時を超えるために
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リアクション
■今日のライブは『最高』であり、『最後』ではない――5
あなたの得意なことは 何ですか?
「えっと……目覚ましが無くても決まった時間に起きられます!」
あなたの得意なことは 何ですか?
「……どんなに忙しくても、朝ごはんはちゃんと食べる……食べるの大事」
ジュヌヴィエーヴ・イリア・スフォルツァの歌に観客が答えるたび、会場に星が満ちていく――黄金の雲に乗った春瀬 那智が灯篭を揺らしながら、小さな光を散らして星としていた――。
「今の俺は灯台。夜空に星を浮かべ、夜の後に続く朝までの道を照らそう」
ジュヌヴィエーヴとクロノスが乗る船を先導するように、次々と雲を出して飛び移りながら、那智は会場が星でいっぱいになるまで光を生み出し続けた。
あなたの心にも きっと眩しい星明かり
誰かにとっての一番星
誰の心にも きっと綺麗な星明かり
あなたも誰かのスターになれる
そうして会場が星で満ちたところで、那智が足場の雲を消し、空中を滑るように下ってステージへ着地すると、そのまま息を呑むような激しくダイナミックな踊りを披露する。強くステージの床を蹴るたび、鈴のような音が鳴り、足元に美しい赤い花が咲いていく。その頃にはジュヌヴィエーヴとクロノスも乗っていた船からステージに足場を移し、ジュヌヴィエーヴに力を分け与えられた神獣ムジカが紡ぐウタで、ステージに柔らかな雨が降り、虹がかかる。
雨の後には虹がかかるように
夜は必ず明けるから
「雨が降れば花が咲き、花が笑えば虹がかかる。
アイドルじゃなくったって、誰だって誰かにとってのスターになれるんだ」
虹をそのままに、風景を庭園へと変え、一緒になって曲のラストを歌い上げる。
例えばあなたが立ち止まる時 僕が側で照らしてあげる
恐れないで 一緒に行こう
あなたも誰かにとっての希望の星――ヒロイックスター――
「クロノス様。わたくしたちが過去へ行くには、クロノス様のお力が必要です。……けれどその力の重みを、クロノス様だけに負わせたりはしません。
わたくしと、騎士様と、クロノス様――そして、ここにいるすべての方たちの心を音楽で繋いで、ひとつにして。ほんの少しでも、クロノス様が抱える重みを分かち合えるように」
クロノスに向き合って思いを伝えたジュヌヴィエーヴが、ふふ、と笑って続けて言った。
「いまはこうして、クロノス様と同じ舞台に立てたことが、とても嬉しいですわ♪」
「……私も、楽しかった。うん、ありがとう」
こくり、と頷きながら笑ったクロノスの顔を見て、那智も満足そうに頷いた。
(楽しんでもらえたなら何よりだ。これで少しは肩の力も抜けただろ)
そして最後は三人並んで、沸き起こる観客の声援に応えた――。
「世界が終わると多くの人が思っているいまの状況なら、推しだけを想い、推しへの気持ちを歌っても許されるよね?
僕が胸を張って主張できることでもあるわけだし」
そんな風に言い聞かせて納得させてから、橘 樹が予めこれからライブで歌う曲を聞かせておいたペンダントからエレメントを召喚する。エレメントにコーラスを担当してもらい、樹は衣装の効果で生み出した霧の中を、足元から水の波紋を立たせながら歩き、静かで厳かな推しへの信仰心を歌う。歌を耳にした観客がそこに秘められた想いに気づき始めたところで、間奏で激しく情熱的なダンスでもってその想いを炎に変えて燃え上がらせる。時折挟まれる光の演出も合わせて、推しへ恋い焦がれる気持ちといやいや待てよ、と葛藤するエゴのせめぎ合いを表現しきったところで、曲は盛り上がりの場面へと移っていった。
その声にその瞳に その手にその唇に
僕が囚われてしまうみたいに 願わくば僕も貴方を 傲慢なkredanto
樹の足元からカラフルなハートマークが舞い上がり、観客は熱烈なまでの推しへの恋心に共感して歓声をあげる。
(割りと観客置いてけぼりかなって思ってたけど、なかなか、ノってくれてるね。
それじゃこのまま、最後までいっちゃおう!)
