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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

時を超えるために

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時を超えるために

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■今日のライブは『最高』であり、『最後』ではない――3

 少し長めの休憩を挟んで、ステージが再開される。

「まずはこの場を借りて、私たちの未来のため、力を貸す決意をしてくださったクロノスさんに、感謝を」
 一歩前に進んだ位置から、クロノスへ挨拶と感謝の気持ちを示した合歓季 風華に続いて、【DreamerS】のメンバーであるノーラ・レツェル藍屋 あみか藍屋 むくアニー・ミルミーン、そして天草 燧がクロノスへ向かってお辞儀をした。
「私たちが置かれた状況を思えば悲観的になるのは致し方ないかもしれません。ですがその中でも前を向いて、私たちなりに出来る限りのことを、これからの舞台で示せればと思います。……ではしばしの間、微睡みの時間を」
 木校長と観客に一礼して、ライブの開始を告げた風華に従い、空中に浮かんだドローンから光が放たれる。そしてステージ中央に現れたのは、フェスタ生なら誰もが見てきたユグドラシルを模した氷像。
(ユグドラシルは私たちアイドルにとって、異世界とのチャンネルを繋ぎ、新しい可能性を示すもの。
 そしていまここにあるのは、最悪のイドラによって失われた未来の象徴。……私たちは確かに失ったものがある、けれどそこで終わりにしない、させないだけの力も同時に有している)
 あみかが目線を送り、送られた側であるむくとアニーが互いに目線を交わして頷き合い、それぞれ獣と無生物を出現させる。彼らはいまある世界の滅びを象徴するものとして、ユグドラシルの氷像に向かっていく。
(クロノスさんはきっと、何度も何度も、こんな場面をみてきたんだよね。むくには想像できないおむねのいたさ……。
 今日、舞台にきてくれたひとたちも、たくさんのかなしかったことがあって、それでもがんばろうって、前を向いていきていこう、って。
 だからできること、おてつだいをがんばるんだ)
(クロノスさんの力が鈍っているのは、心の何処かに何度も見てきた悲劇を再び目にするかもしれない迷いや恐れが残っているのかもしれません。そのマイナスな思考はここに集まってくださった観客の中にも残っているように見えます。
 私たちのライブを見ていただいて、皆さんのそういったマイナスな思考を減らし、代わりに安らぎを得られますように)
 体当たりを受けたユグドラシルの氷像が崩れ、生じた花火と光の粒がステージと観客席に落ちていく。その光景は観客に喪失感のようなものを抱かせたが、一拍置いた後に現れた風景は優しい光の溢れる、誰もがつい微睡んでしまうような室内。
(ぼくの掲げてきた信念は、ひとつだけ。『誰もが安心して眠れる世界にする』。
 クロノスちゃんも校長先生も観客のみんなだって、ぼくにとっては信念の対象。ぼく一人では実現することは難しくても……【DreamerS】のみんなとなら、決して夢物語じゃないって確信する)
 ノーラがそっとステージの前に進み出、落ち着いた優しい音色でステージと観客を包み込んでいく。ぽっかりと空いた心がふわり、と満たされていくようにと、心をこめて。
(さあ、ここからが本番です。心ある者をウタで繋ぎ、力をクロノスさんへ。これまでの失敗も、これからの成功も、僕たちと一緒に)
 燧が風華から託された星獣アルナに呼びかけ、共にウタを紡ぐ。【DreamerS】全員で奏でるは、今も観客席の最前列で精一杯の応援をしている木校長が手塩にかけて作った、奇跡を共に叶える曲。
(ユグドラシルはフェスタの象徴。異世界への道に留まらず、長い時間が育んだ威厳と暖かさに溢れた樹。
 その長い時間の中には、いまのように失われることがあったかもしれない。けれども強い想いがあれば、願いがあれば必ず再生を遂げ、その時代に生きるものへの希望となります)
 舞台が室内から、暖かな光の差し込む庭園へと移り変わる。歌声や演奏を周囲に反響させる不思議なひまわりに囲まれながら、あみかが青色の筋を強く輝かせた指揮棒のような杖を振って神獣ファーブラと歌を合わせ、風に舞う雪を降らせる。雪は観客の手のひらで光の粒に変わって弾け、世界の終わりを悲観して縮こまってしまった心に灯りを届ける。草花が芽吹くのに合わせてアニーが緑色のカーペットを敷き詰め、触れることで音を発する立方体の飾りを脇に並べて、その上をステップを踏みつつ立方体に触れて勇気の音色を紡いでいく。むくは星獣ウェスペルと、クロノスや木校長、観客が元気になってもらえるように気持ちを込めた歌を送り、燧は両の手首に光の輪を生み出すと、それを空へと放った。直後観客の手首に光の輪が現れ、七色の光を見せながらくるくる、と回り続ける。
「ふふぇんさん、もういちど、でばんだよ。こんどは世界をおわりにするんじゃなくて、世界をよみがえらせるんだ。
 そしてみんないっしょにうたおうって、ひろがっていく世界をいっしょにあるこう、って」
 先程は世界の滅びを象徴するものだった獣が、むくの手を離れ風華の足元に触れる。その瞬間花火のような光が生じ、やがて晴れた先のステージには風華が姿を変えた、ユグドラシルが出現した。

