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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

【初夏の大祭典!】フェス×フェス2029

リアクション公開中!
  • 【初夏の大祭典!】フェス×フェス2029

リアクション

■エレガンス部門【3】

 ユニット【Dear my dream】の登場がコールされ、そしてステージに現れたのはアイドル……ではなく、プロデューサーの黒柳 達樹だった。彼に対し観客は静かに、しかしその一挙手一投足を見逃さないように視線を向けていた。
(ノーラ、リーニャ、カイト。このライブに賭ける想いは強いはず。
 だからこそ、その想いと輝きを一番綺麗に輝かせたい)
 それは彼もまたトップを目指して戦う一人であり、これからライブを行うアイドルたちを一際輝かせたいと願う気持ちが、観客に伝わっていたから。彼の手腕でどれほど心震わせるライブになるのかを、観客はただひたすらに期待していた。
「ライブの前に、これから登場しますアイドルの紹介を」
 観客をしっかりと観察し、そのことをわかっていた達樹が期待に沿うべく、口を開き右手を上空へ掲げる。観客の視線が移動した先に光の鳥が現れ、提げられたゴンドラに乗ったノーラ・レツェルが厳かな雰囲気を漂わせながらステージに降り立った。
「ノーラ・レツェル。子守唄と安眠のアイドルで、ファンも仲間も癒してくれる、温かい心を持つ歌姫だ」
 次に達樹が右手を上空へ掲げ、観客が見上げた先に六花のように真っ白な翼が広がる。リーニャ・クラフレットが天使、そう評する他ない姿でふわり、とステージに降り立った。
「リーニャ・クラフレット。元気いっぱいなアイドルで、見てる俺たちまで元気にしてくれる、翼の似合う天使だ」
 達樹が右手を上空へ掲げ、観客が見上げた先に浮かび上がるのは、漆黒の羽。カイト・クラフレットが階段を降りるように歩きながら、周りには葵の花とゼラニウムを降らせ、気高く威厳に満ちた姿でステージに降り立った。
「カイト・クラフレット。キラキラが好きで好奇心も強いアイドルで、その音楽でファンを魅了する、まさに堕天使だ」
 一旦、三人に当たっていたライトが消え、達樹にライトが当たる。達樹は一度観客席に視線を向けてから、これから行う演目について語り始める。
「テーマは、『夢』。
 俺たち四人、今回は同じ目標で一緒にライブをしているが、各々に夢がある。
 それでも、今は同じ『夢』を見て歩いている。これからも進んでいく中の一瞬の、儚さと美しさを。
 そして、『夢』を追い続けることができたファンとライバルに感謝を込めて……!」
 達樹に当たっていたライトが消え、為すべきことを為した達樹がステージを降りる。スポットライトが三方向から、三人のアイドルを輝かせるように照らした。

(三度目の正直、二度あることは三度ある。……今回はどっちになるのだろう。
 けれど、未来は自分で手繰り寄せるもの。昨日より今日、今日より明日、そうして歩んできた軌跡をぼくは、愛おしく思う。
 このメンバーでライブを出来るのはきっと最後……全力で、やろう。そして未来を、掴み取ろう)

(全力で、みんなに楽しんでもらえるよーに! 玲花さんにも応援してくれるファンのみんなにも、せーちょーした姿を見てもらえるよーに!
 今まで培ってきた全部を出し切って、きっと今までとはまた違う新しいライブで、四人でてっぺん取りに行くんだよ!)

(去年優勝を逃して、とっても悔しくて。いっぱい、練習をしてきたんです。……でも、上にはいっぱい人がいて。優勝なんて遠い、遠い夢だって。
 でも今回は僕たちだけじゃなくて、レツェルさんに、黒柳さんもいるんです。みんなで、足りないところを補い合えるんです。
 だから、きっと大丈夫。全力で、みなさんを楽しませて……そして、頂上を勝ち取って見せます……!)

