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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

時を超えるために

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時を超えるために

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■今日のライブは『最高』であり、『最後』ではない――4

「はいっどうも! おなじみの人は知ってるだろうけど、改めてご挨拶!
 フェスタのアメリカンマシュマロ体型デブドルと言えばそう! この俺しかいないよね! 深郷由希菜でーす!」
 冒頭、深郷 由希菜の挨拶に観客席がどっ、と沸いた。自分のことを短く的確に表し、堂に入った態度は観客に気遣いや嘲笑をさせず、自然に楽しませた。
「はい、この子ももうすっかりおなじみだね! 俺の大事なぽめぽめでーす!」
『きゃうん!』
 由希菜に名前を呼ばれた星獣ぽめぽめが返事をすると同時に右の前足をひょい、と上げると、観客席のあちこちから「かわいい~」といった歓声が聞こえてきた。
「挨拶も終わったところで、それじゃ、ライブ楽しんでいってね!」
 由希菜がスクロールを広げ、ステージに色とりどりの花が咲き誇る花畑を生み出す。その花畑にさあっ、と柔らかな雨が降り、花に水滴がついてキラキラと光を生み出していた。

 降り注ぐ雨が 草木を濡らして
 煌めいた緑 世界を映すよ

 見上げれば空は 今日も明るく
 爽やかな青さ 皆を映すよ

 ぽかぽか暖かい 陽だまりのような
 そんな人になりたい そう思えるんだ


 曲の盛り上がりに合わせて、ステージに咲いた花畑からは鼻をくすぐるいい香りが漂い、観客をほわん、と心地いい気持ちにさせる。由希菜なぽめぽめに羽を生やし、自らも背中に翼を生やして飛び上がり、観客席を歓声を受けながら飛び渡る。

 ふわふわ雲のよう 柔らかな笑顔
 そんな俺でありたい 癒せるように


 ぐるりと観客席を巡り、ステージに戻る途中で由希菜がクロノスの元に降り、遠慮しがちに尋ねる。
「あの、クロノスさん? ちょっといいかな?」
「?」
「その……頭、撫でていいかな?
 お、俺の手あったかいからつめたっ! ってならないとは思うけどね? だめかな?」
 なんだか慌てた様子の由希菜へ、クロノスが微笑んで首を横に振ってから、頭を傾けて受け入れる姿勢を示した。
「じゃ、じゃあ……えへへ。『よしよし』するのも得意の一つだからね。
 俺の手からクロノスさんにぽかぽか伝われー♪」
 由希菜に撫でられているクロノスは顔を下に向けていたので観客からはあまり表情が見えなかったのだが、とても気持ちよさそうにしていた。


「2000年間、かぁ……。2000年前ってどんな世界だったんだろな」
 クロノスの話を耳にした麦倉 淳がよし、と頷いて、クロノスの元へ向かった――。

「よし、準備完了。ねずみ博士、観客のみんなの五感を研ぎ澄まさせて」
 淳が『解体新書』として知られる医学書――淳の手にしているのは手帳サイズの『ポケット解体新書』――を開くと、服のポケットに収まるサイズのねずみの姿をしたエレメントが人体の五感に作用し始める。
「えっと、本当に2000年前の世界に行っちゃうんですか?」
「まことおにーさんの想像の世界、だけどね。……あっ、気をつけて、この風を浴びると眠くなっちゃうなの」
 クロノスと一緒にステージに呼ばれた大葉よもぎに答えつつ、栗村 かたりが暖かな色の水晶が先端に取り付けられた杖を振れば、会場に暖かな風が吹き観客は微睡みの中に包まれていく。そうして観客は、淳の想像した2000年前の世界により深く招待されていったのであった。
「かたり、今からオレが話すイメージの風景を描いてほしい。
 『山や田んぼに囲まれた、こぢんまりとした、のどかな集落』
 『わらでできたような屋根の住居が、点在する』」
「えとえと……こんな感じ?」
 淳に言われたイメージを、かたりが実際に絵として起こしていく。
「さて、オレたちも鳥に乗って、一緒に見ていこうか」
 淳が可愛いツバメのイラストと、流麗な題字が表紙を飾る分厚い図鑑を開き、二羽の鳥を喚び出す。それらを自分たちが乗れるサイズまで巨大化させ、飛び乗って空へと舞い上がる。
「やっぱハニワ君とかいそうだな。それで豊作祈願とかしてそう。クロノス、他にどんなのがあったか覚えてる?」
「華乱葦原はずっと、高天原の神と黄泉の悪鬼が争っていた……んだっけ。だから神を祀るための道具とか、場所とか、そういうのがあった……と思う。ごめんなさい……セブンスフォール以外の場所は、スクロールを通してしか見ていなかったから」
「あっ、いや、別に責めてるわけじゃないんだ。
 オレの想像した2000年前は全然違うかもしれないけど……たぶん、不便だったけどあったかくて、人と人が力を合わせて活きる時代だったと思うんだ。現在のオレたちが自分の力を発揮しながら生きていける、その原点はクロノスが作ってたのかな、って思って」
 淳の言葉に、クロノスが照れたような素振りを見せた。
「おにーさん、クロノスさん。この時代のクッキーを作ってみたいの。材料探すの手伝ってほしいの」
 隣の鳥から、かたりの声が聞こえてきた。
「かたりはこんな時でもクッキー作りか。……って、これライブなのわかってるか?」
「美味しいものを作り、いただくのがオーサカのライブですよ」
「はは、そうだった。それじゃかたりに協力して、材料探しに旅立ちますか」
 こくり、と頷いたクロノスを連れ、淳はかたりを追って鳥を奔らせた――。


