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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

時を超えるために

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時を超えるために

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■今日のライブは『最高』であり、『最後』ではない――2

「ここでらいぶをして、んで、そこの嬢ちゃんが力を取り戻したら、坊主たちが万全の状態で過去に行ける。
 ……となりゃ、協力せんとな。今まで国柄? 世界柄? とか性格で面倒かけた分、此処は誇れるすてゑじにしようか」
 出番を前に、蓮水 亜鶴がそう口にしてから、振り返ってミアプラ・ムルジルエリアス・カルカスに声をかける。
「つうわけで、エリー、ミアの嬢ちゃん。今日ばかりは俺と共に、このらいぶを成功させよう……!」
「……ワカッタ……ミアヲ タスケテクレタ アニキタチノタメ……ミアモ ウタウ……!」
「普段が普段だけに、素直に頷くのは癪に障るが……いいだろう。だがエリーと呼ぶな」
 三人の拳が、高く広い空へと突き出された――。

 パイプオルガンの音色が基調となった、厳かな雰囲気の曲が流れ出すと、エリアスがステージの中央に進み、神への捧げ物とする歌声を披露して観客の心に訴える。数多の『神』が存在する芸能界においても通用してきた曲は観客に感動を生み、曲の進行に合わせて徐々に増大していった。
(汝、神を信ずれば――)
 盛り上がりのサビに差し掛かったところで、エリアスが両手を広げ、ステージに花畑を生み出す。色とりどりの花びらがステージに散り、本当にそこに天使が――神の使いがいるかのように観客に思わせる。

 何者にも変える事は出来ぬ、神への心――

 やがてエリアスの背中に翼が生え、空を舞う力を得てステージと観客席の間を飛行する。観客は自然と手を組み、エリアスを見上げることで神に祈りを捧げているかのような姿勢になる。

 どうか私の御霊を 貴方の元へ――


 溢れていた光が徐々に収まっていき、そしてステージにはスポットライトの光を受けたミアプラが立ち、何処か異国情緒のあるメロディに民族調の楽器の音色が重なった曲に合わせて静かにウタを紡ぐ。光はウタの強弱に呼応して明度を変え、進行に応じてミアプラを違った雰囲気に見せ、観客を飽きさせず楽しませる。
(ユキノハナ……アワク サイテ……)
 曲がサビに差し掛かったところで、ミアプラの凛とした透き通るような声が空に届けば、たちまちステージには雪が積もる。雪に反響されたウタは神秘的に響き、観客はキラキラと瞳を輝かせてステージを見つめた。

 ユキノヨウニ ヒロガル ワ――

 ぴょこん、とミアプラの背中に小さな天使の翼が生え、その翼をぱたぱた、と羽ばたかせてステージを飛ぶ、というよりはぴょん、ぴょんとジャンプするように舞う。まるで雪の中を跳ねる、ゆきうさぎのように。


 積もっていた雪がスッ、と消え、ステージに夜が訪れた。その中を和を基調とした曲が流れ出すと、蛍火のような仄かな光が差し込み、ゆらりと舞う亜鶴をよりいっそう魅惑的に見せる。
(葦原の風景……友人や育ての親、色んな人の協力……。
 そして坊主二人のお陰で俺は今、此処に……この世界に居る)
 観客の視線を集めながら、亜鶴はステージに点在させていた蛍火を手元に集めると、それをふわっ、と空へ舞い上がらせる。

 俺達の曲が、声が、過去に届くなら――
 全て、全て持って行っておくれ――



 それぞれのステージが終わり、集まった三人へ大きな拍手と歓声が送られる。感極まったのか涙ぐむミアプラをエリアスが背中を撫でてやるのを見留めながら、亜鶴がフフ、と不敵そうに微笑んだ。
「無事終わったら、坊主二人に良いもん食わせてもらおう、フッフッフ――」
「オイ! ナニ ワラッテル! キモチワルイ!!」
「イッダイ嬢ちゃん噛まないで! エリーコノヤロォ!!」
 ミアプラに噛みつかれながら、亜鶴がミアプラをけしかけたエリアスに抗議の声をあげた。
「エリーと呼ぶなと言ったはずだ。……まったく」
 呆れるように首を振りつつ、ライブが成功に終わったことをエリアスは神に感謝した。


