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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

邪神と妖狐と桜の城

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邪神と妖狐と桜の城

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■華乱葦原、花の舞――銀狐と絢狐の再会に、祝福と祈りを込めて――(2)


(盛大な……雰囲気だ)

 橘 樹は、ちょっとだけ気後れしているようだった。
 こういう盛大な場は、正直向いてないように思っているのだ。

「葦原は好きな場所、守るために動きましょう」

 横に立つ宇津塚 夢佳は、平然と、涼やかにたおやかに呟いた。
 そうだ自分も頑張ろう、そう思い樹がうなずくと、

「……というのは建前で、本当は葦原でライブがしとうございますだけのこと。
 それが助けになるのでしたら重畳というもの」

 夢佳はいたずらっ子のように樹に耳打ちする。

「好きな場所、というのは本当でございますけれど、ふふ。さあ参りましょう」

 いつも通りを崩さない夢佳を真似て、樹は、ふふ、と笑い、足取りも軽く舞台へ向かった。



 二人は芝居仕立ての演目を披露する。

 夢佳が舞台に座り、流花琵琶を奏で始めた。
 月のようにあでやかで抒情的な演奏は、辺りが夜でることを示唆している。

 ♪~

 琵琶の音色に惹かれるように、ふらふらと男――樹が近づいてくる。
 樹の手には揚羽提灯。
 暗くてあまり見えていない風を装い、樹は提灯を、少しだけ夢佳のほうに向ける。

 芸格を所持している夢佳と樹から箔を感じ、観客は自然と視線が熱くなっている。

「あれ、こんな夜更けに……きれいな音だね」

「ええと……その、お気に召して頂けましたのでしたら嬉しゅうございます……」

「ねえ、どこの誰かは知らないけど、傍でもっと聴かせてくれないかな」
 
「えっ……」

 戸惑う素振りを見せながら、夢佳は流花琵琶を奏でてインストゥルメント・ランゲージ。
 言葉やセリフは無くとも、観客の心に直接、困惑してる気持ちを訴えかける。

 ♪~

 さらに演技の動きに合わせて、音色にアクセントをつける。

 ――演奏が、という意味かと思いましたが、わたくし自身にも興味を……?

「取って食いやしないよ」

 夢佳は樹から顔を背け、ひらりと身をかわす。

 ♪~
 
 ――困ります、その……わたくし自身にはなんの魅力もございませんし……演奏だって、まだ未熟で……

「どうしてそう逃げるの?」

 樹の行為は、無邪気な態度や妖の色目の蠱惑的なアピールのお陰で、表面上はあまり俗っぽさを与えない。

 そして夢佳は、やっと言葉を口にする。

「しつこいお方ですこと。……かくなる上は」

 言いながら、夢佳は陰陽の術を使って灼熱の鳥「鳳」と「凰」を出現させ、そのうちの1羽に飛び乗って去ろうとした。

「……あっ、待って!」

 樹は空を見上げた後、手にしていた揚羽提灯を地面に置いた。
 もう朝が来るからこれは要らない、それを表現している。
 樹は夢中で、通り過ぎようとしたもう一羽の鳥に飛び乗った。

 鳳と凰は夢佳と樹を乗せ、仲睦まじく火の粉を散らしながら飛び回る。

「やっと近くに行けた……お顔まできれいなんだね」

 樹にそんな風に言われても、夢佳に嫌がる様子は見受けられない。
 
 ―― どうしてか、先程までとうって変わって嫌な気はしません
 ―― 不思議ですね、この心を何と表現すれば?

 夢佳の流花琵琶は、インストゥルメント・ランゲージでダイレクトに心情を観客に伝え、橘髄香をこっそり使う。
 甘酸っぱい、恋にも似た切ない雰囲気が会場に漂う。

 仲睦ましく観覧席を旋回する鳳と凰の上、二人は寄り添い見つめ合い、観客の多くが、出会ったばかりのこの二人の間に、今、恋が芽生えたことを知る。

 夢佳の流花琵琶は優しい音色へと変化。
 やがて鳳と凰に乗った二人は、並んで舞台へと降り立った。
 
 その雰囲気と距離感から、二人が先ほどまでと違うのは一目瞭然だった。
 そして二人は、静かに寄り添って、舞台を後にした。



伝わって来たのは、
夜明けの恋…… 
そして、恋の目覚め。

目覚めるということが、何かとても重要なことのように感じるのはなぜだろう?
ということは、私は今、眠っているのだろうか?




