時を超えるために
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リアクション
■1 聖女の威を借るもの
「不要で目障りなんですよ、あなたは! バビプロにとっても――私にとっても!」
「その言葉、そっくりそのままお返しするわ!」
女王のブラックルミマルの鞭が、同じものでできたイドラのジャンヌ・ダルクの細剣に弾かれる。
明らかに押されている――とっさにかばったイドラの騎士との連携攻撃も、その神速の猛攻を押しとどめることしかできない。
それどころか、女王を守るために前へ出たイドラの騎士は、ジャンヌの攻撃を受けて利き手を負傷しブラックルミマルを取り落としてしまう。
「あらあら。こうなってはナイトも形無しですね」
(なんて速さだ……追いきれない……!)
卓越した技巧、圧倒的な速度、そして鋼のような殺意をもって、ジャンヌはただ前進し、その障害を切り落としていく。
レイピアに突き斬られ、鞭のブラックルミマルが「ブラルミ゛ッ」と光りながら地面に落ちた。その涙と輝きは、単に痛いからなのか、あるいはアイドル同士の激突に感動しているからなのか。
「同志聖女に続けぇ! 俺たちも校舎に突撃だ!」
「待っててアンラ様――!!!」
「ちょ……あんた達、待ちなさいったら!」
喚声を上げたイドラ教団員たちが、列形成の雑な物販のごとくなだれ込む。
イドラの女王が止めようにも、その勢いはヌーの大移動めいて鎧袖一触だ。いかなアイドルであっても、散らばったのを各個に制止するのがやっとだろう。
「よそ見をしている場合ですか!」
「ッ……!」
そしてあわや、女王がジャンヌの凶刃にかかろうとした瞬間――二振りの木刀が閃いた。 弥久 風花の【雷霆双剣】を纏う木太刀カムヅミである。
横合いから叩きつけられたその攻撃をまともに受け、ジャンヌは大きく吹き飛ばされた。
「く……なん、ですか……」
「そこの――貧乳の――人。それ以上、西宮先輩に近寄らないでください」
「はぁ!? うるさいわよ、貧乳はステータスなのよ!?」
残心を解かず、風花はその豊満な胸を張る。キレたのはジャンヌでなく女王のほうだった。
ぼそっと言ったのを聞いていたあたり、相当に気にしていた……のかもしれない。
「おやおや、愉快な仲間割れですね!」
くつくつ笑いながらもすぐさま跳ね起き、ジャンヌが風花に斬りかかる。風花は神速の突きに【セット・フォティチュード】で突っ込み、雷の残滓を伴った二刀を繰り出した。うねるように突き出されたブラックルミマルの細剣を避けられず、防具を纏わない風花に傷が増えていく――が、それをおしてジャンヌにもカムヅミが叩きつけられる。
「膾斬りにしてあげるわ!」
そして十分に間合いを詰めた風花は二振りのカムヅミを大振りに交差させ、【竜皇のひと咬み】を放つ。
ジャンヌははじめから避けるつもりなどない。身体は自分自身のものですらなく、そして彼女の狙いは初めから女王ただ一人なのだ。
カムヅミは確かに薄い鎧を砕いて、ジャンヌに決して無視できないダメージを与えた。だがそれでも、ジャンヌは止まらなかった。
「づ、っ――!!」
「しぶと……きゃあっ!?」
叩きつけられた二振りの木刀をまともに受けながら、しかしジャンヌは一切速度を緩めず、その場から高く跳躍した。そしてそのまま【スイッチ:蹂躙するダークロード】でさらに速度を上げ、女王めがけて空を駆ける。
「ちょっとぉ! 逃げてんじゃないわよ!」
「勘違い、しないでくださいよ……っと!」
ジャンヌに追いすがったのは風花――の背後から伸びた、黒瀬 心美の【スイッチ:ヒュドラーの鎖】である。
