天歌院玲花全国反省ツアー
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リアクション
■3-3.自分自身と向き合って
撮影会が一段落して、玲花は休憩に入っていた。ここでの興行が完全に終わったわけではない。最後のクライマックスに向けて、もう一盛り上がりする予定である。
とはいえ病み上がりとでもいうべきか。今の彼女にはぶっ続けのパフォーマンスは消耗が激しすぎた。彼女の控室は静けさに満ち、ただ、玲花が水を飲む音だけが響いていた。
気づけば、一人の少年――アルネヴ・シャホールが控室へと入り込んでいた。いや、それは知っていた。内密に話がしたいと事前に連絡を受けていたからだ。
「……何の用かしら?」
「唐突で悪いんだけどさ。君が、プロミネンスだった頃の姿に変身してほしいんだ」
アルネヴの言葉に驚きを隠せない玲花。だが悪い気はしない。それが悪意に満ちたものではないと理解できていたからだ。
「これでよろしくて?」
彼女は心を鎧う。攻撃的でどこか闇を感じさせるその出で立ちへとたちまちに変化した。それを見て、彼は笑みを浮かべた。
「うん。……やっぱりキミのその姿、ボクは好きだな」
そしてアルネヴもいつの間にか仮想体へと変じていた。青白い肌の、悪魔の如き女性の姿。これは彼の心のコンプレックスの現れだ。そして、彼女のプロミネンスもまた同質のものだとアルネヴは感じていた。
二人の視線は交錯する。そうして、先に笑みを浮かべたのは玲花であった。
「色々と思うところがありましたの」
「――そうか。うん、それは……本当に良かった」
それは真に祝福すべきことだった。笑みを浮かべて舞台へと向かう玲花の頭をアルネヴは撫でる。それには少し照れる彼女であったが、
「がんばってね」
「ええ」
その背は、やはり力に満ちたものだった。
『さーぁ、みんな! 準備はいいですかぁーっ! 満を持して、あの伝説のアイドルが帰ってくるのです!』
会場が沸いている。観客達の熱い声援。これまでの積み重ねがあったとしても、ここまで観客達のボルテージを上げる苦労が偲ばれる。
マイクを片手にMCを務めていたのは狛込 めじろ。彼女の声に導かれるようにして、玲花は会場へと足を踏み入れる。
『一世を風靡したトップアイドルREIKAがほんの僅かな間だけ見せたその姿……そのきらめきは太陽の光! プロミネンスッ、REIKAちゃんだーっ!!』
スポットライトが幾重にも浴びせられる。観客たちが注目している。あの時の力をほとんど失って、まるで生き恥を晒すように。
だが、それでも彼女は下を向かなかった。天の星を掴むように、高々と腕を上げてみせたのだ。世間を様々な意味で騒がせたこの姿で出て来ることに、彼女が強い意味を感じていたからだ。
――そうだ、それでいい!
このライブに参加していたアーヴェント・ゾネンウンターガングも心の中で叫んだ。彼もまた、玲花の可能性を信じる一人のアイドルであったからだ。
難しい理屈なんて要らない。ただ、彼は彼の胸の叫ぶままに力を放つ。蓋を開けてみれば力の足りない玲花のかわりに全力で光を纏い、後光やスポットライトの如く立ち振る舞うことであったが。それでも構わないと、彼は玲花のために静かに、力強く想いを歌い上げた。
馬鹿な人たちだ、と玲花は思う。しかし同時とても心強く感じていた。だからこそ彼女も手を抜かない。踊り、歌い、そして大きく手を薙ぎ払う。それに合わせてリーニャ・クラフレットが、空に虹色のサインを描いた。
今、玲花に協力するアイドルたちは誰もが玲花のためだけにパフォーマンスを行なっていた。自分たちが目立つわけではない。自分たちの名前が売れるわけでもない。
ただ天歌院玲花というアイドルの“本当”を信じたがために、彼らは力を尽くしているのだ。
オルトアース全土を巻き込み混乱に陥れたアイドルに力を貸すなど馬鹿げている。しかし、馬鹿げているからこそ、玲花は心を打たれた。
空からはリーニャの生み出した風船たちがこぼれ落ちる。星々を象ったラメ入りのそれは、アーヴェントの光を受けてきらきらと輝きを生む。欲と願いを司る風船は、まさしく、アイドルたちの想いを反映して玲花を彩る。
するとアーヴェントの歌の終わりに合わせ、会場は唐突に暗闇へと包まれた。先程までの賑やかさが嘘のように、一瞬その場一帯が静寂に変わった。
――よし。あとは!
