「さあ、これより語るは一人の男の恨みの話……そして、それを祓う人の光(ゆうき)の話だ」
スペルワーディングで特別な抑揚をつけ、物語を客の心に響くよう語り掛けていく陽介。
とある侍がこの世ならざる者に挑み、敗れる
だが、その恨みは消えず……いつしか己もこの世ならざる者へと変貌する
怪異を恨み彷徨う「怪異」
彼が辿り着いたのは寂れた神社だった
フェアリーハーモニーで自然にある物体を魔法で震わせたり、あるいは打ちあわせたりして、音楽を奏でることで導入は静かに、徐々に緊張感を煽っていく。
陽介のフェアリーハーモニーに合わせて踊り巫女装束に身を包んだ小夜は慎太とすみれを守るように前に出ると神桜の大幣を手に小十郎と向き合った。
小十郎は無拍子で溜めを作らない、特別な身のこなしですみれを狙うように落ち武者とした動きを以て殺陣を模した演武を行い、すみれを守っていた小夜を退けようと鬼の形相で挑み続ける。
陽介の鬼火や小夜の九十九糺しを飾り月光刀で打ち払いついに小夜は小十郎に押しやられるように後退してしまう。
「見た目の華やかさではない、心の光(ゆうき)……それをもう一度見せてくれ、慎太……!」
「思い出して、最初の想いを……!」
小十郎は不動の大見得にて飾り月光刀を上段に構え一瞬止まって見せてからすみれに向かって振り下ろす。
本気で斬り倒してしまうのかと観客の中には目を閉じてしまう者もいた。
「ま、待ってくれ!!」
小十郎の本気の斬りつけに慎太はすみれを庇うように前に出た。
斬られてしまうと思った慎太が来る痛みにぎゅっと瞼を閉じていると、いくら待っても痛みが来ない。
「え……」
小十郎は精神一到の集中力で、勢いよく振り下ろした刀を慎太の首筋寸前で止めていた。
辺りはしん……と静まり返っている。
小十郎に押しやられた小夜は神々に祈りを捧げる舞いの際に用いる祈祷の鈴輪の鈴の音と共に天津舞いを舞い始め、最初の想い、最初の夢【曲:祭りのバラード】を想いを込めて歌い始めた。
子どもの頃に抱いた想いや夢をモチーフに作られた和風バラード曲は、睡蓮寺小夜が自ら作った2つ目の曲である。
抱いた想い(ユメ)を抱えて生きよう
それが今日を歩く、勇気(ヒカリ)になる
想いを込めて歌われる歌はかつての夢を想起させ、聞く者にせつない想いと感動を呼び起こされた。
クリアボイスで想いを込めて歌い上げていく小夜に陽介は炎天劫火で燃え盛る炎を燃え散らし、怨み辛みで落ち武者となった小十郎に『大切な人を守ろうとする想い』を思い起こさせる。
それを受け小十郎は鬼神の見顕しを発動。
赤い花弁と閃光を走らせ、葦原具足の姿から本来の姿である紅演舞着に身を包むと飾り月光刀を手放した。
しゃん……と祈祷の鈴輪が響き渡り小夜の天津舞いが終了する。
その後はなにも音がない。
聴こえてくるのは越後座のライブ音だけである。
「(すみれさんを守ろうとする慎太の意志は……慎太の身を案じるすみれさんの想いは……越後座の派手な演出などに決して負けない、光を放つ。それを皆にも知ってほしいと、思ったんだ。だが、この無音は……)」
どちらに転がるのかと反応を待つ小十郎たち。
しばらくふぇすた座周辺は無音であったが、突如爆発的に歓声が上がった。
「すごかったぞー!」
「面白かった!」
「もっと演目はないのー?」
あちこちからそんな声が聴こえてくる。
その声は次第に広がり、越後座の方に集まっていた観客も半数以上がふぇすた座に視線を向け次の演目はないのかとアンコールを要求してくるのがステージ上から見て取れた。
観客のボルテージは最高潮になったのは言うまでもない。
小十郎は慎太の背を押し、中央へと押しやる。
慎太は小十郎が何を言いたかったのかすでに察したように大声で観客に想いを伝えた。
「お願いだ! この神社を取り壊さないでくれ! 越後座のハコがここに建ってしまうとすみれが消えてしまう! すみれをみんなで守ってほしいんだ! すみれは幽霊だけど、優しいし心が強いんだ! そんな彼女を見捨てないでくれ! お願いします!!」
ガバッと頭を下げる慎太。
慎太の懇願とも言える叫びに、ざわつきながらどうするか相談し合う観客たち。
そこへ小さな子供が「すみれちゃんが消えるのは嫌だ!」とどこかから聴こえてくる。
それに後押しされるように、あちこちから神社の取り壊し反対という声が出てきた。
「取り壊し反対!」
「越後座なんて成金趣味の悪趣味だ!」
「越後座よりふぇすた座の方が好き!」
「すみれちゃん、綺麗だったよ!」
「すみれさーん! 消えないでくれー!」
あとからあとからすみれへの声援が聴こえてくる。
もちろん、今までこの神社を守っていた慎太を称える言葉もあちこちから届いた。
「みんな……」
観客たちの言葉に目が潤む慎太。
すみれも言葉が出ないようで手を口に当てるだけである。
「さて。結果の方を見ていこうか。さあ、結論を」
銀狐が桜稜郭の城主代理――此花をステージに上げ、結論を促した。
ごくりと生唾を飲み込む音が消えそうな程の静けさの中、代表は口を開く。
「結論から申します。……神社の取り壊しは、行いません」
「そんな……我々も負けてはいなかったハズ! あんな安っぽっちな演目が我々に勝るとは思えない!」
「お黙りなさい! ここは結界の要衝。それを承知で座を建てようなど、言語道断です!」
此花の力強い言葉と視線に言葉を撥ねつけられ、越後座は唇をかみしめるしかない。
代表によって決定されたことでこの忘れられた神社は、今一度日の目を見ることとなった。
廃れた場所にすみれは住ませられないという者、大事な場所を守るために建て直そうと言った者、それらの声と募金によってこの大舞台となった神社は新しく改築されることになるのだった。
もう慎太とすみれが守るだけじゃない。
桜稜郭の人々も自分たちの住む場所を守るために立ち上がったのだ。
これからの人生を共に歩むために。