【初夏の大祭典!】フェス×フェス2029
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■クール部門【2】
橘 樹によって描かれた、畳の敷かれた和室。照明を最小限にし、周囲を無機質な壁で囲ってそこが隔離された空間であることを示した中に、人形に扮する宇津塚 夢佳が座らされていた。漂うわずかな瘴気にあてられた観客は無有の区別がつかなくなり、彼が人間であるのか人形であるのかわからなくなっていた。
「……あや。雰囲気たっぷりな感じですごいさー。うさちゃんやればできる子だから、ここは大人しく応援しておくさー」
ルミマルスタイルでステージの応援をしていた辿 右左だが、流石にかわいらしさが目立つ――ルミマルの応援はオールマイティーなのだが、見た目的な問題で――スタイルで応援を続けていては雰囲気を壊すと悟った右左は、ここでは青い色のルミマルをこっそりと振っておくに留めた。
「いつかここから出る時は一緒に来てね。皆にはなぜか君がただの人形に見えてるみたいで、おかしいって言われるけど、君は大事な友達だから」
人形の隣に座った樹が、人形に親しげに話しかける。しかし、たとえ妖しげな雰囲気を醸し出してはいれど、人形は人形。樹の言葉に言葉を返すでもなく、そもそも聞いているかも怪しい。
「皆、どうしてわからないんだろう。こんなにも美しいのに」
樹が手を伸ばし、人形の手を握る。――すると不思議なことに、それまで微動だにしなかった人形がきゅ、と樹の手を握り返してきた。
「えっ!?」
樹は驚いた表情を浮かべるが、手に伝わる確かな感触が本物であるとわかり、嬉しそうに笑った。
「僕、今なら君と一緒に、歌える気がするんだ」
機嫌を良くした樹が、普段は一人で歌っている童謡のような歌を口ずさむ。すると人形は口を開き、声を発する。それは作られた音声ではなく、人の生み出す魂の宿った歌となってステージに響いた。
「わぁ、素敵な声……僕初めて君の声を聞いたよ。もしかして、演奏もできるのかな」
人形が頷き、傍らに置かれていた三味線のような形をした楽器を手に取ると、バチを添わせて音を鳴らす。自分が口ずさんできた歌が音楽付きで奏でられる光景を、樹がただうっとりとして聞き惚れていた。
「ねぇ、これからも歌を聞かせてくれるかな」
樹の問いに、人形は首を傾け樹に笑いかけたようにしながら、声を発した。
『構いませんよ。しかし、演奏のさなかに邪魔をしてはなりません。お約束できますか?』
「うん、わかったよ!」
すべての照明が落ち、僅かな時間を経て再び照明がつく。人形は楽器を奏で、楽しげに歌を口ずさんでいた。一方樹は壁に立ち、外を覗き込むような動きを見せていた。やがて何かを悟り、表情をパッ、と輝かせて人形の傍に駆け寄り、話しかける。
「今、家に誰もいない! 僕がずっと大人しくしてたから皆油断したみたい。外に出られるかも!」
感極まったのだろう、樹が人形の演奏を遮るように抱きついてしまう。『演奏の邪魔をしてはいけない』と交わした約束を、破ってしまう。
『――――』
途端に、それまで楽しげだった演奏が哀しみと怒りに満ちていく。思わず観客が慄くほどの迫力の中、やがて人形は糸が切れたように倒れて、そのまま二度と動くことはなかった。
「あああぁぁぁ……」
はたと我に返り、樹が人の形をしたモノに縋って泣き喚くところで、照明が切れライブの幕が下りた――。