「ふっふっふ……カリスマ配信者くろのんとカリスマ麻雀アイドルのわたし。
 カリスマを持つ者同士が打ち合うことで、お互いのカリスマを高め合うことができるのだー!」
「……確かに。君は相当のカリスマの持ち主、それはこの前の時にわかっている。
 あの時は見よう見まねだったけど、今回は真剣勝負だよ……!」

 ステージ中央に用意された雀卓、いまは二人、天地 和とクロノスが向かい合っている。
 和の手が牌の積まれた山に伸び、そのうちの一つをつまみ取る。
 カチッ、つまんだ牌を横向きに、自分の前に並べた牌の上に乗せ、絵柄を確認する。
 並べた牌から一つをつまみ、前にある牌の捨て場所へ表向きにコトッ、と置く。
 クロノスの手が同じように伸び、一つをつまみ取る。和の横向きにされていた牌が並べた牌の一つとして加えられ、一方でクロノスは牌を横向きに置き、やはり並べた牌の一つをつまみ、前にある牌の捨て場所へ表向きにコトッ、と置く。

 その繰り返し。言葉にすればこれだけのこと。
 しかし実際にその光景を目の当たりにした観客は、二人の一挙手一投足に宿る力、カリスマを感じ取り、つばを飲み込むことさえ忘れて対局に見入っていた。

(くろのんに伝えておきたいことがあるんだ)
(何? ちょっと待って、その前にどうして口を開いていないのに声が聞こえるの?)
(これもカリスマの為せる技だよ。ちなみにわたしたちが喋ってる間、実際の時間は一秒も経過してないよ。
 ……くろのん、自分の選択に自信を持って。そうすれば結果はおのずとついてくる。実際の手牌が最悪だったって、予定外のことが起こったって、そんなの飲みこんでしまえば十分! 未来はいつだってわたしたちの手の中にあるんだよ!)
(私の、手の中に……)

 クロノスが、牌を握った手のひらを見つめる。それに反応して牌がぼうっ、と青白く光を放った。
「……ありがとう、大事なことを教えてくれて。
 私は今度こそ、私の手で未来を、掴み取ってみせる……!」
 牌を捨てると同時、「リーチ!」と威勢よく宣言し、千点棒をパチン、とセットする。それを受ける和の顔は、笑顔のまま。
「ここで降りる選択肢は、わたしには無い!」
 そして切った牌を見て、クロノスがすかさず「ロン!」と発声する。

 六七八⑥⑦⑧67899東東東 ドラ9

「立直一発三色ダブ東ドラドラ、24000」
 観客席からおぉ、とどよめきが上がる。誰もがこれで勝負アリ、と思ったその時――点棒を払い終えた和がたった一本の千点棒を掴むと、パチン、と目の前にセットした。
「リーチだよ!」
 まだ次の配牌もしていないのに、である。これには誰もが度肝を抜かれ、クロノスも例外ではなかった。
(まさか、いくら和が優れたカリスマの持ち主だからって、これは無謀……ハッタリに決まってる。
 でもあの自信に満ちた笑顔……もしかしたら本当に手が入ってしまうかもしれない。もしそうなったら――)
 クロノスの手が震え、目の前がぼやけていく。思考が鈍り、一つ目の捨て牌を決められない。

「自分の選択に、自信を持って。そうすれば結果はおのずとついてくる!」

「!!」
 電撃が走ったようにピクリ、と震えたクロノスの思考が、目覚めていく。
(……そう、さっき和が教えてくれた。私は私の選択に、自信を持つんだ……!)
 すると、目の前の牌の一つが青白い光を放った。クロノスはそれが捨てるべき牌だと悟り、迷わずにつまんで捨て場所へ置く。和の捨て牌が置かれるたびに光が生まれ、質量すら感じさせる光に押し戻されそうになりながら、クロノスはいたって自然に牌を引き入れ、牌の導きに従って牌を捨てる。