「速いからって、動きが止まればねぇ!」
足を取られたジャンヌは姿勢を崩しながらも鎖を引きちぎり、突き出された串刺しの御旗による追撃をレイピアで逸らし、数合切り結んで距離をとる。
心美はイドラの騎士とイドラの女王をちらりと横目に見て、ジャンヌの前に旗槍を構えて立ちふさがった。
「その戦闘スタイル、どこかで見たような気もするけど……まぁいい。
相手が誰だろうと、後に引く気はない。接近戦での勝負なら、望む所だ……!」
「私の負けでいいですよ。だからそこの女王様、串刺しにしてくれません?」
「そいつはできない相談だ!」
心美が旗槍を構えて飛び掛かる。だがジャンヌは、それをぐるりと大回りに躱し、ノイズの足場で加速した。続けて繰り出された、ジャンヌの縦横無尽の攻撃が心美を襲う。だがそれを心美は【弁慶の意地】で耐える――。
「とった!」
傷を作りながらも心美が忍ばせたヒュドラーの鎖がジャンヌを捕える。だがノイズの鎖はジャンヌの全身に這いあがるのを待たず、いとも簡単にちぎられてしまった。
――狙い通り、ジャンヌに隙を作って。
「何度も同じ手が通じるとでも!」
「でも、足は止まったね!」
心美の【スイッチ:嵐渦のオーディン】が、ジャンヌに襲い掛かる。一点に集められたカリスマの嵐がジャンヌの攻撃をものともせずに炸裂する。
「一撃に込める『想いの強さ』ならば負けない……受け取りな……!」
吹きすさぶ嵐がジャンヌの身を巻き上げ、校舎の庭に転がす。
相当に傷だらけのように見えるが――それでもなお、ジャンヌはぬうっと立ち上がり、不敵に笑って見せる。
「だったら私は、それを百回受けても立ちますよ――それが私の、誰にも負けないところですから」
逃げない。避けない。防がない。
ただ不退転である黒い聖女は、二振りの細剣をブォンとうならせた。
一方そのころ教団員たちは、奇妙なキャントを唱えながら、校内の会場へとてんでばらばらに猛ダッシュしていた。
「イドラの高まりを感じるぜ!」
「ニーハイオーハイカンチューハイ!」
祭り上げていたからといって推しとは限らない。イドラのジャンヌ・ダルクは確かに彼らの先導者ではあったが、推しイベとどちらが大事かは論を待たない。人は愛ゆえに、時として非情になる。
そしてブラックルミマルを用いた邪悪なオタ芸で窓ガラスを破壊し、校舎内に侵入を試みていた教団員たちだったが――
「地球様のご意志です! 受けなさい……【アレスホイール】!」
窓際の死角に潜んでいた天鹿児 神子のコンバットバトンのスイングをしたたか受け、吹っ飛ばされてしまう。
さらに庭へ躍り出た神子は周囲の敵を【昇竜雷】で蹴り上げ、あるいは【マナ・バレット】を零距離から放つ大立ち回りで、教団員を窓から離す。
「ここから先へは行かせるなと……地球様が囁かれています……」
「な、なんだ……!?」
「こいつ、尖ってやがる!」
神子の放つただならぬ空気に警戒し、じりじりと距離を詰める教団員たち。
とっさに【マナ・バレット】を放つが、相手は数に任せて寄り切ろうとしている。
正面から戦うのはうまくない――と神子があとじさったその時、機械越しの大声が教団員たちの耳朶を叩いた。
小羽根 ふゆが持つ、ターリアのメガホンである。
「フェスタにお越しのお客様、クロノスちゃんファンは正門にお回りいただき一列でお並びくださーい!」
「あ、はーい」
彼らは気づかぬうちに、ふゆの誘導に従って正門へほとんど本能的に歩き出していた。
訓練されたアイドルファンの高度な条件反射、そしてそれを逆手に取ったふゆの大胆不敵な作戦である!
