ラスト・メドレー! ~オルトアース&ビーストラリア~
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■1-2.カルテット&アイデンティティ!
会場の空気がアイドルたちによって盛り上げられていく中、当然というべきか、アイドルはアイドルでも観客として参加するものもいる。
――さっきの嘘ちゃん、かわいかったなあ! ウサ耳つけて、ふふ、左脳先生に見せてあげないと♪
世良 延寿はその中の一人だ。カメラを構え、嘘や玲花の二人を中心に様々なシチュエーションを激写していた。
今ステージに上がっている玲花は、そんな彼女の声援を受ければサービスとばかりにポーズを決めてみせる。様々なステージを超えて輝きを取り戻した玲花を見て、延寿は満面の笑みでシャッターを切るのであった。
「わたくしに夢中になるのはいいけれど、まだまだステージは続きますわよ!」
玲花の掛け声とともにステージに一人の少女が登壇する。会場が静けさに包まれ、睡蓮寺 小夜の澄んだ歌声が会場の空気を揺らした。フルートバードの奏とともに紡ぐその歌は、人々の心に染み入るようにして響き合う。
その歌に合わせるように、瞬く星のように、白い光が弾けて消える。いくつもの刃が堀田 小十郎を襲い、それを彼が剣で弾き返す。そうして生み出された火花の光であった。
「イマジネーターとは理想を現実に変える者……東京の地にて、己が理想を演武にて示そう」
静かな歌に激しい演武。しかし不思議と、小十郎の動きが苛烈になるにつれ観客たちは惹きつけられていくことだろう。胸の鼓動は剣戟に呼応するかのように高まっていく。
歌が盛り上がりに差し掛かると、そこに更なる色が足されることになる。
「Dマテリアル、アクション……! さぁ、幻想演技の始まりだ!」
睡蓮寺 陽介によるド派手なアクションと演出効果が乱れ咲き、それはまるで夜空に色を解き放つ花火の如き勢いを見せる。
演武に飛び込んだ彼は、それまでは鋭く高かった殺陣の拍子を重く力強いものへと塗り替えていくのだ。
彼らのアピールは確かに観客たちの胸へと届いただろう。彼らはその胸の衝動に駆られるようにして小夜に合わせて歌を紡ぎ始める。
「最後は視聴者参加型だ……会場皆でかかってきな!」
その熱狂は次第に実体を伴うようになる。観客たちの情熱は文字通りの爆弾に変換され、そして、またその衝動のままにステージへと投げ込んだ。
小十郎と陽介はそれを目を合わせることなくぴったりの呼吸で捌いていく。爆発は本物の花火へと変わり、それが一層会場の空気をもり立てていく。
「さあ……お前も踊りたい頃合いだろう、ライ」
小十郎の持つカードが閃くと、ライブ会場に黒い蝶が羽ばたく。その黒い蝶――魔王ライという“概念”は、爆弾の隙間を縫うようにして会場を埋め尽くす。蝶の羽は色とりどりの花びらを生み出し、花火の爆風と共に舞い散らせ、そしてドームの上空を彩ったのだった。
色は会場の天井を埋め尽くすかのように広がり、小夜の歌の終わりとともに一際大きな爆発を巻き起こして会場を白く染め上げた。
一挙に無音の世界となった会場で、三人は視線を交わし合う。ナゴヤにオキナワ、そしてハコダテ。三つの都市のスタイルが組み合わさったその演武を見た観客たちは、彼らの一礼と共に割れんばかりの拍手で小十郎たちの退場を見送るのであった。
実力派たる三人のパフォーマンスは圧巻の一言でもあったが、しかし、それを見てなお恐れを持たず、のびのびと演技するものたちもいた。
誰も居なくなったステージ。そこにざわつく会場に七色の欠片が降り注ぐ。
「このステージに立てる事、このライブが出来る事、普通に思えて幸せな事」
藤崎 圭がゴンドラとともにステージへ現れ、朗々と声を響かせた。観客たちの期待は否応なく膨れ上がり、食い入るように再び静けさをもたらした。
