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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

天歌院玲花全国反省ツアー

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天歌院玲花全国反省ツアー

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■1-2.笑顔の料理

 いずれにせよ刻一刻と時間は迫りつつある。玲花が意を決して足を踏み出そうとした瞬間、

「玲花さん!」

「ひゃっ!」

 小羽根 ふゆの手が、玲花の肩に背後から触れた。驚いて振り返れば、ふゆが笑みを浮かべている光景が飛び込んできた。

「な、なんですのいったい! 驚かせないでくださるかしら?」

「玲花さん、おふくろの味はまず形から。ひとまずこちらをどうぞ」

 訝しむ玲花に、彼女は割烹着を差し出した。まさしくオールドスタイル、古き良き質素なそれである。精神的余裕を失った今の彼女は、眉根を寄せつつもゆっくりと受け取っていく。

「わ、わたくしが……これを……」

「はい!」

 今までの玲花とは対極といってもいい服装。しかしそれでも、いやだからこそ着なければならないのでは……? ぐるぐると思考が巡る彼女の肩から手を離したふゆは、

「似合わないんじゃ、しょうがないよね」

 なんて挑発した。そうもなれば着ざるをえないのが天歌院玲花というアイドルである。なんとしてでも着こなしてみせますわ、などと言いながら割烹着を受け取り、長い髪を纏め上げて頭巾をかぶる。

 その必死さがなんだか面白くて、ふゆは笑みをこぼしながら彼女の背中を押した。

「似合ってますよ。さ、がんばってください!」

「言われなくても!」

 意気込む玲花はずんずんと調理場へ進んでいく。すると、そんな彼女の前に天地 和が立ち塞がってみせた。

「てんかりん! さ、私の横に立って!」

「今度はなんですの!?」

 勢いに押し流されるままに調理場に立った彼女に和はぐっと親指を立てて見せると、腕まくりしながらこう言い放った。

「おふくろの味っていうのは……ぶっちゃけると別にそこまで美味しいわけではないんだよ!」

「な、なんですってー!?」

 衝撃的な発言に思わず白目を剥く玲花であったが、和はそんなことも気にせず玲花に包丁をもたせて調理を始める。

「お母さんの作る料理だってどっかのサイトのレシピだったりするかもしれない。でも、ただ作るんじゃなくて……自分も楽しみながら、愛する人たちのために料理を作ってるんだ、ってそう思いながら作るんだ!」

 それはある意味真理を突いた言葉だったのかもしれない。なにより彼女の見せる姿は、あくまでもミーティアシンガーとしての――今の玲花が出来るだろう技術の上で、背伸びをせずに作るやり方だった。

「自分が、楽しみながら……」

「そう! ……後は焼き上げれば……完成! 雀荘【ひよこ】、期間限定でこのエビグラタンが出るよ! みんな来てね!!」

 アイドルとしての宣伝も欠かさない彼女の姿に、玲花も思わず笑みをこぼした。少しだけ心が軽くなった玲花は、改めてぐるりとあたりを見回した。

「後は何をつくるか、ですわね……」

 唸る玲花に応えるかのように、どこからか歌声が響き渡る。

『食べる人に喜んで欲しい それが食べた人の思い出に一ページ そんな繰り返しが好きの気持ちに変わる』

 ――龍造寺 八玖斗。彼は自身の想いを歌として紡ぎながらも、鮮やかな手付きで調理を進めている。

『それが日常になって そこから離れても 懐かしくなったら また、戻ってきて欲しい
 一杯間違っても 顔を見せたら 怒っていても しょうがないなとまた苦笑い
 忘れないで あの日の食卓での笑顔を それが君への思い』

 丁寧に土鍋で煮込まれていたのはハンバーグだ。家庭料理とはいえ手の混んだそれは、ささやかな贅沢感を感じさせる一皿だ。

「食い物にいい思い出はあったか?」

 背中越しに彼は尋ねる。

「コレがオレのおふくろの味だ。大事なのは誰が作ったかじゃねえ、お前さんの笑顔の思い出の料理を作りな、天歌院」

 そうして差し出された料理もまた、暖かみに溢れたものに感じられた。玲花は肩の力を緩めながら八玖斗の問いに応える。

「……そうね。わたくしにとって、子供の頃の思い出の料理なんてないけれど……あなたたちの作る料理は、いい思い出になったかもしれませんわね」

 ハンバーグを食べて浮かべた笑みは、これまでよりどこか柔らかいものを感じさせた。彼女の心は決まったのか、自然体のままに厨房へと向き合った。

「てんかりん! 私も手伝うよっ!」

 作るメニューを決めた玲花に向かって、今まで見守っていた泉 光凛が駆け寄る。それに合わせるようにして、二人のアイドル……世良 延寿と、黒瀬 心美も彼女たちの横に立った。

「あなたたち……」

「アタシら、もう友達だろ? ……アンタが心を決めたんだ。それなら友達として、一緒に壁に立ち向かえるってのは嬉しいもんさ」

「玲花はもう作る料理、決まったんだよね。じゃあせっかくだし……私と光凛の思い出の料理も合わせて、三色丼にしたらおもしろそうじゃないっ?」

 有無を言わせぬ勢い。それはフェスタ生たちに負い目を感じる玲花にとっては救われるような行動だ。頭を振って咳払いした玲花は、割烹着の裾を摘んで一礼する。

「未熟なわたくしの料理を、手伝っていただけるかしら」

「「「もちろん!」」」

 そうして始まった四人。ああだこうだと言葉を交わしながら行なう調理は賑やかなもので、“おふくろ”という雰囲気とはかけ離れているように見えた。しかしそれでも、彼女たちは“誰かのために”という思いをこめていた。

「それで、何を作るの? 私はオムライスかなー!」

「ええと。マトンシチューを作ろうかと思っていますわ」

「マトン……って、火焔マトンのシチューってことか? なんでまた」

 それは子供の頃の思い出でも、お母さんにまつわるものでもない。――ただ彼女にとって心に残った思い出の料理とはアイドル活動の中でフェスタ生たちが作ったものばかりだった。ただ、その中で今自分に作れそうなものを選んだに過ぎない。

「オムライスにシチュー。私は生姜焼きだから……じゃあ、中央をオムライスを置いて、それを挟むように置けばいいかな?」

「おっ、それがいいな。アタシはひとまず、肉の下拵えを始めるよ」

 そうして作られた“三色丼”は、それぞれちぐはぐな趣があった。けれどどこかキラキラと輝いて見え、まるで子供のおもちゃ箱のような楽しさに溢れていた。

 黒角オオジカに供された三色丼。このどんぶりに込められた光凛や延寿、心美の思う“おふくろの味”はすべて違うものかもしれない。けれど、これらの思いは確かに玲花は受け取っていた。一匙食べれば暖かさが、二匙食べれば楽しさが、三匙食べれば思い出が。食べれば食べるほど多くの心がこみ上げるそれに、オオジカは一際甲高い声を空に響かせた。

「玲花! これめっちゃ美味しい! イケてるよ!」
「味のテーマパーク巡りだよねっ」
「おおっ、今日のナイスショットはこれだね!」

 これも一つの思い出となることだろう。

「……ふふふ、当然……当然ですわ! さあ、みなさんもこの三色丼、どうぞお食べになってくださいまし!」

 誰かのために作る料理を知った彼女の反省の旅は、次の都市へと移り変わっていく。
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