 小羽根 ふゆは舞台に立つと、ぐるりと観覧席を見渡してから、舞い始める。
 芸格を所持しているふゆから箔を感じ、観客は自然と視線が熱くなっている。

 月神の鳴杖を鳴らしながら、ふゆはゆっくりと舞っていく。
 
 アイドルとして表舞台にも立つことも増えているが、ふゆは本来プロデューサーだ。
 自分が舞台に立つということに、まだ本当はしっくり来ていない。
 
 (こんな私でも、ううん、こんな私だからこそ出来ることを)

 踊りながら、ふゆは観客を観察している。
 一番気になったのは、自分に少し似た雰囲気の、おかっぱ頭の小さな女の子だった。
 最初からずっと、熱い瞳でこちらを見上げている。

「おいで。一緒に踊ろう?」

 ふゆは観覧席の女の子に向けて手を伸ばした。


 小さな女の子の出現で、舞台は和やかな空気に包まれる。

「舞が好きなの?」

 舞台上でふゆが問いかけると、女の子はこくんとうなずいた。

「うん。とくに巫さんの舞いが大好き!」

「そっかぁ」

 話しながら観覧席を見渡すと、他にも数名、羨ましそうにこちらを見ている女の子がいた。

「一緒に踊ってみる?」

「えっ!? いいの!?」

 女の子たちは、目を輝かせた。
  
 
 こうして舞台の上では、ふゆと小さな女の子たちによる、即席の舞教が始まった。
 女の子達は桜稜郭の子だけあって、なかなか上手に舞い踊る。

「舞台で踊れるなんて、嘘みたい」

「ふぇすた座の舞芸、あたしすき!」

 小さな子どもとふゆが無邪気に踊り舞う姿を、観覧席も和んでいる。
 いつしか観客達から手拍子も起き、ふゆ自身、楽しい気分になっていった。

「陰陽の術は使わないの?」

「剣は振らないの?」

「なんかすごいことしてよ!」

 女の子達にせがまれて、そしてこの場をもっと楽しいものにしたくて、ふゆは舞神召喚。
 周りに、舞芸を愛する天津神々が現れ出た。
 神々は舞や歌、そして楽器の演奏などで、ふゆのことを華々しく盛り立ててくれた。
 最後はこの神々の演奏に合わせて舞い、観客達も子ども達も、そしてふゆ自身も、楽しい時間を過ごすことができた。




 舞台袖。銀狐の横に立つ空莉・ヴィルトールは、満面の笑みを浮かべ、
 
「銀狐くん♪ いよいよだね。良いな~……羨ましいな~…………」

 まるで自分のことのように浮かれている。
 あの大戦の頃を思えば、それもそのはずだった。

「元気そうだな。なによりだ」

 銀狐の方も、少しだけ感慨深げのように見える。
 彼もまた、空莉達と共に戦ったあの頃を思い出しているのかも知れない。



 ―― 絢狐さん、見てますか?

 空莉が神通天幕を広げると、辺り一帯が神々しい雲海と光芒が満たす景色に変化する。
 芸格を持つ者らしい箔があり、さらにこのような特別な景色を見せてくれた空莉に、観客は心からの拍手を送る。

 空莉は舞神召喚を使い、舞芸を愛する天津神々を呼び出すと、飾り散雪刀を振るい殺陣を始めた。
 神々も飾り刀を手にすると、空莉に息をぴたりと合わせ、華々しくも迫力のある殺陣を繰り広げる。

 空莉は心を研ぎ澄ませ、勇ましく凛々しく演武する。

 ――先の大戦での、勇ましかった銀狐くん……私もあんな風に。

 空莉の舞芸を見守っていた銀狐は、何枚かの小さな紙の人形に息を吹きかけ放つ。
 人形は武士の姿に変え、空莉に容赦なく斬りかかっていくが、ひとたび空莉が飾り刀で触れれば、すぐにド派手に斬られて消失してくれる。

 やがて殺陣はクライマックスへ。
 神通天幕の光のトリックを使った瞬間移動の演出を取り入れつつ、空莉は四方八方から鮮烈に相手を斬り結ぶ。
 そして最後の一人が劇的に斬られて終幕――かと思いきや。

「じゃじゃーん!! 変身だぞぉ~」

 緊迫していた殺陣の雰囲気がガラリ、一変。
 鬼神の見顕しの演出だった。
 空莉は、光芒に負けぬほどの桃色キラキラ☆マークの閃光を纏い、可愛くくるりと回転する。
 衣装はお洒落なアイドル割烹着に一変。
 割烹着といえば母の象徴。これは絢狐へのオマージュなのだろうか。
 
