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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

【初夏の大祭典!】フェス×フェス2029

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【初夏の大祭典!】フェス×フェス2029
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リアクション

■クール部門【4】

 ステージは未だ、前のライブの余韻が残っていた。
「いいモン見れたな。この賑わいも納得だ」
「うん……ウタも、すごく心がこもってた」
 睡蓮寺 陽介睡蓮寺 小夜がひとしきり感想を口にし、ふと堀田 小十郎の方を見れば、静かに目を閉じわずかに頭を垂れていた。
「へっ、まさかビビったりはしてねーよな?」
 陽介が軽い調子で話しかければ、小十郎は微笑を浮かべた顔を向けて返した。
「感謝していたんだ。素晴らしい演武を見せてくれてありがとう……とね」
 小十郎の答えに、陽介はなるほどな、と納得の表情を見せた。確かに自分も先程「いいモン見れた」と言っていたのだから。
「フェス×フェスが、己が示す最高のパフォーマンスで『感謝』を贈る場であるのなら――。
 私は今日、伝えてみようと思う。ありがとう、と……皆のおかげで、私は私の幻想へと歩めている、と」
 自分が今どれほど、自らの幻想を体現できているかはわからない。だが、ここで皆と過ごした時間がなければ、今の自分は存在しない。それだけは自信を持って断言できるからこそ――この場にいる皆に感謝を、というものだった。
「育んでくれた礼を示したい、か。へっ、相も変わらず、粋なこと考えんじゃねぇか。
 いいぜ、俺達が紡ぐのは俺達の抱いた原点……かつて憧れ、今なお目指す幻想そのもの!
 それぞれが信じる芸能を以て、今までの感謝を届けようぜ!」
「わたしの幻想は歌う事……ウタを歌い、みんなの笑顔を紡ぐ事。
 わたしは大好きなウタを諦めないって決めたから……精一杯、届けます。
 それが……わたしをここまで育んでくれた皆に返せる、アイドル睡蓮寺小夜の感謝の届け方だと思うから」
 小十郎に頷き、陽介も小夜も、これまでの感謝そしてこれからの決意を届けると誓う。
「ああ。陽介、小夜、今日もよろしく頼む。
 さあ……幻想演武を始めるとしよう」

 ステージに架かる光の道を、小夜がゆっくりと歩きながら星獣と共に歌声を響かせる。静かな始まりではあったが、奥に秘められた『皆で歌うのは楽しい』という小夜の気持ちに気づき、同調した者が共に歌うことで、ウタの輪が徐々に広がり、大きくなっていった。

 ――私はどんな時でも、歌うことを諦めない――

 その想いを込め、小夜が奏を空へ羽ばたかせる。光を宿した奏は観客により小夜の想いを強く認識させ、そして降った光の下には小十郎と陽介が現れ、澄んだ鈴の音と笛の音を聞かせる剣を小十郎が構え、陽介はパフォーマンス用のガンブレードを構え、相対する。
「武を以て演武と成し、調を以てウタと成す……幻想演武・ユメ紡ぎ。さあ、ここからが本番だ」
 その言葉を皮切りに、繰り出される技。ひとつひとつの技には名前があり、魂がある。小十郎はその技の本質を明らかにし、魂の煌めきを観客に魅せる。振るわれる技には音が宿り、小十郎の演武は曲となって小夜のウタに寄り添う。

「謳ってやるさ、己の幻想……熱き大道芸士の心意気ってやつをな……!」
 陽介も負けじと、背中に燃えたぎるような翼を生み出し、炎を宿したパフォーマンスで観客に熱気を届ける。生み出される炎はリアルでこそあるが熱量はないはずだが、観客は彼の行動に確かな熱を感じ、小十郎との殺陣を息を呑んで見守った。

「独奏曲では終わらない……終わらせない。
 届ける思いは、感謝の気持ち。皆も自分の幻想を諦めずに進んで……」
 小夜の周りに生じた白い花びらが、風に乗って会場へと運ばれていく。ステージでは小十郎と陽介の殺陣が決着を迎えようとしていた。

