イラスト

シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

時を超えるために

リアクション公開中!
時を超えるために

リアクション

■3 かくて宿木は散る

 フェスタ中に散らばり――あるいは迷子になり――特設ライブ会場を探していたイドラ教団も、いよいよ会場ゲート付近に集結しつつあった。
 その数はアイドルたちの活躍によりかなり減ってはいたが、裏を返せば集まるのは屈強なオタク魂を持つ精鋭の教団員ということでもある。

 龍造寺 八玖斗はそんな彼らを前にして、肉を焼いていた。屋台で。

「なあ、こんなので教団釣れるのか?」
「まあ見てろって」

 走り回って疲れた教団員たちのすきっ腹に飛び込んでくる香りは、幻の超高級牛肉。
 さらに八玖斗は、屋台を挟んでのぼりを持っているリュンに牛串を差し出し、同じものを皿にあけてクラリネットネコのジュニに食べさせて、教団員たちの動揺を誘う。

「ぐぬぬ……! ひとつください!」
「うわ、ほんとにかかった」

 教団員たちは空腹をこらえきれず、悠長にも八玖斗の屋台に並び始めた。
 恐るべきはグラトニーシンドロームと【スイッチ:甘い誘惑】の力である。

「弁天白波は相手を華麗に嵌めるのが役目、さあ正義の悪党様がお前らのセコくてせせっこましい後悔や欲望。盗んでやるよ」

 八玖斗は【スイッチ:支配者の愉悦】でしもべを生み出すと、教団員たちをわらわらと取り囲んだ。

「お……お前、アイドルだったのか!」
「いや、気づけよ!?」

 リュンのツッコミも時既に遅し、教団員たちは蜂の巣をつついたように慌てふためきながら、ブラックルミマルを振りながらしもべの包囲から抜け出す。
 すかさず八玖斗は【幻魔のスクロール】で悪魔の幻を生み出し、教団員たちをブレスで追い立てた。

 悪魔が消えた隙に反撃を試みる教団員たちだが、リュンと【≪星獣≫ブレイズレオン】となったジュニが立ちはだかる。
 八玖斗は【スイッチ:ポリフォニカ・ピュエリ】でリュンとジュニに強化を施すと、自身もタンネカムイ・ブレードを構えて屋台の外に出る。

「夢を見せるなら身を滅ぼさない程度の加減は分からせてやれよ。元はあっち側とは言え、今は真っ当なアイドルとファンならな」

 八玖斗は【痛みの渇望】とタンネカムイ・ブレードの鞭を振るい、リュンやジュニとともに教団員を通すまいと奮闘する。
 ――そこへ、イドラの女王が駆け付け、教団はどよめいた。彼女を狙うジャンヌの姿が見当たらないからだ。

「おう、ちょうどこいつらを引き渡そうと思ってたとこだ」
「手間かけさせちゃったわね。……二人も、案内ありがと」

 行坂 貫行坂 詩歌は、礼を言う女王に手を振って答えた。

「まあ、妻の頼み事だからな」
「この人たちだって、女王さんのこと、好きだったはずだから――その気持ちを、ライブで思い出してもらえたら、って」
「……言っておくけど、教団は私のファンクラブじゃないし、戻る気もないからね。
 知った顔がバカやってると寝つきが悪いってだけよ」

 立ちふさがる三人に、教団員たちは身構えた。
 イドラの女王がライブをしようとしている……しかも決して映像化されることのないゲリラライブである。そのアドみ(希少価値)は計り知れない。
 だがだからといって、それは闇のライブの極致である「ヒロイックソングス!」を蹴ってまで観るべきものだろうか……教団員たちは煩悶する。

「それでもいいよ。だから……歌おう、女王さん!」

 詩歌は【スイッチ:アポロンズフィールド】で光のドームを作り出す。
 そしてハルパクマイクを構え、女王とともに『光問う、闇の唄』を歌い始めた。

私も貴方も 同じ闇(ヒト)に惹かれたはずなのに
どうしてその闇に 刃を向けるの?


 詩歌の【リリックアタック】を受けて、教団員の一人がその場に崩れ落ちた。女王を推していたころの記憶がよみがえったのだ。
 しかし――その中でも、女王を乗り越えて進もうとするものがいないわけではない。

「……いや、俺は悪しきイドラのファンであって、女王単推しじゃない!
 イドラ……箱推しだ!」
「だとしても、邪魔をさせるわけにはいかないんでな。行くぞ騎士様」
「言われるまでもない!」

 貫は騎士とともに踊り込むと、詩歌と女王に向かってブラックルミマルを振るう教団員たちに【スイッチ:デュエット・エレメント】で、二人の時針の剣を持つエレメントを召喚して応戦した。
 さらに続けて【スイッチ:天空神の接見】の向かい風で、教団員の勢いを鈍らせる。
 それでもなお襲ってくる敵を、騎士がブラックルミマルの剣で押しとどめ、貫が灼火鬼灯・影打ちの【極火二刀】で切り伏せていく。

「貫!」
「いいから歌え!」
「っ――うん!」

 
思い出して 始まりを 何故あの闇が 貴方を止めているのか 知る為に
あの時 惹かれた闇の声を今一度 聞くのです――


 詩歌の放った【スイッチ:エタニティシャイン】のまばゆい光を受けて、教団員たちは戦う力を削がれていく。
 そして【スイッチ:バルドルの慈愛】の輝きは、貫の身を守る光の膜となる。
 妻の助けを得た貫は、さらにクロノスの書のエレメントと灼火鬼灯・影打ちによる【スイッチ:蹂躙するダークロード】の猛攻をもって、教団員を追い詰めた。

 
――この光は あの闇(ヒト)を打ち消すのではなく より強く 深く 存在を刻みつける為に!


