ラスト・メドレー! ~華乱葦原/クロスハーモニクス~
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ディスカディア・2
「人はより優秀な自分に管理されて、初めてよりよく生きることができる、か……。人を舐めるなよ、プレジデント・マスク」
水鏡 彰が啖呵を切った。
「お前のような人に優劣をつけ、管理しようとする奴が人を殺す――。自分の役に立たない、ただそれだけの理由でな」
すると彰は、D.D.を振り返り、彼女にも一言物申した。
「D.D.。人を管理しようとしたその1点で、お前のことは今も気に食わん。そもそも俺は、親を知らない路地裏の子供だからな……。バブみとか言われても判らんし、巨乳も苦手だ」
「アキラ、なにマザーに失礼なこと言いまくってるんですか」
ミリィ・ファーレンが二人の間に割り込んだ。
「かつてのやり方はともかく、今は変わったのですからほどほどになさい」
「そうですよー。いつかはあなたも、自らの意志でオギャる悦びを知るでしょう」
D.D.の言葉をさらりと流して、彰は続ける。
「……いずれにせよ、食い物を配り、弱い奴が死なないようにした事には感謝する。たとえどんな裏があれ、な。その1点で、お前よりも遥かにマシだと断言できるぜ」
彰がプレジデント・マスクに向き直った。
「来いよ変態マスク。俺とお前と、どっちが正しいか戦いで決めよう」
「どちらが正しいかなど明白だ。戦うまでもない」
それでもプレジデント・マスクは、レイ・バレルを構えた。
ミリィもまた、彼を見据えて思う。――目の前にいる敵は、変われない、変わろうともしない事を誇るすっとこどっこいだ。ならば言えることはただひとつ。
「邪魔だ退け、ロートル。私の生きようとする道を偉そうに塞ぐな」
そしてミリィは、彰のドラゴンチョッパーにユニゾンする。
彰がすかさずブルーゴーストで背後に回り込むと、相手のカウンターを誘いながら突進した。だが、プレジデント・マスクにはもうひとつの武器、レイ・エッジがある。ファングトルーパーズが飛び交うなか、対策もなく接近戦を挑むのは非常に危険だった。
ビートインパクトを乱打する彰。反撃を繰り出すプレジデント・マスク。放たれるディスコードが彰を蝕む。
防御という概念がすっかり抜け落ちている彰を、ミリィがヒールハルモニアで回復する。奏者として強化されていなかったら、戦闘不能になってもおかしくないほどの攻めだ。
そんな彰をフォローしつつ、ミリィがプレジデント・マスクを挑発する。
『そもそも、そのマスクは何です? 隠さなくてはならないほど、よっぽどぶさ……特徴的なお顔なんですか?』
「――逆に問おう。お前たちは何故マスクを付けていない」
『は?』
「人間にもディーヴァにも、個を識別する“顔”などというものはいらんのだ」
プレジデント・マスクはレイ・エッジを思いっきり振り下ろした。
「愚かな人と宝石の仔らよ――。個性とは恥と知れ! 自己主張は罪と知れ!」
『ちょっと何言ってるかわかんないわ。デザートローズ、この変態仮面にツッコミないの!?』
ミリィは、彼にユニゾンしているディーヴァに話を振った。しかし、デザートローズは何も応えない。
人を管理しようとするプレジデント・マスクに、盲従しているかのようだ。
だが、ミリィの挑発によって、デザートローズがユニゾンした強化スーツから、どことなく怒りのようなものを感じることができた。それは皮肉にも、意志を奪おうとするプレジデント・マスクに対してだけ、彼女が何かしらの意志を持っていることを示していた。
「アイツのディーヴァ、なんか可哀想」
ライカ・ペリドットが眉を顰めた。
「ディーヴァって人間が造ってくれたものなのに、主人に人間を否定されるなんてあんまりよ。だからとりあえず! アイツのディーヴァ……デザートローズを信じることから始めるわ!」
ライカはそう言ってキング・デイヴィソンのジェットパーカッションにユニゾンした。
プレジデント・マスクの作戦に加担してる以上、デザートローズにも従う理由があるのだろう。でも、だからといって、こんなことされて平気なわけがない。
そんなライカの想いを感じとりながら、キングはドラムセットの調子を確かめる。