(よし、このまま他の人に引き渡して……)
と思った矢先、教団員の一人がハッと我に返り、「待て、入場案内札がなかったぞ!」と声を上げた。
彼に続いて、教団員たちが次々に己の目的を取り戻し始める。目的はクロノスたんとのチェキ会ではなく、彼女が作る過去へのゲートなのだ。
ふゆはため息をついた。
「はあ……ダメっぽいね。しょうがない、ちょっと荒っぽくいこう」
「地球様もそうお告げになっています。いざ!」
剣状のブラックルミマルを構えて窓に向かって突撃する教団員に、ふゆのメガホンによる【文明の利器アタック】が見舞われ、さらに神子が【アレスホイール】で薙ぎ払う。
さらに入れ替わりに現れた教団員は分身して神子に襲い掛かってきた。【フレイアの妄愛】による幻覚だ。
神子はとっさにコンバットバトンを構えるが、本物がわからないのでは応じようがない。ほくそ笑んだ教団員は魔弾の追撃を放った。
「小癪な真似をして!」
「推し事の邪魔なんだよ!」
したたか撃ち込まれた神子はしかし【マナ・バレット】で反撃し、教団員を失神させる。
負傷した神子に追撃しようとした教団員を襲ったのは、ふゆが放った≪星獣≫マイニャの腕――【≪星獣≫ヒュージクロー】だ。
「く……係員だと思って油断した!」
「まあ、間違いじゃないね。こういうのもマネージメントのうちだから」
そのままごちん、とターリアのメガホンで頭をぶたれた教団員は頭を押さえてうずくまった。しばらくは動けないだろう。
そしてふゆは神子を助け起こし、にっこりと威嚇的に教団員たちに微笑みかけた。
「このまま帰るなら、追わないけど……」
「どうします?」
「ここはダメだ……規制退場を食らう前に離脱するぞ!」
窓際に群がっていた教団員たちは、昏倒した同志を引きずって蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
だが、イドラ教団はすでに校舎や中庭から散り散りに侵入を始めている――。
「何でござるか、あれは」
女王の護衛にやってきた白川 郷太郎は、イドラのジャンヌ・ダルクの戦いに肝を潰していた。
「……他人の身体が出す感覚に、魂がついてきてないのよ。
痛いと動けない、怖いと鳥肌が立つ、そんな当たり前の照応がないの。だからいくらでも速くなれる」
「ええその通り、よくご存じで!」
冷ややかに言い放った女王に、ジャンヌは高笑いをもって応えた。
そしてわずかな隙をついて駆け、ブラックルミマルの細剣を突き出し女王に肉薄する。
――だがその細剣は、郷太郎の極光剣アウローラを前にとどめられた。
「忘れてもらっては困るでござるな」
「団員風情が出しゃばって!」
ジャンヌは身を小さくして郷太郎の極光剣の死角に素早く入り込み、突きざみのブラックルミマルを繰り出す。
しかし郷太郎は、それを待っていたとばかりに跳びあがり、【トワイライトスマッシュ】を放った。
「推しの窮地に出しゃばらいでか!」
勢いのついた攻撃にたたらを踏むジャンヌは、しかし着地の隙に目ざとく【スイッチ:支配者の愉悦】でしもべを襲い掛からせる。
だが郷太郎は【弁慶の意地】で攻撃に耐えつつ跳ね起き、しもべを極光剣で切り払った。
そして左右に身を振りつつ【スイッチ:蹂躙するダークロード】で迫るジャンヌに向かって、ぴしりと霞構えをとる。
「何のつもり――」
「目には目を、歯には歯を。
予想不可能な動きには、予想不可能な動きで返すでござるよ」
ジャンヌの狙いは女王である。そしておいそれと倒れもしない。
郷太郎はジャンヌをギリギリまで引き付けると、【スイッチ:無限のルミノシティ】を繰り出した。
極光剣の輝くに任せ、光となった郷太郎はジャンヌの攻撃を突き破り、そのままジャンヌもろとも一直線に吹き飛んでいく。
「この、つまらないことをして……!」
「女王様、行くでござる! あやつらの愚行をお諫めに!」
「……わかったわ」
郷太郎の残した言葉に、女王はこくりとうなずき、手負いの騎士を伴って駆けだした。
「不要で目障りなんですよ、あなたは! バビプロにとっても――私にとっても!」
「その言葉、そっくりそのままお返しするわ!」
女王のブラックルミマルの鞭が、同じものでできたイドラのジャンヌ・ダルクの細剣に弾かれる。
明らかに押されている――とっさにかばったイドラの騎士との連携攻撃も、その神速の猛攻を押しとどめることしかできない。
それどころか、女王を守るために前へ出たイドラの騎士は、ジャンヌの攻撃を受けて利き手を負傷しブラックルミマルを取り落としてしまう。
「あらあら。こうなってはナイトも形無しですね」
(なんて速さだ……追いきれない……!)
