ラスト・メドレー! ~華乱葦原/クロスハーモニクス~
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華乱葦原・1
桜が咲き乱れる華乱葦原の特設ステージ。舞台の側に聳え立つ、ひときわ大きな桜の木を見上げて、弥久 風花は身体中に震えるような高揚を感じた。
「こんなにも桜が綺麗なんだもの。楽しんで、楽しませて、踊って、歌って……笑わなきゃ損ってモノよ!」
風花が客席に視線を移すと、そこはすでに敷物が広げられ、花見客が詰めかけていた。名物である桜稜郭の桜をひと目見ようと、遠方からはるばる足を運んできた者もいる。
もっとも、彼らの目当ては桜だけではない。遊び人のシンの手引きによって開催された舞芸合戦。腕に自信のある者から、ただの賑やかしまで、さまざまな舞芸者がステージで芸を披露していった。
「――いよいよ、私たちの出番ね」
直前の演目が終わると、風花はこみ上げてくる熱い気持ちを抑えつつ、大蓮の衣をたなびかせて舞台へと歩いていく。
お待ちかね、ふぇすた座の開演である。
最初はしめやかに、音もなく踊りを披露していく風花。葦原・花の舞による花びらで観客たちの注目が徐々に集まるのを感じる。それに合わせ、花びらの量も少しずつ増やしていた。
「さあ、皆も踊って!」
一段と動きを激しくすると、風花が観客を誘った。舞台の上を縦横無尽に踊り回る。テンションはアゲアゲ。桜の花びらはマシマシだ。
動きを途切れさせず、風花は天津奏で舞いに移行する。淡く美しい色の衣が翻り、金の刺繍が施された袖が艶やかに輝く。
手にした陽の天津弦杖をかき鳴らし、朝日のような清々しい音色を響かせながら、風花が熱唱したのは、始まりを告げる歌――迎春六駆だ。
「今日は思いっきり楽しもーーっ!」
歌の終わりで風花が叫べば、花見客からも大歓声が上がる。それに両手を振って応えつつ、会場の興奮が落ち着きを見せはじめた頃合いに、風花は一気に神通天幕を広げた。ステージが一転、神々しい雲海と光芒の満たす空に変わった。
粋な演出で締めくくると、風花は舞台袖へ速やかに移動する。
「あー楽しかった! 次の人、がんばってね!」
そう言って、渋谷 柚姫と羽鳥 唯の肩をぽんっと叩いた。
「まかせて。私たちもすっごく盛り上げるから!」
元気づけられたように柚姫がステージへと駆け出す。一方の唯としては、故郷であるディスカディアがピンチだと聞いてちょっぴり心配していたが、風花に肩を叩かれて気持ちが切り替わったのだろう。
「……戦闘が苦手な私が行っても、あまり役に立てないかもしれません。なら、今やることはひとつです」
決心したように頷くと、唯もまたステージへと駆け出して行った。
そんな二人を見送りながら、風花が満足そうに頷く。
「面白くなってきたわ! せっかくだから舞台袖じゃなくて、観客席から見てみたいわね。……そういえば観客に回ったことなかったし、この際だもの。思いっきり楽しんじゃおっと!」
風花は衣装を着替えて、顔を隠すと、観客席にこっそりと紛れ込んでいったのであった。
舞台に上がった柚姫もまた神通天幕を広げ、夜の星空のステージを継続させた。
その隙に、ロックンロール仲間である輝夜と、彼女の母親イザナミを誘う。
「二人ともステージに上って!」
「おっけ、輝夜ちゃんの出番ってわけね。ほら、ママも早く!」
輝夜がイザナミに腕を引いた。しかしライブにノリノリの娘とうらはら、その母親は心の底から面倒くさそうだ。
「……なんじゃ。無理やり連れ出したかと思えば、今度はらいぶをやれとな。老体に鞭打つとは、とんだ悪童どもじゃのう」
「都合のいいときだけ年寄りぶらないでよ!?」
