【初夏の大祭典!】フェス×フェス2029
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■クール部門【3】
花咲き誇る空間に置かれた雀卓、並べられた麻雀牌を優雅な手つきで掴み、自らの手牌に招き入れるは黄色を基調に赤と白の華やかな装飾が目を惹く衣装を身につけた天地 和。符で喚び出した舞芸者と対局を行っている和は実に華やかだったが、輝きは局所的であり、アイドルの姿とはかけ離れていた。
「……来たか」
その奥、一段高くなっている場所に佇んでいた龍造寺 八玖斗がぽつり、と呟いた直後、扉を破って相沢 涼と剣堂 愛菜が飛び込んできた。
「我が居城を攻め入る者よ。何を望むか?」
「ここであなた達を倒し、人々に平和をもたらすのが私の望み! 覚悟しなさい!」
涼の好戦的な返しを聞き、八玖斗がそれまでの優美な立ち振る舞いから、荒々しく力強いものへと変化する。
「そうか略奪者よ! 我が命、奪えるのなら奪ってみるがいい!」
振袖の袖をはためかせ、八玖斗が命じれば配下が涼と愛菜の前に立ちはだかる。
「楽しい時間の邪魔をする子は、チョンボだよ!」
和も麻雀牌を並べる動作で水弾を放ち、涼を苦しめる。二人は段々と扉へと追い込まれていった。
「くっ……このままじゃ……」
心が折れそうになっている涼を助けるべく、愛菜にスポットライトが当たる。上空にはこれまでの愛菜のアイドル活動の記憶が映し出されていく。
「あたしのライブはいつも『人を救う』ライブだった。
孤独なんて言葉はフェスタには似合わない。あたしの力はあたしの言葉を聞いてくれる人を導くことで発揮される」
真っ白な水彩色鉛筆を掲げ、記憶の最後の映像、フェスタの校門から降り注ぐ光を描写する。その光は涼を照らし、萎えかけていた意思を再び奮い立たせる。
「貴方の中には揺るぎない想いがある。人と手を取り合う力とそれを叶える姿があるんだよ。
あたしと貴方で彼に立ち向かうの。自分達の想いを示しに行こう!」
「……ありがとう、愛菜。君のおかげで、僕は迷いを振り切ることができた」
愛菜の言葉に力強く頷き、涼が本来の姿、勇者への覚醒を果たす。自身から放たれた意思の波動が八玖斗の配下を浄化するように消し飛ばし、二人の前には八玖斗と和だけが残された。
「真の力を開放したか。……よかろう。では我自ら、相手になろう」
和が乗っていたフェンリルに八玖斗も騎乗し、本気の殺意を噴き出して対峙する。フェンリルの凶悪な凶相と相まって強い不安と恐怖を与え、観客は両者の激戦を固唾をのんで見守る――。
(……わたしは、はっくんとの楽しい時間を邪魔されたくないって思ってた。こんなわたしでも、誰かの人生を変えるきっかけになれた……それがはっくんだったから)
涼の撃ってきた氷を水弾で相殺しつつ、戦う和の中にはそれまでとは異なる感情が芽生え始めていた。
(でも、このままじゃ何か、足りないんだ。アガリ牌が王牌の中にあって、どんなに頑張ってもアガれないみたいに。
……わたしだけじゃない、はっくんとだけじゃない、もっともっと多くのみんなに、わたしは、麻雀の楽しさを知ってほしい!)