 ステージには、いま流行りのとはまた違った雰囲気のアイドルソングが流れ出す。渋谷 柚姫が今日のライブに選んだのは、2015年に流行ったアイドルソングの雰囲気を持った曲だった。
(これで、時間を渡りやすくなる根拠はない、けど。
 でも、僕はこれまで歌を中心にやって来たし、まったく関係ないってわけでもないと思うんだよね)
 観客が――アイドルたちが過去の風景を一斉に心に思い描けば、てんでバラバラよりはやりやすくなりそうなのは容易に想像できる。そして、たとえば自分がここで観客に、自分が思い描く風景を共有させることができれば、その感覚をクロノスが得て、同じように使いこなせたなら、きっとうまくいくはず。
(そういうわけだから――僕の2015年にみんなを、ご招待っ!)
 歌声が柚姫と観客の心をつなぎ、そして目の前には青い海と白い砂浜が広がっていた。その中を柚姫は、神獣ヒバリと歩きながら押し寄せる波と戯れていた。
(海水浴もできる海で、すっごく楽しかったんだ。でも、もうちょっと遊んでいたい、って思った時に黒い雲が広がって、土砂降りの雨が降ってきたんだよ)
 その通りに、空に突然雲が広がり雨が落ちてくる。そこで柚姫は風景の共有を終わりにして、土砂降りでない爽やかな雨を降らせ、ヒバリにウタを紡いでもらって七色の虹をかけた。
(これは、これから原初のヒロイックソングス! を止めるためのイメージ。
 どうかな? ちょっとは何かを、掴んでもらえたかな?」
 自分のライブが、クロノスに力を与えれていたらいいなと思いながら、柚姫は虹に沿って光の道をかけ、虹を渡るようにして退場していった。


 雨雫の杜で 眠る雛鳥 旅鳥の声聴き 誘われ目覚める
 灯火の差す影 ひとつふたつと 零れる蒼色は 浮かび沈みゆく


 浅い池のように見えるステージを、顔に包帯を巻き、長くぼさぼさとした黒髪を濡らし灰色の羽袖をまとったエレメントとともに烏墨 玄鵐がゆらり、と歩きながら歌声を響かせる。静かに降る雨が足元に波紋を作り、ぼんやりと光る火の球が影を生み出す。

(終末がどうとか、光と闇がどうとか、悪しきイドラがどうとか……僕としてはどうでもいい。
 僕は皆に比べたら、雛鳥のように弱い存在だろうと思う。ただでさえ強い奴らが束になってかかってきたら、怖くて逃げるしか出来ないもの)

 羽搏くこと忘れ 瞳はただ時数え 諍い恐れただ 怯えていた
 だけど小さな温もりは 空を土を教えてくれた


 払暁を思わせる色と輝きを見せるペンダントが観客の目を引き、喚び出されたエレメントがコーラスを添え、歌に広がりを持たせる。

(今でもそう。今僕はステージに一人立たなきゃならない。エレメントで誤魔化しているだけ。
 ……けど、その方が寧ろいいかもしれない。純粋に想いを紡ぐのに、一人も複数もない)

 閉ざしていた 羽根の痛みは 温もり往く 風が梳かした
 小鳥の歌 夜空へと捧ぐ 小さな夢 解け消えて行く
 巡る命を やがては知る 天(そら)と地(つち)に 満ちる奇跡
 小鳥の歌 儚い記憶 静かにただ 奏でている


 玄鵐の背中に翼が生え、ステージを超えて観客席へと飛ぶ。それは小鳥が、旅鳥として旅立つかのように。

(今は名も無い小鳥だけど、そろそろ旅鳥としていたい、かな)