背景が切り替わると同時、圭に当てられたスポットライトが移り変わり、白波 桃葉と早乙女 綾乃の二人が映し出される。
圭の伴奏とともに桃葉はペンギン型のDマテリアルへと一体化して踊りを歌を披露する。麦倉 音羽のパートナーたる星獣、ゆきみも混ざってシンプルでポップな響きが始まった。
『食べるのが好き、お昼寝も好き
みんなと一緒が大好き
みんなが居る素敵な当たり前を
幸せと感じよう
楽しいを伝えよう』
自身の幻影とともに、可愛らしいペンギンはおどけたステップを踏んで会場を賑やかす。“楽しいを伝えよう”、曲名の通りの元気な演技であった。
その裏では、綾乃が着々と調理を進めていた。いかにも素朴なてらいのないご飯――味噌汁と、おにぎりと、そしてお漬物。出来上がったのはひどくシンプルで、しかし、故郷の母を思い出させるような献立だ。
「豪華なご馳走を一人で食べるより、
シンプルで質素に見えても、
皆で食卓を囲む当たり前を幸せと感じる事」
「友愛、恋愛、家族愛。
愛情にも色々とあるけれど、
大切な人たちと一緒に過ごせるのは
とても、とても幸せな時間」
そんな綾乃と桃葉の言葉とともに、その献立が観客たちへと配膳されていく。
「気付けば、いつも支えてくれていた。
淋しい時も、落ち込んだ時も、そばに居てくれた。
当たり前になってしまった事を幸せだと感じましょう。
ささやかな幸せをこれからも重ねていけるように」
音羽の声がステージに響く。ゆきみと共にステージへ上がった音羽は、圭や桃葉、綾乃と視線を交わし合うとマイクへ口を近づけた。
「幸せの絆はあなたと繋がっている」
そうして始まった音羽の歌は、仲間たちの演出によってより魅力を増していく。
『あなたと共に築いてゆく
幸せをずっと重ねよう
一緒に居た時間が過ぎるたび
あなたの事を深く知った
楽しい時も悲しい時も
私がそばにいつでも居るよ
あなたと進むその未来の
幸せの道、歩きだそう
一緒に居た場所が増えるたび
あなたの事が愛しくなる
繋いだその手を離さないで
私と同じ想いでいてね
あなたと共に築いてゆく
幸せをずっと重ねよう
あなたと共に築いてゆく
幸せはもうココにある
幸せの絆、ココにある』
四つの都市のスタイル、ナゴヤとオキナワ、ハコダテにオーサカ――全ての都市の演出を組み合わせた“幸せの絆”はライトニングを、ヴェロシティを、そして観客を賑わせた。これを決定打にして、観客たちの中に一つの意志のようなものが立ち上がっていた。
あんなふうに輝きたい。自分たちだけの“アイデンティティ”を――。
どの都市も、アイドルも魅力的だったがために、彼らは自分たちの輝きを欲していた。ただの憧れではなく、その中に対等に飛び込みたいがために。
だからこそ彼らが、かつてのアイデンティティ……“野生都市”に目を向けるのは当然だ。
“幸せの絆”に続いて始まったビーストラリア発のアイドルたちのライブによって、会場は限界を超えた盛り上がりを見せていた。
空花 凛菜はその流れを作り出した立役者であるといえる。彼女は先陣を切り、自分の本来のスタイルを捨て去ってまで、ビーストラリアの素朴さを押し出し、とかく、観客たちの心を掴むことに専念したのである。
「けもー!!」
などと観客が歓声を上げるなか、ゆるくもたのしげなポーズや踊りを披露していき、どよめく観客たちの心をひとつにまとめ上げていったのである。
観客と一体となったげんきなおどりは絶妙なタイミングで繰り出された妙手、原初のリズムのもと人々を団結させたのであった。
「……アニマルアイドルブームのリバイバル……このタイミングなら!」
そして大トリともいえるタイミングで勇気を振り絞って飛び出したのが、ビーストラリアのリュンであった。彼女が大きく息を吸い込んで演奏を始めると――。
「さぁさぁ、みなさんお待ちかね!“びーすとベストファイター”のお出ましだよ!
びーすと☆あみーごすのリュンとのコラボ!とくとその目に焼き付けて行きな!