――このタイミングで!
――クライマックスなの!
会場の静寂がどよめきに変わるその瞬間。いくつのもまばゆい光と共に、大きな爆発が巻き起こる。プロミネンス。それは太陽の中で燃え盛る紅の炎。
「わたくしは、いつまでもあなたたちの胸の中で輝き続けることを誓いますわ!」
暗闇の中で玲花は一層力強く輝き高らかに宣言した。それは傲慢な言葉だ。だがしかし、今は傲慢であれと玲花は思った。彼らの想いを無駄にしないために、自分の答えを出すために。
会場の熱狂と共に多くのフラッシュが炊かれていく。その光景を見たアイドルたちは自然と笑みがこぼれ、顔を見合わせて。
「まだわたくしは完調とはいえませんが。……もしも、わたくしが再びアイドルの道を登りつめたならば……そのときは再び! あなたたちにリベンジさせていただきますわ! おーっほっほ!」
玲花は笑顔を浮かべて宣言する。それは、この場に居る三人だけではない。今まで彼女が対立してきた全てのアイドルたちに告げる言葉だ。その証拠に、彼女はカメラを力強く指さしていた。
『ここは、ナゴヤ! 誰の望みも叶う街……素晴らしい宣戦布告でした!』
「ああ……そのときは、負けないからな!」
「そうだね。REIKAさんとのライブは……ぜったい、またやりたいから!」
……こうして、二次元都市ナゴヤでの写真撮影会は大いに賑わった。その中で玲花は己の道を見つめ直し、そして、自分の道を受け入れる。だからこそ彼女にはもう一箇所だけ行かなければならない場所があった。
星降る都市ハコダテ。天歌院玲花が最大の罪を犯した場所。ナゴヤでの興行が終わってから、彼女はただその一点を見つめていた――。
撮影会が一段落して、玲花は休憩に入っていた。ここでの興行が完全に終わったわけではない。最後のクライマックスに向けて、もう一盛り上がりする予定である。
とはいえ病み上がりとでもいうべきか。今の彼女にはぶっ続けのパフォーマンスは消耗が激しすぎた。彼女の控室は静けさに満ち、ただ、玲花が水を飲む音だけが響いていた。
気づけば、一人の少年――アルネヴ・シャホールが控室へと入り込んでいた。いや、それは知っていた。内密に話がしたいと事前に連絡を受けていたからだ。
「……何の用かしら?」
「唐突で悪いんだけどさ。君が、プロミネンスだった頃の姿に変身してほしいんだ」
アルネヴの言葉に驚きを隠せない玲花。だが悪い気はしない。それが悪意に満ちたものではないと理解できていたからだ。
「これでよろしくて?」
彼女は心を鎧う。攻撃的でどこか闇を感じさせるその出で立ちへとたちまちに変化した。それを見て、彼は笑みを浮かべた。
「うん。……やっぱりキミのその姿、ボクは好きだな」
そしてアルネヴもいつの間にか仮想体へと変じていた。青白い肌の、悪魔の如き女性の姿。これは彼の心のコンプレックスの現れだ。そして、彼女のプロミネンスもまた同質のものだとアルネヴは感じていた。
二人の視線は交錯する。そうして、先に笑みを浮かべたのは玲花であった。
「色々と思うところがありましたの」
「――そうか。うん、それは……本当に良かった」
それは真に祝福すべきことだった。笑みを浮かべて舞台へと向かう玲花の頭をアルネヴは撫でる。それには少し照れる彼女であったが、
「がんばってね」
「ええ」
その背は、やはり力に満ちたものだった。
『さーぁ、みんな! 準備はいいですかぁーっ! 満を持して、あの伝説のアイドルが帰ってくるのです!』
会場が沸いている。観客達の熱い声援。これまでの積み重ねがあったとしても、ここまで観客達のボルテージを上げる苦労が偲ばれる。
マイクを片手にMCを務めていたのは狛込 めじろ。彼女の声に導かれるようにして、玲花は会場へと足を踏み入れる。
『一世を風靡したトップアイドルREIKAがほんの僅かな間だけ見せたその姿……そのきらめきは太陽の光! プロミネンスッ、REIKAちゃんだーっ!!』
スポットライトが幾重にも浴びせられる。観客たちが注目している。あの時の力をほとんど失って、まるで生き恥を晒すように。
だが、それでも彼女は下を向かなかった。天の星を掴むように、高々と腕を上げてみせたのだ。世間を様々な意味で騒がせたこの姿で出て来ることに、彼女が強い意味を感じていたからだ。
――そうだ、それでいい!