 殺陣を終えた神々は、楽しい歌を奏で始める。
 そして空莉が繰り広げるのは、葦原・花の舞。
 
「さぁさぁほらほら、銀狐くんもおいで~♪」

 空莉に引っ張られ、銀狐はたじたじだった。
 
「この舞は絢狐さんが葦原を守り続けてくれたおかげで生まれた舞だから。
 お迎えするのにピッタリかなって♪ だから一緒に、ね?」

 その言葉に銀狐は反応した。

「それもそうだな」
 
 しみじみと頷くと、空莉と一緒に葦原・花の舞を踊り出した。
 桜の花びらが舞い散る中。 
 舞台の隅から隅まで、いったり来たり。

「母上が守り続けたおかげで生まれた舞……」
「そう思わない? 銀狐くん」

 空莉は心から嬉しく晴れやかで、そして楽しい気分になった。



あの日のことは、思い出すのも夢に見るのも苦しい。
それでもおまえに会えるなら、辛い夢でも構わない。
そう思わずに、いられない。





 黒瀬 心美もまた、銀狐と共に舞台に立っていた。

 既に観客は、芸格を持つ者の箔を漂わせている心美に向け、熱い視線を送っている。

 心美はまず、飾り刀の火焔白鳥を鞘から抜き放ち、ゆっくりと構え、天地双閃。
 鮮やかに、闇の一閃を描く。
 
 心美が闇の一閃を描いたタイミングで、銀狐は小さな折り紙を一気に飛ばして術をかける。
 紙は「夜」を想像させるようなちょっと怖い妖怪や動物の黒い影となり、辺りを少し暗い印象にする。
 
 心美は再び天地双閃。そこに光の一閃を描く。
 銀狐がパンと手を叩くと、黒い影は一斉に消失。
 そのタイミングで、心美が神通天幕を広げる。
 一帯の風景が神々しい雲海と光芒が満たす空に変化すると、観客はその特別な光景にうっとりと拍手した。
 
 銀狐は、その景色に向け、術をかけた折り紙を放つ。
 折り紙は雀の群れとなった。
 神々しい風景ながら、そこに「いつもの朝」が来たように感じられる。

 ――絢狐さんの目覚めを、祝う舞いだよ

 心美は、おさんぽ日和の舞いを舞い始めた。
 ぽかぽかと晴れやかな調子の舞いに誘われ、その辺をお散歩していた小動物――鳥やら猫やら兎やら――が、かわいく和やかに集まってくる。
 やがて小動物達は、心美と一緒におさんぽ日和の舞いを踊り出す。
 観客達も触発され、うずうずと体を動かし始めている。
 そして――そのままの勢いで始まるのは、葦原・花の舞。
 
「ほら、銀狐!」
 
 心美にぐいぐいされて、銀狐も葦原・花の舞を踊る。
 どこからか舞い散ってくる桜吹雪は、絢狐の目覚めを祝うように、盛大に吹き荒れる。

「そんな涼しい顔してたら、目覚めてきた絢狐さんがガッカリするんじゃないか?
 もっと熱くなろうよ」
 
「俺は、そんなに涼しい顔をしてるか?」

 銀狐が少し心配そうに言ったので、心美はまじめに答えてやった。

「してるとも」

「おかしいな。さっきから、喜びを隠せなくて困ってるんだが」

 銀狐はいたって真顔で言っている。

「だーっ! 判りにくい! ほら、もっと踊ろう! もっとはっちゃけよう」

 動物達に囲まれ、桜吹雪吹雪と観客達の熱い手拍子の中、葦原・花の舞は続く――。
 
 
 


 加賀 ノイは、フライトシングで観覧席の上空を飛翔している。
 手には、雷獣の纏太鼓。
 雷獣の二本の尾を用いて作られた巨大なでんでん太鼓で、尻尾を振って鼓に打ち付けると、
 
 ドンドン!
 
 雷鳴がとどろき、稲妻が走る。
 
 街のどこかでクロツミが暴れていて、戦闘音や雷がこちらにも聞こえるかも知れない。
 それを打ち消す役割もこめつつ、ノイは腹に響く音を鳴り響かせながら右へ左へ、遠ざかったり近寄ったり、飛翔する。

 舞台の上の界塚 ツカサは、ノイの太鼓の音に合わせて大火の舞を舞い、全身に火を纏っていく。
 芸格を所持しているツカサとノイから箔を感じ、観客は自然と視線が熱くなっている。
 
