レジェンドハーモニクス!
リアクション公開中!
リアクション
■一旦、戦闘をおやすみして。やっぱり平和が一番です
「とうっ! わたしは未来の……ううん、この先行き見えない時代のカリスマ麻雀アイドル天地 和!
どうしても戦いたいっていうなら、このわたしを麻雀で倒してみよー!」
まるでヒーローが戦いを止めるために、世界の壁を突き破って飛び込んできたかのような演出と共に登場した天地 和がビシッ、とポーズを決め、麻雀セットを掲げて二人の視線を誘導しようとする――。
「あのね、実はこれ、テイク2。最初は決めポーズをしたところでドラちゃんにふっ飛ばされちゃったの」
「神様ネタバレ禁止~! 真面目に考えたら二人がガチンコバトルしてるところにライブなんてできっこないよ~!」
こっそりと耳打ちするような仕草でネタばらしする神様へ、和がぶんぶん、と腕を振って抗議する。そんな裏事情がありつつも、一度ふっ飛ばされてもこうして復活してくる辺り、タフと言えよう。
「まぁまぁ。今ならほら、麻雀ライブできちゃうよ?」
「ううっ、でもドラちゃんに見てもらえなかったら意味がないよぅ」
「大丈夫、君と僕が楽しく麻雀してたら気になってついチラ見しちゃうから。さっき殴られた時に思い出したんだけど、そういえばドラちゃんがドラちゃんになる前から、しょっちゅうドラちゃんの視線感じてたなーって」
「……そういうことなら」
気を取り直し、和が卓に麻雀牌を積み上げる。
「麻雀って地味じゃない? やってることはそこの牌? を掴んで自分の手元に引き寄せて、代わりの牌を決まった場所に置くだけだし」
「確かにやることはそう。だけどわたしの麻雀ライブはひと味もふた味も違うのだ!」
言いながら、和が牌を引いてくる。だがそこに手首のひねりを加え、まるですごい牌を引いてきたかのような印象を与える。
「あっ、その動き、漫画で読んだやつだ。なるほど、これは面白いね」
その後も和は、一連の動作の中に本来であれば不必要な、しかし魅せるためには大切な動作を混ぜていく。腕を高く掲げてみたり、河に牌を捨てる前にくるり、とターンしてみたり。
「うんうん、次々と技が出て面白いね。ほらドラちゃんも、見てないと次の技を見逃しちゃうよ」
神様の呼びかけに、当然というか応える声はなかった。ただこの空間のどこかで、もしかしたらドラキュラ女伯爵は昔のように、チラ見をしているのかもしれない――。
例えば平和って言っても 様々あるけど
小さな幸せを感じる それも平和なのかも?
甘いもの食べたり 花を見つけたり
そんなことを思うのは 心があるから
歌う深郷 由希菜の周りに、小さな光の粒が生まれる。神様がそれに触れると、リン、と鈴の音が鳴った。
「神様、身体の方は大丈夫なの?」
「うん大丈夫ー。キツイのもらったおかげで動きたくても動けないし。今のうちに呪い解いちゃってー」
「わかった! じゃあちょっと待っててね!」
温かくなる気持ちは 象徴みたいなものだね
ささやかでも人には 笑顔にする力がある
穏やかに過ぎる時 探していきたい一緒に
嬉しくなって 自然に零れるような喜びを
「アツアツショコラ参りまーす! 俺の付近にお気をつけくださーい!」
周りに注意を促してから、由希菜が上空に向けてドロドロに溶けたチョコレートを発射する。そこに渦を巻いた精霊が風を起こし、落ちてくる間に適温へと冷ます。
「ほっ、よっ、と!」
落ちてきたチョコレートをフライパンで受け止め、適度な大きさに切り分ける。
「はい、チョコレートだよ。神様、食べて食べて」
「いただきまーす。うん、美味しい。疲れた時には甘い物だよねー」
チョコレートを頬張った神様が笑顔を見せると、神様を覆っていた呪いの力が少し、弱まったように見えた。
「いっぱいあるから、みんなもどうぞー。おかわりも受け付けるよー」