身も心も燃え尽きる覚悟はあるかい?さぁみんな…ついておいで!」
その演奏に合わせるように、激しい音がかき鳴らされた。リュンが驚いて振り向くと、そこに居たのは黒瀬 心美。トーキョーの覇権をあえてびーすとで勝ち取るべく、地面から勢いよく飛び出したのだった。
驚きの登場……とはいえリュンも一端のアイドルだ。すぐさま表情を引き締めて心美の乱入を受け入れ、そして心美も繰り返し聞いたリュンの持ち歌に合わせてうまくアドリブを噛ませていく。
「……上等! 野生、かましていくよ!」
背中合わせに演奏を続けていく彼女たちであるが、前半はリュンが野性の持つワイルドさを押しだして行き、次第に心美主体の演奏へとスライドしていく。
心美の持つキティトーンによって“愛らしさ”の弾けるライブによって、いつの間にかリュンと心美はこどもびーすとに変化していたのだった。
「かましていくよーっ!」
「おーっ!」
ワイルドさと愛らしさ、その二面性。クライマックスに本能の赴くままに観客たちへと飛び込む二人のびーすとの姿は、まさに、トーキョー史に名を残すものであったといっていいだろう。
『ビーストラリア、バンザーイ! にゃー!』
「これにてトーキョーグルーヴは終了! さあ、トーキョーの覇権は誰の手に渡るのか……楽しみに待っているモコルミー!」
――こうしてトーキョーにて開かれた一大アイドルフェスは終わりを告げる。果たして誰が覇権を手にしたのか。果たしてトーキョーの人々はどのようなアイデンティティを目指すのか。それを知っているのは、おそらくモコマルブラザーズと観客たちだろう。
そして、
「ふーっ、フェスは大成功モコルミ!」
「ユーは誰推し? ミーのインタレスティングは……」
ステージから降りたモコマルブラザーズたちが控室へと戻る最中、警備担当としてフェスに参加していた小鈴木 あえかが彼らの前に立った。
『あの、モコマルブラザーズのお二人にお話したいことがあります』
彼女は他の誰かに聞こえないよう工夫を凝らし、ひっそりと彼らに“話”を告げる。それはあまりにも今回の騒動があまりにも不自然だということ。
この一件、グランスタが関わっているのではないか、もしそうならば例のゲートと関連性があるのでは――簡単にまとめればこういった内容である。
「フーム。ミスあえかのクエスチョンは分かったモコルミ」
「とはいえ、ユーに対するアンサーをミーたちは用意できないモコルミ」
彼らはグランスタやゲートに対する“怪しい”動向について興味がなく、そしてもし仮に知っていたとしても、今後のプロデュースに関わってくる事柄であれば喋ることはできない……という話だ。
「ユーには悪いけど、これからプロデュースするアイドルのためにネセサリーなことモコルミ」
申し訳なさそうな顔をする彼ら。あえかの疑問が晴れることはなかった。ただ一つ分かることは、モコマルブラザーズが次のアイドルたちに対して真摯に接しようとしていることだけだった――。
会場の空気がアイドルたちによって盛り上げられていく中、当然というべきか、アイドルはアイドルでも観客として参加するものもいる。
――さっきの嘘ちゃん、かわいかったなあ! ウサ耳つけて、ふふ、左脳先生に見せてあげないと♪
世良 延寿はその中の一人だ。カメラを構え、嘘や玲花の二人を中心に様々なシチュエーションを激写していた。
今ステージに上がっている玲花は、そんな彼女の声援を受ければサービスとばかりにポーズを決めてみせる。様々なステージを超えて輝きを取り戻した玲花を見て、延寿は満面の笑みでシャッターを切るのであった。
「わたくしに夢中になるのはいいけれど、まだまだステージは続きますわよ!」
玲花の掛け声とともにステージに一人の少女が登壇する。会場が静けさに包まれ、睡蓮寺 小夜の澄んだ歌声が会場の空気を揺らした。フルートバードの奏とともに紡ぐその歌は、人々の心に染み入るようにして響き合う。
その歌に合わせるように、瞬く星のように、白い光が弾けて消える。いくつもの刃が堀田 小十郎を襲い、それを彼が剣で弾き返す。そうして生み出された火花の光であった。
「イマジネーターとは理想を現実に変える者……東京の地にて、己が理想を演武にて示そう」
静かな歌に激しい演武。しかし不思議と、小十郎の動きが苛烈になるにつれ観客たちは惹きつけられていくことだろう。胸の鼓動は剣戟に呼応するかのように高まっていく。
歌が盛り上がりに差し掛かると、そこに更なる色が足されることになる。