「ツモ。600オール、私の……勝ちだよ」

 そして和よりも先にアガリを成し遂げ、クロノスが勝利を確定させた。
「おめでとう! くろのんと戦えて、わたし楽しかったよ!」
 負けたにも関わらず、和は笑顔を浮かべてクロノスに手を差し伸べた。
「ありがとう、うん、私も……楽しかったよ」
 その手を握り返し、そして会場から割れんばかりの歓声と拍手が起こった――。


(それが皆の記憶から消されていたものとはいえ、過去を改変することは禁忌に触れるだろう。……だが私たちアイドルは、これまで何度も世界を超え、その度に運命すら変えてきた。今更そこに過去改変が加わろうと驚きはしない)
 堀田 小十郎が、腰に提げた一振りの刀に触れる。
(元よりこの身は武を学び、追及する武芸者――ロクデナシ――。幻想――ユメ――を抱き、この人生――ミチ――を進むと決めたあの時から、如何なるモノも背負うと決めている。この行いが罪だというのなら、その罪すら背負い、己が演武の糧とするさ)
「よう小十郎。俺には見えるぜ、お前のシケた面が。だいたいそういう顔をしてる時は、俺が全ての罪を背負うだとかろくでもねぇこと考えてる時だ」
 背後からかけられた声に、小十郎はさして驚くでもなく苦笑交じりに振り返る。
「何もできずに終わりを待つ方がよっぽど罪作りってモンだぜ。だから俺たちがこれからやろうとしてることは、罪じゃねぇ。勇気の現れだ! ビビっちまってる奴らに、俺たちの熱い芸を見せてやろうぜ!」
「……わたしも、十くんや兄さんと一緒に、歌います……! 難しいことはよく、わからないけど……わたしの夢、わたしの想い……大好きなウタで観客のみんなが元気になってもらえるように……」
 睡蓮寺 陽介睡蓮寺 小夜の声を聞き、そこに含められている決意の現れを感じ、小十郎があぁ、と頷いた。
「さあ、幻想演武を紡ぐとしよう。
 積み重ねてきた己が人生――すべて――を、貴方達に捧げよう」

 ありがとう 言うのはちょっと恥ずかしいけど
 小さなことでも伝えよう それが前へと進むということだから


 鳥の姿をした星獣と一緒に、小夜が静かにウタを紡ぐ。観客の魂に直接響き渡るそのウタは、『みんなで歌うのは楽しい』という小夜の気持ちに同調するものへ美しいアンサンブルを奏でる力を与え、そして瞬く間に会場全体へと広がっていった。
「心に響く、いいウタだ……もちろん、これだけが幻想演武じゃねぇってこと、思い知らせてやるぜ!」
 陽介が手にしたDマテリアルに、灼熱の炎を思わせる光が宿る。それを大振りな動作でもって振れば、熱こそ感じないもののそれ以外は炎とまったく同じ見た目の衝撃波が生まれ、観客席を駆け抜けていった。
「いい顔をしているぜ! そう、驚きと感動を提供してこそ、大道芸士。小十郎、熱いのいくぜ!」
 陽介が同じようにDマテリアルに炎を宿らせ、小十郎へ素早い動きからの攻撃を続けざまに放つ。それまで黙していた小十郎が目を開き、鯉口を切って刀を抜き、剣閃にて陽介の攻撃を切り払う。幻想的に輝く刀の軌跡、そして弾ける赤や黄色の花火がステージに生まれ、観客は感動のため息を漏らした。
「そら、その感動、形にしてやる! こっちに寄越しな!」
 陽介の呼びかけが会場に作用し、観客の手元に感情を模した爆弾が生まれる。そして投げ込まれた爆弾を陽介が迫真の殺陣で弾き返し、次々と上げられる花火に華やかな音を添えた。
「多くの想いがぶつかり合い、その結果世界は一度、白紙に戻る。けれどその先に、世界は新たな夜明けを迎えるだろう」
 四方八方から向けられた攻撃――想い――を、小十郎が一度の斬撃でまとめて切り払う。その威力は世界をも切り裂き、世界は白紙に還った。何もない世界に観客は戸惑い、しかし一点、確かに煌めく光に希望を見出す。
「さあ、皆も紡いでくれ……この幻想演武を。皆の生き様で世界に、新たな夜明けを!」
 小十郎が会場に呼びかければ、観客の手元に光を放つ剣が握られる。観客たちだけでなく木校長とクロノスの手元にもそれは現れ、二人は意を決してその剣をステージへ向けて振るった。

『――――!!』

 人々の想いが形となり、世界に新たな夜明けが生まれた。
 その先に見えるものまではわからない、だが決して絶望などではない、希望の未来が見えていたことだろう――。
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