 リーニャが両手を広げ、背後に大きな時計が出現したかと思えば、ステージ上のアイドルたちだけでなく会場に集まったすべての者の服装がゴージャスなものに変化した。カイトが小さなキューブ上の塊を掲げ、直後ノイズの風が吹いて荘厳なグランドピアノを形作る。

 悲しいことも 辛いことも
 抱え込まないで 全部 吐き出していいの


 ウェディングドレスに、ヘレニウムの花の翼を広げたノーラの優しい歌声が、ステージから会場へ広がる。誰しもが持つ日々のストレス、悲しみ、苦しみ、そういった負の感情をすくい出すように染み渡る声に、観客は無意識のうちに涙を零していた。
「もっともっと広がって! 私たちのライブが、ずっとずーっと、みんなの記憶に、心に残りますように!」
 リーニャの背後に少年たちの幻影が現れ、曲に合わせて多重のハーモニーを奏でる。会場の盛り上がりは様々な色の花火となって視覚化され、その光によって観客は自然と曲を口ずさみながら、いまこの瞬間を深く心に刻みつける。
「僕は堕天使さんですから、暗くて重い感情は大好物なんです。
 みんなが吐き出してくれた悲しい気持ち、辛い気持ち……全部喰らい尽くしてしまいましょう」
 会場を満たした様々な光――そこには暗く淀んだような光も浮かんでいたが、それらはカイトの生み出した氷の装飾が迫るとフッ、と消えてしまった。氷の装飾は光を喰らい、会場に根のように広がっていく。
「私の天使さん達! 皆に小さな小さなハートの、幸せのプレゼントを届けて!」
 リーニャが取り出した弓で、会場を射る。それは決して誰かを傷つけるためのものではなく、思い描いた夢を実現するための弓。――そして全ての観客に素敵な気持ちを、楽しいという気持ちを贈るための弓。暗い気持ちを吐き出して空いた心を埋める幸せを、観客に届けていく。

 誰にとっても、夢のような時間。
 ――ふと、リーニャとカイトが照明の落ちた場所に退き、ステージにはノーラ一人だけが残った。浮かぶ月の光が観客を温かく包み込み、照らされた月見草が確かな存在感を示す中、ノーラが想いを伝える。


 ぼくは最初、あまり舞台に出ることに自信の無いアイドルだった

 そんな自分を変えたいと、積極的に動くようになって
 仲間とあって、自信を持って

 そうしたら、強くなれない人達の気持ちによりそえる人の少なさに気づいた



 ふわふわと、シャボン玉のようなエフェクトが会場に満ちる。それはノーラの気持ちそのもの。
 触れたものの心に届く、気持ちの音色。


 ぼくは色んな人を癒せる優しい歌を歌おうと、穏やかな空間を作ろうと考えるようになった
 これが集大成。ぼくが考える一番の、過ごしやすい空間

 どんな性格でもいい
 どんな趣味でもいい
 どんなことを言ってもしてもいい

 全てを受け入れる。それが個性だから



(全てを受け入れる……か。だからこそアンラも、今彼らと共にあることができたのだろうな)
 秋太郎が密かにアンラへ視線を向けつつ心に呟いた。そして当のアンラは、本人の嗜好とは異なるライブながらもそこに秘められた想いを理解したように、静かに聞き入っていた。


 手に手を取って安心して眠れる場所
 どうか辛い時、ここを思い出してくれるように――




「……今日、この大舞台で見せることが出来て、本当によかった。ありがとう」
 語り終えたノーラが深く一礼し、夢のような魔法の時間が終わりを告げた。
 しかし観客は、もちろんノーラも、リーニャも、カイトも、達樹もこれで終わりとは思っていない。
 目指す場所が違っても、異なる夢を持っていても、夢はいつまでも続くものだと知っているから――。


「皆さん、こんにちは」
 清楚な緋色の袴を身につけた空花 凛菜が気品のある振る舞いで礼をしてから、いつものようにマイクパフォーマンスで場を温める。
「先日、私がよく利用していたお店が閉店してしまいました。毎日のように通って、長い間慣れ親しんだ風景が……私の記憶の裡にしかありません。そう思うと、とても淋しいです」
 本当に落ち込んでいる様子が感じられ、観客も凛菜が感じている寂しさを共有する。
「でも、この沢山の“大切な思い出”が、この先、私を支えてくれる……そんな気もしています」
 なんだか近況を話すだけになってしまいましたね、とパフォーマンスを締めくくって、凛菜は目を閉じ心を落ち着かせ、ゆっくりと両手を広げてステージから観客席へ柔らかな淡い光雨を降らせ、優しい気持ちで美しくしなやかな舞を披露した。

