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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

邪神と妖狐と桜の城

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邪神と妖狐と桜の城

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■桜稜郭での激戦 ――信じる、ということ――(3)


「到着でござるー!」

 皆の頭上に、空飛ぶ船――飛翔宝船がやって来た。
 乗っているのは弥久 風花平 平平の2人だった。

「ええいこざかしい! まだどこかに隠れているのなら一斉にかかって来い!
 あいにく俺は不死不滅! 何百人で寄ってたかっても構わんぞ?」

 クロツミが二振りの剣を構え高く飛び上がった。
 真上から船体を真っ二つに切り裂き、さらに雷と炎を打ち込むが、後衛に回ったアイドル達が即座に炎を消し止める。

 それでも船は派手に破壊され、バラバラと地面に落ちていく。

「えいっ!」

 破損して落下する船から、風花が飛び降りた。
 ムササビのように神通天幕を広げ、無事地面に着地する。
 持っている芸格と神通天幕は、クロツミとその剣を弱体化させ、風花に味方している。
 
 いっぽう、同行していたはずの忍者の平平の姿は、既に消えている――。

 船の残骸の間を、龍神甲冑に身を包んだ風花が、華麗に駆け抜ける。
 腰の左右には、それぞれ鞘に収まったままの天剣ムラクモ。

「新米の天津剣士にして舞芸者、地球はフェイトスターアカデミーがアイドル、弥久 風花」

「随分派手にやってくれるじゃん」

 輝夜が、風花の肩に舞い降りた。

「てるよる! 無事だったのね」

「それあたしのこと? うける!」

 輝夜が大笑いすると、クロツミがぶんぶんと二振りの剣を振り回し襲って来た。
 
「お前は本当に、輝夜なのか! こやつらは、殺すべき人間だぞ」

 風花がクロツミの剣を回避しながら全速力で走る。

「……」

 走りながら祈りを捧げ、その手に八咫烏の矢を出現させる。

「どーするつもり?」

「てるよる、私が全力で魔剣ヒラサカを落とすから、貴女がここから持って行っちゃってくれないかしら?」

「なにをコソコソ話しているのだ!」

 クロツミが大きく二刀を振りかぶってきたところで風花は立ち止まり、手にしていた八咫烏の弓にて、牽制の一矢を放った。

「それかヒラサカ、使っちゃってみる?」

 風花は矢を下ろし、にっこり笑う。

 クロツミがその一矢をかわす隙に、風花は左右の腰に携えた神剣ムラクモを抜いた。
 二振りのムラクモには、雷霆双剣による雷の気がみなぎっている。

「あんた無謀すぎ! あたしを誰だと思ってんの」

「ふふ、私、もう輝夜が何の理由もなく塞ノ門を壊すだなんて思ってないわ」

「あ……」

 その言葉に、輝夜は表情を失い、そしてふわりと飛び立った。

(こんなあたしを、信じてるの?)



 クロツミ高速移動を駆使し、あらゆる方向から風花に切り込んでくる。
 先ほど破壊された飛翔宝船の残骸が辺り一面に散っており、少なからずクロツミの足さばきの障害となっている。
 平平の狙い通りだった。

 辺りには、今風花が放った八咫烏の弓が霧散し、光の粒が浮遊している。
 その光の粒の合間を、炎に包まれた小さな輝夜が飛翔する。

 クロツミと死闘を繰り広げている風花の前を、
 
 ひゅん!
 
 疾風が通りすぎた。
 隠形の術にて身を潜めていた平平が現れたのだ。
 潜伏の際口に含んだ遁足の忍薬の効果で、平平は一時的に敏捷性が向上。

「奇襲でござる」

 二振りの灼火鬼灯・影打ちを、極火二刀の二刀流で構えれば、その刃には炎が纏う。

「平平!? 後で覚えてなさいよ!!」

 サシでクロツミと戦うつもりだった風花の前。
 乱入してきた平平は、分身乱撃で20人に分身。

 極火二刀の炎を纏わせた二刀流で、クロツミのアキレス腱を狙い切りにかかる。

「この足捌きを何とかせねば勝機は無いで御座る!」

 足に斬りかかって来る大勢の平平を蹴散らしながらも蹴散らしきれず、クロツミは苦戦している。

(てるよる!?)