世界が終わるかもしれないからこそ、胸に抱えたままの想いは激しく燃え上がる――そんな雰囲気を会場全体へと広げながら、樹はライブを締めくくった。
「天より堕ちし堕天使カイト。
皆さんの不安なんて、全部食べてしまいましょう?」
カイト・クラフレットが名乗りを上げた後、冷たい氷の国の扉が開き、風が観客に吹き付ける。風は観客の心に巣食っていた不安や恐怖をさらい、扉の向こうへと戻っていく。そして扉が閉まる直前、ステージには氷のようにキラキラと煌めいた装飾が生まれ、それは観客の身体にも施され、一体感を生んだ。
(世界が滅びてしまうのは、嫌です。僕にはまだまだやりたいことがたくさんあるんです。
いつか、アンラさんともライブをしたい。ようやく自分のやりたいことが、わかってきたんです)
だから、世界の滅びを止めるため――カイトは頭上を指差し、観客の頭上を星空ですっぽりと包み込んでしまう。
「いつから、世界が終わるなんてことを信じていたんですか? そんな悲しいことは、楽しくないことは僕達がさせません。
ほら、空を見上げてください」
言われるがまま、観客が空を見上げる。カイトが背中に黒い翼を生み出し羽ばたかせ、宙に浮かびながら星のひとつひとつを示して告げる。
「ほら、この星も、この星も……キラキラと光って、滅びなんて来ないと語っていますよ。
誰かが立ち上がって、希望になる。お星様の並びが語ってくれています」
実際に預言者ではないカイトの言葉は、疑いを持たれればすぐに瓦解する。けれど一時的に不安を取り除かれた観客は、そこに希望を見出し、幸せな未来の訪れを予感する。
「最後にフェスタのライブが見たいなんて、寂しいことを言わないでください。
また見にきたい。最後なんて嫌だ! そう言ってください、そうすれば、僕達は必ず、また、ライブをやりますから!」
「……そうだ、今日が『最後』なんじゃない。今日は『最高』で、また次のライブも『最高』なんだ!」
生まれた声はやがて、ステージ全体へと広がっていく。ライブが終わればまた観客は不安や恐怖を覚えるだろう。
しかしここで得た感動もまた、観客の心にしっかりと根付いていた――。
「『最悪のイドラ』に『原初のヒロイックソングス!』、そして時間遡行……もう、わけわかんないコトばかりだケド……」
不安げに呟いたレイ・トレードの目には、見慣れたはずのフェスタのステージでさえ、どこか違うところのように見えていた。
「でも、力を与えるライブってんナラ、全力でやるヨ!!」
こっからが――オレの! 魂のステージデス!!」
決意の表情に切り替わったレイが虹色のカーペットを渡りステージへと降り立つ。
「得意な事とか、アピールポイントとか言われても、全然わかんなかったケド――」
観客を前にして一度目を閉じたレイが、一呼吸置いてしっかりと目を見開いて告げる。
「『諦めない心』なら、絶対誰にも負けナイ! だから、自分は心をぶつけるヨ!!
たとえ、命尽きようとも決して砕けない、『諦めない心』を!!!」
いつからだろう? 諦め方、上手くなったのは
どこからだろう? 心の熱、消してったのは……
暗闇の中、自分の姿を輝かせてレイが歌う。
(自分にも、もしかしたら『オレ』にも、まだまだわかんないことばっかりだヨ。でもネ――)
押し留めても! 消そうとしても!!
隠しきれねェ! 抑えきれねェ!!
生きてるって そうだろう!
「綺麗じゃなくても、傷だらけで泥だらけでも、全力でぶつかり続けて、皆の心に火をつけて……それぞれの『罪』と向き合える強さを教えられる。
そんな、一見アイドルらしくない、獄卒アイドルになりたいっていう、まっすぐな夢だけは、絶対諦めナイ!
絶対、叶えるんダ!!」
ネヴァーギブアップ&レッツ!
シンク!!
ザ!!!
シンセカイ!!!!
『諦めない心』を前面に押し出したレイのシャウトがステージを満たした――。
「食事は一人で食べるより、みんなで作って、みんなと一緒に食べるほうが楽しいんだよ!
