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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

ラスト・メドレー! ~華乱葦原/クロスハーモニクス~

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ラスト・メドレー! ~華乱葦原/クロスハーモニクス~

リアクション

ネヴァーランド・3


「月喰いは人が好き。ならばきっと人が月喰いを好きになることだってできるさ」
 アーヴェント・ゾネンウンターガングがステージに躍り出て言った。
「だからこそ歌おう、騒ごう。この愛すべきネヴァーランドの誕生を祝って!」
 御空 藤もゴシック調のドレスをくるくると翻して、両手を空に広げる。
「ネヴァーランドの誕生日をお祝いしよ。今日の合言葉は――“おめでとう!”」
 藤が、黒猫をモチーフにしたギターを鳴らした。響くギターの歌声に、どこからともなく笛や太鼓の音が重なりはじめる。アーヴェントが箱庭行進曲をそっと奏でているのだ。
 玩具の箱庭に命が吹き込まれていく。さらにアーヴェントがティーアの宴を振るえば、どこからともなく小動物が現れて、一緒に踊りだす。
「せっかくだしみんなにも加わってもらお。祝う心があれば一緒に踊れるから!」
 藤が客席にアピールすると、ネヴァーランドの住民も音楽に合わせて身体を揺らした。
 ふたたびアーヴェントが指揮棒を振り、呪文を唱えると、あら不思議。魑魅魍魎のグリモワールから魔物が飛び出し、わいわい、がやがや、お祭り騒ぎだ。
 ステージ上はまるでおもちゃ箱をひっくり返したような賑わいをみせている。
「楽しい楽しいバースデーパーティー! 参加しなきゃソンでしょ? さぁさ皆様、お手を拝借!」
 藤が粉雪のジュエルを放てば、その輝きの中を紫蒼の風箒がユラユラと歩く。歩く箒に月喰いたちが興味を示し、真似するようにユラユラ歩いていった。
 会場が一体になるのを感じた藤は、ここぞとばかりにキャッチフレーズ。
「ハッピーバースデー、みんな! 月喰い達も! 生まれてきてくれて、ありがとう!」
 グラン・ギニョル劇場が大歓声に包まれる中。ずっと鳴り続けていた箱庭行進曲に合わせて、藤はハッピーバスデーの歌を歌唱した。
「誕生日を祝いたいなら、さあ、この指とまれ!」
 アーヴェントが、ピーターパン・シンドロームを発動した。皆でふわりと空に浮かんで、夢見るようにステージ上を漂う。
 藤とアーヴェントが笑顔でハイタッチ。それを見ていた月喰いたちも、空中をもがきながら、手を差し出してくる。
「月喰いも一緒に歌いましょ? あなたに触れて、声を合わせて歌えたら、もう友達だよね!」
 藤が手を重ねながら、ハッピーバースデーの歌を、月喰いと一緒に歌った。

 しかし、藤にはひとつ気がかりがあった。†タナトス†である。彼もまた皆と同じようにライブを楽しんでいたが、ときおり、とても寂しそうな表情を浮かべているのだ。
「……ねえ、†タナトス†。あなたの過去は、この世界にとっては間違いだったのかもしれない」
 藤が、†タナトス†に近づいて言った。
「でもそれはね、世界の方が間違っていたんだよ。こうして皆が、今日という日をお祝いして笑ってる。この未来だけは絶対に間違いなんかじゃないよ」
「そうなると、いいよね」
 †タナトス†が精一杯、シリアスを拒否するように肩をすくめた。その両腕からは、かすかに花の匂いがした。彼が死者を弔うために捧げている花束の匂いだ。
「ほら。†タナトス†も歌おう? 一緒にネヴァーランドの誕生日をお祝いしよーよ」
 †タナトス†は、少し照れくさそうに、祝福の歌を口ずさんだ。藤に合わせて声を重ねた。ネヴァーランドの人々がその強さで受け入れた、正しくない世界と命を祝福するために。

「安寧の世界は神と吸血鬼の争いを生み、†タナトス†の降臨によって世界一長い夜が訪れた。クレセントハートの誕生で、死が目覚め、葬儀屋が芽吹き、花と亡骸は大地に還る」
 アーヴェントが呟きながら、目の前に広がる光景を見渡した。この世界の歴史を、歩んできた道を、その誕生を、そして続いていく未来に。“第49使徒”として祝福しよう――。
「誕生日おめでとう! ネヴァーランド!」
 晴れ晴れとして気持ちで叫んだアーヴェントへ、上空から眺めていた神様が、ぼそりと呟いた。
「……ダンケシェーン」



 ネヴァーランドは愉快な世界のようで、歪んだ作り物のような世界だった。それが今、あるべき姿に戻ろうとしている――。ノーラ・レツェルは月喰いに寄り添いながら、そんなふうに考えた。
「辛いこと、悲しいこと、楽しいこと、嬉しいこと。全てが揃って幸せを感じられるものだから。きみ達が人間を襲ったのは、それらを何も知らなかったからだよね」
 箱庭行進曲で楽しげな曲を奏でながら、ノーラは語りかける。
「きみ達が、人を襲わないで済むように。ぼくが贈ろう。今まで学んできたことを全て」
 トッカータの我儘で、音に深みを持たせながら、ノーラは演奏をつづける。――人に感動を与える歓びを。想いを伝える楽しさを。上手くいかないもどかしさを込めて。
 それらはノーラ自身がライブを通じ、アイドルとして学んできた事でもあった。ちょっとずつでもいい。月喰いたちに学んでいってほしい。世界を彩るための、心からの感動を。
「一緒に……楽しんでくれたらうれしいなぁ」
 ソアレクイエムで歌詞を乗せて、ノーラは歌った。