和の周囲に光が生まれ、頭上には麻雀牌の幻が浮かび上がった。八玖斗と涼が激しく思いの丈をぶつけ合うたび、頭上の牌は数を増やしていき、最終的にそれぞれ13枚の牌が並ぶ形になった。
八玖斗:1113334567789
涼:一九①⑨19東東西北白発中
涼サイドは攻撃力抜群だが、たった1種類の牌しか待てない。八玖斗サイドは攻撃力は涼サイドに劣るが、5種類の牌を待てた。
「これで終いだ!」
八玖斗がそのうちの1枚を引き寄せんとして、愛菜の撃った花火に牌を取りこぼしてしまう。和も手を伸ばすがわずかに届かず、その間に最後の一枚を引き寄せた涼が、完成した役を皆一緒にコールするように仕向けてから、力強く言い放った。
「国士無双!!」
牌が輝き、強烈な意思の波動が八玖斗と和を襲った。和から庇う形になった八玖斗がフェンリルから吹き飛ばされる――。
(オレは人とつるむ事が上手く行かず、一人だった。そんなオレに手を差し伸べてくれたのは悪徳たる博徒の神さんだった。
オレは神さんに報いるために強くなり、神さんを親分と慕い、一緒に歩き続けた。居場所を作り、そして一緒にバカをやったり、真剣に戦ったりした。
お前らはその居場所を、オレたちの居場所を、壊そうというのか……? 奪うというのか……?)
決着はついた。装備を解いて歩み寄る涼と愛菜の前に、倒れていた八玖斗が起き上がり傍に来ていた和を庇うようにして立った。
「……もう一度聞く。我が居城を攻め入る者よ、何を望むか?」
「あたしは敵でも味方でも変な奴でも、みんなみんな、大好きだから。
ここで終わりになんて、したくない。せっかくつながったものを、離したくないの」
愛菜のしっかりとした声が、八玖斗の心の扉をトントン、とノックする。
「……そうか。オレはまだ、人とつるむことを許されているのだな」
「大切なのは、ほんの少しの勇気さ。さあ、一緒に行こう」
涼が差し伸べた手を八玖斗が取った直後、観客からは大きな拍手と声援が溢れた。
「いいねいいね、僕気に入っちゃったなー」
✝タナトス✝が手を叩いて彼らのライブを喜んだ。
出番を待つ間、烏墨 玄鵐が落ち着かなさそうにステージの進行を見つめていた。
(あと少しで、こんな大きなステージの上で、僕が書いた詩を皆で歌うことになる……。
ちょっと前までは想像もしていなかった、僕史上最大の事件。それでも――)
やがて自分たちのユニット【フェイトスター・サーガ】の出番を告げるアナウンスが聞こえ、玄鵐が決意を固めるように表情を引き締めた。
「ステージに立つ前に……先に、お礼を言わせて。
みんなとこのステージで歌うことができて、嬉しいよ。ありがとね」
御空 藤が笑顔で告げた感謝の言葉に、天草 燧が同じく笑顔で応える。
「いつか歌おうって約束を、藤さんが叶えてくれた。僕の方こそ感謝を」
「行こう、あのステージへ。見る者の心を奮い立たせる、勇気を与えるライブを。
『英雄としてのアイドル』を自分たちで示そう」
アーヴェント・ゾネンウンターガングの声に皆が従い、ステージへの道を進む。
「それでも、この『憧憬の詩』がきっと届くと信じて……歌うよ」
それまで何事もなくついていた照明がフッ、と消え、観客がどよめく。仄暗いステージの中、進み出た玄鵐が前口上代わりの歌の一節を歌い始める。
呪り結びし枕解き 重ぬ禍事耳を打つ
其の語りは星の夢 遠き日々を語りましょう
歌い終わりに僅かな瘴気を観客へ放ち、意識を惹きつけてから照明を完全に落とし、ステージ後方へ退く。そしてすべての照明が煌々と輝いた下、ギターを携えた藤が観客の期待に応える、激しく盛り上げる演奏を披露する。
(歌は例え敵であっても人の心に届いて響く。
そんな奇跡を、私達はずっと実現してきたんだ!)