「Dマテリアル、アクション……! さぁ、幻想演技の始まりだ!」
睡蓮寺 陽介によるド派手なアクションと演出効果が乱れ咲き、それはまるで夜空に色を解き放つ花火の如き勢いを見せる。
演武に飛び込んだ彼は、それまでは鋭く高かった殺陣の拍子を重く力強いものへと塗り替えていくのだ。
彼らのアピールは確かに観客たちの胸へと届いただろう。彼らはその胸の衝動に駆られるようにして小夜に合わせて歌を紡ぎ始める。
「最後は視聴者参加型だ……会場皆でかかってきな!」
その熱狂は次第に実体を伴うようになる。観客たちの情熱は文字通りの爆弾に変換され、そして、またその衝動のままにステージへと投げ込んだ。
小十郎と陽介はそれを目を合わせることなくぴったりの呼吸で捌いていく。爆発は本物の花火へと変わり、それが一層会場の空気をもり立てていく。
「さあ……お前も踊りたい頃合いだろう、ライ」
小十郎の持つカードが閃くと、ライブ会場に黒い蝶が羽ばたく。その黒い蝶――魔王ライという“概念”は、爆弾の隙間を縫うようにして会場を埋め尽くす。蝶の羽は色とりどりの花びらを生み出し、花火の爆風と共に舞い散らせ、そしてドームの上空を彩ったのだった。
色は会場の天井を埋め尽くすかのように広がり、小夜の歌の終わりとともに一際大きな爆発を巻き起こして会場を白く染め上げた。
一挙に無音の世界となった会場で、三人は視線を交わし合う。ナゴヤにオキナワ、そしてハコダテ。三つの都市のスタイルが組み合わさったその演武を見た観客たちは、彼らの一礼と共に割れんばかりの拍手で小十郎たちの退場を見送るのであった。
実力派たる三人のパフォーマンスは圧巻の一言でもあったが、しかし、それを見てなお恐れを持たず、のびのびと演技するものたちもいた。
誰も居なくなったステージ。そこにざわつく会場に七色の欠片が降り注ぐ。
「このステージに立てる事、このライブが出来る事、普通に思えて幸せな事」
藤崎 圭がゴンドラとともにステージへ現れ、朗々と声を響かせた。観客たちの期待は否応なく膨れ上がり、食い入るように再び静けさをもたらした。
背景が切り替わると同時、圭に当てられたスポットライトが移り変わり、白波 桃葉と早乙女 綾乃の二人が映し出される。
圭の伴奏とともに桃葉はペンギン型のDマテリアルへと一体化して踊りを歌を披露する。麦倉 音羽のパートナーたる星獣、ゆきみも混ざってシンプルでポップな響きが始まった。
『食べるのが好き、お昼寝も好き
みんなと一緒が大好き
みんなが居る素敵な当たり前を
幸せと感じよう
楽しいを伝えよう』
自身の幻影とともに、可愛らしいペンギンはおどけたステップを踏んで会場を賑やかす。“楽しいを伝えよう”、曲名の通りの元気な演技であった。
その裏では、綾乃が着々と調理を進めていた。いかにも素朴なてらいのないご飯――味噌汁と、おにぎりと、そしてお漬物。出来上がったのはひどくシンプルで、しかし、故郷の母を思い出させるような献立だ。
「豪華なご馳走を一人で食べるより、
シンプルで質素に見えても、
皆で食卓を囲む当たり前を幸せと感じる事」
「友愛、恋愛、家族愛。
愛情にも色々とあるけれど、
大切な人たちと一緒に過ごせるのは
とても、とても幸せな時間」
そんな綾乃と桃葉の言葉とともに、その献立が観客たちへと配膳されていく。
「気付けば、いつも支えてくれていた。
淋しい時も、落ち込んだ時も、そばに居てくれた。
当たり前になってしまった事を幸せだと感じましょう。
ささやかな幸せをこれからも重ねていけるように」
音羽の声がステージに響く。ゆきみと共にステージへ上がった音羽は、圭や桃葉、綾乃と視線を交わし合うとマイクへ口を近づけた。
「幸せの絆はあなたと繋がっている」
そうして始まった音羽の歌は、仲間たちの演出によってより魅力を増していく。
『あなたと共に築いてゆく
幸せをずっと重ねよう
一緒に居た時間が過ぎるたび
あなたの事を深く知った
楽しい時も悲しい時も
私がそばにいつでも居るよ
あなたと進むその未来の
幸せの道、歩きだそう
一緒に居た場所が増えるたび
あなたの事が愛しくなる
繋いだその手を離さないで
私と同じ想いでいてね
あなたと共に築いてゆく
幸せをずっと重ねよう
あなたと共に築いてゆく
幸せはもうココにある
幸せの絆、ココにある』
四つの都市のスタイル、ナゴヤとオキナワ、ハコダテにオーサカ――全ての都市の演出を組み合わせた“幸せの絆”はライトニングを、ヴェロシティを、そして観客を賑わせた。これを決定打にして、観客たちの中に一つの意志のようなものが立ち上がっていた。