このライブに参加していたアーヴェント・ゾネンウンターガングも心の中で叫んだ。彼もまた、玲花の可能性を信じる一人のアイドルであったからだ。
難しい理屈なんて要らない。ただ、彼は彼の胸の叫ぶままに力を放つ。蓋を開けてみれば力の足りない玲花のかわりに全力で光を纏い、後光やスポットライトの如く立ち振る舞うことであったが。それでも構わないと、彼は玲花のために静かに、力強く想いを歌い上げた。
馬鹿な人たちだ、と玲花は思う。しかし同時とても心強く感じていた。だからこそ彼女も手を抜かない。踊り、歌い、そして大きく手を薙ぎ払う。それに合わせてリーニャ・クラフレットが、空に虹色のサインを描いた。
今、玲花に協力するアイドルたちは誰もが玲花のためだけにパフォーマンスを行なっていた。自分たちが目立つわけではない。自分たちの名前が売れるわけでもない。
ただ天歌院玲花というアイドルの“本当”を信じたがために、彼らは力を尽くしているのだ。
オルトアース全土を巻き込み混乱に陥れたアイドルに力を貸すなど馬鹿げている。しかし、馬鹿げているからこそ、玲花は心を打たれた。
空からはリーニャの生み出した風船たちがこぼれ落ちる。星々を象ったラメ入りのそれは、アーヴェントの光を受けてきらきらと輝きを生む。欲と願いを司る風船は、まさしく、アイドルたちの想いを反映して玲花を彩る。
するとアーヴェントの歌の終わりに合わせ、会場は唐突に暗闇へと包まれた。先程までの賑やかさが嘘のように、一瞬その場一帯が静寂に変わった。
――よし。あとは!
――このタイミングで!
――クライマックスなの!
会場の静寂がどよめきに変わるその瞬間。いくつのもまばゆい光と共に、大きな爆発が巻き起こる。プロミネンス。それは太陽の中で燃え盛る紅の炎。
「わたくしは、いつまでもあなたたちの胸の中で輝き続けることを誓いますわ!」
暗闇の中で玲花は一層力強く輝き高らかに宣言した。それは傲慢な言葉だ。だがしかし、今は傲慢であれと玲花は思った。彼らの想いを無駄にしないために、自分の答えを出すために。
会場の熱狂と共に多くのフラッシュが炊かれていく。その光景を見たアイドルたちは自然と笑みがこぼれ、顔を見合わせて。
「まだわたくしは完調とはいえませんが。……もしも、わたくしが再びアイドルの道を登りつめたならば……そのときは再び! あなたたちにリベンジさせていただきますわ! おーっほっほ!」
玲花は笑顔を浮かべて宣言する。それは、この場に居る三人だけではない。今まで彼女が対立してきた全てのアイドルたちに告げる言葉だ。その証拠に、彼女はカメラを力強く指さしていた。
『ここは、ナゴヤ! 誰の望みも叶う街……素晴らしい宣戦布告でした!』
「ああ……そのときは、負けないからな!」
「そうだね。REIKAさんとのライブは……ぜったい、またやりたいから!」
……こうして、二次元都市ナゴヤでの写真撮影会は大いに賑わった。その中で玲花は己の道を見つめ直し、そして、自分の道を受け入れる。だからこそ彼女にはもう一箇所だけ行かなければならない場所があった。
星降る都市ハコダテ。天歌院玲花が最大の罪を犯した場所。ナゴヤでの興行が終わってから、彼女はただその一点を見つめていた――。