卓越した技巧、圧倒的な速度、そして鋼のような殺意をもって、ジャンヌはただ前進し、その障害を切り落としていく。
レイピアに突き斬られ、鞭のブラックルミマルが「ブラルミ゛ッ」と光りながら地面に落ちた。その涙と輝きは、単に痛いからなのか、あるいはアイドル同士の激突に感動しているからなのか。
「同志聖女に続けぇ! 俺たちも校舎に突撃だ!」
「待っててアンラ様――!!!」
「ちょ……あんた達、待ちなさいったら!」
喚声を上げたイドラ教団員たちが、列形成の雑な物販のごとくなだれ込む。
イドラの女王が止めようにも、その勢いはヌーの大移動めいて鎧袖一触だ。いかなアイドルであっても、散らばったのを各個に制止するのがやっとだろう。
「よそ見をしている場合ですか!」
「ッ……!」
そしてあわや、女王がジャンヌの凶刃にかかろうとした瞬間――二振りの木刀が閃いた。 弥久 風花の【雷霆双剣】を纏う木太刀カムヅミである。
横合いから叩きつけられたその攻撃をまともに受け、ジャンヌは大きく吹き飛ばされた。
「く……なん、ですか……」
「そこの――貧乳の――人。それ以上、西宮先輩に近寄らないでください」
「はぁ!? うるさいわよ、貧乳はステータスなのよ!?」
残心を解かず、風花はその豊満な胸を張る。キレたのはジャンヌでなく女王のほうだった。
ぼそっと言ったのを聞いていたあたり、相当に気にしていた……のかもしれない。
「おやおや、愉快な仲間割れですね!」
くつくつ笑いながらもすぐさま跳ね起き、ジャンヌが風花に斬りかかる。風花は神速の突きに【セット・フォティチュード】で突っ込み、雷の残滓を伴った二刀を繰り出した。うねるように突き出されたブラックルミマルの細剣を避けられず、防具を纏わない風花に傷が増えていく――が、それをおしてジャンヌにもカムヅミが叩きつけられる。
「膾斬りにしてあげるわ!」
そして十分に間合いを詰めた風花は二振りのカムヅミを大振りに交差させ、【竜皇のひと咬み】を放つ。
ジャンヌははじめから避けるつもりなどない。身体は自分自身のものですらなく、そして彼女の狙いは初めから女王ただ一人なのだ。
カムヅミは確かに薄い鎧を砕いて、ジャンヌに決して無視できないダメージを与えた。だがそれでも、ジャンヌは止まらなかった。
「づ、っ――!!」
「しぶと……きゃあっ!?」
叩きつけられた二振りの木刀をまともに受けながら、しかしジャンヌは一切速度を緩めず、その場から高く跳躍した。そしてそのまま【スイッチ:蹂躙するダークロード】でさらに速度を上げ、女王めがけて空を駆ける。
「ちょっとぉ! 逃げてんじゃないわよ!」
「勘違い、しないでくださいよ……っと!」
ジャンヌに追いすがったのは風花――の背後から伸びた、黒瀬 心美の【スイッチ:ヒュドラーの鎖】である。
「速いからって、動きが止まればねぇ!」
足を取られたジャンヌは姿勢を崩しながらも鎖を引きちぎり、突き出された串刺しの御旗による追撃をレイピアで逸らし、数合切り結んで距離をとる。
心美はイドラの騎士とイドラの女王をちらりと横目に見て、ジャンヌの前に旗槍を構えて立ちふさがった。
「その戦闘スタイル、どこかで見たような気もするけど……まぁいい。