 静かで、優美な舞い。
 心に先程話した、“大切な思い出”を描いて。

 心地よい印象の旋律に、観客の心の中にもそれぞれの“大切な思い出”が懐かしさと共に蘇り、やがて活力となっていく。

 過去の思い出に囚われるのではなく。
 思い出と共に現在を生き、未来へと進めるように。

 旋律が少しずつ加速していき、未来へと踏み出すが如く力強さを伴った舞いへと変化していく。空に光が生まれ、そこから降り注ぐ光に祝福されながら、凛菜は舞を奉納した。

「口にしても仕方のないことかもしれませんが……もし私が審査員を務めていたなら、賞はあなたに捧げていたことでしょう。
 その代わりというわけではありませんが……これは私からの祝福、ということで」
 観客席の一角で凛菜の舞を見届けたミヤビがそっと声を落としてふふ、と微笑んだ。


 エレガンス部門のトリは狛込 めじろ合歓季 風華による【真蛇暦・夏至祭】。
(フェス×フェスは確かに、腕前を競い合い、評価されることを目指す場かもしれない。
 ……でも今は、そういうのは隅に追いやって。ただ歌を歌うだけで楽しかったあの頃みたいに、音を楽しむだけです)
 横を見ためじろの目線を受けて、風華が振り向く。彼女曰く原点だという、ネムノキをモチーフとしたデザインと配色のクラシカルロリィタドレスを身につけた風華が、こくり、と頷いた。
(ネムさんとなら、最高の舞台を作れる)(めじろさんの想いに全力で応え、最高の舞台を形にしましょう)
 心の中で手を重ね合わせ――静まり返った会場を打ち破るようにめじろが華々しく灼熱の鳥『鳳』と『凰』に闇の力を加えて顕現させる。この技は風華にとっても思い入れ深く、二人の絆の証ともいえる大切なものだった。だからこそライブの最初に魅せることを選び、そして観客が荒々しく互いを傷つけ合いながら火の粉を散らして飛ぶ様に見惚れている間に次の芸を仕込む。
(受け継がれ、語り継いでいくべき文化とその交わりを――)
 数々の異世界を巡った自分の集大成として制作した曲を、小さな蛇がのたうつ楽器を爪弾いて奏でる。ステージは月夜に変わり、鏡のような水面に飛び散る水しぶきが広がり、戦いを止めてひとつに合わさった鳳凰から舞い散る火の粉が月の光とともにキラキラと舞った。

 風華に主役のバトンが移り、スカートの裾をつまんで恭しくお辞儀をした後、命を吹き込まれた人形を題材としたダンスを舞う。白と金の百合模様のレースリボンの形をした指揮器をかざし、ひらひらと振れば次々と、風華とお揃いの衣装を身につけたアンサンブルたちが現れ、風華の周囲を踊りながら演奏を行った。
(この歌に、踊りに乗せる思いは、感謝。この舞台は今私にある何ひとつが欠けても、成せぬ舞台)
 美しい人形が美しい装束を纏う、それが嫌味でも傲慢でもなくただ自然であるかのように風華とアンサンブルは歌を紡ぎ、音を繋ぐ。スポットライトがステージを巡り、頭部の宝石をあしらった淡金色の飾りリボンや衣装を輝かせた。
(穏やかに、かつ華やかに。命ある者だからこそ、引き立てられる光景を)
 光を力とするように風華が両手を掲げ、周囲を穏やかな庭園へと塗り替える。その中で生き生きとした躍動を披露した風華は曲の終わりに、アンサンブルたちを連なった蛇のように並ばせ、ステージを自由に飛び回らせた。
(さあ、どうか思うまま、貴女らしくこの舞台の締めを)
 そうして生まれた虹の軌跡に足をかけ、ステージを去っていく風華に代わり、それまで自分の姿を薄くしていためじろがステージに再び現れ、穏やかで繊細なパートに終わりを告げる。
(今わたしにできる全てを、いま、ここに!)
 今まで積み重ねてきた技を極限まで高め、持てる全てを出し切って演奏を行う。今まで見てきた異世界をイメージしたフォークロア、雅楽、カノン、テクノ、アフロポップ、ノイズロック……アレンジされた小節が連なるクライマックスには意識すら朦朧とさせ、会場の奥の隅々まで届くように絶唱する。

 今だけ、この瞬間だけでも、わたしのウタがもっともっと遠くまで、誰かに届くように。
 音に、声に、わたしのアイドルとしての誇りを乗せて――!

 ラストは、穏やかでゆったりとしたメロディを残して、フェードアウト。
 これが部門のラストであったため、ステージはその余韻が完全に収まるまでの間、二人の演技の一部としていつまでも観客の心に残り続けたのであった――。
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