邪神と妖狐と桜の城
リアクション公開中!

リアクション
■桜稜郭での激戦 ――信じる、ということ――(2)
ドーン!
派手な音がクロツミの真後ろで轟いた。
クロツミの背に回り込んでいたリーニャ・クラフレットが、神威カグツチを纏い、放った炎だった。
「だめって言ってるの、聞こえないの?」
リーニャの持つ芸格と神通天幕はこれまで同様、クロツミとその剣を弱体させる助けとなる。
「次から次へと蠅のように湧き出て来よって! 群れなければ何もできない何も生み出せない、五月蠅いだけの下等動物め!」
クロツミが、ギロリとリーニャをにらむ。
「むううう! 負けないの!」
リーニャはぷうっとふくれて精一杯おっかない顔を作り、クロツミをにらみつける。
輝夜の誘導で、サクラとウサミ先輩は後衛に回った。
(我は今、飛ぶことと見守ることしかできぬ。なんとふがいことよ)
輝夜の心のうちは、炎のように熱くたぎっている。
「輝夜っち♪」
天導寺 朱と天導寺 紅は、リーニャとは反対方向から登場した。
朱も、芸格と神通天幕の両方を所持しており、クロツミと剣を弱体させている。
「あんた達、まだ出てこないでよ! 両側に行かれちゃうと困るじゃん!」
輝夜がひそひそ声で朱に抗議する。
「あいつ、結構ダメージ受けて弱って来てるっぽいから、一気に畳みかける作戦にしたのぜ」
朱も、そばを飛翔する輝夜に耳打ちのお返しをする。
「輝夜っち、みんなの御守りになってくれてサンキュー」
「あ……あたしは別に……」
「いくよ、朱!」
タイミングを見計らっていた紅が合図の声をあげ、朱の持つ剣……ユニゾンブレードにユニゾンする。
クロツミは、大きく舞うように剣を振り、ヒラサカの炎とイツノオハバリの黒い剣気、そして雷の攻撃をランダムに、そして強烈に朱とリーニャに浴びせてきた。
「輝夜っちは下がってろ!」
「私たちなら大丈夫。頑張れるの!」
「ムカツク! 足手まといだって言いたいの!?」
毒づきながらも、輝夜は朱とリーニャの声に従う。
(ここまでふがいないにも関わらず、真蛇から力を取り戻したいとは思わぬ。不思議だ)
輝夜がそんなことを想っていると……
「輝夜、こっち」
突然背後から手が伸びてきて、輝夜を捕まえた。
「何奴!」
「大丈夫。私だよ」
手の主は、千夏 水希だった。
「何だあんたか……ってゆか、みんな戦ってるのに何すんのよ」
クロツミ達が派手な戦闘を繰り広げるどさくさに紛れて、水希は輝夜を捕獲したまま走り出した。
「どう? ここならみんなの様子も見えるからいいでしょ?」
辿り着いたのは、先ほど皆が身を潜めていた廃屋。
戦いの音や響きが、ズンズンと腹に響いて伝わってくる距離だ。
「あたしを拉致って何するつもり?」
廃屋の屋根によじ登りながら水希は笑う。
「舞芸に決まってんでしょ?」
そして、桜稜郭の片隅。
廃屋の屋根の上で舞芸……輝夜に捧げるライブが始まった。
輝夜を連れて来た水希の瞳には、強い光が宿っている。
水希の想いに共鳴している白川 郷太郎は、その気持ちをパフォーマンスに変換して表現する。
(拙者は傾奇者。存在意義は舞芸を魅せること!)
郷太郎は、派手派手しく名乗りを上げた。
「やあやあ、少年少女紳士淑女に翁媼、猫も鼠も、さあおいで。
ポンと包みを鳴らしてみれば喝采轟く。
我らが弦の鳴りは如何、黄泉にも届く天声乗せて。
戦じゃ戦、目には目を、武芸には舞芸で魅せてみよう。
我は傾奇屋舞芸者なり。新羅楽師の郷太郎見参!」
言い終えるた郷太郎は、葦原製のギター、蒼竜六絃琴を掻き鳴らす。
♪~
歌うのは持ち歌『ToDoiTe』。
「ヤバイ。結構いいじゃん!」
粗削りな和風ロック曲に、新来芸道を好む輝夜は目を輝かせる。
♪~
「新来芸道がお好きならば。地球のダンスもお気に召すと思いますわ」
郷太郎の歌と演奏にのって、ロレッタ・ファーレンハイナーは華麗に舞い始める。
郷太郎同様、輝夜に対する気持ち、さらにこの戦場でライブを行うことを決めた仲間に対する気持ち……それらに共鳴するべく、もっとも自信があり、そしてもっとも愛する地球の「ダンス」を踊る。
♪~
熱情のクロスコードにのって、エレガンスアティチュード。
バレエのように指先までに気を配った細やかな所作から、高貴な印象が放たれる。
(これは、どんな状況でも自分の想いを貫き歩む輝夜様のイメージ)
♪~
(わたくしはあなたをそんなにたくさんは知らない。
それでも知っているすべてをもって、あなたを尊敬していますわ。
応援申し上げております……)
「あんたの舞……マジ珍妙だけど、超綺麗」
♪~
郷太郎は『ToDoiTe』に一念通天応援歌をミックスさせ、そこにメッセージをこめる。
(諦めなければ叶うんだってよ。
だから拙者らは諦めない。輝夜の胸の内が晴れるまで舞い続けるさ)
♪~
郷太郎のメッセージが乗った歌に合わせて、ロレッタはさらに舞う。
繰り広げるのは、ショピアニーナ。
優雅さを追求したバレエ・ダンスから着想を得た、力強くも繊細なパフォーマンス。
美しい動きの随所に、詞的なメッセージを宿し、相手に届けることができる。
――あなたは何がしたいですか?