困惑気味にツッコむ輝夜。そんな彼女をフォローするように、柚姫が声を掛けた。
「イザナミさんには暗闇のパフォーマンスをお願いしたいの。それなら得意でしょ?」
「うむ。闇と静寂だけがわらわの友達じゃ」
陰キャ丸出しのセリフを告げるやいなや、イザナミが片手を振り下ろし、ステージ上から光を払った。薄闇に包まれたのを確認してから、柚姫が舞芸:悪華鳳凰を発動する。
幕が開くと、観客たちの目にステージを舞う二羽の灼熱の鳥が飛び込んだ。鳳には舞神の輝気を纏った唯が、凰には仁王立ちする輝夜が乗っている。
「せっかくのお花見です。派手に盛り上がりましょう!」
唯が存在感たっぷりに言い放つと、花見客からひときわ大きな歓声が沸き上がる。炎と共に夜焔の六弦琴をかき鳴らせば、輝夜も応じるようにギターの弦を弾く。
「どちらがいい演奏ができるか勝負ですよ、カグヤ」
「望むところよ! えいやっ!」
二人のギターから発せられるのは、猛々しい和風ロック――題してヨザクラ・ロックンロールだ。
地球と華乱葦原の音楽を昇華させたロックが鳴り響く。弦をかき鳴らす度に、薄闇の中を超自然の炎がほとばしった。そこに熱源は存在しないはずだが、二人のライブに興奮する花見客たちは皆、燃えるような熱さを感じていた。
激しいロックが終わると、続けざま演奏したのはラブソングだ。鳳の上で踊りを披露しつつ、唯が歌声を響かせる。
曲がサビに差し掛かったところで、二匹の灼熱の鳥は急接近。黒い火の粉を散らしながら合体する。
一つになった鳳凰の上では、唯と輝夜が、息を合わせて踊っていた。
歌が終わるタイミングで、柚姫が舞芸:望月兎戯を発動した。巨大な満月の幻のなかに、唯と輝夜が飛び込んでいく。
無重力状態のなかで二人はふわっと地上に着地。その姿はまるで、月で戯れる二匹の兎のようだ。
(主役は唯だけど、僕も負けないよう頑張るよ)
桜の花弁を舞い上げると、柚姫は流花琵琶を奏でた。流麗な音色と、舞い上がる桜の花びらに歓迎されながら、月光の下で唯と輝夜は見つめ合い、ポーズを取った。
客席から歓声が沸き上がる。割れるような拍手を浴びながら、輝夜がにっこりと笑った。
「あー気持ちよかった! あんたたちのライブ、さいこーね!」
出番の回ってきた死 雲人もまた、輝夜とイザナミを誘う。
「俺はお前等を招待する。最高の花見にして自分の思いを成し遂げろ!」
ステージから吠舞子で堂々と発言すると、夜焔の六弦琴から炎を揺らめかせつつ、ラブソングを奏でた。弦を爪弾く指は時に激しく、時に優しく。愛撫するような雲人の指さばきにギターが喘ぐ。
そこには雲人なりの、大切な人に尽くす意志が込められていた。彼は誘った二人を交互に見ながら告げる。
「輝夜とイザナミは俺の女だからな。愛する女達のために俺は踊るぞ!」
「だ、だから、あたしはあんたの女じゃないったら!」
「ふっ。輝夜のツンデレが俺にアプローチしてる証拠だ。可愛すぎる奴だな」
「いや……どもっちゃったのは別にツンデレとかじゃないし……」
真剣に否定したつもりの輝夜だったが、雲人は動じなかった。それどころか、今度はイザナミにアプローチする。
「イザナミ。お前がどうであれ、お前は俺の女だ」
「まあ口説きたい気持ちもわからんではないぞ。わらわは美しいゆえな!」
けらけらと笑うイザナミだったが、一転、その表情が険しくなった。
「じゃがこの美しさ、こせがれにくれてやるほど安くはないぞ」
すごんでみせるイザナミ。さすがは黄泉の神だけあって、なかなかの迫力である。
しかし雲人はいっこう動ぜず、舞台でお神酒を呑んでいた。
「どうだ、イザナミも一献」
お神酒を勧めながら、にやりと笑うと、天下御免羅舞存句を奏でる。
