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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

天歌院玲花全国反省ツアー

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天歌院玲花全国反省ツアー

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■3-1.ここから始めよう

 次なる都市は二次元都市ナゴヤ。吹き荒れるフラッシュの嵐の中、四人のアイドルがポーズを決めていた。

「本当にこんなことをしてスランプの解消になるんですのーっ!?」

「うたぐり深いの。もっとはっちゃけた方が楽になれるのよ!」

 戦場 嘘主導で行われるコスプレ写真撮影会。はなはだ不本意ながらもポーズ要求に応える玲花。しかしいまいちノリきれない彼女は、どうにもカメラマンたちの心を掴めずにいた。

 ――ナゴヤにとっての覇権は、たくさんの人を夢中にして、自分自身も同じくらい好きなものに対して熱くなれた人の証なのよ!

 それはかつて嘘が玲花に説いた言葉だ。しかしながら、全てを失った玲花は、これまで築き上げた過去すべてを失ったも同然である。つまり、“好きなもの”……そんな当たり前の情熱さえ信じることができなくなってしまっていた。

「めーんどくさいこと考えるよね、玲花も」

「な、なにがですのっ?」

 妙にぶかぶかな服装を着込みながら挑発的なポーズを取り続けていたのはクロティア・ライハ……否、その仮想体であるプライだ。彼女はクロティアの“考察”のもと、玲花のスランプを解消するべくこの撮影を申し出たのだが、

「わわわ、これは……これはとても危ないです……!」

 胸元が今にも弾けそうなナレッジ・ディアの声が上がった。コスプレ衣装と称して自身の主、クロティアの衣装を着ようとしたのがまずかった。

 逆を言えば、その衣装は大変強烈なセクシーアピールともいえ、フラッシュの量は大幅に増えたのであるが、

「くっ……むりやりに身体を強調するその手法、なかなか悪辣な手を思いつきますわね!」

 などと玲花も、かつての自分の悪辣さを棚に置いて対抗心を燃やし始めた。

「ちがいます! そういうのじゃないです! ないですから!」

 詰め寄る玲花、ちょっと怯えるナレッジ。二人の取り合わせはある種ひとつの構図のようになったのか、積極的に二人をフレームに入れようとする人たちも徐々に集まってきたようだ。