 ツカサが纏った炎は、お祭りの「雪洞(ぼんぼり)」をイメージしていた。
 雪洞は風に吹かれて揺れ動くもの。
 だからツカサは、遠ざかったり近寄ったりするノイの音に合わせて大火の舞に緩急を付け、身にまとった炎を揺らす。

 ドンドン、ドンドン……
 
(僕の動きに合わせてツカサの炎が揺れ動いてる……)

「まるで僕を追いかけてくるみたいだ」

 飛翔しながら、ノイは頬がゆるむ。

 ドドン
 
 ノイは、祭りの囃子を叩いている。
 葦原で定番の囃子を元にしており、伝統を求める観客に喜ばれる曲だ。
 馴染みのあるリズムを、観客達は楽しんでいる。

 ドンドン、ドン

 舞いながら、ツカサは銀狐と絢狐に思いを馳せる。

(幼い頃に銀狐さんは、絢狐さんに手を引かれてお祭りに行ったかもしれない)
(それに住民も祭りの音楽ならば、一緒に楽しめると思うから……)

 ♪♪~
 
 そしてツカサは、ハープのような形の楽器、陽の天津弦杖を奏で始めた。
 つま弾かれたその音色は、ノイの太鼓の響きに絡まり、溶け合い、祭りの囃子は様相を変え始める。

 主線は変わらぬまま、曲調だけが、それまでの定番のお囃子から、ポップな今風な物に変化していく―― 
 その変化は、この華乱葦原で確かに時間が……時代が流れていることを痛感させる。

 曲調が変貌を遂げ、ツカサが神通天幕をばさりと広げれば、辺りには神々しい雲海と光芒が満たす空。
 この神々しい光景を作ったツカサ達に、観客は特別な感銘を抱かずにいられない。


 天幕で景色が変化したのを機に、ツカサは大火の舞を止めて、御饌稲成を踊る。
 この、豊穣をつかさどる天津神への祈りの舞いにより、周囲に光の稲穂と狐達の幻が現れた――。

 そして舞台に舞い降りたノイは、ツカサが繰り広げたポップな曲調に合わせて、葦原・花の舞を踊る。

「地球と華乱葦原の舞芸者たちが生み出したこの踊りを、皆さん一緒にやってみませんか?」
 
 ノイの声と、二人の舞芸の盛り上がりにつられ、観客席の人々は少しずつ踊り始めた。
 
 観覧席には花びらが舞い、徐々に人々は踊り出す。

「葦原・花の舞は、ボク達とこの地の人々が共に戦い、歩んだ末に得たもの。だからこそ絢狐さんに、見せたいな」

 ツカサが口にすると、いつの間にかそばに来ていた銀狐が、感慨深い顔で舞台右上の魔法陣を見上げる。
 ハレの気は順調に集まっているようで、魔法陣はますます光輝いている。

「そうだな。俺も母上に、聞かせたい」

 ツカサに向かって銀狐は言った。

「さっきから、この踊りが続いてますけど、銀狐さんも、一緒にいかがですか?」

 ノイが踊りながらやって来た。
 さらに踊り始めた観客達が、ステージ下に集まって来て、銀狐を名指しして、踊るようはやし立てる。

「今日はこれで、3度目だ」

 涼しい顔で踊りにつきあいながらも、銀狐の耳はぴこぴこ……。

「あ――」

(銀狐さん、実は楽しいのかも)

 ツカサがそれに気づき、ほんの少し目を見開く。
 そんなツカサに気づき、ノイは楽しそうに笑う。

 ツカサは心の中で、絢狐に語りかけた。

(楽しい事は大勢でやった方がより楽しい。
 人も妖怪も関係なく、ただ楽しむのがお祭りだから、

 ……だから、そろそろ目を覚まして、一緒に楽しみませんか?)




懐かしいのに、新しい。
まったく知らない踊りの響き。
心から、楽しそうな声。
伝わって来るこの感じ……ずいぶん世間は変わったのかしら。

ねえ、銀狐?