(ユニゾンしてるならそこにはディーヴァが存在する。――ライカがどうしてもって言うんだ。どうにも彼女は同族に対して甘いようでね)
電子ドラムを周囲に飛ばし、演奏の準備を整えながら、キングは思索を続けた。
(だが、そこが彼女の良いところだ。仲間のためならどこまでも純粋になれる)
それに作戦としても、ライブが活用できる算段はあった。歌によってディーヴァの動きを止められたら、相手の戦力を大幅に削ることができる。
「ほとんど賭けみたいなものだ。が、たまには馬鹿な賭けも嫌いじゃないさ」
思慮深いキングにしては珍しい、大胆な作戦だった。
『おっしゃ! ばっちこーい!』
電子ドラムにユニゾンしたライカが、プレジデント・マスクの強化スーツに向かって叫んだ。
ディクトラドを会場にして、二人のライブが始まる。キングは凛々しい音楽を奏でつつ、スペクタクル・バトルで実戦さながらの殺陣を披露した。
『明らかにヤバイ奴だからね。攻撃が飛んでこないか見張ってるわ』
というライカに後押しされて、ダイヤモンドヴェールの輝きを纏ったキングは、優雅に、それでいて戦うように舞い踊る。
凛々しい音楽と、迫力のある衝撃を伝えながら、ライカが訴えた。
『ちょっとアンタ! そこにいんでしょ! アンタの主なら、あんたが止めてあげなさいよ!』
彼女の声は、硬く閉ざしたデザートローズの心に届かない。だが、ほんのわずか、プレジデント・マスクの動きが鈍ったように見えた。
「ドラムス・デザートローズだっけか、大統領のユニゾン相手。……やっぱ理詰めで戦う相手じゃないな」
千夏 水希が言った。隣ではスピネル・サウザントサマーがハードパンチャーⅡを構えている。
(ドラムは大人数で演奏する時ほど重要な位置、司令塔だ。デザートローズの宝石も愛と知性の象徴――。ってことは、さしずめ“冷静な狂人”ってところだな。いちばん面倒なタイプじゃねぇか)
不敵に頬を歪めながら、水希はスピネルのハードパンチャーⅡにユニゾンした。
『……初めてユニゾンする側になってみたものの、なんとも不思議な感覚だなこれ。ふわふわするつーかなんというか……。ま、それはおいといて。おいスピネル、好きにやっていいぞ』
「やった! 好きにしていいって言われた! よーし、やっちゃうぞぉ!」
スピネルが血気盛んに飛び出した。
ルナティックモジュールで、不協和音をかき鳴らす。耳障りな音で否応なしに注目させたら、チェイスブルーミングでハルモニアによる植物を発生させた。うねうねとした奇怪な植物に、スピネルは自分の身体を運ばせる。
「すっぴー登☆場! いぇい! 大統領は、このあたし!! なのでお前のことぶっとばしまーす!!!」
本当に好きにやりはじめたスピネルが、植物から飛び降り、水希のサディスティックブーツで地面を蹴り上げると、針山状になった影でプレジデント・マスクを牽制する。
さらに今度は宙を蹴ると、黒い衝撃波を放った。周囲に飛び交う小型ドローンが破壊される。
「大統領選挙だね! DD党とマスク党の一騎打ちなんてずるい。スピネル党も混ぜてよ!」
上から下から大忙しの攻撃を繰り出しながら、スピネルが高らかに演説をはじめた。
「あたしが当選したあかつきには、人と機械と自然……星が、より高次元での協奏ができる世界にしたいでーす!!」
「何をふざけたことを……」
マスク越しとはいえ、プレジデント・マスクの顔が引きつるのがわかるようだ。すぐさまレイ・バレルで反撃するが、スピネルはルチフェルの香炉を発動。カメラ目線のダブルピースでディスコードの刃を弾いた。
とってもいい笑顔を見せながら、続けざまスピネルはシクレシィエンブレイスを放つ。影が鞭のように伸び、ファングトルーパーズを絡め取ると、そのまま引き寄る。地面に叩きつけ、着地と同時にサディスティックブーツで踏み潰した。
スピネルの攻撃は順調だった。しかし、好き放題やったせいか、さすがに少し疲れが見えはじめている。
「やっぱり、アレをなんとかしないと」
桔梗が、共闘するハルに言った。アイドルたちの攻撃がなかなか本体まで届かないのは、周囲を飛ぶシールド機能付きドローンのせいだ。