相手が誰だろうと、後に引く気はない。接近戦での勝負なら、望む所だ……!」
「私の負けでいいですよ。だからそこの女王様、串刺しにしてくれません?」
「そいつはできない相談だ!」
心美が旗槍を構えて飛び掛かる。だがジャンヌは、それをぐるりと大回りに躱し、ノイズの足場で加速した。続けて繰り出された、ジャンヌの縦横無尽の攻撃が心美を襲う。だがそれを心美は【弁慶の意地】で耐える――。
「とった!」
傷を作りながらも心美が忍ばせたヒュドラーの鎖がジャンヌを捕える。だがノイズの鎖はジャンヌの全身に這いあがるのを待たず、いとも簡単にちぎられてしまった。
――狙い通り、ジャンヌに隙を作って。
「何度も同じ手が通じるとでも!」
「でも、足は止まったね!」
心美の【スイッチ:嵐渦のオーディン】が、ジャンヌに襲い掛かる。一点に集められたカリスマの嵐がジャンヌの攻撃をものともせずに炸裂する。
「一撃に込める『想いの強さ』ならば負けない……受け取りな……!」
吹きすさぶ嵐がジャンヌの身を巻き上げ、校舎の庭に転がす。
相当に傷だらけのように見えるが――それでもなお、ジャンヌはぬうっと立ち上がり、不敵に笑って見せる。
「だったら私は、それを百回受けても立ちますよ――それが私の、誰にも負けないところですから」
逃げない。避けない。防がない。
ただ不退転である黒い聖女は、二振りの細剣をブォンとうならせた。
◆ ◇ ◆
一方そのころ教団員たちは、奇妙なキャントを唱えながら、校内の会場へとてんでばらばらに猛ダッシュしていた。
「イドラの高まりを感じるぜ!」
「ニーハイオーハイカンチューハイ!」
祭り上げていたからといって推しとは限らない。イドラのジャンヌ・ダルクは確かに彼らの先導者ではあったが、推しイベとどちらが大事かは論を待たない。人は愛ゆえに、時として非情になる。
そしてブラックルミマルを用いた邪悪なオタ芸で窓ガラスを破壊し、校舎内に侵入を試みていた教団員たちだったが――
「地球様のご意志です! 受けなさい……【アレスホイール】!」
窓際の死角に潜んでいた天鹿児 神子のコンバットバトンのスイングをしたたか受け、吹っ飛ばされてしまう。
さらに庭へ躍り出た神子は周囲の敵を【昇竜雷】で蹴り上げ、あるいは【マナ・バレット】を零距離から放つ大立ち回りで、教団員を窓から離す。
「ここから先へは行かせるなと……地球様が囁かれています……」
「な、なんだ……!?」
「こいつ、尖ってやがる!」
神子の放つただならぬ空気に警戒し、じりじりと距離を詰める教団員たち。
とっさに【マナ・バレット】を放つが、相手は数に任せて寄り切ろうとしている。
正面から戦うのはうまくない――と神子があとじさったその時、機械越しの大声が教団員たちの耳朶を叩いた。
小羽根 ふゆが持つ、ターリアのメガホンである。
「フェスタにお越しのお客様、クロノスちゃんファンは正門にお回りいただき一列でお並びくださーい!」
「あ、はーい」
彼らは気づかぬうちに、ふゆの誘導に従って正門へほとんど本能的に歩き出していた。
訓練されたアイドルファンの高度な条件反射、そしてそれを逆手に取ったふゆの大胆不敵な作戦である!