「それじゃ遠慮なくー。お菓子ちょうど切らしてたところなんだよねー」
✝タナトス✝やレイニィ、ヒメ、グリム兄弟もチョコレートをいただく格好になり、たくさんチョコレートを振る舞えた由希菜は嬉しそうだった。
「ふぅ。一時的なのは間違いないが、平和な一時、というところか」
ひそかに周囲に気を配り、アイドルたちがライブを行うのを支援していた辿 左右左へ、神様が声を掛ける。
「おつかれー。ねぇねぇ、なんか面白いことやってよー」
「俺か? うぅむ……歌を考えるのも踊るのも得意ではないのだが……」
腕を組みしばし思案した左右左が、思いついたようにポン、と手を叩いて、ひとつの影を作り上げた。
「本物は向こうでドンパチやってるから、代わりだな」
「おー、うまいねー。顔が見えなくてもドラちゃんだってわかるー」
影はドラキュラ女伯爵を模しており、神様がその出来映えに感心していた。
「どうだ? 話し合って解決できそうか? ……そうもいかない事情があるのはわかるのだが」
「んー、少し前までは、適当に相手してあげたら仲直りできるかなーって思ってたんだけど。いま思い返したら、それじゃ足りなかったかもしれないね」
「というと……どちらかの死が必要とかか?」
「僕とドラちゃんとだったら、そうなるね。でも君たちが来てくれたおかげで、そうならなくて済むかもしれない。
やっぱり一度はこてんぱんに伸されて、そこでわかることもあると思うから。……あっ、ドラちゃんの場合は二度目か。ごめんねドラちゃん、わざとじゃないんだよっ」
ドラキュラ女伯爵の影に向かって、神様がてへ、と舌を出して謝る。
「今なら戦闘に巻き込まれることもなさそうですので、ここでライブをしたいと思います」
「怖い思いさせちゃってごめんねー。よーしどんとこーい」
相変わらずのフランクぶりに空花 凛菜が苦笑を見せてから、ライトの光で日陰と日向を設定し、日陰にはチョコレートのかさをかぶったキノコを、日向にはチョコレートの皮に包まれたタケノコを置く。そこで不思議な民謡を歌えば、両者がひょこっ、と立ち上がり、見た目キノコの方はポルカを踊り始め、一方見た目タケノコの方はタンゴを踊り始めた。
「以前、ネヴァーランドにてキノコ派とタケノコ派の諍いがあったのを覚えていらっしゃるでしょうか?」
「あったねー、うん、覚えてるよ」
「あの時は、買占めの解消もさることながら、キノコ派のタナトス様が懸命にライブアピールして皆との距離を縮めることで、呼応するように住民間の諍いも収束したように記憶しています」
「俺めっちゃ頑張ったからねー」
背後から✝タナトス✝が声を送ってきたのを、凛菜は期待通りと呟くように微笑んで、続ける。
「結局、キノコ派とタケノコ派の対立自体は消滅していません。ですがどちらかというと、対立自体をお互いに楽しんでいる風情があるように感じます。
そして、何となく神様とドラキュラ様の戦いも、そんな趣きがあるのではないでしょうか? ……と言いますか、少なくとも神様はその心積もりでいらっしゃる筈ですよね」
「もちろん。まぁもっとも、このレベルの対立はこれっきりにしたいけどね」
ははは、と笑う神様に、凛菜も笑って締めくくる。
「でしたら、その気持ちを強く意識してください。きっとそれが神様にかけられた呪いを解く力になると思います。
……ご清聴、ありがとうございました」
ぺこり、とお辞儀をした凛菜へ、神様と✝タナトス✝の拍手が送られた。
「あぅ……も、もう、出てきても大丈夫……? ぽーんって、飛ばされたりしない……?」
「ああ、少なくとも今は大丈夫だ、だから安心して出ておいで」
堀田 小十郎の招きに応じて、隠れていた睡蓮寺 小夜が顔を出し、そろりそろりと小十郎の元へ駆け寄った。
「二人がマジで戦ってる時は、いやぁ流石に出られなかったぜ。手加減できねぇって、厄介なことになってんな。