 ――玲花さんは今、焦りから自分を見失ってると思うの。だから、彼女の純粋な理想への想いさえ思い出してくれれば……。

 プライは本来の自分、クロティアが言っていたことを思い返す。だからあえて露骨なアピールを行ない人々に注目されるように振る舞ったのだが、

「ダメね。切り替えていきましょ」

 どうやら空振りだったようだ。彼女は少し姿勢を直すと、そのまま嘘を引き連れ二人の元へフレームイン。

「せっかくだしみんなで一斉にポーズでもしましょうか?」

「! それなら、もっときれいな感じにしましょう!」

 プライの提案を受けてナレッジの顔がぱっと華やいだ。彼女が何事か呟けば、ふわりふわりとクリスマスローズやスイセンといった花弁が空から舞い降りてくる。

「あら、すてきですわね」

 幻想的な光景に玲花も思わず空を見上げた。それに気を良くしてか、ナレッジの繊細な指が空を走り、気づけば何もなかった撮影のための広場に氷の城が鎮座した。

「ほら、みなさんポーズをどうぞ!」

「てんかりん、じゃあカメラはあっちね! しっかり撮ってほしいのよ!」

「えっ。あっちですの? あっちですわね!」

「まあ、こういうのもたまにはいいか」

 まさに記念写真といった一枚。そのシャッターが切られ、四人が笑顔に映る。直接的な解決ではないが、このドタバタはちょっとしたリラックスを生むのであった。

 この空気の弛緩。その瞬間を狙っていたのか、ぐい、と割り込むようにして死 雲人が現れる。

「おお嘘。俺のためにてんかりんを連れてくるとは流石俺のハーレムの女だ嬉しいぞ」

 余裕たっぷりの笑みを浮かべて嘘と玲花の間に割り込んだ彼に、さしもの玲花たちも圧倒されたように口角を上げた。

「別に雲人のために玲花を連れてきたわけではないのよ? あくまで玲花ちゃんのために、」

「おお! 皆まで言うな。俺とお前らは既に運命の赤い糸で繋がれている。何も遠慮することはない」

 そう嘯く彼をやや呆れ気味に眺めていたのは、そのハーレムの一員とでもいうべきレア・アルゲアスだ。

「あはは……雲人君、相変わらず節操が無いね……」

 そう口ではいいつつも、しっかりと写真撮影に協力するレア。当然のように三人のみをフレームに入れ、雲人が特に魅力的に映るアングルを模索する。

「あなた、何のつもりですの?」

「言っただろう、お前を芸能人にしてやると。……いいか、お前は俺のハーレムの女だ。お前はお前のままハーレムの中で一番になってみせろ」

「……!? 雲人くん、それは……!」

 レアに、そして玲花に、二人に見せつけるようにして取り出したのはBad invitation。玲花の”お願い”を叶えたい気持ちになる禁断の香水だ。

 さしものレアもこれを見ては平静ではいられなかった。思わず飛び込むようにして雲人に抱きつくレア。

「玲花ちゃんが入ってきても、私は雲人君にとって一番だって自信があるんだよ!」

「別にあなたと争うつもりは私も無いですけれど……」

 そうは言うが、雲人のアピールはなかなか強烈なものだ。玲花の支配下に置かれかねないアイテムを使うというのは、自身への強烈な自信の現れか。

「雲人君は女の子は必ず守ってくれて大切にしてくれるんだ。ちょっとアレなところもあるけどね」

 そういいながらも抱きつく力を緩めることはないレア。それを見て、レアがいかに雲人を愛しているのかを知り、彼という人間がどれだけ本気で言葉を発しているかを再認識する。

 玲花の心情という意味ではここまででずいぶんいい方向に傾いているような予感を嘘は確かに感じていた。とはいえ、今この場において微妙にハブにされているような感覚はそれはそれで面白くはない。

「ハーレムという割に私、今ないがしろにされてない?」

 その気は今の所は無い、といいたいところだがそれはそれとして不満はある。彼女は素直にそう漏らし、

「そう拗ねるな、嘘。当然、お前も俺の女だ! 全員、俺が導いてやる……!」

 レンズに映り込むようにしながら雲人は全員を抱きしめた。彼は高らかに玲花への愛を歌い上げる。それは自分が愛した女への信頼の歌であり、どこまでも共に駆け上がっていこうと誓う歌であった。

 畳み掛けるような賑やかさ、それで観衆の目は十分に玲花たちへと惹きつけられていた。お蔭でというべきか、彼らの反対側では大掛かりな舞台のセッティングが終わっていた。

「……こほん。申し訳ありませんが、別の用事がありますの。このあたりで失礼いたしますわ!」

 撮影会を抜け出すようにしてアイドルたちに別れを告げる玲花。向かいの舞台にはスポットライトが当たり、玲花を呼ぶようにアイドルの一団が手を振っていた。

 その段になってようやく観衆も舞台へ気づく。四人のアイドルたちは段取り通りに配置について、各々のスタンスで玲花を迎え入れる。

「今日は、一緒に忘れものを探しにいきましょう」

 天草 燧

「あなたとこうして同じ目線で舞台に立ってみたかったんです」

 アニー・ミルミーン

「あの日、あなたと対峙した私なりにできることをしたくて」

 合歓季 風華

「だから、ここから始めよう」

 ノーラ・レツェル

「……ええ。よろしくおねがいしますわ」

 玲花が一同へ挨拶すると同時、ライブが幕を開ける。主軸となるのは、風華の描くアニメ化決定。それぞれが思い思いにポーズを決めたところで、ふわりと燐光が舞い散った。

 気づけば燧を模した可愛らしい天使人形が、くるりと一同へお辞儀をしながら描かれた“コマ枠”へと向かっていく。

「これより始まりますのは、ある一人の少女の旅路です――」

 それを見送った燧の言葉と共にコマ内の風景が揺れる。アニメ化決定の欠点は、クリエイションを使わなければオリジナルのキャラクターしか自分自身しかキャスティングすることができない点だ。すなわち、玲花をテーマにしようとも玲花自身を出すことはできない。

