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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

【初夏の大祭典!】フェス×フェス2029

リアクション公開中!
【初夏の大祭典!】フェス×フェス2029
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リアクション

■キュート部門【5】

「はー、すごいライブだった。やっぱり優勝候補のライブは違うなー。
 貫、大丈夫かな。やりにくいとか思わ――なさそうかな、うん。いつだって貫は貫だし」
 先程までのライブの興奮がようやく冷めてきた中、観客席に居た行坂 詩歌はこの後に出番が控えている行坂 貫の心配をしつつも、貫ならきっといつも通りにライブをするだろう、と信頼の思いを胸に抱く。
「それにしても、貫からキュート部門に出るって聞いた時はあれ? って思ったなー。貫はカッコいいけど可愛いってのとは違う気もするし……ユニット組んでるみたいだからその絡みだと思うけど――」
 詩歌が思案に耽っていると、ステージから開幕を告げる高らかなラッパの砲声が響いた。

「それでは皆様。モットアツクナレエル行坂貫。一体どれだけの料理をライブ中に作れるのか限界に! 挑みます!!」
 スピネル・サウザントサマーが実況を務め、厨房に立った貫が調理を始めると、早速会場には甘い香りが漂い、空から美味しそうなケーキやお菓子が次々と降ってきた。これは幻ではあるが、実際に取って口に入れることができ、本物のような甘さと幸福感を観客にもたらしていた。
「お前ら、美味しいもの食べたいならしっかり応援しろよ」
 千夏 水希が呼び出した小悪魔たちがフルートを吹きつつ、何匹かは待ちきれないのか貫の近くをうろちょろと転がり回り、おこぼれを頂戴せんとする。
「こらー、足元うろうろしてたら調理の邪魔でしょー。あ、軽い動作で避けつつさり気なく切れ端とかあげてます、流石ですねー。
 口で受け取んな! ヒナ鳥か!」
 おこぼれを頂戴した小悪魔は機嫌よく演奏をこなしていく。その様子に最初は戸惑い気味だったリュウェル・フリードマンもつられて、笑顔を見せるようになっていく。
「とーちゃんと水希さんのお料理ライブ、もっと楽しくしちゃいますよー」
 リュウェルが自分の隣に、自分よりも少し子供っぽいもうひとりの自分を出現させ、貫の料理ライブを彩る歌を届ける。
「リュウェルちゃんの『お菓子なティーパーティー』をお楽しみっ!」

 まずは辛味のワサビアイス
 ツーンとなっちゃう辛さだって
 アイスと併せて清涼感


 アイスボウルに材料を入れてひたすら混ぜた後、冷凍庫に収める。

 続いて苦味コーヒートリュフ
 ウギュッとなっちゃう苦さだって
 チョコと併せて大人味


 温めた生クリームにチョコを溶かしコーヒーを入れ、できたコーヒーガナッシュをスプーンで丸めてココアパウダーを振る。

 どの味もお菓子には必要だよね
 お菓子なパーティ始まるよ


 リュウェルの周りを光の音符が飛び交い、ポップな演出で観客を目でも楽しませる。

 渋いお抹茶は飲めないね ほんのり香る抹茶クッキー
 うま味たっぷり高級お肉 ガツンと濃厚お肉ゼリー


 クッキー生地に抹茶を少しずつ練りこみ形抜きして焼く間に、煮込んだ肉から溶け出したうまみがたっぷり含まれた出汁にゼラチンを混ぜ、冷やし固める。

 まだだよ酸味の柑橘タルト
 キュッてなっちゃう酸っぱさも
 スイーツにはアクセント


 タルト生地を作って形に入れて焼き焼いた生地に、カスタードクリームとカットしたオレンジとグレープフルーツを盛る。

 甘いお菓子だけじゃ皆飽きちゃうね
 お菓子なパーティ続いてる


「えっ? 私お菓子持ってないですよ? あっダメですそれは美味しくないから食べちゃダメです!」
 『なんかちょーだい』と言いたげに寄ってきた小悪魔が、リュウェルの持っていた黒い塊を勝手に持っていって一口に飲み込み――そのまま動かなくなった。
「リュウェルちゃん、それ何!?」
「えっと、おにぎり……です」
「ほんとにおにぎり!? 小悪魔フリーズしてるよっ!?」
「ちょっと……失敗しちゃいました」
 てへ、とリュウェルが舌を出す。仕草が可愛かったのでまぁいいかという流れになり、ライブが続く。