かつて戦い、そして今は共に歩む仲間たち――審査員席で、あるいは観客席で見てくれている彼らに届けるべく、藤は感情をギターに宿らせ音を奏でる。
(創ろう……僕たちの『ウタ』を響かせる場を)
燧がこれまでアイドルとして学んだ事のすべてをぶつけるように歌えば、ひとりでにステージが組み上がっていくように観客の目には映り、やがて歌唱、演奏、剣戟の音を十全に届けるステージが完成した。
遠く遥かな地へ渡り 剣戟は轟き始めた
信じ待つ者の為に 奏でられていた
儀礼用の剣とフェイトスターアカデミーの校章が描かれている旗の二刀流スタイルでステージに立ったアーヴェントの、静と動を巧みに使い分けた迫力の剣舞が観客を沸かせる。強く剣を振るう前の一瞬の静、そして解き放たれる動の跳躍。そこに旗の、剣とは異なる変則感のある動きは予測不能ながら、観客に次はどんな仕草を見せてくれるのだろうかというワクワク感を抱かせる。
綻ぶ水晶 土に天に帰るように
芽吹き始めた時、全ては今放たれる――
一旦出番を終え後方に退く前、アーヴェントは観客席で自分たちのライブを見学するリンアレルとクロシェルの姿を認めていた。瞳をキラキラとさせて見入っているリンアレルと、一見そうとわからないながらも彼なりに笑っている顔でうんうん、と頷くクロシェルを見届け、後で感想が聞けたらいいなと思いつつアーヴェントの姿が消えた直後、ステージには燧と、もうひとりの燧が現れた。
ヒトノタメノウタ――と。それはまた大きな話を。君も
二人の燧は身振り手振りを交えながら言葉を掛け合う。
何を歌い何を変える? ただ歌えていればいいだけの。君が
何処にそんな物があると。君に
対話が進むにつれ、会場には光が満ちていく。
「歌は誰の心にも響いて届く。そんな力があるって信じてるから」
藤が観客に呼びかけるように音を紡げば、観客一人ひとりの元に光の輪が生まれる。
「ここから先の物語は、皆で一緒に歌いたいな――」
この物語――ああ、そうだ。
だから響き合うのか。君と。僕は
燧がもうひとりの燧に手を差し伸べ、その手を取ったもうひとりの燧がスッ、と消える。
「ありがとう、昨日の僕。追い付こう、今日の僕」
眩いほどの光と、意識を覚醒させる涼やかな風が吹き荒れた先、再びステージに四人が勢揃いする。藤の演奏が観客の心を熱く燃やし、単調ながら力強い剣舞でアーヴェントが盛り上げ、玄鵐がステージの熱気に負けない力強い歌声を響かせる。
繋がれた星の煌き 今も此処にあると
遥か未来湛えた瞳 揺るがず唯歩き出す
アーヴェントの掲げた旗に続くように、燧が運命の星の旗が次々と掲げられる光景を映し出す。
願わくば、英雄に憧れ目指す未来の星達に希望を与えられますように――
「あなたの光が届くのを、ここでずっと待っているから」
「運命の星はもう、胸の内で輝いているから!」
「次に此処へ立つのは君だ!」
強く人々の心を突き動かし、憧れさせ続ける『勇者』。
彼らは今こそ勇者となりて、観客を導く。
命の紡ぐ詩 空に、大地に、響き渡れ!!