「さあ、捌いて魅せな小十郎。お前の武の粋、最前列で皆の心に刻んでやんな!」
 空中に七つの光球を出現させた陽介が、それらが連なって降り注ぐようにぐるり、と空中で一通り回した後、一気に地上へ降り注がせる。

「『演武にはその者の人生が宿る』という。
 ならば……人を傷つけぬ武という矛盾を、アイドルとして過ごした人生を乗せて――成し遂げよう」
 生み出したノイズでできた足場を駆け、自らを音速を超えるものとして高らかに跳躍した後、今まさに地上に降り注ごうとしている光球を上空から一直線に、光芒に変えた自身で駆け抜けることで捌く。

(我らが想い――皆に届いたのなら、語ることはない)
 自分の世界と化したステージ上で、小十郎がゆっくりと剣を収め、観客に向かって一礼した。
 その視界の隅には、この舞台を真剣な眼差しで見つめていた渋蔵鷹人の姿も映っていただろう。


「……ははっ、アタシがクール部門のトリだなんてね。
 最初に話を聞いた時は流石に驚いたけど――今はアタシをトリに選んでくれて、感謝してるよ」

 ステージから響く歓声を耳に、黒瀬 心美が見た目落ち着いた雰囲気で呟いた。
 心に思うは、自分がフェスタに入学してからの数々の思い出。

(……いまこうして、アタシがいっちょ前にライブをやれるようになったのは、アタシを信じてくれた先生のおかげだ。
 だからアタシは今、この場で成長したアタシの姿を先生たちに見てもらう。それが何よりの恩返しになるはずだ)

 出番を告げるアナウンスが聞こえてくる。うし、と心美は立ち上がり、ギターを携えステージへと向かう。
(先生たちのおかげで、アタシはここまで輝けるんだってことを……!)


「さぁ、アタシのフェスタにおける集大成だ! 先生たち……そしてみんな、身も心も燃え尽きる覚悟はあるかい?
 それじゃみんな……ついておいで!」


 観客を惹き付けるフレーズで場を暖めてから、心美は何度となく歌い、会場を沸かせてきた持ち歌『紅の誓い』を熱唱する。

 始まりは突然
 初めて見る空 アタシの日常は終わりを告げた

 出会いは必然
 同じ瞳と同じ髪 アタシの心が熱く焦がれた


 持ち歌はアイドルを続けていけば自然と増えていくのが通常ではあるが、心美はこの曲を生み出してからはずっと、この歌を歌い続けてきた。
 だからこそ、心美はこの歌を自分の手足のように操り、自分の思うように心を込めることができた。望む反応を、これと定めた詩で、音で引き出すことができた。

 必ず辿り着くと
 赤く染まる空に手を伸ばした


(この歌に込めた想いで、人と人との絆を繋ぐ。
 このフェスタで学んだ事は、いつまでも心の中で生きて行くんだ……!)
 サビに差し掛かり、心美はとっておきのパフォーマンスで会場を盛り上げる。その姿も入学当初と変わらない。テクニックを身につけ、やれることは格段に増えたが、やるべきことは変わらない。
(曲に込めるアツい想いは、変わらない!)

 言葉もなく剣戟で交わす紅の誓い
 約束を刻んだ瞳で運命を見つめ
 稲妻と業火が交錯する紅の誓い
 熱く猛る想いと絆を胸に抱く


「最高だね! 僕のスキをこれでもかと突いてくるよ」
 ✝タナトス✝はすっかり心美のファンになったようで、このまま観客席に飛び込んでしまいそうな勢いで応援をしていた。

 希望の欠片を拾い集め
 行こう 明日が待ってる


 歌い終え、沸き起こる拍手と歓声の中、心美が感謝を伝えたい相手に大声で叫んだ。

「先生たち、ありがとう!
 アタシは必ず戻ってくるよ! このステージに!!」


 最後を締めくくるに相応しいライブで、クール部門は幕を閉じた――。
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