トパーズがファントムチャージで攻撃音を発生させる。注意をこちらに向けさせ、あくまでもプレジデント・マスクを攻撃するよう見せかけながら、スピリングヒットで跳躍力を強化。
ジャンプと同時に、ドローンが回り込んでくる。
「――不意をついたつもりでしょうけど、お生憎さま! アタシの狙いは最初からアンタらよ!」
集まったドローンに向けて、桔梗はブレイズバンカーを振り下ろす。圧縮された音とともに激しく杭が打ち付けられる。
目の前のドローンを粉砕すると、桔梗は攻撃を中断し、ひとまず退いた。
後衛からはハルがレイ・バレルを構えている。今、彼女の目の前には小型ドローン群しかいない。仲間を巻き込む心配がなくなったハルは、全力でハルモニアをぶっ放した。
残りのファングトルーパーも、すべて破壊された。
撃墜されたドローンを見て、スピカをユニゾンさせたイザークがぼそっと呟く。
「……やったのか?」
「ちょっと! そういう言い方はやめてよ! それって新手が襲ってくるフラグじゃない!!」
ハルがツッコミを入れると、レイ・バレルを構えなおし、すぐに周囲を警戒した。
しかし、何も襲ってこなかった。
「本当にやってたのね!?」
ちょっと拍子抜けしたようにハルは言った。
そんなハルの様子を、桔梗は微笑みながら眺めていたが、気を取り直すとフェスタ生に向かって叫んだ。
「さあ、皆! 後は思いっきり本人を殴っちゃって!」
「よっしゃいまだー!!」
最後の力を振り絞ってスピネルが飛び出した。渾身のトレイルサンダー。電撃をはらむ水希の幻を出現させる。
『まだ暴れたりないんだろ。これ使え』
「じゃー借りるよ、千夏」
スピネルが、水希から固有スキル【ダークスター・ブレード】を受け取った。闇を喰らう最悪の黒刃で、プレジデント・マスクに斬りかかる。それでも物足りないとばかりに、余力を振り絞ってヒーローズコートを全開。攻撃力を極限まで引き上げて、怒涛の連続攻撃だ。
「ぐっ……」
屈強なプレジデント・マスクが、思わずうめいた。レイ・エッジで迎撃するが、スピネルの猛攻の前に、その刃は砕け散る。
「よっしゃあ……ぁぁ……ぁ…………」
スピネルが勝鬨の声を上げたが、それは急速にしぼんでいった。さんざん暴れ尽くした彼女は、遊び疲れた子供のように、その場にぶっ倒れたのであった。
「人はより優秀な自分に管理されて、初めてよりよく生きることができる、か……。人を舐めるなよ、プレジデント・マスク」
水鏡 彰が啖呵を切った。
「お前のような人に優劣をつけ、管理しようとする奴が人を殺す――。自分の役に立たない、ただそれだけの理由でな」
すると彰は、D.D.を振り返り、彼女にも一言物申した。
「D.D.。人を管理しようとしたその1点で、お前のことは今も気に食わん。そもそも俺は、親を知らない路地裏の子供だからな……。バブみとか言われても判らんし、巨乳も苦手だ」
「アキラ、なにマザーに失礼なこと言いまくってるんですか」
ミリィ・ファーレンが二人の間に割り込んだ。
「かつてのやり方はともかく、今は変わったのですからほどほどになさい」
「そうですよー。いつかはあなたも、自らの意志でオギャる悦びを知るでしょう」
D.D.の言葉をさらりと流して、彰は続ける。
「……いずれにせよ、食い物を配り、弱い奴が死なないようにした事には感謝する。たとえどんな裏があれ、な。その1点で、お前よりも遥かにマシだと断言できるぜ」
彰がプレジデント・マスクに向き直った。
「来いよ変態マスク。俺とお前と、どっちが正しいか戦いで決めよう」
「どちらが正しいかなど明白だ。戦うまでもない」
それでもプレジデント・マスクは、レイ・バレルを構えた。
ミリィもまた、彼を見据えて思う。――目の前にいる敵は、変われない、変わろうともしない事を誇るすっとこどっこいだ。ならば言えることはただひとつ。
「邪魔だ退け、ロートル。私の生きようとする道を偉そうに塞ぐな」
そしてミリィは、彰のドラゴンチョッパーにユニゾンする。
彰がすかさずブルーゴーストで背後に回り込むと、相手のカウンターを誘いながら突進した。だが、プレジデント・マスクにはもうひとつの武器、レイ・エッジがある。ファングトルーパーズが飛び交うなか、対策もなく接近戦を挑むのは非常に危険だった。