玄鵐の歌声がステージを満たし、照明がフッ、と落ちた。一筋のスポットライトが玄鵐を照らし、玄鵐は最後の一節を歌い上げる。
呪り結びし枕閉じ 芽吹いた善事耳を打つ
其の語りは星の夢 遠き日々へ還しましょう
翼を生やしステージを退場する玄鵐の後、元に戻った照明の下、演じきった表情で観客に応える四人に、観客は割れんばかりの拍手と歓声を送った。
「勇者、王道ながら人を統べる者の姿。良いものを見せてもらった」
統夜も彼らへの称賛を込めた拍手で応えた――。
花咲き誇る空間に置かれた雀卓、並べられた麻雀牌を優雅な手つきで掴み、自らの手牌に招き入れるは黄色を基調に赤と白の華やかな装飾が目を惹く衣装を身につけた天地 和。符で喚び出した舞芸者と対局を行っている和は実に華やかだったが、輝きは局所的であり、アイドルの姿とはかけ離れていた。
「……来たか」
その奥、一段高くなっている場所に佇んでいた龍造寺 八玖斗がぽつり、と呟いた直後、扉を破って相沢 涼と剣堂 愛菜が飛び込んできた。
「我が居城を攻め入る者よ。何を望むか?」
「ここであなた達を倒し、人々に平和をもたらすのが私の望み! 覚悟しなさい!」
涼の好戦的な返しを聞き、八玖斗がそれまでの優美な立ち振る舞いから、荒々しく力強いものへと変化する。
「そうか略奪者よ! 我が命、奪えるのなら奪ってみるがいい!」
振袖の袖をはためかせ、八玖斗が命じれば配下が涼と愛菜の前に立ちはだかる。
「楽しい時間の邪魔をする子は、チョンボだよ!」
和も麻雀牌を並べる動作で水弾を放ち、涼を苦しめる。二人は段々と扉へと追い込まれていった。
「くっ……このままじゃ……」
心が折れそうになっている涼を助けるべく、愛菜にスポットライトが当たる。上空にはこれまでの愛菜のアイドル活動の記憶が映し出されていく。
「あたしのライブはいつも『人を救う』ライブだった。
孤独なんて言葉はフェスタには似合わない。あたしの力はあたしの言葉を聞いてくれる人を導くことで発揮される」
真っ白な水彩色鉛筆を掲げ、記憶の最後の映像、フェスタの校門から降り注ぐ光を描写する。その光は涼を照らし、萎えかけていた意思を再び奮い立たせる。
「貴方の中には揺るぎない想いがある。人と手を取り合う力とそれを叶える姿があるんだよ。
あたしと貴方で彼に立ち向かうの。自分達の想いを示しに行こう!」
「……ありがとう、愛菜。君のおかげで、僕は迷いを振り切ることができた」
愛菜の言葉に力強く頷き、涼が本来の姿、勇者への覚醒を果たす。自身から放たれた意思の波動が八玖斗の配下を浄化するように消し飛ばし、二人の前には八玖斗と和だけが残された。
「真の力を開放したか。……よかろう。では我自ら、相手になろう」
和が乗っていたフェンリルに八玖斗も騎乗し、本気の殺意を噴き出して対峙する。フェンリルの凶悪な凶相と相まって強い不安と恐怖を与え、観客は両者の激戦を固唾をのんで見守る――。
(……わたしは、はっくんとの楽しい時間を邪魔されたくないって思ってた。こんなわたしでも、誰かの人生を変えるきっかけになれた……それがはっくんだったから)
涼の撃ってきた氷を水弾で相殺しつつ、戦う和の中にはそれまでとは異なる感情が芽生え始めていた。
(でも、このままじゃ何か、足りないんだ。アガリ牌が王牌の中にあって、どんなに頑張ってもアガれないみたいに。
……わたしだけじゃない、はっくんとだけじゃない、もっともっと多くのみんなに、わたしは、麻雀の楽しさを知ってほしい!)