 そんな中。
 風花は、クロツミに接近していく輝夜を見つけた。
 が、クロツミに気取られてはいけないと悟り、反応せずに戦いを続ける。
 輝夜は勝気に笑い、風花を見た。

(てるよる……あなた、何をするつもり?)

 胸騒ぎがした。
 しかしクロツミと相対している風花は、心配以外のことはできない。

 
 この戦闘の混乱の中、風花が放った八咫烏の矢による光の粒は、ほんの少しのカムフラージュになっている。
 クロツミに気づかれることなく、輝夜は彼の頭上に到達した。

 輝夜は、静かな瞳でクロツミを見下ろした。

「その剣は、兄上にはふさわしくない」

「ぐうっ! 輝夜、いつの間に!」

 頭上からいきなり声をかけられ、ぎょっとしたのもつかの間。
 すぐにクロツミは高笑いをする。

「愚か者め。その体で奪えると思うか!」

「やってみなくちゃ、判んないじゃん」

「ひらひら飛んでいるだけのくせに!」

 ――飛ぶことと見守ることの他に、我にできること。

 輝夜はふわりと飛び立って、魔剣ヒラサカにしがみついた。

「てるよる!」

 風花を始め、周辺に集まって来ていたアイドル達が悲鳴をあげる。

「我を信じろ、ヒラサカ!」

 燃え盛る炎も鋭い刃も気にせず、それを守りたい一心で、輝夜はいのちを賭して、ヒラサカにしがみつく。

「何を馬鹿なことを! 離れろ! お前も無事ではいられぬぞ!」

 クロツミが振り回しても、輝夜は一向に離れない。

「兄上にはぜっっっっったい、渡さない!」

 ますますしがみつく輝夜は、そろそろ感じ始めていた。

(もともとのあたしは炎の属性だけど……それにしてもこの炎、ちっとも熱くない
 刃だって、全然痛くないじゃん!)

「ヒラサカが、あたしの味方になってくれてる……?」

 クロツミによって邪気をこめられていた魔剣ヒラサカだったが、今、本来の姿に目覚めかけていた。
 邪(よこしま)な気持ちのない、澄み切った輝夜の願いが、ヒラサカの目を覚ましたのだ。
 そしてヒラサカは、クロツミに所持されていることを拒み、本来持っている清々しい気配を放ち始める。

「ぬおおお!!」

 クロツミとて負けていない。
 気合と執念でヒラサカを握り、輝夜を振り回す。

「きゃあっ!」

 輝夜はとうとうヒラサカから引き離され、遠くへ飛ばされた。


「輝夜ちゃん!」

 陽魂の幻獣の陽気を取り込んだ妖翼をつけていた狛込 めじろが助けようと飛翔したが追いつかず。

「ふうか!」

 アーヴェント・ゾネンウンターガングは、めじろと共に祈るように空を仰ぐ。 

「お任せ下さいませ!」

 麒麟に乗って辺りを周回していた合歓季 風華が、無事輝夜をキャッチした。

「あり……がとう」

 弱っていたからか素直になったからか、輝夜が大人しく礼の言葉を口にする。

「どういたしまして」

 風華はにっこり微笑み、お返事をした。
 めじろと風華の芸格は、これまで同様クロツミの剣の力を弱めているが、風華は更なる対策に講じる。 

 風に司る神に働きかけ、自らや仲間に翠風の光雨を降らせ、敏捷さを与える。
 さらにアーヴェントとめじろには、急令結界にて簡易的な対術結界を。
 そして風華は、これから始まる戦いを想って祈るようにつぶやく。

「お二人と共にでしたら……必ずうまく」

 飛ばされぬよう風華にひっついていた輝夜が、口にする。

「仲間を、信じてるのね……」

「ええ。深く……信じています」

「あんた達といると、へびこーに、絶対また会えるような気がするから不思議」

「ええ、ええ! もちろんですとも!
 真蛇様から学びたいこと、話したいことはまだまだ沢山ありますもの。
 戻っていらっしゃらないと困ってしまいます。
 だからこうして、みんなで戦っているんですし」 