ドラキュラはドラキュラで、恨み辛みがすげぇしよ。……ま、そういうわけだから、しょうがねぇ」
睡蓮寺 陽介がくるり、と振り返り、小十郎と小夜、それとレイニィ、✝タナトス✝を順に見て、言い放つ。
「思いっきり歌うとすっか!」
「よっ、待ってましたー。盛り上げ役なら神様の力が無くたってできるもんねー」
「れ、レイニィもコーラスくらいなら、やれるわ!」
「そうだな。これでも神の使徒なのでね。呪われてる者を放ってはおけんよ。
……ん? どうした陽介、私たちの反応が意外だ、と言いたい顔をしているぞ」
「どうしたってそりゃあ……あー、まぁいいや。楽しくやるってんならそれが一番だ。
小夜、神様に力いっぱい、歌ってやんな。そうすりゃきっとみんな、笑顔になる」
「……うん、兄さん。みんなが笑顔でいられたら、わたしも嬉しい。
わたしのウタでみんなの心が晴れやかになるように、精一杯やりたい、です」
小夜が笑顔でこくり、と頷き、皆の意思が固まったのを確認した小十郎が、背中の光背を変形、巨大化させステージを作り上げる。
「では届けよう……この箱庭を皆で歩む、希望のウタを」
ステージの真ん中に立った小夜が、アイドルたちの活躍を歌にした民謡を歌い始める。やがて周囲には小動物や青白い亡霊たちが集まり出し、死者も生者も問わない皆が楽しめるステージへと彩られていった。
「世界を愛し、未来へと歩むこのウタ……その歌詞を皆の心に届けよう」
小十郎が小夜や陽介と共に歌えば、歌を聞くものたちの心にも自然と歌詞が浮かび、それがたとえ初めて聞く曲であったとしても一緒に歌うことができた。
「大丈夫だ、自信を持ってでっかい声張り上げろ! 俺が何倍もいいウタに仕上げてやるからよ」
そして響く様々な声に陽介が魔法をかけ、まるで音楽隊が指揮をして奏でるような立派な歌に魅せる。いまやステージとその周囲は、大小数々の楽器が演奏され、高音から低音まで網羅するコーラスが重なる荘厳なオーケストラだ。
「光の剣は、その想いを奏でるために。……さあ、演奏演武をここに示そう」
歌が間奏に入ったタイミングで、小十郎が両手を広げ世界法則に干渉を試みれば、見物していた観客すべてが小十郎を間近に見られるようになった。そうして一斉に注目を集めながら、ステージに注がれる光を剣として束ね、演武を披露する。その演武は力強さというよりは優雅で、まるで楽器を演奏するかのように平和的であった。
「小十郎は平和でも、皆の心は熱く! めいっぱい楽しんでいきな!」
陽介が小十郎の演武に、七色に変化する炎を用いたアピールを加えて、見ているものの心に火を灯す。
(みんな、ちゃんと楽しんでくれてるかな)
歌いながらちら、と観客の方に視線を向けた小夜は、隣同士仲良く座って歌っている神様と✝タナトス✝、その後ろで一生懸命に歌っているレイニィを見て、あぁ、ちゃんと楽しんでくれてるな、と理解する。
(これなら……神さまの呪いも、解けてくれるかな……?)
「んー……はぁ。そろそろ動けるようになったかな?」
ライブが終わり、神様が身体の感覚を確かめるように立ち上がる。
「どう、神様……?」
「……おぉ、だいぶいい感じ。こう、自分の身体が制御できてるなーって感じするよ」
手をグーパーとやった神様の言葉に、レイニィがほっ、と息を吐く。
「でも、まだ終わりじゃないよ。まだドラちゃんがいる」
✝タナトス✝の言葉に、レイニィがあぅ、と呟いた。
「神様、行くの……?」
「んーどうしようかな。もう少しここで、みんなの戦いぶりを見守ってようかな。僕とドラちゃんが殴り合ったらやっぱり、平和的じゃないだろうしね」
話をするにはもう少し、大人しくなってもらいたいしね、と神様がウィンクをしてみせた――。
「とうっ! わたしは未来の……ううん、この先行き見えない時代のカリスマ麻雀アイドル天地 和!