……ということで、今日はみんなで麻婆豆腐に挑戦しちゃおう!」
世良 延寿に招かれたクロノスと戦戯嘘の前に、食材が並べられた。
「さっきね、お弁当を差し入れしてもらったの。すごく美味しくて力が湧いてきた、だから、今度は私が……力が湧いてくるようなお弁当を作れたらって思った」
「おぉ、クロノスちゃんがとってもやる気なのよ! 私もお手伝いするのよ!」
やる気を見せたクロノスにならって、嘘もぐっ、と拳を握ってやる気をあらわにする。
「うんうん、その意気だよ! それじゃ二人には、ここの豆腐を麻婆に馴染むような大きさに崩してほしいな。豆腐は包丁で切るよりも手で崩した方がよく馴染むんだよ。見た目はちょっとグジャってなっちゃうけど、すごく美味しいんだ!」
クロノスと嘘に豆腐を担当してもらい、延寿は麻婆の調理に入る。タタタン、と包丁が軽快なリズムを刻み、食器がくるくると宙を舞い食材がフライパンの上で跳ねて踊る、普段元気いっぱいな延寿そのままの調理が行われていった。
「加減、難しいね……」
「むむむ、なのね……」
「大丈夫、上手にできなくていいんだよ。大切なのはきれいに作ることよりも丁寧に、心をこめて作ることだから」
「心をこめて……」
延寿のアドバイスを受けたクロノスと嘘が、丁寧に豆腐を崩して適度な大きさに分けていく。二人がそうして豆腐を崩し終えた頃には、ほかほかと湯気を立てる麻婆が完成間近となっていた。
「はわ~、すごくいい匂いなのよ~!」
「不思議……お腹が空いてくるように思えるし、なんだろう、気分がこう、高まってくる感じ」
「『辛さ』には食欲増進と、高揚感を刺激する効果もあるんだよ。
それじゃここに、二人が用意してくれた豆腐を入れて……はい、完成!」
麻婆に豆腐が投入され、すぐに麻婆豆腐ができあがった。もし延寿がお店を開けば行列必至の出来映えの麻婆豆腐が、熱々の状態で盛り付けられクロノスと嘘に振る舞われる。
「それじゃ、みんなで一緒に、いただきます!」
「いただきますなのよ~。……ん~! んんん~~~!!!」
「だ、大丈夫? 熱いから気をつけて」
クロノスに水を飲まされ、嘘がぜぇはぁ、と息を吐いた。
「熱かったのよ……でも、と~っても美味しいのよ!」
「じゃあ、いただきます……」
慎重に息を吹いて冷ましてから、クロノスが豆腐を口に入れる。ピリリと奔る辛さ、ボワッと生まれる熱、そしてふわっ、と口の中で崩れていく豆腐、これらが一度にやって来て、クロノスはなんて表現していいのか一瞬悩んでから、
「……美味しい」
笑顔でそう、告げた。
あなたの得意なことは 何ですか?
「えっと……目覚ましが無くても決まった時間に起きられます!」
あなたの得意なことは 何ですか?
「……どんなに忙しくても、朝ごはんはちゃんと食べる……食べるの大事」
ジュヌヴィエーヴ・イリア・スフォルツァの歌に観客が答えるたび、会場に星が満ちていく――黄金の雲に乗った春瀬 那智が灯篭を揺らしながら、小さな光を散らして星としていた――。
「今の俺は灯台。夜空に星を浮かべ、夜の後に続く朝までの道を照らそう」
ジュヌヴィエーヴとクロノスが乗る船を先導するように、次々と雲を出して飛び移りながら、那智は会場が星でいっぱいになるまで光を生み出し続けた。
あなたの心にも きっと眩しい星明かり
誰かにとっての一番星
誰の心にも きっと綺麗な星明かり
あなたも誰かのスターになれる
そうして会場が星で満ちたところで、那智が足場の雲を消し、空中を滑るように下ってステージへ着地すると、そのまま息を呑むような激しくダイナミックな踊りを披露する。強くステージの床を蹴るたび、鈴のような音が鳴り、足元に美しい赤い花が咲いていく。その頃にはジュヌヴィエーヴとクロノスも乗っていた船からステージに足場を移し、ジュヌヴィエーヴに力を分け与えられた神獣ムジカが紡ぐウタで、ステージに柔らかな雨が降り、虹がかかる。
雨の後には虹がかかるように
夜は必ず明けるから
「雨が降れば花が咲き、花が笑えば虹がかかる。
アイドルじゃなくったって、誰だって誰かにとってのスターになれるんだ」
虹をそのままに、風景を庭園へと変え、一緒になって曲のラストを歌い上げる。
例えばあなたが立ち止まる時 僕が側で照らしてあげる
恐れないで 一緒に行こう
あなたも誰かにとっての希望の星――ヒロイックスター――
「クロノス様。わたくしたちが過去へ行くには、クロノス様のお力が必要です。……けれどその力の重みを、クロノス様だけに負わせたりはしません。
わたくしと、騎士様と、クロノス様――そして、ここにいるすべての方たちの心を音楽で繋いで、ひとつにして。ほんの少しでも、クロノス様が抱える重みを分かち合えるように」
クロノスに向き合って思いを伝えたジュヌヴィエーヴが、ふふ、と笑って続けて言った。
「いまはこうして、クロノス様と同じ舞台に立てたことが、とても嬉しいですわ♪」
「……私も、楽しかった。うん、ありがとう」
こくり、と頷きながら笑ったクロノスの顔を見て、那智も満足そうに頷いた。
(楽しんでもらえたなら何よりだ。これで少しは肩の力も抜けただろ)
そして最後は三人並んで、沸き起こる観客の声援に応えた――。
「世界が終わると多くの人が思っているいまの状況なら、推しだけを想い、推しへの気持ちを歌っても許されるよね?