「会えるかな」

「会えますとも!」

 そして。
 トーンは違えど、二人は同じ言葉を口にする。

「信じていれば?」

「信じていれば」



 行坂 貫が、歩み出た。

「ヒラサカを使いこなせていないように見えるが、どうしたクロツミ」

 ひらりと神通天幕を羽織り、貫はクロツミの前に立つ。
 彼の意図を察した周りのアイドル達は、様子を見守っている。

「人間風情と会話を楽しむつもりなどないわい!」

 クロツミは歯ぎしりをしながら、イツノオハバリだけを振りかぶる。
 雷と共に、禍々しい黒い剣気が放たれる。
 貫は神通天幕だけでなく芸格も所持しており、ただでさえ混乱し始めているクロツミとその剣を、さらに弱体化させる。

 貫が問う。

「真蛇は何処だ?」

「人間は、殺す!」

 全く聞く耳を持たず、クロツミが貫に斬りかかる。
 先ほど平平の分身に執拗に攻撃されたクロツミの足は、まだ回復しきっていない。
 にも関わらず、凄まじい速さで移動しながら、全方向から攻撃を加え始めた。 
 
 めじろやアーヴェントら、まわりのアイドル達が援護する。
 貫はまだ剣を抜かず、さらなるクロツミとの会話を試みる。

「別に真蛇を殺さなくても輝夜が力を取り戻す方法はあるぞ
 妹に嫌われてまで真蛇を殺す必要があるのか?」

 話のとっかかりをみつけながら、貫は妖眼幻視で目に妖気を集め、クロツミの感情を色のようにとらえる。
 
 クロツミの感情は、炎の如き紅蓮。
 怒りと苛立ちで真っ赤になっている。
 
「真蛇の居所を教えてくれるなら大人しく退く。だから真蛇の居所とそこへの行き方を教えろ。
 聞き入れられないなら……」

「聞き入れないなら?」

 ニヤリと笑うクロツミの態度や表情からは、人間やいのちを尊重しない、冷酷非道な性格が伺い知れる。 

「容赦しない」

 言い放ち、貫はとうとう剣を抜く。
 剣は、血のように赤い忍び刀の灼火鬼灯・影打ち。
 妖眼幻視で見たクロツミの禍々しい紅蓮と違い、人の技術が作り出したその赤色は、様々な深みを含み、美しい。

「一日千殺! いや、千五百殺!」

 両刀を振りかざし斬りかかって来るクロツミに向け、貫は天舞刃扇を鋭く振ってカマイタチを発生させる。
 鋭いカマイタチは、扱いにくくなったヒラサカを持つ手を直撃する。
 
「くうっ!」

 クロツミが雄叫び、猛々しく両手の剣をふるって貫を攻撃する。
 貫は極火二刀を使い、両手に持った二つの武器に炎を纏わせて迎撃し、問い詰める。

「真蛇はどこだ!」

「居場所を知りたくば俺を倒してみせることだ!」

 これ以上会話しても無駄なことは明白だった。

「十天十刃!」

(必ず真蛇の居場所をつきとめ、助けに行く!)

 願いをこめつつ貫が陰陽術の大技を繰り出した。
 クロツミの周りにぐるりと十本の紅蓮の刃を生み、突き刺し、動きを封じた。

「おのれ!」

 移動不能となったクロツミだったが、不死不滅のためか体のダメージはさほど見受けられない。
 ひたすら激しく足を動かし、抜け出ようと試みながら豪快に剣を振るい、辺りに雷や黒い剣気を起こす。


 麒麟に乗り旋回し、様子を伺っていた風華が、
 
「今こそ!」

 そのチャンスを見逃さず、術を放った。
 陰陽の気を操り、大きな手……魔神掌を作り出し、剣を振るうクロツミの手を狙う。
 力強く早い剣裁きを魔神掌の指でつまむことは難しい。

「思い切りやっちゃって! 兄上は頑丈だから全然へーき……っつか、どーせ死なないし!」

 風華にひっついていた輝夜が、いけしゃあしゃあと言いのける。

「では……」

 風華が己の手のひらをひろげ、ぺしっと虚空を叩くと。
 魔神掌の手のひらが、クロツミを真上から押しつぶす。

「やったな、ふうか」

 頭上を飛び交う麒麟の上、長い黒髪が風にゆれているのが見える。
 アーヴェントの視線に気づいたのか、風華も身を乗り出してこちらを見下ろしてきた。

(ヴェントさん……)