 だが、風華はこの問題を“一人称視点の物語”にすることによってクリアした。ここに、玲花の歌声を重ねることでことさらこれが彼女の物語であるとそう印象づけたのである。

「ステージで輝くアイドルを、客席で応援することしかできなかった自分。
 以前は私も、あそこに立っていたはずなのに」

『…やっぱり私、あそこで歌いたい。』

「もう一度ステージに立つために、初心に帰って頑張ろう。
 そう私は決心したのです。」

 そこにアニーによるモノローグが挿入される。かつて心挫けそうになった自分の境遇と玲花を重ね合わせるようにして。セリフが終われば彼女はスカートを翻し玲花のほうへと振り向いた。

 同時、彼女によって描かれた“背景”がコマの上へと上書きされる。

「ここは、『はじまりの頃の部屋』です。
 まだ自分に力が無くても、夢と情熱だけは誰にも負けない自信があった、その頃の。
 ここで私と共に、その頃の自分を見つめなおしましょう。
 再びステージで輝けるように」

 手を伸ばせば、玲花も仮想体として“かつての自分”へと姿を変える。トップモデルであれトップアイドルであれと望まれ続け、自身もそこへ向かって手を伸ばしていたあの頃に。

 純白のドレスに身を包んだ彼女は当然だとでも言うように天高く手を伸ばす。届かぬ星を掴むかのように。

「わたくしはただそうあれと望まれていました。
 望まれていたからこそ、ただトップを目指していました」

「そう。だから君は駆け上がったんだよね。望まれるまま、望むままに」

 燧の語るように、シンデレラのようであった彼女は階段を昇るようにして姿を変える。成長し、より美しく。風華はそれを追うようにしながら並び立つ。

「僭越ながら私もモデルを夢見る身でして。並んで立て光栄です」

 今では実力は逆転しているかもしれない。だが、彼女の言葉を聞いて、玲花は身体に力をこめた。

 ここで折れてはいけない、と。

「――そうでしたの? でも、わたくしはまたすぐに手の届かぬ場所へと飛び立ちますわ!」

 彼女にとってアイドルとは……トップアイドルになるということは孤高であるということだった。どれほど尊敬できる相手がいたとしても輝くことができるのはほんの一瞬。

 彼女は望まれてアイドルとなった。ならばこそ、誰かの記憶に鮮烈に残り続ける、永遠の輝きになりたかった。

「歌って、アイドルには切り離せないもの。自分を表現する術でもあるよね」

 声とともに天使人形が羽ばたいた。彼の向かう先にノーラの姿。

「想いは伝播するものだから……この好きが伝わるように精一杯歌うねぇ」

『一緒に歌おう?』

 そんな言葉がノーラの姿に重なった。彼女の言葉は、かつて彼女がどこかで聞いた言葉のような気がしていた。

 共に歩み、共に歌えば、喝采する人々の幻が映る。それはきっとノーラがいつか見た光景だ。満面の笑顔を浮かべる人々が、二人を祝福していた。

「この顔を見るためにぼくは全力で歌ってきた。歌って本当に凄いものでしょう?」

 観客たちの拍手の中、アニメという夢の狭間から、玲花と瓜二つの少女が飛び出した。天使人形も飛び回り、燧のもとへ飛び込んでいく。

 二人の玲花は互いに手を重ね合わせ、アニーの描いた星を掴む。希望に満ちた玲花の幻は消え、そして、玲花の瞳に新たな星が瞬いた。

「大切な忘れ物、見つかりました?」

「ええ。わたくし、大事なことを忘れていたみたい。……ありがとう」

 燧の問いかけに答えた彼女は堂々と歩みだす。共に歌を紡いだノーラが改めて手を差し出せば、玲花もまたその手を取って舞台を降りていく。まるで虹の如く輝くカーペットの上を胸をはって歩を進めるのであった。
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