(よし、このまま他の人に引き渡して……)
と思った矢先、教団員の一人がハッと我に返り、「待て、入場案内札がなかったぞ!」と声を上げた。
彼に続いて、教団員たちが次々に己の目的を取り戻し始める。目的はクロノスたんとのチェキ会ではなく、彼女が作る過去へのゲートなのだ。
ふゆはため息をついた。
「はあ……ダメっぽいね。しょうがない、ちょっと荒っぽくいこう」
「地球様もそうお告げになっています。いざ!」
剣状のブラックルミマルを構えて窓に向かって突撃する教団員に、ふゆのメガホンによる【文明の利器アタック】が見舞われ、さらに神子が【アレスホイール】で薙ぎ払う。
さらに入れ替わりに現れた教団員は分身して神子に襲い掛かってきた。【フレイアの妄愛】による幻覚だ。
神子はとっさにコンバットバトンを構えるが、本物がわからないのでは応じようがない。ほくそ笑んだ教団員は魔弾の追撃を放った。
「小癪な真似をして!」
「推し事の邪魔なんだよ!」
したたか撃ち込まれた神子はしかし【マナ・バレット】で反撃し、教団員を失神させる。
負傷した神子に追撃しようとした教団員を襲ったのは、ふゆが放った≪星獣≫マイニャの腕――【≪星獣≫ヒュージクロー】だ。
「く……係員だと思って油断した!」
「まあ、間違いじゃないね。こういうのもマネージメントのうちだから」
そのままごちん、とターリアのメガホンで頭をぶたれた教団員は頭を押さえてうずくまった。しばらくは動けないだろう。
そしてふゆは神子を助け起こし、にっこりと威嚇的に教団員たちに微笑みかけた。
「このまま帰るなら、追わないけど……」
「どうします?」
「ここはダメだ……規制退場を食らう前に離脱するぞ!」
窓際に群がっていた教団員たちは、昏倒した同志を引きずって蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
だが、イドラ教団はすでに校舎や中庭から散り散りに侵入を始めている――。
◆ ◇ ◆
「何でござるか、あれは」
女王の護衛にやってきた白川 郷太郎は、イドラのジャンヌ・ダルクの戦いに肝を潰していた。
「……他人の身体が出す感覚に、魂がついてきてないのよ。
痛いと動けない、怖いと鳥肌が立つ、そんな当たり前の照応がないの。だからいくらでも速くなれる」
「ええその通り、よくご存じで!」
冷ややかに言い放った女王に、ジャンヌは高笑いをもって応えた。
そしてわずかな隙をついて駆け、ブラックルミマルの細剣を突き出し女王に肉薄する。
――だがその細剣は、郷太郎の極光剣アウローラを前にとどめられた。
「忘れてもらっては困るでござるな」
「団員風情が出しゃばって!」
ジャンヌは身を小さくして郷太郎の極光剣の死角に素早く入り込み、突きざみのブラックルミマルを繰り出す。
しかし郷太郎は、それを待っていたとばかりに跳びあがり、【トワイライトスマッシュ】を放った。
「推しの窮地に出しゃばらいでか!」
勢いのついた攻撃にたたらを踏むジャンヌは、しかし着地の隙に目ざとく【スイッチ:支配者の愉悦】でしもべを襲い掛からせる。
だが郷太郎は【弁慶の意地】で攻撃に耐えつつ跳ね起き、しもべを極光剣で切り払った。
そして左右に身を振りつつ【スイッチ:蹂躙するダークロード】で迫るジャンヌに向かって、ぴしりと霞構えをとる。
「何のつもり――」
「目には目を、歯には歯を。
予想不可能な動きには、予想不可能な動きで返すでござるよ」
ジャンヌの狙いは女王である。そしておいそれと倒れもしない。
郷太郎はジャンヌをギリギリまで引き付けると、【スイッチ:無限のルミノシティ】を繰り出した。
極光剣の輝くに任せ、光となった郷太郎はジャンヌの攻撃を突き破り、そのままジャンヌもろとも一直線に吹き飛んでいく。
「この、つまらないことをして……!」
「女王様、行くでござる! あやつらの愚行をお諫めに!」
「……わかったわ」
郷太郎の残した言葉に、女王はこくりとうなずき、手負いの騎士を伴って駆けだした。