時を超えるために
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リアクション
■今日のライブは『最高』であり、『最後』ではない――7
「よぉ後輩、元気してたか?」
「もちろんなのよ! さっきもみんなといっぱい、ステージを楽しんできたのよ!」
「ははは、そりゃよかった。シャロの奴、お前と組めるのすっげぇ楽しみにしてたからな。
喜ばしてやってくれると嬉しい。……ほれ、見てみろ」
アレクス・エメロードが示す先を嘘が見れば、どこか上の空の顔のシャーロット・フルールがいた。
「あんな顔してる時はな、ろくでもねぇこと考えてるんだ。大方、クロノスの時間遡行の話を聞いて、もしかしたらパパとママが生きてる時に戻れるかもしれねぇ、って思ってんだろ」
「シャロちゃん……ねぇ、どうすればいいの?」
見上げてくる嘘に、アレクスは簡単さ、と呟いて言った。
「今が最高に楽しい、そう思わせてやりゃあいい。俺もシャロに拾われて、今はまぁ、楽しいって思えるようになった」
「あっ、今照れたの」
「うっせ! 後輩のくせに生意気だぞっ」
「きゃ~、やめてなのよ~」
嘘の頭をくしゃくしゃとかき混ぜてから、アレクスが「それじゃ、俺はみんなを呼んでくっから。シャロのこと、任せたぜ」と言ってその場を後にした。
「変えられるのはヒロイックソングスに関することだけ、かぁ……」
ぽつり、とシャーロットが呟く。もし、自分がもっともっとアイドルとしての地位を高めて、そのうち時間をも自由に渡れるような存在になったとしても、過去のある地点――シャーロットの両親が大洪水に巻き込まれる前――に戻って両親を助けることは禁忌に触れるのだ。
「シャロちゃ~ん!! 会いたかったのよ~!!」
「ふにゃ!?」
その時、背後から嘘ががばっ、とシャーロットに抱きついた。
「えへへ~、シャロちゃんあったかいのよ~」
すりすり、と顔を寄せてくる嘘のぬくもりが、冷えていた心を温めてくれる。
「……嘘ちゃんの方がずっとずっと、あたたかい、よ」
小さく、嘘に聞こえないような声で呟いて、一瞬顔を下げて。
「うっし! みんな呼んできたぞー。ぼちぼち準備始めっかー」
アレクスの声が聞こえた時には、顔を上げていつものシャーロット・フルールに戻って。
「にひひー、ボクは嘘ちゃんとキャッキャウフフしてるから、アレクちゃんがんばってー」
「あっ、シャロてめぇ、丸投げすんなっての!」
「嘘ちゃんとキャッキャウフフ……えっと、僕も混ぜてもらっていいですか!?」
「シアンまで!?」
「アレク君、がんばろ? わたしとウィルさんも応援するから!」
「応援だけじゃなくて手ぇ動かせよ!?」
いつもの賑やかな【リトルフルール】に戻って。
(大丈夫。パパとママを助けちゃったら、皆と会えなくなっちゃいそだし。
ボクが生きてるのは『今』だもん)
「よーし! 今日も最高のフルールライブをお届けだっ☆」
照明の落ちたステージに一人、シャーロットが姿を見せる。そして最前列のクロノスに向かって一礼して、宣言する。
「フェスタサーカス【リトルフルール】の舞台にようこそ、クロノスちゃん。
今日はキミを、妖精郷にご招待っ♪」
フッ、とシャーロットの姿が消え、そしてステージには中央に命育む大樹が現れ、大樹を中心とした花と緑と多種多様な命溢れる妖精郷が出現した。草花や樹木が歌い、美味しそうな果実に釣られて動物がやって来る。そこにはフェスタ生におなじみのルミマルの姿もあった。
お姫様は森を歩く
虹の光振り撒きながら
今日も元気に進みましょう
そんな愉快で楽しい森の中を、『お姫様』として虹村 歌音と嘘が歌いながら行進する。旗のついた指揮棒を振って指揮するアンサンブルを宙に飛ばし、虹の光を振り撒きながら元気よく進む。
お姫様を迎えるのは
騎士と魔女とお人形さん
みんな仲良く歌いましょう
歌音たちとは反対側から、高貴な立ち振る舞いの『騎士』ウィリアム・ヘルツハフト、星獣レーヴとミニうさフィリアを従えた『魔女』奏梅 詩杏、そして『人形』アレクス。
(……ん? 人形ってなんだ?)
