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「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

天歌院玲花全国反省ツアー

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天歌院玲花全国反省ツアー

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■4-2.星に願いを

 あみかと華恋が歌い終えたあと。玲花に声をかけるアイドルたちが居た。“彼女たち”のライブは三部構成、第一部は星獣たちが主導で行なうものだ。だから今、その時間を使って玲花に接触したのだ。

 それはこの都市と玲花に縁深い相手。一番星の星獣からウタを受け継ぎ、この都市で暴れた分身玲花に手を伸ばしたもの。

「玲花さん。……あのときのウタを、果たしにきました」

 睡蓮寺 小夜と、それに賛同するアイドルたちだった。

「……どこまでもお人好しですこと。わたくしはあなたと一緒に歌うだなんて言っていないのに」

「でも、私はあなたと歌いたい。……あのウタの意味を、あなたは理解してくれたのでしょう?」

 分身玲花が消滅した時、彼女が歌ったのは百万光年のアンサンブル。みんなで歌うことの喜びを紡いだ歌だ。あの時力を手放すことを選択したのは分身の意志であり、直接的に玲花の意志ではない。

 だが――。

「ま、そう意地はってないでさ。ライブを一緒に成功させようって、それでいいじゃない?」

 矢野 音羽も玲花の背を押すように声をかけた。彼女の言葉はひどく気楽なものだが、それは玲花に対する共感を押し隠したものだ。こちらを慮ろうとする彼女の声音は決してとげとげしいものではない。

 それに、と音羽は続けざまに後ろを振り向いた。そこにはかつてハコダテで戦いあった乃地はくまの姿があった。

「恋歌……甘味 恋歌さんに言われてね。僕も、君に協力することにした」

 相棒であるオカリナネズミのホワイトが肩からちょろりと飛び出した。少なくとも彼女を警戒している様子はないようで、

「~~! 分かりました! そうまでしてこのわたくし! をオファーしたいというのならばやぶさかではありませんわ! ええ!」

 いささか照れを隠しながらも玲花も賛同する。今、この場でこれを拒否することに意味はないことを彼女は理解していた。今までのツアーで彼女は多くのことを学んできたからだ。

 はくまを連れてきた恋歌も追いつく形で現れ、全員に軽く頭を下げた。

「一番星の星獣さんが亡くなって、私は……私たちはとても悲しかったです。けれど……」

 小夜や音羽を見てから、一度彼女は瞼を閉じる。眉をひそめ、少しだけ唇を噛んで。

「皆さんの想いを聞くにつれ、私もこのライブをなんとしても成功させたくなりました。どうか、よろしくおねがいします」

 もちろん、その言葉を否定するものはここには居ない。各々それぞれの笑みを交わし合い、今後の動きを軽く打ち合わせるのであった。

 一方、ステージでは麦倉 淳による演出で、星獣たちが思い思いに駆け回る活気に満ちた一幕が演じられていた。清らかな泉で水遊びに興じる星獣たちは、人々の心をゆっくりと癒やしていくことだろう。

 人と星獣。両者の気持ちをひとつにする……それが淳の目的であり、玲花に関するいざこざは二の次だ。ただ、玲花の中に可能性を見出していたのも彼だった。

 ――ハコダテで一番星の星獣を殺した彼女。けど、いまだに星獣は彼女を慕っている様子だった。……玲花は、ミーティアシンガーとしての力が残っている? 何かに選ばれたとでもいうのだろうか……。

 彼の考えは想像の域を出ない。だがしかしそれでも玲花がここで歌う意味を明確にイメージできていた。

 淳が思索にふけっていても演目は次へと進んでいく。第二部では控えていた小夜たちがステージに上がり、星獣たちと合唱していくパートだ。それぞれパートナーである星獣のもとへ歩み寄れば、それぞれ見事に調和した歌声を披露していった。