 世界を喰らい滅ぼすほどの力を持った獣であっても――
 ウタによって繋がれた心が届けば、新しい世界を吐き出し再生させる――


「どうですか、クロノスさん。キミ一人では難しいことも、皆さんとなら出来る気がしてきませんか?」
「……うん。……私、ライブが始まるまでは、やっぱりダメかもしれない、って思ってた。その気持ちがたぶん、周りの人にも伝わっちゃって……」
 申し訳なさそうに目を伏せたクロノスが、次の瞬間にはどこか吹っ切れたような表情で顔を上げて言った。
「でも、わかった。たとえダメでもどうにかなる、って。うまくいくかどうかじゃなくて、うまくいくんだ、って」
「ふふ、その言葉を聞いて安心しました」
 笑った顔をして――普段から笑っているので区別がつけにくいが――言った木校長の元へ、ファーブラに乗ったあみかがやって来た。
「校長先生、一緒に乗っていただけますか?」
「もちろんです! では後ろ、失礼しますね」
 あみかの誘いを快く受けた木校長があみかの後ろに乗り、二人を乗せたファーブラがそれでも力強く羽ばたいて空へと舞い上がった。ユグドラシルから発される光はその輝きを増し、枝からは次々と新しい枝が生え花が咲く様子を、赤や黄色の花火で演出する。
「謳いましょう、再生を」
 燧の背後に中性的な少年の幻が現れ、歌のクライマックスに合わせて多重のハーモニーを奏でる。観客の誰もが深い感動に包まれる時間がしばらく続いた後、ゆっくりと光が消え、生まれる余韻の中姿を戻した風華がドレスの裾をつまんで観客にお辞儀をして言う。

「この先、例えばご帰宅後、例えばお休み前。
 思い出していただける何かを、そしてそれが穏やかな眠りを導けるなら幸いと。
 どうかご安心してよき眠りを。ねむねむの加護を……」


「校長先生、私達が育んだ希望と未来の世界樹、見ていただけましたか?」
「ええ、バッチリです! 最高のライブでしたよ!!」
 ファーブラから降りた木校長が、【DreamerS】のメンバー一人一人に対し、惜しみない賞賛を送る。
「ねむねむおねえさんの樹……ねむどらしるだね!」
「ねむどらしる……ふふ、いいですね」
「み、皆様!? そんな大それた名をいただくなど……」
「ユグドラシルとおそろいですね、ふふ」
「校長先生まで!?」
 頬を染める風華を中心に、みんなで作った輪に笑顔が生まれる。
(もう、絶望を抱える必要はない。
 フェスタは希望の象徴で、何の憂いもなく過ごすことが出来るんだよぉ)
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