和の周囲に光が生まれ、頭上には麻雀牌の幻が浮かび上がった。八玖斗と涼が激しく思いの丈をぶつけ合うたび、頭上の牌は数を増やしていき、最終的にそれぞれ13枚の牌が並ぶ形になった。
八玖斗:1113334567789
涼:一九①⑨19東東西北白発中
涼サイドは攻撃力抜群だが、たった1種類の牌しか待てない。八玖斗サイドは攻撃力は涼サイドに劣るが、5種類の牌を待てた。
「これで終いだ!」
八玖斗がそのうちの1枚を引き寄せんとして、愛菜の撃った花火に牌を取りこぼしてしまう。和も手を伸ばすがわずかに届かず、その間に最後の一枚を引き寄せた涼が、完成した役を皆一緒にコールするように仕向けてから、力強く言い放った。
「国士無双!!」
牌が輝き、強烈な意思の波動が八玖斗と和を襲った。和から庇う形になった八玖斗がフェンリルから吹き飛ばされる――。
(オレは人とつるむ事が上手く行かず、一人だった。そんなオレに手を差し伸べてくれたのは悪徳たる博徒の神さんだった。
オレは神さんに報いるために強くなり、神さんを親分と慕い、一緒に歩き続けた。居場所を作り、そして一緒にバカをやったり、真剣に戦ったりした。
お前らはその居場所を、オレたちの居場所を、壊そうというのか……? 奪うというのか……?)
決着はついた。装備を解いて歩み寄る涼と愛菜の前に、倒れていた八玖斗が起き上がり傍に来ていた和を庇うようにして立った。
「……もう一度聞く。我が居城を攻め入る者よ、何を望むか?」
「あたしは敵でも味方でも変な奴でも、みんなみんな、大好きだから。
ここで終わりになんて、したくない。せっかくつながったものを、離したくないの」
愛菜のしっかりとした声が、八玖斗の心の扉をトントン、とノックする。
「……そうか。オレはまだ、人とつるむことを許されているのだな」
「大切なのは、ほんの少しの勇気さ。さあ、一緒に行こう」
涼が差し伸べた手を八玖斗が取った直後、観客からは大きな拍手と声援が溢れた。
「いいねいいね、僕気に入っちゃったなー」
✝タナトス✝が手を叩いて彼らのライブを喜んだ。
出番を待つ間、烏墨 玄鵐が落ち着かなさそうにステージの進行を見つめていた。
(あと少しで、こんな大きなステージの上で、僕が書いた詩を皆で歌うことになる……。
ちょっと前までは想像もしていなかった、僕史上最大の事件。それでも――)
やがて自分たちのユニット【フェイトスター・サーガ】の出番を告げるアナウンスが聞こえ、玄鵐が決意を固めるように表情を引き締めた。
「ステージに立つ前に……先に、お礼を言わせて。
みんなとこのステージで歌うことができて、嬉しいよ。ありがとね」
御空 藤が笑顔で告げた感謝の言葉に、天草 燧が同じく笑顔で応える。
「いつか歌おうって約束を、藤さんが叶えてくれた。僕の方こそ感謝を」
「行こう、あのステージへ。見る者の心を奮い立たせる、勇気を与えるライブを。
『英雄としてのアイドル』を自分たちで示そう」
アーヴェント・ゾネンウンターガングの声に皆が従い、ステージへの道を進む。
「それでも、この『憧憬の詩』がきっと届くと信じて……歌うよ」
それまで何事もなくついていた照明がフッ、と消え、観客がどよめく。仄暗いステージの中、進み出た玄鵐が前口上代わりの歌の一節を歌い始める。
呪り結びし枕解き 重ぬ禍事耳を打つ
其の語りは星の夢 遠き日々を語りましょう
歌い終わりに僅かな瘴気を観客へ放ち、意識を惹きつけてから照明を完全に落とし、ステージ後方へ退く。そしてすべての照明が煌々と輝いた下、ギターを携えた藤が観客の期待に応える、激しく盛り上げる演奏を披露する。
(歌は例え敵であっても人の心に届いて響く。
そんな奇跡を、私達はずっと実現してきたんだ!)