あんなふうに輝きたい。自分たちだけの“アイデンティティ”を――。
どの都市も、アイドルも魅力的だったがために、彼らは自分たちの輝きを欲していた。ただの憧れではなく、その中に対等に飛び込みたいがために。
だからこそ彼らが、かつてのアイデンティティ……“野生都市”に目を向けるのは当然だ。
“幸せの絆”に続いて始まったビーストラリア発のアイドルたちのライブによって、会場は限界を超えた盛り上がりを見せていた。
空花 凛菜はその流れを作り出した立役者であるといえる。彼女は先陣を切り、自分の本来のスタイルを捨て去ってまで、ビーストラリアの素朴さを押し出し、とかく、観客たちの心を掴むことに専念したのである。
「けもー!!」
などと観客が歓声を上げるなか、ゆるくもたのしげなポーズや踊りを披露していき、どよめく観客たちの心をひとつにまとめ上げていったのである。
観客と一体となったげんきなおどりは絶妙なタイミングで繰り出された妙手、原初のリズムのもと人々を団結させたのであった。
「……アニマルアイドルブームのリバイバル……このタイミングなら!」
そして大トリともいえるタイミングで勇気を振り絞って飛び出したのが、ビーストラリアのリュンであった。彼女が大きく息を吸い込んで演奏を始めると――。
「さぁさぁ、みなさんお待ちかね!“びーすとベストファイター”のお出ましだよ!
びーすと☆あみーごすのリュンとのコラボ!とくとその目に焼き付けて行きな!
身も心も燃え尽きる覚悟はあるかい?さぁみんな…ついておいで!」
その演奏に合わせるように、激しい音がかき鳴らされた。リュンが驚いて振り向くと、そこに居たのは黒瀬 心美。トーキョーの覇権をあえてびーすとで勝ち取るべく、地面から勢いよく飛び出したのだった。
驚きの登場……とはいえリュンも一端のアイドルだ。すぐさま表情を引き締めて心美の乱入を受け入れ、そして心美も繰り返し聞いたリュンの持ち歌に合わせてうまくアドリブを噛ませていく。
「……上等! 野生、かましていくよ!」
背中合わせに演奏を続けていく彼女たちであるが、前半はリュンが野性の持つワイルドさを押しだして行き、次第に心美主体の演奏へとスライドしていく。
心美の持つキティトーンによって“愛らしさ”の弾けるライブによって、いつの間にかリュンと心美はこどもびーすとに変化していたのだった。
「かましていくよーっ!」
「おーっ!」
ワイルドさと愛らしさ、その二面性。クライマックスに本能の赴くままに観客たちへと飛び込む二人のびーすとの姿は、まさに、トーキョー史に名を残すものであったといっていいだろう。
『ビーストラリア、バンザーイ! にゃー!』
「これにてトーキョーグルーヴは終了! さあ、トーキョーの覇権は誰の手に渡るのか……楽しみに待っているモコルミー!」
――こうしてトーキョーにて開かれた一大アイドルフェスは終わりを告げる。果たして誰が覇権を手にしたのか。果たしてトーキョーの人々はどのようなアイデンティティを目指すのか。それを知っているのは、おそらくモコマルブラザーズと観客たちだろう。
そして、
「ふーっ、フェスは大成功モコルミ!」
「ユーは誰推し? ミーのインタレスティングは……」
ステージから降りたモコマルブラザーズたちが控室へと戻る最中、警備担当としてフェスに参加していた小鈴木 あえかが彼らの前に立った。
『あの、モコマルブラザーズのお二人にお話したいことがあります』
彼女は他の誰かに聞こえないよう工夫を凝らし、ひっそりと彼らに“話”を告げる。それはあまりにも今回の騒動があまりにも不自然だということ。
この一件、グランスタが関わっているのではないか、もしそうならば例のゲートと関連性があるのでは――簡単にまとめればこういった内容である。
「フーム。ミスあえかのクエスチョンは分かったモコルミ」
「とはいえ、ユーに対するアンサーをミーたちは用意できないモコルミ」
彼らはグランスタやゲートに対する“怪しい”動向について興味がなく、そしてもし仮に知っていたとしても、今後のプロデュースに関わってくる事柄であれば喋ることはできない……という話だ。
「ユーには悪いけど、これからプロデュースするアイドルのためにネセサリーなことモコルミ」
申し訳なさそうな顔をする彼ら。あえかの疑問が晴れることはなかった。ただ一つ分かることは、モコマルブラザーズが次のアイドルたちに対して真摯に接しようとしていることだけだった――。