「んー、すごい、以外の感想が出てこないさー。むむむ、圧倒的修行不足……!」
右左が腕を組み、険しい顔をして呟く。ただぼんやりと見てしまうとひたすらに圧倒されてしまう玄人好みのライブだったかも知れない――ただ、審査員席や観客席ではアンラを中心として一部からの評価は異様に高かった。
DJ、ループゼロ・ペアの名がコールされ、ステージに設置されたブースにループゼロが入り、最初の曲がかかり始める。
『crushed mind』
――DJそのものは、曲を流すことができればDJと名乗ることができる。
故にDJは世に数多存在している。……その中でどうすれば『個』を見出すことができるのか――
開幕、ガラスにヒビが入った時に響く音が聞こえ、観客は音響の故障を疑う。しかしループゼロは涼しい顔で音を出し続ける。
途切れ途切れのブレイクコアは徐々にその間隔が減っていき、そして――。
『crushed mind EDMremix』
ガラスが砕けた音が鳴り響いた直後、それまでのサビから別のサビへと切り替え、EDM特有の一定のリズムと、観客が素直に盛り上がれるようなメロディの構成で爽快感をもたらす。
『束縛』
余韻を残すステージに、次の曲のイントロを被せて期待感を膨らませる。サビは最初に作曲した時のものとは異なっており、『過去』ではなく『現在』の音として生み出し、会場に吐き出す。
『Delayed recall』
サビが終わる所で、激しく重いビートが重なる。徐々にフェードアウトしていく中、ループゼロが観客に問いかける視線を送った。観客はループゼロの整った顔立ちに見つめられて歓声をあげるが、それは真に彼の求める反応ではない。
『二年前を、思い出すな』
その視線が、ループゼロに届いた。何千何万の観客がいても、その視線は間違えない。
フッ、とループゼロが確かに、笑った。
「──Festival!」
一度消えたビート音が再び入り、徐々に音圧を上げていき、拳を上に突き上げたループゼロの掛け声が被さってBPMが加速する。
『crushed mind speedcore remix』
加速しきったBPMは、もし一曲目からこの速度であれば振り落とされてしまうもの。しかしこれまで『繋いで』きたことにより観客は難なく音を乗りこなし、自らのビートを刻む。
――これが『個』。DJループゼロ・ペアの『音楽』――
ノイズが響き、曲が停止する。
観客も同じように動きを止め――動き出したループゼロに割れんばかりの歓声を送った。
静まり返ったステージに、黒い翼を生み出し羽ばたきながらレイ・トレードが降り立った。
(正直、自分がクールかどうかは疑問が残るケド……。
やるからには、全力を尽くすまでダ!)
しばしの静寂を打ち破り、レイが吼える。
「悪魔っぽいのは見た目や演出だけではナイ!
オレ様のライブ、瞳に心に魂に、深く刻み込メ!」
暗闇の中にありながら、レイが強く、強く輝きを放つ。
自身を最大限まで高め、今の自身の象徴ともいうべき曲を披露する。
たった一つの想い 貫けるなら 悪魔になっても構わない
あの日描いた夢 絵空事なんて言わせない
アイドルとして何を表現すべきかを理解したレイの力強いシャウトが、空間を、世界そのものを揺るがすパワーとなる。
「何度涙を流そうとも――
何度絶望に沈もうとも――
オレ様は諦めず進み続ケル!
走り続ケル!
歌い続ケル!