 星獣と人は共存し、調和し、お互いに歌を高め合う。淳の求める世界がそこには浮かび上がっていた。

 ……だがそこに玲花の姿はない。かわりに、星獣たちの陰からひょっこりと姿を現したのは栗村 かたりだ。

「わたしもみんなのそばで歌いたいな! そうせきさん、やろうっ♪」

 彼女がひょいっとクラリネットネコのそうせきへと飛び込むと、それに応じるようにしてそうせきは巨大化する。彼女は満面の笑みを浮かべながら歌い始めた。

 彼女は玲花に対して強い怒りを覚えている。だからこそ玲花は姿を隠し、かたりの演技を邪魔しないよう務めていた。

 ひとしきり歌い終えたかたりは、ふと、聞き慣れない歌声が耳を撫でたことに気がついた。

「すてきな歌声……」

 彼女の信頼するそうせきもいつしかコーラスという形でその歌声に響き合っている。小夜たちも歌うことをやめ、舞台袖へと視線を向けた。

 恋歌が、導くようにして手を伸ばす。それを受けるようにして玲花がついに姿を現した。

「!!」

 その登場に目を見開いたかたりは、すぐにそうせきさんとともに玲花を攻撃しようと手を振り上げる。しかし、淳はその腕をやんわりと掴んだ。

「まことおにいさん……? あの人はわるいひとなの……!」

 ステージを打ち壊したくない、という思いも彼女にはあった。だからこそ淳も顔を寄せるようにして、言葉を告げる。

「かたり。あの歌声は、玲花のもの……そうせきたち、星獣も喜んでただろう?」

「う、うん……すてきな歌声だったの」

「ああ。オレもあいつを許してなんかいない。でも、多分あいつは一番星の星獣を悼んでいる……今はただ、その気持ちに従おう」

 壇上で行われていたこのやりとり。これらは観客席からはちょっとしたトラブル程度にしか受け取られてはいなかった。

 人知れずこのステージを守ろうとしていた堀田 小十郎もこれには安堵した。この場所からかたりを止めるのは、今のこの盛り上がりに水を差す恐れもあったからだ。

 しかし。

 会場がおもむろに騒がしくなりはじめた。会場の外から、ライブの中継を見たアンチREIKAとも言える人々が次々と押し寄せてきたのだ。

 それは今までのライブを見てこなかったもの。この追悼の場に集う思いを見なかったものだ。

「……歌え、天歌院。歌え、小夜。君たちの願いと祈りを皆に届けるために」

 親しい仲間が今勇気を振り絞って手を差し伸べようとしている。そんな彼女の邪魔を、どうしてさせると思ったのか。

 小十郎はパートナーである翼とともに暴徒へと立ちふさがる。邪魔はさせないと、光を湛え。

「生憎だが……このウタは星光となり、空と、迷い俯く者たちの心を照らすもの。……彼女が歌いたいと願う限り、ここは通さない」

「ふざけるな! 俺たちから一番星を奪った奴を許してなんかやるものか……!」

 押し寄せる暴徒たちの勢いは増していく。時には星獣の力を使い、ステージへと攻撃しようとするものもいた。玲花はそれを甘んじて受けようとしていたが、その前に飛び出す姿があった。

「……あなた!」

 玲花が驚き丸くした瞳に、音羽の笑みが映る。傷ついた身体を隠しながら彼女はマイクを手にとった。共に歌おうと、彼女もまた願うのだ。

 止まらぬ暴徒たち。台無しになろうとしているステージに玲花は強く歯噛みする。やはりこの場に立つべきではなかったのか。自己満足に多くの人を巻き込み――やはり、私の本質は変わっていなかったのか?

 立ち尽くす玲花。迫る暴徒。思わず後ろ向きな言葉が漏れそうになったその瞬間、

「ねえ、玲花」

 彼女を呼ぶ声が聞こえた。上空から飛び降りてきたのは弥久 風花。彼女はパートナーである星獣のルゥとともに玲花へ視線を投げかけると、

「まだ、許せないけど……応援はしてあげるわ」

 言いながら、掲げた腕を振り下ろした。それを合図にルゥの口からは莫大なエネルギーの奔流が流れ出る。彼らもその強硬な実力行使に思わずたたらを踏んで後退した。

 手荒い挨拶ではあるが、もとより死を悼む場で暴力に訴えようとする連中だ。遠慮はいらないだろうと、風花は力強くグラヴィティコードの鍵盤を叩いた。

「あなた、いつもの勢いはどうしたの? 今が一番の好機なの。覇権を手に入れたアイドルなら……歌で鎮めるぐらいでないと、ね!」

 そういって彼女が奏でるのは星天のウタ。星獣たちが彼女を――ひいては、この場にいる玲花たちを祝福するかのように顔を出す。

 実力行使をしようとしていたものたちも、無邪気に触れ合おうとする星獣たちを振り払うことは難しい。それをやってしまっては最早、大義名分を失ってしまうからだ。

 玲花の竦んでいた身体も、気づけば自由になっていた。星獣たちは玲花のウタを待っている。いや、玲花だけではない。この場の“みんな”のウタを待っている。

「ふふ、そういう割に思ったよりは力技ですのね」

 風花の言葉に余裕を取り戻した彼女は、近くまで寄ってきたシカの星獣を撫でる。誇り高く天へと伸びる鹿角は、今日に至るまでの玲花のそれに似ている気がした。

「そうです。そして、玲花さんだって……そういった力技で、まっすぐにトップを目指す気概があると思っています……!」

 ちょうど鹿角に触れた瞬間、そんな激励が投げかけられた。この騒ぎを聞きつけたのは暴徒だけではない。かつて玲花と戦った空花 凛菜もまたその一人だった。

「私のこと、覚えていらっしゃいますか?」

「ええ。あなたの角は、確かにわたくしの爪を砕きましたわね」

 軽口を叩くことができるのは敗北を玲花が認めたからだ。そしてなにより、その爪を砕いた本人がまっすぐに自分を見つめているからだ。

 だから凛菜もその言葉を軽く受け止めるようにうなずいた。

「はい。私はあの時あなたに敵対しましたが、それでも玲花さんの、たった一人であれだけ輝ける光に憧れすら懐いています」

 それは紛れもない凛菜の本心であり、きっと、多くの人が伝えられなかった言葉だった。

「でもきっと、そんな玲花さんが誰かと組んだら無敵だと思います。だから……」

 それ以上の言葉は要らなかった。今この時、このステージに立つアイドルたちは、一番星の星獣の願いに導かれていたに違いない。

「一緒に、歌いましょう……その方が、絶対楽しいよ…!」

 小夜の言葉に誰しもが頷いた。星獣たちは空を駆け瞬く星となり、地で踊りあたりを華やがせる。それは、祝福だ。

「星獣さん、見届けてあげてください……!」

 恋歌は願いながら空に星を描く。夜空に輝く一番星のような、大きな星を。

 一人より二人。二人より三人。紡がれるウタは響き合い、ステージを、ハコダテを。無限大の力が伝播していく。

 木々は満ち、光が舞い、星獣たちの楽しげな鳴き声が世界を彩る。そして一滴の流れ星がこの夜を祝福するかのように瞬くのだった。

 暴徒も呆けたように空を見つめ、観客たちは思わずウタを口ずさんでいた。

 その光景はずっとずっと楽しそうで、どこまでも届くような天高く響く歌の満ちる夜だった――。
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