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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

時を超えるために

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時を超えるために

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■2 意地

 フェスタの校庭を、わらわらと走る不審な人の群れ――イドラ教団は、会場を探して散らばっていた。
 講師陣が総出でかかっても、捕まえるのに骨を折っているほどだ。
 彼らはノイズの……悪しきイドラの信奉者だ。「最悪のイドラ」の顕現が近づいている今、教団のテンションはブチ上がる一方である。

 だが、そんな中、教団員たちの前に立ちはだかる一人の少女がいた。
 イドラ教団宣伝大使――剣堂 愛菜である。その手に持つプロジェクト“Idola”が彼らをひるませた。

「ど、同志宣伝大使! まさかお前も止めようっていうんじゃ……!」
『同志達 貴方達が推すアンラ・マンユは あなたたちを愛さない』

 愛菜は【迷刃のシャングリ・ラ】の霧を撒き、教団員に牽制をかけた。ノイズの凶刃にかかれば、いくらイドラ教団といえど無事では済まない。
 そうして大人しくなった教団員たちに警戒を解き、愛菜は彼らのもとに歩み寄った。

『でも あたしは違う』

 愛菜の言葉にざわつく教団員たち。
 頭を抱えて「推し変案件しんどい」と心揺れるものもいれば、「推しからの認知は地雷!」と糾弾するものもいる。
 それらを制して、幹部らしき教団員がずいと前へ出る。

「同志宣伝大使、どういうつもりだ」
「……」

 その幹部団員に、愛菜はとびついて【よしよし】を繰り出した。
 ちょっとだけ火属性のダメージが入った気がしたが、幹部団員は超のつく初心であったため、そのせいということになった。傷も治っている。

「目を覚まして。あたしは大きな声は出ないし、不器用かもしれない。
 でも教団を想う気持ちは、アンラやジャンヌには負けない。
 だから、お願い……あたしの事を推してくれないかな?」

「………………しゅき」
「そんな、班長が認めた……!?」
「俺たちの推しイベは、ここにあったのか……!」

 こうして、愛菜の【よしよし】は無事、幹部団員のハートをつかみ、そして周りの教団員をも認めさせられたようだった。

 しかし教団はその実働数を減らしながらも、着実に会場へ迫りつつある――。

◆ ◇ ◆


 同じ頃、イドラの女王とイドラの騎士は校舎の中をひた走っていた。
 目指すは教団員が絶対に集まるところ――会場ゲート前である。

「そこまでに止められなきゃ、私が身体張るしかないしね。彩、悪いけど付き合って」
「ふふ、言いっこなしですよ~」

 身体の持ち主である彩に受け入れられている、そのことを心強く思いながら、女王は先を急ぐ。
 しかしその矢先、【スイッチ:支配者の愉悦】のしもべたちが横合いから現れ、女王めがけて飛び掛かってきた。
 女王はとっさにブラックルミマルの鞭で打ち払ったが――姿を現したジャンヌが眼前に立ちふさがる。

「先回りだと……!?」
「私、これでも速さと執念には自信あるんですよ……」

 ブラックルミマルの細剣を構えたジャンヌを前に、歩みの止まった騎士と女王。
 だがその背後から、ぽんと女王の方を叩き、四人のアイドルが歩み出た。

「なら見せてもらおうか、君の速さと執念を」
「まったく、次から次へと……!」

 まず飛び出したのはアーヴェント・ゾネンウンターガング
 そして彼と並ぶ形で、ロレッタ・ファーレンハイナーが躍り出る。

「女王様、あなたは私が――お守り致しますので!」
「ええ、……えぇ!?」

 言うや、ロレッタは自分を抱きしめ……両手を球体の盾へと変じる【スイッチ:おっぱいアテナ】を発動した。
 これにはさしもの女王も度肝を抜かれたらしく、ぷにぷにの盾を見つめて言葉を失う。
 技の代償か、ロレッタの胸は見事にぺったんこになっており、その盾が何とは言わずとにかくすさまじいことを物語っていた。

「行くぞ――ッ!」

 アーヴェントがDF.閃爍ナル物打ノ魔剣[DF.レイ・エッジ]から光の刃を鞘走らせ、ジャンヌに斬りかかる。
 それを突き崩さんと、ジャンヌは【スイッチ:蹂躙するダークロード】でノイズの足場を蹴り、ブラックルミマルの細剣から高速の突きを繰り出した。
 だがアーヴェントの傍らには、二つの丸い盾を構えたロレッタが足並みをそろえており――ジャンヌの攻撃に割って入った。

「そんなこけおどしでは!」
「触れてみればわかりますわ!」

 ジャンヌが平坦なことも手伝って、弾力に富んだ盾がぷにっとブラックルミマルの細剣を逸らし、攻撃力を失わせる。なぜか女王が傷ついた顔をした。
 そしてアーヴェントがロレッタと入れ替わり前へ出るや、ジャンヌめがけて刃を閃かせる。――が、ジャンヌはこれをとっさの剣で受けた。
 彼らは、その隙を待っていた。