たぶん従者を意味しているのだろうが、それにしたってもうちょっと真っ当な役どころは無かったのだろうか、そう思うアレクスだったがまぁ、いつものことかとさして深く考えず、ギターの形をした指揮器をかき鳴らし、バンドマンの姿をしたアンサンブルと共に森を行進、お姫様である歌音と嘘をエスコートする。
歌声は朗らかに
鳥は歌い 花は踊り
甘い香りが森を包む
動物たちも連れ立って
妖精の郷(くに)へ行こう
歌音が喚び出した金色の鷹が高く鳴き、空には詩杏が打ち上げた七色の花火が弾け、花びらとなってステージを舞う。同時に雪をちらつかせ、そこにウィリアムが剣を振って光を散らし、演出を引き立てる。
「リトルフルールの星の魔女から、皆さんへ雪と花びらとチョコと、それとたくさんの幸せもプレゼントなのです!」
詩杏がレーヴとフィリアと協力して、無数の小さなチョコレートを観客に向けて振り撒く。普段よりもベリー味増量であり、食べた観客が次々とテンションを上げていった。
「ようこそお客人――今日は現を忘れてお楽しみくださいなんだよ♪」
そして、チョコレートの甘い香りが充満するステージに呼ばれたように、つがいの狼に虹色の蝶、さらには星獣チョコちゃん――かわいい名前をしているがすっかりドラゴンである――を引き連れ、翼から光を噴いてシャーロットが空から舞い降りてくる。二人のお姫様、歌音と嘘に祝福の桜が送られ、続けて森に光の糸が張り巡らされる。
おいでませ フルールの森
天使も悪魔も一緒に遊ぼ
みんな元気に歌い合えば
楽しさはいつも無限大
曲が盛り上がりを迎え、歌音は二つ名『虹の歌姫』の如くイルミネーションのような光をまとい、観客に一緒になって歌うように呼びかける。観客の手元には手のひらサイズのアンサンブルが宿り、呼びかけに応じれば自然と振り付けが身につき、メロディが口ずさめるようになる。
「嘘ちゃん、一緒にダンスしましょう!」
「はいなのよ~」
詩杏と嘘が手を取り合ってくるくる、とダンスを舞う。二人の踊る空間に星が生まれ、それがいっぱいになったところで詩杏が喚び出した門松から花火が打ち上がり、会場中に星を散らして興奮を高めていった。
おいでませ フルールの森
ボクたちはいつでも待ってるよ
みんな一緒に笑い合えば
幸せな日々がほら続いてく
森に張り巡らされた糸の上を、シャーロットが喚び出したエレメントや動物たち、嘘が創り出した創作物と共に跳ね回る。犬と犬を模したけん玉や、猫と猫を模したヨーヨーを並べて観客におぉ、とどよめきを起こさせ、楽しませる。
空には鳥やドラゴンが飛び交い、さらには果物さえも光の糸を伝ってお腹を空かせたものの元へ届き、実りを与えた。
「クロノスちゃん、こっちにおいで!」
糸の一本をクロノスの足元へ伸ばし、シャーロットがステージに誘う。このライブを迎える前のクロノスであれば、ためらったかもしれない、足踏みしたかもしれない。
「よっ、と」
しかし様々なライブに触れて、力をもらったクロノスに、もう恐れるものはない。自らのカリスマを活かして光の糸に飛び乗り、ゆっくりながらも糸を伝ってシャーロットの元へやって来た。
「わ! ボクだって訓練してやっと出来たのに、もう覚えちゃったの!?」
「できるかな、って思ったら、うん、できた。私、実はすごい力を持っている……んだね」
自信を含ませた笑顔を向けたクロノスへ、シャーロットがえへへ、と嬉しそうに笑った。
「見て見て! この賑やかさが、ここまで歩んできたボクとかのんちゃん、リトルフルールのすべてなんだ!