桜が舞い散るなかで、再び吠舞子で気持ちを告白した。
「イザナミ、俺はどの男よりも最高だぞ。――俺は本気だ。お前も娘も、本気で愛する」
「……ほんとに、懲りない男じゃのう」
呆れながら苦笑しつつも、イザナミは勧められた神酒をぐびっと呑み干した。
桜舞うステージに、一羽の雪兎が現れた。透けるような羽織衣を纏ったアルネヴ・シャホールである。
妖しげな色気を放ちつつ、魔法のオルガンでどこか悲しげな曲を奏でながら、アルネヴは恋人の輝夜をステージに招いた。
(輝夜さんとの共演を楽しみたいのは勿論だけど……)
アルネヴは客席でくつろいでいるイザナミに視線を移す。
(……お母さんにもボク達の仲を認めてもらうチャンス! 今までの集大成、最高のライブをしよう)
二人は短く頷き合うと、輝夜が妖術の炎を放った。ゆらめく炎の柱に向け、アルネヴはアイスフィールドで氷の粒を撒く。
オルガンの悲しい旋律が強くなる。ステージ上に灯る紅と蒼の光は、これまで華乱葦原で起こった数々の事件――それによって生じた憎しみと哀しみを伝えていた。
「だけどボク達は、多くの苦難を乗り越えることができた。現在の平穏を、皆が笑い合える春を掴み取ったんだ」
アルネヴがオルトシルフィードの風を起こすと、二つの光は優しく溶け合い、後には風が運んできた桜の香りだけが残った。
春を告げる風と共に、アルネヴは曲を切り替えた。輝夜から教わった迎春六駆だ。
歌の効果を引き出すために、アルネヴは輝夜を見つめて宣言する。
「新年の抱負にして、生涯の抱負を。……ボクは愛する人との春を、永遠に守り続ける。馬鹿正直で猪突猛進な愛だけど……。輝夜さん。ボクについて来て」
「えっ……! う、うん……。たまに追い抜いちゃうかもだけど、あたしもずっと、そばにいたいかな、なんて」
頬を染めて、輝夜はしどろもどろに応えた。
そんな彼女を見守るアルネヴの胸では、ハート型のアメジストが、いつも以上に尊い輝きを放っていた。
「ほほう。ずいぶんと見事ならいぶじゃったな」
舞芸を終えて戻ってきたアルネヴと輝夜を、イザナミが愉快そうに出迎えた。
「先ほどの抱負じゃが、努々(ゆめゆめ)忘れるでないぞ。そうじゃな、せめてこの桜がすべて散るまでは、一緒におることじゃ」
尽きることのない桜の花びらを見渡しながら、イザナミは娘の門出を祝うように笑った。
桜が咲き乱れる華乱葦原の特設ステージ。舞台の側に聳え立つ、ひときわ大きな桜の木を見上げて、弥久 風花は身体中に震えるような高揚を感じた。
「こんなにも桜が綺麗なんだもの。楽しんで、楽しませて、踊って、歌って……笑わなきゃ損ってモノよ!」
風花が客席に視線を移すと、そこはすでに敷物が広げられ、花見客が詰めかけていた。名物である桜稜郭の桜をひと目見ようと、遠方からはるばる足を運んできた者もいる。
もっとも、彼らの目当ては桜だけではない。遊び人のシンの手引きによって開催された舞芸合戦。腕に自信のある者から、ただの賑やかしまで、さまざまな舞芸者がステージで芸を披露していった。
「――いよいよ、私たちの出番ね」
直前の演目が終わると、風花はこみ上げてくる熱い気持ちを抑えつつ、大蓮の衣をたなびかせて舞台へと歩いていく。
お待ちかね、ふぇすた座の開演である。
最初はしめやかに、音もなく踊りを披露していく風花。葦原・花の舞による花びらで観客たちの注目が徐々に集まるのを感じる。それに合わせ、花びらの量も少しずつ増やしていた。
「さあ、皆も踊って!」
一段と動きを激しくすると、風花が観客を誘った。舞台の上を縦横無尽に踊り回る。テンションはアゲアゲ。桜の花びらはマシマシだ。