 二人は離れている中でも確かな意思疎通をし、すぐにお互いの役目に戻る。
 
 
 アーヴェントは、平静だった。
 強力な蔦で編んだヴァイングローブをはめた手には、銀の刃と穏やかな海のような波紋を持つ美しい刀、銀紋刀トレーヌ。
 神涙刀サワメと同じ力を持つ剣だが、その鋼は己の憤怒を映し、過去の涙により波紋は揺らめくき、持った者の心を現すという。
 ヒラサカをうまく扱えぬクロツミとは正反対に、今、アーヴェントのトレーヌは、静かに冴え冴えと輝いている。

 彼の頭の中は忙しい。
 これまでの華乱葦原での出来事が思い出されるし、今日ここに集った仲間達の、それぞれの事情を察している。
 しかし彼の胸に灯っているのは、たった一つの、シンプルな気持ちだけ。

(自分は、皆の力になりたい)

 アーヴェントは、仲間達が動きを止めたクロツミに、全身で斬りかかる。
 十天十矢と魔神拳の術力が少しずつ弱まり、クロツミにも少しずつ自由が戻って来ているが、まだ動けない。

「甘い甘い! どうせ貴様も、こっちの手が狙いだろう?」

 クロツミが、ヒラサカを持つ手を掲げ高笑いした。

「やれるものなら、やってみろ」
 
 確かに。
 身のこなしや視線から、アーヴェントもヒラサカの手を狙っている……ように見えた。

「そうか、甘いか」

 斬りかかりつつも、彼はすでに次の一手を打っている。
 はめていたヴァイングローブを瞬時に縄状の変化させると、隙だらけだったイツノオハバリに巻き付ける。

「うむう!」

 不意打ちをくらったクロツミと、このチャンスを待っていたアーヴェントの視線がぶつかりあう。

「狛込! いけ!」

 そう叫ぶとアーヴェントは、渾身の無明絶刀を繰り出した。


「あべさん! お任せください!」

 めじろはうなずき、そして目を閉じ詠唱を始める。



「…………」



 真蛇さんは、人と妖の新たな関係の可能性を作っていく、これからの葦原に無くてはならない大切な人。

 わたしの憧れ。尊敬すべき陰陽師の先達で、背中を追い続けてる目標。

 わたし、真蛇さんが大好きです。




「…………」

 熱い想いを胸に、狛込 めじろは術を唱える。
 
「…………」

 唱えているのは、真蛇も使う『悪華鳳凰』の術。
 灼熱の鳥「鳳」と「凰」に闇の力を加えて顕現させるが、高い威力を誇るが召喚の詠唱に時間がかかり、途中で妨害されるとやり直しになってしまう。

「………。」

 しかし今、めじろはそれを無事、唱え終わる。
 ここまで繋いでくれた、たくさんの仲間達の援護と、自ら学び磨いた陰陽の術によって。

 ゴオオォォッ

 現れた二羽の灼熱の鳥が出現し、仲睦まじく飛び回りながら、クロツミの周りを黒い炎で攻撃する。

「炎ばかりが身を焼くのだと思わないことです。真蛇さんの代名詞『悪華鳳凰』の闇の熱さ、篤と味わってくださいね」

「母上を失望させてなるものか!」

 黒い炎に身を包みながらも、クロツミは二振りの剣を離さない。
 バリバリと雷を放ち、鳳と凰の炎に対抗する。
 やがて鳳と凰は消滅した。

「もう終わりか?」

 毒づいてはいるが、今の一連の戦いのダメージから回復できず、クロツミはただ剣を握って息をついている。

「さっさと……」

 めじろはうめき、涙目でクロツミをにらみ上げる。

「さっさと真蛇さんの居場所を吐きなさいよばかぁ!」

 そのままクロツミに突進すると、めじろは思い切り飛び上がった。
 クロツミは迎撃できず、防御の姿勢を取る。
 好戦的なので、高速移動で退去するという選択肢はない。

 ぺっちん!

 めじろは技も術も出さず、ただ、クロツミのほっぺを思い切りひっぱたいていた。
 クロツミほどの者が、その程度でダメージを受けるわけもなかった。
 しかし、か弱い人間の、しかも少女が、大がかりな戦いの最中に、丸腰で自分に平手打ちしてくるとは想像だにしていなかった。

「はっ……!」
 
 クロミツは愕然となり、一瞬だが全身の気が抜けた。
 急いで気を取り直すが後の祭り。
 クロツミの手から逃がれるかのように、魔剣ヒラサカがぽろりと落ちた。
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