イラスト

シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

天歌院玲花全国反省ツアー

リアクション公開中!
天歌院玲花全国反省ツアー

リアクション

■4-1.想い交錯する場所で

星獣都市ハコダテ。そこはある意味で因縁の土地であった。悪ともいえる行為を繰り返してきた彼女の最大の罪。一番星の星獣を直接この手で殺めたこと――それは、どう言い繕うとしても無理な話だ。

 その彼女が、一番星の星獣を追悼するライブに立つ。それが関係者の神経を逆撫でする行為であることは彼女が誰よりも理解していた。

「自己満足、ですわね」

 彼女は移動用の車の中で髪をかきあげながら呟く。慰霊のため。追悼のため。謝罪のため。言葉を並べ立てればいくらでも理由を上げることができる。しかし彼女がいくら歌ったところで、やってしまったことの取り返しなどつくはずがない。

 それでも彼女はその罪を裁かれずに今生きている。共に協力してくれる友人がいる。

 天歌院玲花という女が前に進むためには、この場所へ向かうことこそが最も重要だと予感している。

 窓の外を見つめながら大きく息を吐いた彼女は、そこでようやく足元の気配に気づく。彼女に身体を押し付けるようにしながら、水をまとうシカの星獣が小さく声をあげた。

「あなたはなぜ、わたくしについてきてくれるのです?」

 問うたところで返ってくるはずはない。彼女は苦笑しながらも、星獣の背を撫でるのであった。



 響く怒声。絶え間ない罵声。しめやかに執り行われるはずの追悼ライブはその様相を大きく変えていた。それもこれも全て、天歌院玲花というアイドルのせいであると、空気に呑まれた人々が呟いた。

 けれどそうでないものたちもいる。彼らは玲花を悪しざまに罵るわけではなく、しかし熱狂のままに肯定するわけでもない。

 緑青 木賊は、そうした中のひとりであった。

「れいか氏に思うところあれど星獣を想うところはみな同じ。……そして、れいか氏はれいか氏なりに、思うところがあってここにやってくるっす」

 確かめるように呟くその声は、会場内に響く音にかき消されてしまいそうだ。それでも、

「あくまき」

 相棒と共に木賊は一歩、踏み出した。決して玲花を助けようというつもりはない。ただ、星獣への想いというただ一点において自分たちは対等だと、そう考えていた。

 ならば、することは。

「歌いましょう」

 あくまきの作り出す氷の階段を昇りながら、木賊はゆっくりと歌いだした。その氷のように透き通るような歌声はどこか貴さを讃えている。

 その歌はあくまで一番星の星獣に捧げられるもの。観客たちに訴えかける派手さは無く、木賊自身もまたそのつもりはない。ただ一人の観客として、木賊は自分の立場を表明していた。

 空に近いその場所で、くるりとステップを踏む。それに合わせて星獣がほんの僅かの花を生み出した。一番星の星獣への献花として、木賊は静かにその死を悼んだ。

 パフォーマンスを終えると、そこで、会場へと到着した玲花の姿に気づいた。これから波乱がありそうだというところで――それは起きた。

『こうなることも、最初からずっと分かってた……』

 ステージに響き渡る声。地の底から響くような、それでいてどこかで聞いたことがあるような。唐突なその声に、観客たちのどよめきが走る。

『それなら、私の“ウタ”を君に託そう……。
 私は消えてしまうから、“みんなで”にはならなくて、すまないけれど――』

 それは、一番星の星獣の最期の言葉だった。あまりに不謹慎な言葉。あまりに不出来な真似。当然、木賊のものではない。そこから視線を下げれば、ステージの壇上にロレッタ・ファーレンハイナーが立っていた。

 彼女に良くも悪くも注目が集まる中、彼女は大きく羽ばたくような所作でパフォーマンスを始める。玲花の一撃によって倒れ伏す一番星の星獣を、そのものではないにせよ、それに近い鳥の模倣によって真に迫らせていた。