僕が胸を張って主張できることでもあるわけだし」
そんな風に言い聞かせて納得させてから、橘 樹が予めこれからライブで歌う曲を聞かせておいたペンダントからエレメントを召喚する。エレメントにコーラスを担当してもらい、樹は衣装の効果で生み出した霧の中を、足元から水の波紋を立たせながら歩き、静かで厳かな推しへの信仰心を歌う。歌を耳にした観客がそこに秘められた想いに気づき始めたところで、間奏で激しく情熱的なダンスでもってその想いを炎に変えて燃え上がらせる。時折挟まれる光の演出も合わせて、推しへ恋い焦がれる気持ちといやいや待てよ、と葛藤するエゴのせめぎ合いを表現しきったところで、曲は盛り上がりの場面へと移っていった。
その声にその瞳に その手にその唇に
僕が囚われてしまうみたいに 願わくば僕も貴方を 傲慢なkredanto
樹の足元からカラフルなハートマークが舞い上がり、観客は熱烈なまでの推しへの恋心に共感して歓声をあげる。
(割りと観客置いてけぼりかなって思ってたけど、なかなか、ノってくれてるね。
それじゃこのまま、最後までいっちゃおう!)
世界が終わるかもしれないからこそ、胸に抱えたままの想いは激しく燃え上がる――そんな雰囲気を会場全体へと広げながら、樹はライブを締めくくった。
「天より堕ちし堕天使カイト。
皆さんの不安なんて、全部食べてしまいましょう?」
カイト・クラフレットが名乗りを上げた後、冷たい氷の国の扉が開き、風が観客に吹き付ける。風は観客の心に巣食っていた不安や恐怖をさらい、扉の向こうへと戻っていく。そして扉が閉まる直前、ステージには氷のようにキラキラと煌めいた装飾が生まれ、それは観客の身体にも施され、一体感を生んだ。
(世界が滅びてしまうのは、嫌です。僕にはまだまだやりたいことがたくさんあるんです。
いつか、アンラさんともライブをしたい。ようやく自分のやりたいことが、わかってきたんです)
だから、世界の滅びを止めるため――カイトは頭上を指差し、観客の頭上を星空ですっぽりと包み込んでしまう。
「いつから、世界が終わるなんてことを信じていたんですか? そんな悲しいことは、楽しくないことは僕達がさせません。
ほら、空を見上げてください」
言われるがまま、観客が空を見上げる。カイトが背中に黒い翼を生み出し羽ばたかせ、宙に浮かびながら星のひとつひとつを示して告げる。
「ほら、この星も、この星も……キラキラと光って、滅びなんて来ないと語っていますよ。
誰かが立ち上がって、希望になる。お星様の並びが語ってくれています」
実際に預言者ではないカイトの言葉は、疑いを持たれればすぐに瓦解する。けれど一時的に不安を取り除かれた観客は、そこに希望を見出し、幸せな未来の訪れを予感する。
「最後にフェスタのライブが見たいなんて、寂しいことを言わないでください。
また見にきたい。最後なんて嫌だ! そう言ってください、そうすれば、僕達は必ず、また、ライブをやりますから!」
「……そうだ、今日が『最後』なんじゃない。今日は『最高』で、また次のライブも『最高』なんだ!」
生まれた声はやがて、ステージ全体へと広がっていく。ライブが終わればまた観客は不安や恐怖を覚えるだろう。
しかしここで得た感動もまた、観客の心にしっかりと根付いていた――。
「『最悪のイドラ』に『原初のヒロイックソングス!』、そして時間遡行……もう、わけわかんないコトばかりだケド……」
不安げに呟いたレイ・トレードの目には、見慣れたはずのフェスタのステージでさえ、どこか違うところのように見えていた。
「でも、力を与えるライブってんナラ、全力でやるヨ!!」
こっからが――オレの! 魂のステージデス!!」
決意の表情に切り替わったレイが虹色のカーペットを渡りステージへと降り立つ。
「得意な事とか、アピールポイントとか言われても、全然わかんなかったケド――」
観客を前にして一度目を閉じたレイが、一呼吸置いてしっかりと目を見開いて告げる。
「『諦めない心』なら、絶対誰にも負けナイ! だから、自分は心をぶつけるヨ!!