だから――」
言葉の通り、レイがステージを端から端まで、観客すれすれの所まで駆け回る。照明や機材がレイにぶつかって転げるが、損傷はない。
感極まってつかえる言葉を、それでもありったけの力を込めてレイは紡ぐ。
「辛い時、悲しい時、苦しい時、オレ様の歌を聴ケ。
オレ様のライブを観ロ。
そしたら――また、思いっきり生キロ!」
涙を拭い、レイはクライマックスへ駆け抜けていく。どこまでも跳躍し飛び込んでいくように、全力で熱唱する。
未来に向けて 明日に向けて 自分に向けて
たった一人の深い闇 叫んで
全てを捨てて飛び出した先 君と見る朝焼けを
全力を出し尽くしたレイを、観客の盛大な拍手と歓声が出迎えた――。
橘 樹によって描かれた、畳の敷かれた和室。照明を最小限にし、周囲を無機質な壁で囲ってそこが隔離された空間であることを示した中に、人形に扮する宇津塚 夢佳が座らされていた。漂うわずかな瘴気にあてられた観客は無有の区別がつかなくなり、彼が人間であるのか人形であるのかわからなくなっていた。
「……あや。雰囲気たっぷりな感じですごいさー。うさちゃんやればできる子だから、ここは大人しく応援しておくさー」
ルミマルスタイルでステージの応援をしていた辿 右左だが、流石にかわいらしさが目立つ――ルミマルの応援はオールマイティーなのだが、見た目的な問題で――スタイルで応援を続けていては雰囲気を壊すと悟った右左は、ここでは青い色のルミマルをこっそりと振っておくに留めた。
「いつかここから出る時は一緒に来てね。皆にはなぜか君がただの人形に見えてるみたいで、おかしいって言われるけど、君は大事な友達だから」
人形の隣に座った樹が、人形に親しげに話しかける。しかし、たとえ妖しげな雰囲気を醸し出してはいれど、人形は人形。樹の言葉に言葉を返すでもなく、そもそも聞いているかも怪しい。
「皆、どうしてわからないんだろう。こんなにも美しいのに」
樹が手を伸ばし、人形の手を握る。――すると不思議なことに、それまで微動だにしなかった人形がきゅ、と樹の手を握り返してきた。
「えっ!?」
樹は驚いた表情を浮かべるが、手に伝わる確かな感触が本物であるとわかり、嬉しそうに笑った。
「僕、今なら君と一緒に、歌える気がするんだ」
機嫌を良くした樹が、普段は一人で歌っている童謡のような歌を口ずさむ。すると人形は口を開き、声を発する。それは作られた音声ではなく、人の生み出す魂の宿った歌となってステージに響いた。
「わぁ、素敵な声……僕初めて君の声を聞いたよ。もしかして、演奏もできるのかな」
人形が頷き、傍らに置かれていた三味線のような形をした楽器を手に取ると、バチを添わせて音を鳴らす。自分が口ずさんできた歌が音楽付きで奏でられる光景を、樹がただうっとりとして聞き惚れていた。
「ねぇ、これからも歌を聞かせてくれるかな」
樹の問いに、人形は首を傾け樹に笑いかけたようにしながら、声を発した。
『構いませんよ。しかし、演奏のさなかに邪魔をしてはなりません。お約束できますか?』
「うん、わかったよ!」
すべての照明が落ち、僅かな時間を経て再び照明がつく。人形は楽器を奏で、楽しげに歌を口ずさんでいた。一方樹は壁に立ち、外を覗き込むような動きを見せていた。やがて何かを悟り、表情をパッ、と輝かせて人形の傍に駆け寄り、話しかける。
「今、家に誰もいない! 僕がずっと大人しくしてたから皆油断したみたい。外に出られるかも!」
感極まったのだろう、樹が人形の演奏を遮るように抱きついてしまう。『演奏の邪魔をしてはいけない』と交わした約束を、破ってしまう。
『――――』
途端に、それまで楽しげだった演奏が哀しみと怒りに満ちていく。思わず観客が慄くほどの迫力の中、やがて人形は糸が切れたように倒れて、そのまま二度と動くことはなかった。
「あああぁぁぁ……」
はたと我に返り、樹が人の形をしたモノに縋って泣き喚くところで、照明が切れライブの幕が下りた――。
「んー、すごい、以外の感想が出てこないさー。むむむ、圧倒的修行不足……!」