ビートインパクトを乱打する彰。反撃を繰り出すプレジデント・マスク。放たれるディスコードが彰を蝕む。
防御という概念がすっかり抜け落ちている彰を、ミリィがヒールハルモニアで回復する。奏者として強化されていなかったら、戦闘不能になってもおかしくないほどの攻めだ。
そんな彰をフォローしつつ、ミリィがプレジデント・マスクを挑発する。
『そもそも、そのマスクは何です? 隠さなくてはならないほど、よっぽどぶさ……特徴的なお顔なんですか?』
「――逆に問おう。お前たちは何故マスクを付けていない」
『は?』
「人間にもディーヴァにも、個を識別する“顔”などというものはいらんのだ」
プレジデント・マスクはレイ・エッジを思いっきり振り下ろした。
「愚かな人と宝石の仔らよ――。個性とは恥と知れ! 自己主張は罪と知れ!」
『ちょっと何言ってるかわかんないわ。デザートローズ、この変態仮面にツッコミないの!?』
ミリィは、彼にユニゾンしているディーヴァに話を振った。しかし、デザートローズは何も応えない。
人を管理しようとするプレジデント・マスクに、盲従しているかのようだ。
だが、ミリィの挑発によって、デザートローズがユニゾンした強化スーツから、どことなく怒りのようなものを感じることができた。それは皮肉にも、意志を奪おうとするプレジデント・マスクに対してだけ、彼女が何かしらの意志を持っていることを示していた。
「アイツのディーヴァ、なんか可哀想」
ライカ・ペリドットが眉を顰めた。
「ディーヴァって人間が造ってくれたものなのに、主人に人間を否定されるなんてあんまりよ。だからとりあえず! アイツのディーヴァ……デザートローズを信じることから始めるわ!」
ライカはそう言ってキング・デイヴィソンのジェットパーカッションにユニゾンした。
プレジデント・マスクの作戦に加担してる以上、デザートローズにも従う理由があるのだろう。でも、だからといって、こんなことされて平気なわけがない。
そんなライカの想いを感じとりながら、キングはドラムセットの調子を確かめる。
(ユニゾンしてるならそこにはディーヴァが存在する。――ライカがどうしてもって言うんだ。どうにも彼女は同族に対して甘いようでね)
電子ドラムを周囲に飛ばし、演奏の準備を整えながら、キングは思索を続けた。
(だが、そこが彼女の良いところだ。仲間のためならどこまでも純粋になれる)
それに作戦としても、ライブが活用できる算段はあった。歌によってディーヴァの動きを止められたら、相手の戦力を大幅に削ることができる。
「ほとんど賭けみたいなものだ。が、たまには馬鹿な賭けも嫌いじゃないさ」
思慮深いキングにしては珍しい、大胆な作戦だった。
『おっしゃ! ばっちこーい!』
電子ドラムにユニゾンしたライカが、プレジデント・マスクの強化スーツに向かって叫んだ。
ディクトラドを会場にして、二人のライブが始まる。キングは凛々しい音楽を奏でつつ、スペクタクル・バトルで実戦さながらの殺陣を披露した。
『明らかにヤバイ奴だからね。攻撃が飛んでこないか見張ってるわ』
というライカに後押しされて、ダイヤモンドヴェールの輝きを纏ったキングは、優雅に、それでいて戦うように舞い踊る。
凛々しい音楽と、迫力のある衝撃を伝えながら、ライカが訴えた。
『ちょっとアンタ! そこにいんでしょ! アンタの主なら、あんたが止めてあげなさいよ!』
彼女の声は、硬く閉ざしたデザートローズの心に届かない。だが、ほんのわずか、プレジデント・マスクの動きが鈍ったように見えた。
「ドラムス・デザートローズだっけか、大統領のユニゾン相手。……やっぱ理詰めで戦う相手じゃないな」
千夏 水希が言った。隣ではスピネル・サウザントサマーがハードパンチャーⅡを構えている。
(ドラムは大人数で演奏する時ほど重要な位置、司令塔だ。デザートローズの宝石も愛と知性の象徴――。ってことは、さしずめ“冷静な狂人”ってところだな。いちばん面倒なタイプじゃねぇか)
不敵に頬を歪めながら、水希はスピネルのハードパンチャーⅡにユニゾンした。
『……初めてユニゾンする側になってみたものの、なんとも不思議な感覚だなこれ。ふわふわするつーかなんというか……。ま、それはおいといて。おいスピネル、好きにやっていいぞ』