どうしても戦いたいっていうなら、このわたしを麻雀で倒してみよー!」
まるでヒーローが戦いを止めるために、世界の壁を突き破って飛び込んできたかのような演出と共に登場した天地 和がビシッ、とポーズを決め、麻雀セットを掲げて二人の視線を誘導しようとする――。
「あのね、実はこれ、テイク2。最初は決めポーズをしたところでドラちゃんにふっ飛ばされちゃったの」
「神様ネタバレ禁止~! 真面目に考えたら二人がガチンコバトルしてるところにライブなんてできっこないよ~!」
こっそりと耳打ちするような仕草でネタばらしする神様へ、和がぶんぶん、と腕を振って抗議する。そんな裏事情がありつつも、一度ふっ飛ばされてもこうして復活してくる辺り、タフと言えよう。
「まぁまぁ。今ならほら、麻雀ライブできちゃうよ?」
「ううっ、でもドラちゃんに見てもらえなかったら意味がないよぅ」
「大丈夫、君と僕が楽しく麻雀してたら気になってついチラ見しちゃうから。さっき殴られた時に思い出したんだけど、そういえばドラちゃんがドラちゃんになる前から、しょっちゅうドラちゃんの視線感じてたなーって」
「……そういうことなら」
気を取り直し、和が卓に麻雀牌を積み上げる。
「麻雀って地味じゃない? やってることはそこの牌? を掴んで自分の手元に引き寄せて、代わりの牌を決まった場所に置くだけだし」
「確かにやることはそう。だけどわたしの麻雀ライブはひと味もふた味も違うのだ!」
言いながら、和が牌を引いてくる。だがそこに手首のひねりを加え、まるですごい牌を引いてきたかのような印象を与える。
「あっ、その動き、漫画で読んだやつだ。なるほど、これは面白いね」
その後も和は、一連の動作の中に本来であれば不必要な、しかし魅せるためには大切な動作を混ぜていく。腕を高く掲げてみたり、河に牌を捨てる前にくるり、とターンしてみたり。
「うんうん、次々と技が出て面白いね。ほらドラちゃんも、見てないと次の技を見逃しちゃうよ」
神様の呼びかけに、当然というか応える声はなかった。ただこの空間のどこかで、もしかしたらドラキュラ女伯爵は昔のように、チラ見をしているのかもしれない――。
例えば平和って言っても 様々あるけど
小さな幸せを感じる それも平和なのかも?
甘いもの食べたり 花を見つけたり
そんなことを思うのは 心があるから
歌う深郷 由希菜の周りに、小さな光の粒が生まれる。神様がそれに触れると、リン、と鈴の音が鳴った。
「神様、身体の方は大丈夫なの?」
「うん大丈夫ー。キツイのもらったおかげで動きたくても動けないし。今のうちに呪い解いちゃってー」
「わかった! じゃあちょっと待っててね!」
温かくなる気持ちは 象徴みたいなものだね
ささやかでも人には 笑顔にする力がある
穏やかに過ぎる時 探していきたい一緒に
嬉しくなって 自然に零れるような喜びを
「アツアツショコラ参りまーす! 俺の付近にお気をつけくださーい!」
周りに注意を促してから、由希菜が上空に向けてドロドロに溶けたチョコレートを発射する。そこに渦を巻いた精霊が風を起こし、落ちてくる間に適温へと冷ます。
「ほっ、よっ、と!」
落ちてきたチョコレートをフライパンで受け止め、適度な大きさに切り分ける。
「はい、チョコレートだよ。神様、食べて食べて」
「いただきまーす。うん、美味しい。疲れた時には甘い物だよねー」
チョコレートを頬張った神様が笑顔を見せると、神様を覆っていた呪いの力が少し、弱まったように見えた。
「いっぱいあるから、みんなもどうぞー。おかわりも受け付けるよー」
「それじゃ遠慮なくー。お菓子ちょうど切らしてたところなんだよねー」