「――ミリィ、ユニゾンスタート!」
『了解、ユニゾンスタート。ソウルドロップ、コアシステムにコネクト、全リミッター解除』

 撃ち込まれたジャンヌの一撃は、二人の連携を前に阻まれ――そして今、機が熟したとばかりに、ミリィ・ファーレンのユニゾンを受けた水鏡 彰が身を躍らせる。
 その手に握られたDF.ドラゴンチョッパーは、ハルモニアの燐光を放っていた。

「あなた――」
「一角獣の騎士水鏡彰! イドラのジャンヌとやら、いざ勝負!」

 【サウンドブースト】で強化され、さらにハルモニアの加速が加わった【U.ディストーションブロウ】がジャンヌめがけてしたたか撃ち込まれる。
 そこへダメ押しの【ビートインパクト】を放つが、体勢を立て直したジャンヌはこれを回避、神速の突きでもって彰の猛攻を跳ね返す。
 わずかな距離から再度の突撃をかける彰。ジャンヌはこれを躱しきることができない。
 だが彰は追撃が困難と悟るや、突進の勢いに任せ、ジャンヌを一度吹き飛ばした。

「ッ――」
「おっと、せっかく見つけた美人を逃がすほど、俺は諦めよくないぜ?」

 剣を腰だめに追撃を構える彰。
 そしてアーヴェントは振り返って、イドラの女王に合図を送る。

「女王、今だ!」
「……ええ、任せたわよ!」

 女王と騎士は四人の活躍で開けた道を駆け、会場へ向かう。
 それを快く思わないイドラのジャンヌ・ダルクは、ぬるりと立ち上がって剣を構える。

「あなたたち――」
「名乗るほどのものではないが――ブレイドストーム、とでも名乗っておくよ」

 手ごたえはあった。屈強な戦士であっても痛手と呼ぶべき一撃が見舞われた。
 ダメージは確実に蓄積している。消耗もしているだろう。彼女はただそれを理解できないだけなのだ。
 彰はためらわず、再びの【U.ディストーションブロウ】を繰り出した。

「これでも美人さんにはちょっかいかける事にしてるんだ、もっと楽しもうぜ!お嬢さん!」
『何を口説いているのですか。それだからたらしとか――』

「――名前じゃなくて。こう聞こうと思ったんですよ。
 『お腹空いてませんか』って」

 三人――あるいは四人――の視界に、それぞれの食欲をかきたてる暴力的な食事の幻が現れる。
 強力な幻覚で駆け足がぶれた彰の攻撃はジャンヌに躱され、そして躱しざまにトリケラメイルの隙間へブラックルミマルの細剣を差し入れられた。
 とっさの【ヒールハルモニア】で事なきを得たが、その好機をジャンヌは逃さず、彰の突進力を警戒して距離をとった。

「【スイッチ:甘い誘惑】――お二人も、お腹空いてませんか」
「それでも我慢をするのが、乙女というものですわ……!」

 ロレッタの放った【スイッチ:支配者の愉悦】のしもべたちがジャンヌへ殺到する。
 てんでばらばらのように見えたそれは、しかしジャンヌを狙うことに成功しているらしかった。

 ならばとジャンヌは踏み足を変え、ありうべからざる足場を生み出し、連続攻撃でしもべたちを斬り、踏みしだいてロレッタとアーヴェントのもとへ迫る。
 アーヴェントは剣でそれを受け、ロレッタは盾で躱す。その応酬は永遠に続くと思われたが――ふいに、ロレッタが深く踏み込み、ジャンヌの細剣を跳ね上げた。
 そして反撃が来ると理解するよりも早く、アーヴェントは叫んでいた。

「――行けッ!」

 アーヴェントの厖大ナル閃爍ノ円舞[ファングトルーパーズ]による【暁と黄昏のディンメルグ】が、ジャンヌの放つ攻撃を二撃三撃と無力化する。
 悔しげに剣を振るジャンヌ――そこへ畳みかけるようにロレッタの【スイッチ:罰待つ罪】が怪物を生み出し、おどろおどろしい咆哮を挙げた。

「勇者と英雄の守護者、アテナの名において命ず!顕現せよ!何かドロドロした怪物!!」

 怪物は猛毒のノイズを放ちながら、ジャンヌにドロドロの腕を叩きつける。
 とっさにそれを切り伏せようとするが――ジャンヌの腕が一瞬遅れ、したたかそれを受けることになった。

「こ、の……!!」

 だが、それでもなお、彼女は倒れることを知らない。
 どれほどボロボロであったとしても、立ち上がってくる。

「こいつでしまいだ――!」
「命は取らない、だが……退け!」

 立ち上がった彰と、再び光剣を構えたアーヴェントが、ジャンヌめがけてハルモニアの輝きを叩きつけた。

「私、執念で芸能神になったようなもんですから。
 ……ここで諦めるなんて、死んでもごめんです!」

 そしてジャンヌは周囲に無数のしもべを呼び出し――床をぶち抜いて、そのまま姿を消してしまったのだった。
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