 まだまだ皆が、葦原・花の舞に興じている中。
 銀狐がピンと耳を立てて、硬直する。

「母上?」




 舞台に向かおうとしていた『cat’s tail』の3人、矢野 音羽白波 桃葉、そして藤崎 圭の前に、ふらりと銀狐が現れた。

「信じていなかったわけではないが、本当に……届いているようだ」

 いつもより少し熱を帯びた銀狐の声に、3人は視線を交わし合い、優しい笑みを浮かべる。

「今ごろ絢狐さんも、銀狐さんのことを思ってるはず……」

 音羽は地下に眠る母狐に思を馳せて呟く。

「精一杯舞芸して、目覚めてもらいましょう☆」

 桃葉は銀狐に、明るく笑いかける。

「とにかく、賑やかに盛り上げられるように頑張ろう」

 圭はいたって生真面目につぶやいた。


「どうか、頼んだぞ」

 銀狐に見送られながら、3人は舞台に向かう。



 舞芸が始まるも、なぜか舞台上に桃葉の姿は見当たらない。
 芸格を持っている『cat’s tail』のメンバーからは箔を感じ、観客は自然と視線が熱くなっている。
 
 ♪~
 
 音羽が『夜桜六絃琴』を弾き始めた。
 圭は、大祭和太鼓の力強い力強い音を響かせると、朧芸者の符を使い、 幻の舞芸者達を呼び出す。
 現れた舞芸者達は、2人と共に明るく賑やかに演奏を始める。

 堂々と演じられるのは、天下御免の和風ラブソング。
 恋愛を彷彿させられる歌詞であるが、友愛、家族愛……全ての「何かを愛する人」に刺さるだろうワードがちりばめられている。
 
 ♪ 疲れた時はその翼を休めて
 ♪ キミと寄り添い安らげますよう

 ♪ 愛しき人よ離さないで
 ♪ キミに出逢いココに居る
 ♪ 心のまま、ありのまま
 ♪ 想いの先に何があるの

 ♪ 恐れず前に進んだら
 ♪ この物語に希望をください

 1番を歌い上げると、音羽は夜桜六絃琴をつま弾き艶美独奏。
 和ロックらしいつややかさを全面に押し出したソロパートで観客を盛り上げ、圭は葦原・花の舞を舞い、桜の花びらを散らす。

 桜の花びらが舞う中、音羽が神通天幕を大きく広げた。
 ここまで姿を現さなかった桃葉も、このタイミングで神通天幕を広げる。

 一帯が風景を神々しい雲海と光芒が満たす空に変化する。
 二人は自分が持つ天幕の天幕の光芒に身を隠しながら走り、お互いの立ち位置を迅速に入れ替える。
 そして姿を現せば……。

「おおぉぉ!」

 観覧席からは、驚きの歓声。

 桃葉は音羽と同じ夜桜六絃琴を持っており、さらにこの瞬間まで観客に姿を見せていなかった。
 よって、観客達には『音羽と桃葉が入れ替わった』というよりも『音羽がまったく違う女の子に変身した』という風に見えた。
 天幕の放つ特別感も相まって、観覧席は熱狂した。

 桃葉は舞忍の踊踏を舞った。 
 忍者に伝わる足運びや体捌きを使ってのアクロバティックなダンスは、曲芸の驚きと武道の力強さを感じさせ観客を魅了した。

 ♪ 慣れない言葉上手く言えず傷つけて
 ♪ キミが居ない現実は嫌だ

 ♪ 愛しき人よ離れないで
 ♪ キミを護る剣になる
 ♪ 心のまま、我がまま
 ♪ 永遠なんて誓えないけど

 ♪ 邪魔をするもの ぶち壊せ!
 ♪ BADENDでは終わらせたくない

 桃華が熱い盛り上がりの中、2番を歌い終えた頃。
 音羽が舞台に戻り、3人は揃って仲良く大桜の舞を舞う。
 
 観覧客からは、「3人いたのか!」という楽しそうな声があがった。

 驚きや熱狂が人々を熱くする。
 誰からともなく、大桜の舞を踊り出す。
 先ほどから何度も登場しているにも関わらず、大桜の舞を聞くと、華乱葦原の民の血は騒ぐらしい。

 賑やかな大桜の舞の中で、音羽と圭が、ちらちらと桃葉を見る。
 楽しそうに舞い踊っていた桃葉の踊りが一段と熱を帯び拍手が沸く。
 やがて桃葉は背を大きく反らせながら、高く高く跳躍。

「EBIZORI☆洒夢譜☆」

 ダイナミックで躍動感あふれる革新的な大桜の舞に、観客達は大喜びだった。

 そんな中――
 圭は、ふと踊りの手をとめた。
 舞台の下で、魔法陣を見上げている銀狐が見えた。
 魔法陣は清々しくきらきらと輝いている。

 視線を感じた銀狐が、圭をじろりとにらんできた。
 しかし視線の主が圭だと気づいたからか、彼はその表情をふっとゆるめると、小さく口を動かした。

『ありがとう』

 口の形は、そう言っていた。


なんだか賑やかだこと!

ゆっくり夢も見てられない。
夢の中でなら、楽しい光景を見られるのに。
夢の中でなら、あの子に会えるのに。
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