「ふざけるな……なんの真似だ!」

 彼女のパフォーマンスにつられるようにして観客たちが声を上げる。ロレッタは嫣然とした笑みでそれにひるむことなく、

「あら。わたくしの演技がご不満ならば、貴方の星獣で再現いたしましょうか」

 と言い放つ。実力差を理解したのか、それともロレッタに与えられた興奮が途切れたのか、観客は押し黙りロレッタの退場を見守るしかない。

 会場内はざわついたまま。突然の闖入者に戸惑いを隠せない観客たちは落ち着きを失っていた。

 その直後。天歌院玲花が会場入りすることで状況は変わった。

 ――あなたが憎まれ役になる必要はありませんわ。

 正面から堂々と入ってきた“元凶”に観客たちの混乱は高まった。とうとう物を投げつけるものまで出る始末で、それでも玲花は引かず、壇上へ向かおうとする。

 幸い、危険物が彼女に当たることはなかった。だがそれでも、何者も恐れずに前へ進む彼女の姿は、一部の観客の戦意を大きく削いだといっていい。

 これではどちらが悪かが曖昧になっていく。会場は過激さを増すものとその逆で二分された頃、玲花の目の前が燃え上がった。

「やれやれ。さっきからまどろっこしいんだよ。……天歌院、アンタが今ここで死ぬことが、何よりの追悼だろう?」

 金髪の闖入者。架空の星獣使いに扮した千夏 水希が、玲花の前に立ちふさがった。

「どなたかは知りませんが……わたくし、引くわけにはいかなくてよ!」

 正面から視線をぶつける玲花に水希は口の端を吊り上げた。

「なら、力ずくで突破してみろ」

 彼女は果敢に水希へ抵抗するが、それでも今の実力差をひっくり返すことは難しい。こと、玲花は自身の星獣を守ろうとしている節があった。星獣も玲花を守ろうと動き、チグハグになっている。

 それを観客たちも理解しはじめていた。次第に何かを投げつけることをやめていき、むしろ、水希を止めようとするものまで現れる。

「なんだ。お前たちは加勢しないのか? アタシがお前達の代わりにこいつを殺してやろうってのに」

「ち、違う……俺は、俺たちはそんなことは望んでない……!」

 一人目の言葉に呼応するように会場から同調するような言葉が響く。それを聞いて彼女は興が削がれた、とどこかへと飛び去った。

――ふー! ようやく落ち着いたかな。いやあ、これで丸く収められそうじゃん!

 そう心中で安堵していたのはスピネル・サウザントサマーだ。彼女はDマテリアルにダイブしてステージの陰から玲花たちを応援していた。

 当たったらまずいだろうゴミを風で吹き飛ばし、炎で生まれた燃えカスを掃除しと影に日向に奔走していたわけである。

 場が終息したのを見届けた彼女はダイブを解除し観客席へ戻ろうとするのだが、

 むんず。

「へ?」

 彼女は水希に頭を掴まれていた。いや、いつの間にか変装セットを押し付けられ、

「警備員さーん。暴れてた人捕まえたよー」

「……へ?」

 いつの間にか簀巻きにされた闖入者(偽)が捕まったことで、ライブは恙無く進行する。……哀れな一人の犠牲者を除いて、だが。

「さて、あいつは大事なものを見つけられたのかな?」

 そんなことはどこ吹く風と、水希は改めて観客席から玲花を見つめるのであった。



 一方で、ステージには玲花ではなく二人のアイドルが立っていた。

『玲花さんと星獣さんの悼む心を届けられるよう、お手伝いさせていただきます』

 二人の片割れ、藍屋 あみかはそう告げた。恋人である竜胆 華恋とともに手をつないでステージへと上がった彼女は、深く、深く息を吸い込んだ。一度だけ、舞台袖の玲花と視線を交わし、そして、息を吐く。

「ええと、なんだかいろいろあってみなさん混乱しているとは思いますが、今日という日、穏やかに過ごせるよう祈っています」

 観客席からもどこか、ほっとした空気が流れる。スピネルの犠牲では無駄ではなかったというべきか、あみかも最後のユルい空気の捕物劇を思い出して苦笑する。

 いい具合に弛緩した会場で、彼女は手をそっと握りしめる。それに応じるようにして、今度は華恋がマイクに口を近づけた。

「辛い気持ちを忘れることなんて中々出来ない事ですよね。今日のライブはそれを忘れるように……ではなく、その気持ちを持ちながら、今回のライブで皆と一緒に前向きに生きていく。そのお手伝いをさせていただきたいです」

 二人で空を見上げ、祈るようにあみかが言葉を引き継ぐ。

「やさしい夜への架け橋に。見上げる星が穏やかに映りますように。このウタを……」

 その祈りに応えようと、彼女たちの相棒である星獣たちもそれぞれに演奏を始める。二人はゆっくりと手を離すと、それぞれの演奏に集中しはじめた。

 四人の演奏は穏やかで優しさもある一方で、どこか希望を感じさせるものだ。華恋によって生み出された光のステージが星々のように瞬き、彼女のパートナーであるエレイルは小さな翼を羽ばたかせながら光を放つ。

 高らかなあみかの歌声がそれに重なり、光とともにどこか遠く、空高くへと澄み渡るかのように響いた。

 その光景を見て。その演奏を聞いて。わだかまりを抱えていた人々もゆっくりと落ち着きを取り戻していく。星獣たちの元気な姿は、きっと人々にも幸福をもたらしていたに違いない。

 曲は静かに終わりを迎え、二人もほのかに肩の力を緩めた。

「今日が私にも皆さんにも、命を思える日になるよう。遠くの誰かを、近くの誰かを思える、そんなきっかけになるよう願います」

 演奏を終えてそう結んだ彼女たちの一礼でステージは拍手に包まれた。舞台袖の玲花もこの演奏に応えようと、密やかな拍手を送るのであった。
ページの先頭に戻る