ボクたちは明日も、明後日も、ずっとずっと、リトルフルールを続けていく! だからクロノスちゃん、いっしょにがんばろっ!」
「うん、頑張る。みんなを必ず、送り届けてみせるからね」
二人が手を取り合い、誓い合う。
「それじゃ最後に……今日の舞台のとっておき!」
シャーロットの姿が光芒に変わり、ステージを駆け抜ける。すると空中にハッキリと、光のメッセージが生まれた。
アレクスが【リトルフルール】のロゴが描かれた銀テープを観客席に向けて降らせ、宣伝とする。
【リトルフルール】のサーカスフィールドに変じた会場に、いつまでも観客の声援が木霊していた――。
「よぉ後輩、元気してたか?」
「もちろんなのよ! さっきもみんなといっぱい、ステージを楽しんできたのよ!」
「ははは、そりゃよかった。シャロの奴、お前と組めるのすっげぇ楽しみにしてたからな。
喜ばしてやってくれると嬉しい。……ほれ、見てみろ」
アレクス・エメロードが示す先を嘘が見れば、どこか上の空の顔のシャーロット・フルールがいた。
「あんな顔してる時はな、ろくでもねぇこと考えてるんだ。大方、クロノスの時間遡行の話を聞いて、もしかしたらパパとママが生きてる時に戻れるかもしれねぇ、って思ってんだろ」
「シャロちゃん……ねぇ、どうすればいいの?」
見上げてくる嘘に、アレクスは簡単さ、と呟いて言った。
「今が最高に楽しい、そう思わせてやりゃあいい。俺もシャロに拾われて、今はまぁ、楽しいって思えるようになった」
「あっ、今照れたの」
「うっせ! 後輩のくせに生意気だぞっ」
「きゃ~、やめてなのよ~」
嘘の頭をくしゃくしゃとかき混ぜてから、アレクスが「それじゃ、俺はみんなを呼んでくっから。シャロのこと、任せたぜ」と言ってその場を後にした。
「変えられるのはヒロイックソングスに関することだけ、かぁ……」
ぽつり、とシャーロットが呟く。もし、自分がもっともっとアイドルとしての地位を高めて、そのうち時間をも自由に渡れるような存在になったとしても、過去のある地点――シャーロットの両親が大洪水に巻き込まれる前――に戻って両親を助けることは禁忌に触れるのだ。
「シャロちゃ~ん!! 会いたかったのよ~!!」
「ふにゃ!?」
その時、背後から嘘ががばっ、とシャーロットに抱きついた。
「えへへ~、シャロちゃんあったかいのよ~」
すりすり、と顔を寄せてくる嘘のぬくもりが、冷えていた心を温めてくれる。
「……嘘ちゃんの方がずっとずっと、あたたかい、よ」
小さく、嘘に聞こえないような声で呟いて、一瞬顔を下げて。
「うっし! みんな呼んできたぞー。ぼちぼち準備始めっかー」
アレクスの声が聞こえた時には、顔を上げていつものシャーロット・フルールに戻って。
「にひひー、ボクは嘘ちゃんとキャッキャウフフしてるから、アレクちゃんがんばってー」
「あっ、シャロてめぇ、丸投げすんなっての!」
「嘘ちゃんとキャッキャウフフ……えっと、僕も混ぜてもらっていいですか!?」
「シアンまで!?」
「アレク君、がんばろ? わたしとウィルさんも応援するから!」
「応援だけじゃなくて手ぇ動かせよ!?」
いつもの賑やかな【リトルフルール】に戻って。
(大丈夫。パパとママを助けちゃったら、皆と会えなくなっちゃいそだし。
ボクが生きてるのは『今』だもん)
「よーし! 今日も最高のフルールライブをお届けだっ☆」
照明の落ちたステージに一人、シャーロットが姿を見せる。そして最前列のクロノスに向かって一礼して、宣言する。
「フェスタサーカス【リトルフルール】の舞台にようこそ、クロノスちゃん。
今日はキミを、妖精郷にご招待っ♪」
フッ、とシャーロットの姿が消え、そしてステージには中央に命育む大樹が現れ、大樹を中心とした花と緑と多種多様な命溢れる妖精郷が出現した。草花や樹木が歌い、美味しそうな果実に釣られて動物がやって来る。そこにはフェスタ生におなじみのルミマルの姿もあった。
お姫様は森を歩く
虹の光振り撒きながら
今日も元気に進みましょう
そんな愉快で楽しい森の中を、『お姫様』として虹村 歌音と嘘が歌いながら行進する。旗のついた指揮棒を振って指揮するアンサンブルを宙に飛ばし、虹の光を振り撒きながら元気よく進む。
お姫様を迎えるのは
騎士と魔女とお人形さん
みんな仲良く歌いましょう
歌音たちとは反対側から、高貴な立ち振る舞いの『騎士』ウィリアム・ヘルツハフト、星獣レーヴとミニうさフィリアを従えた『魔女』奏梅 詩杏、そして『人形』アレクス。
(……ん? 人形ってなんだ?)