✝タナトス✝やレイニィ、ヒメ、グリム兄弟もチョコレートをいただく格好になり、たくさんチョコレートを振る舞えた由希菜は嬉しそうだった。
「ふぅ。一時的なのは間違いないが、平和な一時、というところか」
ひそかに周囲に気を配り、アイドルたちがライブを行うのを支援していた辿 左右左へ、神様が声を掛ける。
「おつかれー。ねぇねぇ、なんか面白いことやってよー」
「俺か? うぅむ……歌を考えるのも踊るのも得意ではないのだが……」
腕を組みしばし思案した左右左が、思いついたようにポン、と手を叩いて、ひとつの影を作り上げた。
「本物は向こうでドンパチやってるから、代わりだな」
「おー、うまいねー。顔が見えなくてもドラちゃんだってわかるー」
影はドラキュラ女伯爵を模しており、神様がその出来映えに感心していた。
「どうだ? 話し合って解決できそうか? ……そうもいかない事情があるのはわかるのだが」
「んー、少し前までは、適当に相手してあげたら仲直りできるかなーって思ってたんだけど。いま思い返したら、それじゃ足りなかったかもしれないね」
「というと……どちらかの死が必要とかか?」
「僕とドラちゃんとだったら、そうなるね。でも君たちが来てくれたおかげで、そうならなくて済むかもしれない。
やっぱり一度はこてんぱんに伸されて、そこでわかることもあると思うから。……あっ、ドラちゃんの場合は二度目か。ごめんねドラちゃん、わざとじゃないんだよっ」
ドラキュラ女伯爵の影に向かって、神様がてへ、と舌を出して謝る。
「今なら戦闘に巻き込まれることもなさそうですので、ここでライブをしたいと思います」
「怖い思いさせちゃってごめんねー。よーしどんとこーい」
相変わらずのフランクぶりに空花 凛菜が苦笑を見せてから、ライトの光で日陰と日向を設定し、日陰にはチョコレートのかさをかぶったキノコを、日向にはチョコレートの皮に包まれたタケノコを置く。そこで不思議な民謡を歌えば、両者がひょこっ、と立ち上がり、見た目キノコの方はポルカを踊り始め、一方見た目タケノコの方はタンゴを踊り始めた。
「以前、ネヴァーランドにてキノコ派とタケノコ派の諍いがあったのを覚えていらっしゃるでしょうか?」
「あったねー、うん、覚えてるよ」
「あの時は、買占めの解消もさることながら、キノコ派のタナトス様が懸命にライブアピールして皆との距離を縮めることで、呼応するように住民間の諍いも収束したように記憶しています」
「俺めっちゃ頑張ったからねー」
背後から✝タナトス✝が声を送ってきたのを、凛菜は期待通りと呟くように微笑んで、続ける。
「結局、キノコ派とタケノコ派の対立自体は消滅していません。ですがどちらかというと、対立自体をお互いに楽しんでいる風情があるように感じます。
そして、何となく神様とドラキュラ様の戦いも、そんな趣きがあるのではないでしょうか? ……と言いますか、少なくとも神様はその心積もりでいらっしゃる筈ですよね」
「もちろん。まぁもっとも、このレベルの対立はこれっきりにしたいけどね」
ははは、と笑う神様に、凛菜も笑って締めくくる。
「でしたら、その気持ちを強く意識してください。きっとそれが神様にかけられた呪いを解く力になると思います。
……ご清聴、ありがとうございました」
ぺこり、とお辞儀をした凛菜へ、神様と✝タナトス✝の拍手が送られた。
「あぅ……も、もう、出てきても大丈夫……? ぽーんって、飛ばされたりしない……?」
「ああ、少なくとも今は大丈夫だ、だから安心して出ておいで」
堀田 小十郎の招きに応じて、隠れていた睡蓮寺 小夜が顔を出し、そろりそろりと小十郎の元へ駆け寄った。
「二人がマジで戦ってる時は、いやぁ流石に出られなかったぜ。手加減できねぇって、厄介なことになってんな。