右左が腕を組み、険しい顔をして呟く。ただぼんやりと見てしまうとひたすらに圧倒されてしまう玄人好みのライブだったかも知れない――ただ、審査員席や観客席ではアンラを中心として一部からの評価は異様に高かった。
DJ、ループゼロ・ペアの名がコールされ、ステージに設置されたブースにループゼロが入り、最初の曲がかかり始める。
『crushed mind』
――DJそのものは、曲を流すことができればDJと名乗ることができる。
故にDJは世に数多存在している。……その中でどうすれば『個』を見出すことができるのか――
開幕、ガラスにヒビが入った時に響く音が聞こえ、観客は音響の故障を疑う。しかしループゼロは涼しい顔で音を出し続ける。
途切れ途切れのブレイクコアは徐々にその間隔が減っていき、そして――。
『crushed mind EDMremix』
ガラスが砕けた音が鳴り響いた直後、それまでのサビから別のサビへと切り替え、EDM特有の一定のリズムと、観客が素直に盛り上がれるようなメロディの構成で爽快感をもたらす。
『束縛』
余韻を残すステージに、次の曲のイントロを被せて期待感を膨らませる。サビは最初に作曲した時のものとは異なっており、『過去』ではなく『現在』の音として生み出し、会場に吐き出す。
『Delayed recall』
サビが終わる所で、激しく重いビートが重なる。徐々にフェードアウトしていく中、ループゼロが観客に問いかける視線を送った。観客はループゼロの整った顔立ちに見つめられて歓声をあげるが、それは真に彼の求める反応ではない。
『二年前を、思い出すな』
その視線が、ループゼロに届いた。何千何万の観客がいても、その視線は間違えない。
フッ、とループゼロが確かに、笑った。
「──Festival!」
一度消えたビート音が再び入り、徐々に音圧を上げていき、拳を上に突き上げたループゼロの掛け声が被さってBPMが加速する。
『crushed mind speedcore remix』
加速しきったBPMは、もし一曲目からこの速度であれば振り落とされてしまうもの。しかしこれまで『繋いで』きたことにより観客は難なく音を乗りこなし、自らのビートを刻む。
――これが『個』。DJループゼロ・ペアの『音楽』――
ノイズが響き、曲が停止する。
観客も同じように動きを止め――動き出したループゼロに割れんばかりの歓声を送った。
静まり返ったステージに、黒い翼を生み出し羽ばたきながらレイ・トレードが降り立った。
(正直、自分がクールかどうかは疑問が残るケド……。
やるからには、全力を尽くすまでダ!)
しばしの静寂を打ち破り、レイが吼える。
「悪魔っぽいのは見た目や演出だけではナイ!
オレ様のライブ、瞳に心に魂に、深く刻み込メ!」
暗闇の中にありながら、レイが強く、強く輝きを放つ。
自身を最大限まで高め、今の自身の象徴ともいうべき曲を披露する。
たった一つの想い 貫けるなら 悪魔になっても構わない
あの日描いた夢 絵空事なんて言わせない
アイドルとして何を表現すべきかを理解したレイの力強いシャウトが、空間を、世界そのものを揺るがすパワーとなる。
「何度涙を流そうとも――
何度絶望に沈もうとも――
オレ様は諦めず進み続ケル!
走り続ケル!
歌い続ケル!
だから――」
言葉の通り、レイがステージを端から端まで、観客すれすれの所まで駆け回る。照明や機材がレイにぶつかって転げるが、損傷はない。
感極まってつかえる言葉を、それでもありったけの力を込めてレイは紡ぐ。
「辛い時、悲しい時、苦しい時、オレ様の歌を聴ケ。
オレ様のライブを観ロ。
そしたら――また、思いっきり生キロ!」
涙を拭い、レイはクライマックスへ駆け抜けていく。どこまでも跳躍し飛び込んでいくように、全力で熱唱する。
未来に向けて 明日に向けて 自分に向けて
たった一人の深い闇 叫んで
全てを捨てて飛び出した先 君と見る朝焼けを
全力を出し尽くしたレイを、観客の盛大な拍手と歓声が出迎えた――。