たとえ、命尽きようとも決して砕けない、『諦めない心』を!!!」
いつからだろう? 諦め方、上手くなったのは
どこからだろう? 心の熱、消してったのは……
暗闇の中、自分の姿を輝かせてレイが歌う。
(自分にも、もしかしたら『オレ』にも、まだまだわかんないことばっかりだヨ。でもネ――)
押し留めても! 消そうとしても!!
隠しきれねェ! 抑えきれねェ!!
生きてるって そうだろう!
「綺麗じゃなくても、傷だらけで泥だらけでも、全力でぶつかり続けて、皆の心に火をつけて……それぞれの『罪』と向き合える強さを教えられる。
そんな、一見アイドルらしくない、獄卒アイドルになりたいっていう、まっすぐな夢だけは、絶対諦めナイ!
絶対、叶えるんダ!!」
ネヴァーギブアップ&レッツ!
シンク!!
ザ!!!
シンセカイ!!!!
『諦めない心』を前面に押し出したレイのシャウトがステージを満たした――。
「食事は一人で食べるより、みんなで作って、みんなと一緒に食べるほうが楽しいんだよ!
……ということで、今日はみんなで麻婆豆腐に挑戦しちゃおう!」
世良 延寿に招かれたクロノスと戦戯嘘の前に、食材が並べられた。
「さっきね、お弁当を差し入れしてもらったの。すごく美味しくて力が湧いてきた、だから、今度は私が……力が湧いてくるようなお弁当を作れたらって思った」
「おぉ、クロノスちゃんがとってもやる気なのよ! 私もお手伝いするのよ!」
やる気を見せたクロノスにならって、嘘もぐっ、と拳を握ってやる気をあらわにする。
「うんうん、その意気だよ! それじゃ二人には、ここの豆腐を麻婆に馴染むような大きさに崩してほしいな。豆腐は包丁で切るよりも手で崩した方がよく馴染むんだよ。見た目はちょっとグジャってなっちゃうけど、すごく美味しいんだ!」
クロノスと嘘に豆腐を担当してもらい、延寿は麻婆の調理に入る。タタタン、と包丁が軽快なリズムを刻み、食器がくるくると宙を舞い食材がフライパンの上で跳ねて踊る、普段元気いっぱいな延寿そのままの調理が行われていった。
「加減、難しいね……」
「むむむ、なのね……」
「大丈夫、上手にできなくていいんだよ。大切なのはきれいに作ることよりも丁寧に、心をこめて作ることだから」
「心をこめて……」
延寿のアドバイスを受けたクロノスと嘘が、丁寧に豆腐を崩して適度な大きさに分けていく。二人がそうして豆腐を崩し終えた頃には、ほかほかと湯気を立てる麻婆が完成間近となっていた。
「はわ~、すごくいい匂いなのよ~!」
「不思議……お腹が空いてくるように思えるし、なんだろう、気分がこう、高まってくる感じ」
「『辛さ』には食欲増進と、高揚感を刺激する効果もあるんだよ。
それじゃここに、二人が用意してくれた豆腐を入れて……はい、完成!」
麻婆に豆腐が投入され、すぐに麻婆豆腐ができあがった。もし延寿がお店を開けば行列必至の出来映えの麻婆豆腐が、熱々の状態で盛り付けられクロノスと嘘に振る舞われる。
「それじゃ、みんなで一緒に、いただきます!」
「いただきますなのよ~。……ん~! んんん~~~!!!」
「だ、大丈夫? 熱いから気をつけて」
クロノスに水を飲まされ、嘘がぜぇはぁ、と息を吐いた。
「熱かったのよ……でも、と~っても美味しいのよ!」
「じゃあ、いただきます……」
慎重に息を吹いて冷ましてから、クロノスが豆腐を口に入れる。ピリリと奔る辛さ、ボワッと生まれる熱、そしてふわっ、と口の中で崩れていく豆腐、これらが一度にやって来て、クロノスはなんて表現していいのか一瞬悩んでから、
「……美味しい」
笑顔でそう、告げた。