たぶん従者を意味しているのだろうが、それにしたってもうちょっと真っ当な役どころは無かったのだろうか、そう思うアレクスだったがまぁ、いつものことかとさして深く考えず、ギターの形をした指揮器をかき鳴らし、バンドマンの姿をしたアンサンブルと共に森を行進、お姫様である歌音と嘘をエスコートする。
歌声は朗らかに
鳥は歌い 花は踊り
甘い香りが森を包む
動物たちも連れ立って
妖精の郷(くに)へ行こう
歌音が喚び出した金色の鷹が高く鳴き、空には詩杏が打ち上げた七色の花火が弾け、花びらとなってステージを舞う。同時に雪をちらつかせ、そこにウィリアムが剣を振って光を散らし、演出を引き立てる。
「リトルフルールの星の魔女から、皆さんへ雪と花びらとチョコと、それとたくさんの幸せもプレゼントなのです!」
詩杏がレーヴとフィリアと協力して、無数の小さなチョコレートを観客に向けて振り撒く。普段よりもベリー味増量であり、食べた観客が次々とテンションを上げていった。
「ようこそお客人――今日は現を忘れてお楽しみくださいなんだよ♪」
そして、チョコレートの甘い香りが充満するステージに呼ばれたように、つがいの狼に虹色の蝶、さらには星獣チョコちゃん――かわいい名前をしているがすっかりドラゴンである――を引き連れ、翼から光を噴いてシャーロットが空から舞い降りてくる。二人のお姫様、歌音と嘘に祝福の桜が送られ、続けて森に光の糸が張り巡らされる。
おいでませ フルールの森
天使も悪魔も一緒に遊ぼ
みんな元気に歌い合えば
楽しさはいつも無限大
曲が盛り上がりを迎え、歌音は二つ名『虹の歌姫』の如くイルミネーションのような光をまとい、観客に一緒になって歌うように呼びかける。観客の手元には手のひらサイズのアンサンブルが宿り、呼びかけに応じれば自然と振り付けが身につき、メロディが口ずさめるようになる。
「嘘ちゃん、一緒にダンスしましょう!」
「はいなのよ~」
詩杏と嘘が手を取り合ってくるくる、とダンスを舞う。二人の踊る空間に星が生まれ、それがいっぱいになったところで詩杏が喚び出した門松から花火が打ち上がり、会場中に星を散らして興奮を高めていった。
おいでませ フルールの森
ボクたちはいつでも待ってるよ
みんな一緒に笑い合えば
幸せな日々がほら続いてく
森に張り巡らされた糸の上を、シャーロットが喚び出したエレメントや動物たち、嘘が創り出した創作物と共に跳ね回る。犬と犬を模したけん玉や、猫と猫を模したヨーヨーを並べて観客におぉ、とどよめきを起こさせ、楽しませる。
空には鳥やドラゴンが飛び交い、さらには果物さえも光の糸を伝ってお腹を空かせたものの元へ届き、実りを与えた。
「クロノスちゃん、こっちにおいで!」
糸の一本をクロノスの足元へ伸ばし、シャーロットがステージに誘う。このライブを迎える前のクロノスであれば、ためらったかもしれない、足踏みしたかもしれない。
「よっ、と」
しかし様々なライブに触れて、力をもらったクロノスに、もう恐れるものはない。自らのカリスマを活かして光の糸に飛び乗り、ゆっくりながらも糸を伝ってシャーロットの元へやって来た。
「わ! ボクだって訓練してやっと出来たのに、もう覚えちゃったの!?」
「できるかな、って思ったら、うん、できた。私、実はすごい力を持っている……んだね」
自信を含ませた笑顔を向けたクロノスへ、シャーロットがえへへ、と嬉しそうに笑った。
「見て見て! この賑やかさが、ここまで歩んできたボクとかのんちゃん、リトルフルールのすべてなんだ!
ボクたちは明日も、明後日も、ずっとずっと、リトルフルールを続けていく! だからクロノスちゃん、いっしょにがんばろっ!」
「うん、頑張る。みんなを必ず、送り届けてみせるからね」
二人が手を取り合い、誓い合う。
「それじゃ最後に……今日の舞台のとっておき!」
シャーロットの姿が光芒に変わり、ステージを駆け抜ける。すると空中にハッキリと、光のメッセージが生まれた。
これまでも これからも
リトルフルールをよろしくなんだよ>ワ<
リトルフルールをよろしくなんだよ>ワ<
アレクスが【リトルフルール】のロゴが描かれた銀テープを観客席に向けて降らせ、宣伝とする。
【リトルフルール】のサーカスフィールドに変じた会場に、いつまでも観客の声援が木霊していた――。