動きを途切れさせず、風花は天津奏で舞いに移行する。淡く美しい色の衣が翻り、金の刺繍が施された袖が艶やかに輝く。
手にした陽の天津弦杖をかき鳴らし、朝日のような清々しい音色を響かせながら、風花が熱唱したのは、始まりを告げる歌――迎春六駆だ。
「今日は思いっきり楽しもーーっ!」
歌の終わりで風花が叫べば、花見客からも大歓声が上がる。それに両手を振って応えつつ、会場の興奮が落ち着きを見せはじめた頃合いに、風花は一気に神通天幕を広げた。ステージが一転、神々しい雲海と光芒の満たす空に変わった。
粋な演出で締めくくると、風花は舞台袖へ速やかに移動する。
「あー楽しかった! 次の人、がんばってね!」
そう言って、渋谷 柚姫と羽鳥 唯の肩をぽんっと叩いた。
「まかせて。私たちもすっごく盛り上げるから!」
元気づけられたように柚姫がステージへと駆け出す。一方の唯としては、故郷であるディスカディアがピンチだと聞いてちょっぴり心配していたが、風花に肩を叩かれて気持ちが切り替わったのだろう。
「……戦闘が苦手な私が行っても、あまり役に立てないかもしれません。なら、今やることはひとつです」
決心したように頷くと、唯もまたステージへと駆け出して行った。
そんな二人を見送りながら、風花が満足そうに頷く。
「面白くなってきたわ! せっかくだから舞台袖じゃなくて、観客席から見てみたいわね。……そういえば観客に回ったことなかったし、この際だもの。思いっきり楽しんじゃおっと!」
風花は衣装を着替えて、顔を隠すと、観客席にこっそりと紛れ込んでいったのであった。
舞台に上がった柚姫もまた神通天幕を広げ、夜の星空のステージを継続させた。
その隙に、ロックンロール仲間である輝夜と、彼女の母親イザナミを誘う。
「二人ともステージに上って!」
「おっけ、輝夜ちゃんの出番ってわけね。ほら、ママも早く!」
輝夜がイザナミに腕を引いた。しかしライブにノリノリの娘とうらはら、その母親は心の底から面倒くさそうだ。
「……なんじゃ。無理やり連れ出したかと思えば、今度はらいぶをやれとな。老体に鞭打つとは、とんだ悪童どもじゃのう」
「都合のいいときだけ年寄りぶらないでよ!?」
困惑気味にツッコむ輝夜。そんな彼女をフォローするように、柚姫が声を掛けた。
「イザナミさんには暗闇のパフォーマンスをお願いしたいの。それなら得意でしょ?」
「うむ。闇と静寂だけがわらわの友達じゃ」
陰キャ丸出しのセリフを告げるやいなや、イザナミが片手を振り下ろし、ステージ上から光を払った。薄闇に包まれたのを確認してから、柚姫が舞芸:悪華鳳凰を発動する。
幕が開くと、観客たちの目にステージを舞う二羽の灼熱の鳥が飛び込んだ。鳳には舞神の輝気を纏った唯が、凰には仁王立ちする輝夜が乗っている。
「せっかくのお花見です。派手に盛り上がりましょう!」
唯が存在感たっぷりに言い放つと、花見客からひときわ大きな歓声が沸き上がる。炎と共に夜焔の六弦琴をかき鳴らせば、輝夜も応じるようにギターの弦を弾く。
「どちらがいい演奏ができるか勝負ですよ、カグヤ」
「望むところよ! えいやっ!」
二人のギターから発せられるのは、猛々しい和風ロック――題してヨザクラ・ロックンロールだ。
地球と華乱葦原の音楽を昇華させたロックが鳴り響く。弦をかき鳴らす度に、薄闇の中を超自然の炎がほとばしった。そこに熱源は存在しないはずだが、二人のライブに興奮する花見客たちは皆、燃えるような熱さを感じていた。
激しいロックが終わると、続けざま演奏したのはラブソングだ。鳳の上で踊りを披露しつつ、唯が歌声を響かせる。
夜桜の中あなたに問う
この想いは散るの? 咲くの?
この想いは散るの? 咲くの?