かつて戦い、そして今は共に歩む仲間たち――審査員席で、あるいは観客席で見てくれている彼らに届けるべく、藤は感情をギターに宿らせ音を奏でる。
(創ろう……僕たちの『ウタ』を響かせる場を)
燧がこれまでアイドルとして学んだ事のすべてをぶつけるように歌えば、ひとりでにステージが組み上がっていくように観客の目には映り、やがて歌唱、演奏、剣戟の音を十全に届けるステージが完成した。
遠く遥かな地へ渡り 剣戟は轟き始めた
信じ待つ者の為に 奏でられていた
儀礼用の剣とフェイトスターアカデミーの校章が描かれている旗の二刀流スタイルでステージに立ったアーヴェントの、静と動を巧みに使い分けた迫力の剣舞が観客を沸かせる。強く剣を振るう前の一瞬の静、そして解き放たれる動の跳躍。そこに旗の、剣とは異なる変則感のある動きは予測不能ながら、観客に次はどんな仕草を見せてくれるのだろうかというワクワク感を抱かせる。
綻ぶ水晶 土に天に帰るように
芽吹き始めた時、全ては今放たれる――
一旦出番を終え後方に退く前、アーヴェントは観客席で自分たちのライブを見学するリンアレルとクロシェルの姿を認めていた。瞳をキラキラとさせて見入っているリンアレルと、一見そうとわからないながらも彼なりに笑っている顔でうんうん、と頷くクロシェルを見届け、後で感想が聞けたらいいなと思いつつアーヴェントの姿が消えた直後、ステージには燧と、もうひとりの燧が現れた。
ヒトノタメノウタ――と。それはまた大きな話を。君も
心ある者を繋ぎたい、光を灯したい。思ったんだ。僕も
二人の燧は身振り手振りを交えながら言葉を掛け合う。
何を歌い何を変える? ただ歌えていればいいだけの。君が
尊きものを讃えたい。届けたっていいだろう。僕も
何処にそんな物があると。君に
此処にさ。この物語、今紡がれるこの物語にこそさ。僕には
対話が進むにつれ、会場には光が満ちていく。
「歌は誰の心にも響いて届く。そんな力があるって信じてるから」
藤が観客に呼びかけるように音を紡げば、観客一人ひとりの元に光の輪が生まれる。
「ここから先の物語は、皆で一緒に歌いたいな――」
この物語――ああ、そうだ。
だから響き合うのか。君と。僕は
燧がもうひとりの燧に手を差し伸べ、その手を取ったもうひとりの燧がスッ、と消える。
「ありがとう、昨日の僕。追い付こう、今日の僕」
眩いほどの光と、意識を覚醒させる涼やかな風が吹き荒れた先、再びステージに四人が勢揃いする。藤の演奏が観客の心を熱く燃やし、単調ながら力強い剣舞でアーヴェントが盛り上げ、玄鵐がステージの熱気に負けない力強い歌声を響かせる。
繋がれた星の煌き 今も此処にあると
遥か未来湛えた瞳 揺るがず唯歩き出す
アーヴェントの掲げた旗に続くように、燧が運命の星の旗が次々と掲げられる光景を映し出す。
願わくば、英雄に憧れ目指す未来の星達に希望を与えられますように――
「あなたの光が届くのを、ここでずっと待っているから」
「運命の星はもう、胸の内で輝いているから!」
「次に此処へ立つのは君だ!」
強く人々の心を突き動かし、憧れさせ続ける『勇者』。
彼らは今こそ勇者となりて、観客を導く。
命の紡ぐ詩 空に、大地に、響き渡れ!!
玄鵐の歌声がステージを満たし、照明がフッ、と落ちた。一筋のスポットライトが玄鵐を照らし、玄鵐は最後の一節を歌い上げる。
呪り結びし枕閉じ 芽吹いた善事耳を打つ
其の語りは星の夢 遠き日々へ還しましょう
翼を生やしステージを退場する玄鵐の後、元に戻った照明の下、演じきった表情で観客に応える四人に、観客は割れんばかりの拍手と歓声を送った。
「勇者、王道ながら人を統べる者の姿。良いものを見せてもらった」
統夜も彼らへの称賛を込めた拍手で応えた――。