 少しあっさりさせたいな 塩をきかせたクラッカーチーズ
 最後はやっぱ甘い物 季節の果物ショートケーキ


 クラッカー生地を作り、焼いたクラッカーにチーズを挟む。そしてトリのショートケーキは季節の果物にメロンを使い、生地を作ってスポンジを焼きメロンと生クリームでデコレーション。
「いまこれらの調理が並行かつ驚異的なスピードで行われています! 早業すぎてあたしの舌が回りたりまべっ――」
 んー! んー! とスピネルが口を押さえて地団駄を踏んだ。思い切り舌を噛んだようである。
「そろそろ行こうか。ちゃんと最後まで演りきれよー」
 水希の鼻歌が運動会でおなじみの曲に変わり、それに合わせて小悪魔たちも楽器をラッパに持ち替え、テンポアップする。
「よし、一皿目、完成!」
 そして貫の前に、甘味、塩味、酸味、うま味、渋味、苦味、辛味の七つの味覚をテーマに作ったデザートの盛り合わせプレートが出来上がる。途端に小悪魔たちが徒競走の如く駆け出し、勢い余って皿に頭から突っ込んでしまった。
「さっそく完成した料理に、頭から突っ込んだ! 壮絶な皿の奪い合いです! この事態に貫選手、どう対応するのか?
 あーっと貫選手、プレートに盛り付けずそのまま出していくようです! 賢明な判断ですねー」
 最初の一皿で盛り付けは不要と判断した貫が、プレートに盛る前の状態の料理を次々とテーブルに置いていく。それはそれで人気の料理には殺到し、ちょっと苦手な料理は押し付け合うという仁義なき戦いが繰り広げられる結果になったのだが。
「ワサビアイス、すごいね。他の小悪魔の口に放り込むの、ありゃテロだろ」
「トリュフチョコで顔が真っ黒です! 苦いのかしわくちゃになってますね!」
「おーい。抹茶クッキーはさ、もうちょっと味わえ。ポテチ感覚で流し込むな!」
「肉ゼリーとても不思議そうに食べてますね。肉ジャナイ? みたいな顔してる。
 柑橘フルーツタルトで顔が真ん中に凹んでます! 酸っぱいの苦手なの!? それでもまだ食べるの!?
 クラッカーサンド優雅に食べますね、紅茶が欲しいとこかな? ショートケーキは舐めるものじゃないよ!! 食べ過ぎてメロンみたいになってまふっ――」
 再び、スピネルが口を押さえて地団駄を踏んだ。噛み癖ができてしまったらしい。
「ん? ……あぁ、お礼すんの。パイプオルガン? わかった」
 お腹が膨れてころころになった小悪魔が、水希にパイプオルガンを出すように求める。
「で、何演奏すんの? ……あぁ、わかった」
 小悪魔のラッパの一吹きで、希望する曲を察した水希がオルガンの前に座り、ラッパを吹き鳴らす小悪魔たちが貫とリュウェルの周りをぐるぐると駆け回る。そう、こちらも運動会でおなじみの曲、駆け回るのに相応しいイントロが流れ――

『ガシャーーーン!!』

 一発ぶちかます勢いで、水希がオルガンの鍵盤に頭を突っ込んで激音を奏でる。
「ぷっ!? マスター今の何? 頭突きツッコミ? 耳まで赤くなってやんの、あはははは――」
 指を差して笑っていたスピネルの額を、フルートが直撃した。
「いったーーー!! つうか今刺さった刺さった!! ディーヴァじゃなきゃ確実に死んでたやつ!!」


「おっ、いたいた。やっぱ来てたんだな」
「貫か。なんだこの風情もないただ騒がしいだけの舞台は」
「良いんだよ、祭りは面倒なこと考えず楽しむもんだろ。……それはさておき」

 観客席に居た真蛇の前に、貫がステージで作ったデザートプレートを差し出す。
「食べてくれるよな? 一回手料理、御馳走したかったんだ」
「……いただこう」
 真蛇が受け取り、ケーキを一切れ、口に入れる。
「なるほど。……次はもっと風情のある場で、いただきたいものだな」
「ああ、お前が望むなら何度だって、作ってやるさ」


 キュート部門のトリを飾るのは、氷華 愛唯小鈴木 あえかのユニット、【キラキラ】。
 星の輝きを思わせる衣装を身につけた愛唯がギターを携えステージに上がった直後――観客は見慣れたステージではなく朝焼けと黄昏の境界をその目に見る。夢でも見ているのかと目をこすってみても、映る景色に変わりはない。

 ――わたしはアイドル。
 それは未来を後押しする存在。
 それは明日を目指す人を支える存在。
 目の前の道を明るく照らしていく存在――

 愛唯の指が、ギターの弦に触れる。それを観客が知り得る程に、観客は愛唯の一挙手一投足に目が離せなくなっていた。

 こころの扉をひらいて あなたのそばにいられたら
 わたしの世界かがやいて いきていられるよね
 みらいの扉をひらいて あなたのそばにいられたら
 ふしぎの世界きらめいて ひかりが満ちるね


 響く反響が、観客の心を深く、強く揺さぶる。天には星空が瞬き、時折流れる流れ星は天からの祝福。
 その瞬きに隠され、そっと這わされたノイズを放つ触手に気づくことなく、観客は愛唯の想いを全身で享受し受け入れる。

 ――これからのあなたの未来に、幸あれ――

 いますべてをだきしめて あゆみつづけるあなたに
 いまエールをおくりながら わたしもそばをあるく


 スポットライトがステージと、会場全体に差し込む中、愛唯が演奏する手を一旦止めて観客に視線を向け、胸中を語る。
「大丈夫。私がそばにいるから。あなたはきっと歩いて行けるよ」
 愛唯が手を伸ばした先、それまで裏方に徹していたあえかが初めて姿を現し、差し出された手を握った。
「わたしはいつでもここにいる。ここにいるのがわたしだから」
 あえかの手から愛唯の手を通じて力が流れ込み、それは背中に大きな、大きな翼を生み出す。その翼でどこまでも飛んでいける愛唯が傍にいるのだから、自分もきっとどこまでだって行ける――

 ともにゆくせかい
 まだ先は見えないけど あたたかなひだまりの なかで
 明るく映える

 ともにゆくせかい
 もう今は動き出して
 きっと
 きっと
 きっと

 新しい季節が ここから始まる


 歌が終わり、元の見慣れたステージを見た観客はそこで、いままで見た光景が夢であったと気づく。
 しかし観客にお辞儀をしてステージを去っていく愛唯は、確かにそこに存在している。そして彼女が歌った、伝えた想いも確かに観客の心の内に刻み込まれている。

 誰もが不思議な感覚に包まれながら、キュート部門のすべてのライブが終わりを迎えたのであった――。
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