おめでとう
今日は貴方の誕生日
自分の殻を破った日

ありがとう
変わろうと思ってくれて
その勇気がぼくの力になる

考え方を変えるのは難しい
だからできた時、嬉しくなる

旅立とう
同じ場所ではつまらない
色々なことを知ろう

飛び立とう
出来ないなんてことはない
やろうと思うことが大切



☆☆☆



 フェスタ生たちのライブも、いよいよ佳境に差し掛かる。
 狛込 めじろはだいぶ人に懐いてきた月喰いを見ながら呟いた。
「あの頃は†タナトス†さまのデザインセンスまじ厨二病ですねって思ったけど、今こうして見たら、月喰いちゃん案外カワイイ……かも?」
 首を傾げつつも、めじろは考え直す。
――可愛いは作れる! それは月喰いとて例外じゃないはずだ。
「きっと寂しがり屋なんですよね。生まれたばかりの赤ちゃんなんだよね。いわゆるイヤイヤ期を乗り越えて可愛い盛りの子供だと思えばあのくねくねも可愛……かわ…か……やっぱりちょっと見た目怖いですー!?」
 駄目だった。
 ネヴァーランドの人たちが月喰いを怖がるのも仕方ないと、めじろは思った。それに、彼らがしたことはまだ記憶に新しく、今や身近な死の象徴でもある。
 だからこそ、葬儀屋であるめじろは立ち上がった。パーティをしよう。悲しい思い出は、楽しい思い出で塗り替えてしまえばいい。
「月喰いちゃんが生まれてきてくれたこと。神様が産んでくれたこと。ネヴァーランドの人と一緒に過ごせること。みんなでお祝いしましょう! 葬儀屋は冠婚葬祭ぜーんぶ、やっちゃえますからね!」
 狂信者のフラメンコを踏み鳴らし、みんなの注目を集めれば、《慰霊》舞踏夜会葬の開催だ。ステージ上に青白い姿の亡霊たちがゆらゆら現れる。
 景気のよい足拍子に誘われて、亡霊たちが楽しげに踊っていた。死とは、悲しむためだけにあるのではない。亡霊たちの陽気なダンスがそれを教えてくれる。
「観客も月喰いちゃんも、この夜会の大切な賓客ですよ。あ、でもわたしこういう貴族っぽい夜会のダンスはよくわかんないかも……」
 めじろは、トラウ・ヴィナスに話しかけた。
「トラウくんは初めてネヴァーランドに来たとき、伯爵として舞踏会してましたよね? 良ければリードして欲しいかな、なんて!」
「この俺様と同じ舞台にあえて上がろうなどとは……。フン、面白い女だ」
 高圧的な態度をとりつつも、めじろの手を優しく取ると、なんだかんだでしっかりエスコートするトラウであった。
 青白い亡霊たちに囲まれて、葬儀屋と吸血鬼が優美に踊る。
「しかしあれだな。こぞって誕生日だの慰霊だのと宣ってるが、俺様は別に誕生日でも命日でもないぞ」
「ふふふ。それでもいいじゃないですか」
 踊りながら、めじろが微笑んだ。
「“お誕生日じゃない日おめでとう”ですよ。何でもない平和なこの日を、祝いましょう」
 めじろはそう言うと、月喰いの方を見やりながら、キズナ・エフェクトを発動させた。
“何でもない日おめでとう”で“月”喰いとくれば、呼び出す動物は、そう……。
「おいで、うさぎちゃん!」
 虹色に輝く兎たちが、月喰いの周りをぴょんぴょん飛び回った。月喰いも嬉しそうに、ぽっと頬を染めている。
 その様子を見つめながら、めじろは満足そうに呟いた。
「……ほら。やっぱり、可愛いは作れるんですよ」


 シックなドレスを身に纏った空花 凛菜がステージに立つと、気品のある振る舞いで一礼した。
 顔を上げた凛菜は、凛々しい赤色の瞳を月喰いに向けた。
「やはり心があるほうが、人生は豊かになると思うのです」
 “人”のところでほんの少し首を傾げながら、凛菜は続ける。
「月喰いさん達に心が芽生えるように――。皆さんで楽しく踊りましょう♪」
 凛菜はまず、あらかじめステージ上に植えていた【たけのこタンゴ】と、【きのこポルカ】を紹介した。日の当たる場所ではたけのこが、じめじめした場所ではきのこが、時折くねくねと踊っていた。
 キラキラした民謡を口ずさみながら、凛菜はブーギーハルモニアを客席に届ける。観客が気ままに踊り出したのを見てとると、凛菜は両手を広げて告げた。
「神様、†タナトス†様、えんじぇりっく☆カルテットの皆さん、それにトラウさんやレイニィも! さぁ、一緒に踊りましょう♪」
 笑顔で呼びかけ、皆をステージ上に招く。そしておもちゃの舞踏会を開催すれば、劇場にある様々な小道具までもが、楽しげに踊りはじめた。
 踊りの輪の中には、もちろん月喰いたちもいる。空からはジュエルのような光が降り注ぎ、ステージをカラフルに彩っていた。
 もはやこの世界に踊らないものはないのではないかと思えるような、ワクワクする空間を創り出すと、凛菜はいつものように礼儀正しくお辞儀をしてから、上品な足取りでステージを降りていった。


 フェスタ生たちのライブの余韻はしばらく続いた。劇場に集まった人々の胸の奥には、楽しげなリズムがずっと鳴り続けていた。
 しかし。
 ふいに、月喰いの動きが止まった。カラフルな光が突然消えると、彼等はぼーっと空を見つめたまま、微動だにしなくなったのだ。
 そんな月喰い達を見下ろしながら、神様がいたずらっぽく呟いた。

「……おや!?
 つきぐいの ようすが……!」
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