 ここにいるよ さびしくないよ
 きみのみるけしきが そこにあるから……


 花びら舞い散るステージに戻ってきた玄鵐が静かに一礼すれば、観客から大きな拍手と歓声が沸き起こった――。


「ここでは自分の得意なことを前面に押し出すライブが効果的みたいです。ナレッジらしいライブ……それは、マスターのディーヴァとして、マスターとともにライブすることです!」
「つまりいつも通りに、ってわけね。さ、いきましょ」
「はいっ!!」
 足元に出現した光のステージに、クロティア・ライハナレッジ・ディアが飛び乗る。ステージが上昇を始めると同時に、ゲーム機からは雪をイメージした、慎ましくもきらびやかで軽やかなゲームソングが流れ出す。舞い散る雪の中を、クロティアとナレッジがくるくるり、と回りを交えて踊る。
「レーザー展開! マスター、フルコンボ狙いでいきましょう!」
「あらナレッジ、それじゃ足りないわ。狙うはオールクリティカルよ!」
 赤、緑、青のレーザー光を身体に貼ったシールで遮る、あるいは当て続けることで音を奏でコンボを増やし、黄色のレーザーに沿ってステージをスライド、両脇に伸びる紫のレーザーを押すように触れれば、シンバルを叩いたような音が生まれた。
「このノーツで最後!」
「オールクリティカルです、マスター!」
 クロティアが宙に現れた『TOUCH!!』の模様に触れ、ナレッジが光の球を打ち上げ、弾けた光の球が粒となってステージから観客席に落ちる。
「ここからはプライの番! 雪原でのバトルを見せてあげるわ!」
 声に合わせて、衣装の色も黄色から青へと変わる。流れる音楽は戦いをイメージした熱いものへと変化し、強く音が生まれると同時に光の歪みが生じ、クロティアとナレッジ、そしてあたかももう一人いるかのように、観客の目には映った。
「ここにいる観客すべての心を、狙い撃つ!」
 銃を撃つ動作をダンスに取り入れ、次々と視線を合わせた観客を撃ち抜いていく。撃たれた観客が痺れるように身体を震わせ、さらに興奮の度合いを高めていった。

 私『僕』達ができるライブは一つだけ。
 さぁ、誰にもまねできないゲームライブを始めましょう――


 曲が最初のものに戻り、クロティアはステージ中央でナレッジと決めポーズを取る。
「マスターと、どこまでも行きますよ! プライさんも一緒です!」
「これからは三人一緒、ね」
 割れんばかりの歓声、そして拍手を受けながら、彼女たちは絆を強く、確かなものとしたのであった。


「みんな、すごいカリスマを持ってる。私にも力が戻ってくるのを感じ……」
 きゅう、とお腹が鳴って、慌ててクロノスがお腹を押さえてしゃがみ込む。誰にも聞かれていなそうなのを確認してほっ、と息を吐く。
「お腹、空いたな……あれ? こんなこと思ったの、いつ以来だろう?」
 クロノスがそんな思案に暮れていると、包みを持って川村 萌夏がやって来た。
「ライブ観戦、お疲れ様ですっ! よかったら、これ食べて一息入れてください!」
「わ、いいの? ありがとう。……開けていい?」
「もちろんです! クロノスさんのお口に合うように、がんばりました!」
 ぐっ、と拳を作って笑顔を見せた萌夏にクロノスも微笑んで、包みを解く。蓋を開ければ海苔の巻かれたおにぎりと、卵焼き、唐揚げ、プチトマト、ポテトサラダといったおかずたちが可愛らしく盛り付けられていた。
「わ、すごい。ほんとにタコさんになってる。本物見たの初めてかも」
「ふふ、喜んでもらえてよかったです。さぁ、召し上がれ」
 コップに温かいお茶を注ぎ、クロノスに差し出す。それを受け取り一口含めば、ほどよく熱されたお茶が身体をふわり、と潤していく。
「いただきます……うん、美味しい」
 硬すぎず柔らか過ぎず、味もほどよく味付けされたおにぎりを口にしたクロノスが、思わず笑顔を見せる。不思議と力が先程よりも強まっていくのを感じていた。
(そうか、お腹が空いていたからだね。食べるのって大事だ)
「皆さんのライブはまだまだこれからです、ここで一息入れて、残りもがんばってくださいね!」
 おかわりのお茶を差し出す萌夏に、クロノスが笑顔でこくり、と頷いた――。
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