曲がサビに差し掛かったところで、二匹の灼熱の鳥は急接近。黒い火の粉を散らしながら合体する。
一つになった鳳凰の上では、唯と輝夜が、息を合わせて踊っていた。
桜はいずれ散る定め
ほんの短い間しか咲かない儚い花だけど
でもだからこそ 華は美しく咲くのでしょう
ほんの短い間しか咲かない儚い花だけど
でもだからこそ 華は美しく咲くのでしょう
歌が終わるタイミングで、柚姫が舞芸:望月兎戯を発動した。巨大な満月の幻のなかに、唯と輝夜が飛び込んでいく。
無重力状態のなかで二人はふわっと地上に着地。その姿はまるで、月で戯れる二匹の兎のようだ。
(主役は唯だけど、僕も負けないよう頑張るよ)
桜の花弁を舞い上げると、柚姫は流花琵琶を奏でた。流麗な音色と、舞い上がる桜の花びらに歓迎されながら、月光の下で唯と輝夜は見つめ合い、ポーズを取った。
客席から歓声が沸き上がる。割れるような拍手を浴びながら、輝夜がにっこりと笑った。
「あー気持ちよかった! あんたたちのライブ、さいこーね!」
出番の回ってきた死 雲人もまた、輝夜とイザナミを誘う。
「俺はお前等を招待する。最高の花見にして自分の思いを成し遂げろ!」
ステージから吠舞子で堂々と発言すると、夜焔の六弦琴から炎を揺らめかせつつ、ラブソングを奏でた。弦を爪弾く指は時に激しく、時に優しく。愛撫するような雲人の指さばきにギターが喘ぐ。
そこには雲人なりの、大切な人に尽くす意志が込められていた。彼は誘った二人を交互に見ながら告げる。
「輝夜とイザナミは俺の女だからな。愛する女達のために俺は踊るぞ!」
「だ、だから、あたしはあんたの女じゃないったら!」
「ふっ。輝夜のツンデレが俺にアプローチしてる証拠だ。可愛すぎる奴だな」
「いや……どもっちゃったのは別にツンデレとかじゃないし……」
真剣に否定したつもりの輝夜だったが、雲人は動じなかった。それどころか、今度はイザナミにアプローチする。
「イザナミ。お前がどうであれ、お前は俺の女だ」
「まあ口説きたい気持ちもわからんではないぞ。わらわは美しいゆえな!」
けらけらと笑うイザナミだったが、一転、その表情が険しくなった。
「じゃがこの美しさ、こせがれにくれてやるほど安くはないぞ」
すごんでみせるイザナミ。さすがは黄泉の神だけあって、なかなかの迫力である。
しかし雲人はいっこう動ぜず、舞台でお神酒を呑んでいた。
「どうだ、イザナミも一献」
お神酒を勧めながら、にやりと笑うと、天下御免羅舞存句を奏でる。
桜が舞い散るなかで、再び吠舞子で気持ちを告白した。
「イザナミ、俺はどの男よりも最高だぞ。――俺は本気だ。お前も娘も、本気で愛する」
「……ほんとに、懲りない男じゃのう」
呆れながら苦笑しつつも、イザナミは勧められた神酒をぐびっと呑み干した。
☆☆☆
桜舞うステージに、一羽の雪兎が現れた。透けるような羽織衣を纏ったアルネヴ・シャホールである。
妖しげな色気を放ちつつ、魔法のオルガンでどこか悲しげな曲を奏でながら、アルネヴは恋人の輝夜をステージに招いた。
(輝夜さんとの共演を楽しみたいのは勿論だけど……)
アルネヴは客席でくつろいでいるイザナミに視線を移す。
(……お母さんにもボク達の仲を認めてもらうチャンス! 今までの集大成、最高のライブをしよう)
二人は短く頷き合うと、輝夜が妖術の炎を放った。ゆらめく炎の柱に向け、アルネヴはアイスフィールドで氷の粒を撒く。
オルガンの悲しい旋律が強くなる。ステージ上に灯る紅と蒼の光は、これまで華乱葦原で起こった数々の事件――それによって生じた憎しみと哀しみを伝えていた。
「だけどボク達は、多くの苦難を乗り越えることができた。現在の平穏を、皆が笑い合える春を掴み取ったんだ」
アルネヴがオルトシルフィードの風を起こすと、二つの光は優しく溶け合い、後には風が運んできた桜の香りだけが残った。
春を告げる風と共に、アルネヴは曲を切り替えた。輝夜から教わった迎春六駆だ。
歌の効果を引き出すために、アルネヴは輝夜を見つめて宣言する。
「新年の抱負にして、生涯の抱負を。……ボクは愛する人との春を、永遠に守り続ける。馬鹿正直で猪突猛進な愛だけど……。輝夜さん。ボクについて来て」
「えっ……! う、うん……。たまに追い抜いちゃうかもだけど、あたしもずっと、そばにいたいかな、なんて」
頬を染めて、輝夜はしどろもどろに応えた。
そんな彼女を見守るアルネヴの胸では、ハート型のアメジストが、いつも以上に尊い輝きを放っていた。
「ほほう。ずいぶんと見事ならいぶじゃったな」
舞芸を終えて戻ってきたアルネヴと輝夜を、イザナミが愉快そうに出迎えた。
「先ほどの抱負じゃが、努々(ゆめゆめ)忘れるでないぞ。そうじゃな、せめてこの桜がすべて散るまでは、一緒におることじゃ」
尽きることのない桜の花びらを見渡しながら、イザナミは娘の門出を祝うように笑った。