ドラキュラはドラキュラで、恨み辛みがすげぇしよ。……ま、そういうわけだから、しょうがねぇ」
睡蓮寺 陽介がくるり、と振り返り、小十郎と小夜、それとレイニィ、✝タナトス✝を順に見て、言い放つ。
「思いっきり歌うとすっか!」
「よっ、待ってましたー。盛り上げ役なら神様の力が無くたってできるもんねー」
「れ、レイニィもコーラスくらいなら、やれるわ!」
「そうだな。これでも神の使徒なのでね。呪われてる者を放ってはおけんよ。
……ん? どうした陽介、私たちの反応が意外だ、と言いたい顔をしているぞ」
「どうしたってそりゃあ……あー、まぁいいや。楽しくやるってんならそれが一番だ。
小夜、神様に力いっぱい、歌ってやんな。そうすりゃきっとみんな、笑顔になる」
「……うん、兄さん。みんなが笑顔でいられたら、わたしも嬉しい。
わたしのウタでみんなの心が晴れやかになるように、精一杯やりたい、です」
小夜が笑顔でこくり、と頷き、皆の意思が固まったのを確認した小十郎が、背中の光背を変形、巨大化させステージを作り上げる。
「では届けよう……この箱庭を皆で歩む、希望のウタを」
ステージの真ん中に立った小夜が、アイドルたちの活躍を歌にした民謡を歌い始める。やがて周囲には小動物や青白い亡霊たちが集まり出し、死者も生者も問わない皆が楽しめるステージへと彩られていった。
「世界を愛し、未来へと歩むこのウタ……その歌詞を皆の心に届けよう」
小十郎が小夜や陽介と共に歌えば、歌を聞くものたちの心にも自然と歌詞が浮かび、それがたとえ初めて聞く曲であったとしても一緒に歌うことができた。
「大丈夫だ、自信を持ってでっかい声張り上げろ! 俺が何倍もいいウタに仕上げてやるからよ」
そして響く様々な声に陽介が魔法をかけ、まるで音楽隊が指揮をして奏でるような立派な歌に魅せる。いまやステージとその周囲は、大小数々の楽器が演奏され、高音から低音まで網羅するコーラスが重なる荘厳なオーケストラだ。
「光の剣は、その想いを奏でるために。……さあ、演奏演武をここに示そう」
歌が間奏に入ったタイミングで、小十郎が両手を広げ世界法則に干渉を試みれば、見物していた観客すべてが小十郎を間近に見られるようになった。そうして一斉に注目を集めながら、ステージに注がれる光を剣として束ね、演武を披露する。その演武は力強さというよりは優雅で、まるで楽器を演奏するかのように平和的であった。
「小十郎は平和でも、皆の心は熱く! めいっぱい楽しんでいきな!」
陽介が小十郎の演武に、七色に変化する炎を用いたアピールを加えて、見ているものの心に火を灯す。
(みんな、ちゃんと楽しんでくれてるかな)
歌いながらちら、と観客の方に視線を向けた小夜は、隣同士仲良く座って歌っている神様と✝タナトス✝、その後ろで一生懸命に歌っているレイニィを見て、あぁ、ちゃんと楽しんでくれてるな、と理解する。
(これなら……神さまの呪いも、解けてくれるかな……?)
「んー……はぁ。そろそろ動けるようになったかな?」
ライブが終わり、神様が身体の感覚を確かめるように立ち上がる。
「どう、神様……?」
「……おぉ、だいぶいい感じ。こう、自分の身体が制御できてるなーって感じするよ」
手をグーパーとやった神様の言葉に、レイニィがほっ、と息を吐く。
「でも、まだ終わりじゃないよ。まだドラちゃんがいる」
✝タナトス✝の言葉に、レイニィがあぅ、と呟いた。
「神様、行くの……?」
「んーどうしようかな。もう少しここで、みんなの戦いぶりを見守ってようかな。僕とドラちゃんが殴り合ったらやっぱり、平和的じゃないだろうしね」
話をするにはもう少し、大人しくなってもらいたいしね、と神様がウィンクをしてみせた――。