「やった! 好きにしていいって言われた! よーし、やっちゃうぞぉ!」
スピネルが血気盛んに飛び出した。
ルナティックモジュールで、不協和音をかき鳴らす。耳障りな音で否応なしに注目させたら、チェイスブルーミングでハルモニアによる植物を発生させた。うねうねとした奇怪な植物に、スピネルは自分の身体を運ばせる。
「すっぴー登☆場! いぇい! 大統領は、このあたし!! なのでお前のことぶっとばしまーす!!!」
本当に好きにやりはじめたスピネルが、植物から飛び降り、水希のサディスティックブーツで地面を蹴り上げると、針山状になった影でプレジデント・マスクを牽制する。
さらに今度は宙を蹴ると、黒い衝撃波を放った。周囲に飛び交う小型ドローンが破壊される。
「大統領選挙だね! DD党とマスク党の一騎打ちなんてずるい。スピネル党も混ぜてよ!」
上から下から大忙しの攻撃を繰り出しながら、スピネルが高らかに演説をはじめた。
「あたしが当選したあかつきには、人と機械と自然……星が、より高次元での協奏ができる世界にしたいでーす!!」
「何をふざけたことを……」
マスク越しとはいえ、プレジデント・マスクの顔が引きつるのがわかるようだ。すぐさまレイ・バレルで反撃するが、スピネルはルチフェルの香炉を発動。カメラ目線のダブルピースでディスコードの刃を弾いた。
とってもいい笑顔を見せながら、続けざまスピネルはシクレシィエンブレイスを放つ。影が鞭のように伸び、ファングトルーパーズを絡め取ると、そのまま引き寄る。地面に叩きつけ、着地と同時にサディスティックブーツで踏み潰した。
スピネルの攻撃は順調だった。しかし、好き放題やったせいか、さすがに少し疲れが見えはじめている。
「やっぱり、アレをなんとかしないと」
桔梗が、共闘するハルに言った。アイドルたちの攻撃がなかなか本体まで届かないのは、周囲を飛ぶシールド機能付きドローンのせいだ。
トパーズがファントムチャージで攻撃音を発生させる。注意をこちらに向けさせ、あくまでもプレジデント・マスクを攻撃するよう見せかけながら、スピリングヒットで跳躍力を強化。
ジャンプと同時に、ドローンが回り込んでくる。
「――不意をついたつもりでしょうけど、お生憎さま! アタシの狙いは最初からアンタらよ!」
集まったドローンに向けて、桔梗はブレイズバンカーを振り下ろす。圧縮された音とともに激しく杭が打ち付けられる。
目の前のドローンを粉砕すると、桔梗は攻撃を中断し、ひとまず退いた。
後衛からはハルがレイ・バレルを構えている。今、彼女の目の前には小型ドローン群しかいない。仲間を巻き込む心配がなくなったハルは、全力でハルモニアをぶっ放した。
残りのファングトルーパーも、すべて破壊された。
撃墜されたドローンを見て、スピカをユニゾンさせたイザークがぼそっと呟く。
「……やったのか?」
「ちょっと! そういう言い方はやめてよ! それって新手が襲ってくるフラグじゃない!!」
ハルがツッコミを入れると、レイ・バレルを構えなおし、すぐに周囲を警戒した。
しかし、何も襲ってこなかった。
「本当にやってたのね!?」
ちょっと拍子抜けしたようにハルは言った。
そんなハルの様子を、桔梗は微笑みながら眺めていたが、気を取り直すとフェスタ生に向かって叫んだ。
「さあ、皆! 後は思いっきり本人を殴っちゃって!」
「よっしゃいまだー!!」
最後の力を振り絞ってスピネルが飛び出した。渾身のトレイルサンダー。電撃をはらむ水希の幻を出現させる。
『まだ暴れたりないんだろ。これ使え』
「じゃー借りるよ、千夏」
スピネルが、水希から固有スキル【ダークスター・ブレード】を受け取った。闇を喰らう最悪の黒刃で、プレジデント・マスクに斬りかかる。それでも物足りないとばかりに、余力を振り絞ってヒーローズコートを全開。攻撃力を極限まで引き上げて、怒涛の連続攻撃だ。
「ぐっ……」
屈強なプレジデント・マスクが、思わずうめいた。レイ・エッジで迎撃するが、スピネルの猛攻の前に、その刃は砕け散る。
「よっしゃあ……ぁぁ……ぁ…………」
スピネルが勝鬨の声を上げたが、それは急速にしぼんでいった。さんざん暴れ尽くした彼女は、遊び疲れた子供のように、その場にぶっ倒れたのであった。