 たとえ教団が、闇のアイドルを擁立するための組織であったとしても、その筆頭にいた女王に、何の愛着もないなどと言うことがあるだろうか。
 詩歌は否と確信していた。だからこそ、女王とともにここにいる。

(イドラ教団の人達、本当に惹かれてた存在を今一度思い出してよ!)

 貫の【幻魔のスクロール】から、悪魔の幻がぬうっと現れる。
 光が強いほど闇は濃く映る――恐ろしさを増した悪魔から放たれるブレスが、教団員をなぎ倒していく。

「女王さん、いっけー!!」

 女王はぐったり意気消沈して戦意を失った教団員たちに歩み寄った。
 放っておいてももう抵抗しないだろうが――彼女は、黒い影をぬるりと地面に広げて、彼らを優しく抱き留める。
 そして影に自分の姿をとらせ、何事かを教団員たちに囁いた。
 それは、女王が封印していた技……【シークレット・プロミス】である。ぐったりしていながらも、教団員たちは幸せそうであった。

「……ほんと、どうしようもない限界野郎ども」
「足止めにはなってくれたので、私としては上出来をあげたいですけどね」

 背後の声に、女王が振り返る。
 イドラのジャンヌ・ダルクは、二振りの黒い細剣を構え、ゆっくりと近づいてきていた。

「そろそろ、鬼ごっこも終わりにしません?」
「っ……」

 イドラの女王は、ジャンヌの放つ殺気を前に後ずさる。
 いくら傷ついているとはいえ、殺す気の相手に勝てるのか――冷や汗が頬を伝ったその瞬間、何者かがジャンヌの横合いから飛び込み、拳を振り上げた。

「――その前にちょっといいかな」
「な……!」

 千夏 水希の烈禍ノ歪掌で固めた片手がジャンヌの細剣の一振りを捕える。だが速さと技に勝るジャンヌが繰り出した予測不能の剣筋に、水希は距離をとった。

「どうしてその身体なのさ。
 “革命の乙女”のガワを借りて、変えたいことでもあった?」
「……だったらどうだっていうんですか。あなたがそこの女王様を殺ってくれるとでも?」

 ジャンヌが【スイッチ:支配者の愉悦】のしもべを水希に向かって放つが、水希はそれらを造作もなく振り払う。

「――あっそ。今のでだいたい底が見えた。
 続きはあんたの魂に聞くことにするよ」

 あたりがドロリと濃い【グリムフォール】の気配に包まれ――水希はやおら拳を叩き込んだ。しかしそれはジャンヌの細剣の間合いに飛び込むということであり、必定、その鉄拳は先に飛び込んでくる黒い細剣を打ち払うのに使われる。
 そうして三合、水希はジャンヌの神速に拳を合わせるが、【スイッチ:蹂躙するダークロード】でさらに速さを増した攻撃に押し切られ、防御の姿勢をとらされた。

「その程度の力で――!」
「させないの!」

 ジャンヌの動きがふいに鈍る。踏み込みに力を入れそこなった隙を見て、水希は拳を打ち込んだ。
 リーニャ・クラフレットの【スイッチ:愛のためのヴァーディ】が、視界にとらえたジャンヌの動きを遅くしたのである。

「次から次へと!」
「まだまだ行くよ!」

 【アグニの祭火】が、あたりを灼熱地獄に変えていく。ジャンヌは襲い掛かる炎をかわし、あるいは受けながら、その影響を受けない水希の攻撃も凌ぐことを強いられた。
 さらに間髪入れず、リーニャの翼砲[ロイヤルピストル]のトリガーが引かれ、砲を持った天使のアンサンブルがジャンヌに向かって小さな砲を撃ち込んでいく。
 避けきれないダメージに苛立ちを覚えるが、さらにそこへ【スイッチ:八百万の重奏】で小さなアンサンブルからの追加攻撃が加わる――。

「ちょこまかしたって、アンサンブルが相手なら!」
「へえ、じゃあ生身はどう?」

 水希はおもむろに【スイッチ:ヒュドラーの鎖】を攻撃に忍ばせる。だがジャンヌは鎖の筋を見切り、細剣を振り抜いてノイズの鎖を断ち切ってしまう。
 しかし、その大振りの隙めがけて水希のスパイダーズ・ガンが撃ち込まれ、ジャンヌのがら空きの胴を捕えた。
 さらに水希が糸を引き寄せたことで姿勢を崩されたジャンヌは、宙に浮いていたリーニャの【スイッチ:サンライトスフィア】に触れ、その爆発を受けて吹き飛んだ。

「おっけー、うまくいったの!」
「っ……この!!」

 とっさにとった防御の姿勢のまま吹き飛び、腰だめに着地したジャンヌ。
 しかし、そこは水希の【ダークスター・ブレード】の間合いである。

「さあ――大人しく芸能神の姿に戻れ」

 振りぬかれた黒い魔力の刃を受け、ジャンヌは両手の細剣を取り落としてたたらを踏んだ。
 そしてジャンヌは、これまでの蓄積していたダメージを急激に自覚して、痛みに体をかき抱くと、その場にばったりと倒れ込んだ。
ページの先頭に戻る