舞いながら、ロレッタは輝夜を見つめる。
輝夜はというと、今や郷太郎とロレッタの舞芸にくぎ付けだ。
「さっきまでダメダメな自分に対してマジギレ5秒前だったんだけど、今は超穏やかになってる」
輝夜は静かに目を細め、向こうで戦いを繰り広げている兄とアイドル達をじっと見つめる。
♪~
輝夜の気持ちを探るわけではなく、ただ輝夜がよい方向に向くようにという一心で繰り広げられた舞芸は、輝夜にしっかりと届いている。
「輝夜……」
そして水希が、歩み出る。
同じ頃――
輝夜が消えたことに気づいたクロツミは、歯ぎしりをしていた。
「輝夜め、逃げおったか?」
輝夜がいなくなったことは不安要素でもあったが、クロツミにしてみれば逆に好機でもあった。
「あやつがヒラヒラしていると気が散って困ったが、これで思う存分暴れられるわい!」
「それじゃあ、暴れてみるのぜ!」
朱がビシッとクロツミを指さす。
「貴様、挑発しているつもりか?」
クロツミは、高速移動で朱の目の前に来て、二刀を構え雷を走らせる。
かわす朱の動きは、素早い。
忍者のスタイルに加え、ユニゾン中の紅のクロックアップの能力を引き継いでいる。
さらにドロップチャームver1.0にて、クロックアップの能力は増強され、速度の他ジャンプ力や反応速度は上昇。
クロツミの攻撃も見切りやすくなっているのだ。
朱の手には二振りの剣。
赤い忍び刀の灼火鬼灯・影打ちと、紅とユニゾン中のユニゾンブレード。
さらに極火二刀を使っての二刀流のため、二振りの剣には炎が走り、ユニゾンブレードは紅とのユニゾン効果で刀身が光を帯び、斬撃を飛ばす。
ファングトルーパーズによる小型ドローン群のブレード攻撃と、ユニゾン時の効果で、火炎をはらんだ紅の幻も現れ、さらなる炎の攻撃を重ねる。
これらの攻撃を、無常迅速で間髪入れず、ヒラサカと持つの手の、同じ側面に向けての攻撃を仕掛けていく。
炎を使う戦いは過酷で、防御と涼をとるため、朱は雹遁術で自分の周囲に大小無数の氷塊を作り出す。
氷の塊は周回しながら、時にクロツミを狙って飛んできたりもするが、2人の熱い戦いの中、あっけなく溶けてしまう。
「ただ暑苦しいだけじゃ、ホット&クールな俺を倒すには足りないのぜ。お前に俺は燃やせないのぜ」
「ユニゾン」の概念のないクロツミにしてみれば、いろいろな属性の武器や道具が、1つならずいくつもの方法で攻撃を繰り出してくる……そんな状況だろう。
「面妖な妖術を使いよって!」
クロツミは両手の剣を派手に構える。
朱はヒラサカを持つその手に向かって、絶海の一太刀。
この強力な一撃に、トレイルウォーターを乗せて、放つ。
「ぐおおぉ!」
ヒラサカの纏う炎に紛れたトレイルブレイズが、朱の合図で爆発。
クロツミの手は手痛い攻撃を受けるとともに、ヒラサカ自体は水の攻撃を受ける結果となってしまった。
「とどめなのぜ!」
朱が背負っていたアシュラユニットから、一発きりの鉄球が、ヒラサカに向かって発射される。
「貴様、俺がこれを落とすのを待っているのか! 腕が落ちようと手を離さぬぞ!」
憎々し気に叫んだクロツミの視線が、朱を通り越し、あらぬ方向へ飛んだ。
「あいつめ、あんな処におった!」
クロツミは、朱を置いて高速移動を始めた。
水希達のいる廃屋をみつけたようだ。
「待て! まだトドメを刺してないのぜ! 逃げるのかーっ!」
(あのまま続けていたら、この剣、落としていたかも知れぬ)
朱の声が遠ざかる中、クロツミは表情をゆがめ、ヒラサカを持つ手をこっそりとさすった。
廃屋の屋根の上。
水希は輝夜に話しかける。
「輝夜はさ。何で一日千殺辞めて、お母さんに会いにいこうとしてたの?」
水希の問いかけがただの興味本位などではなく、自分をおもんばかっての発言であることは、輝夜はこれまでの経験上、重々承知している。
「色々あったあんたと、そのお仲間だから包み隠さず言うけどさ」
輝夜は少しだけ言いにくそうに、ぼそっとつぶやく。
「母上に会いたい気持ちに、難しい理由付けなんて必要ないっしょ」
さらに輝夜は、分が悪そうに言い放った。
「強いて言うなら、淋しかった……ってとこ? ほら、包み隠さず言ったわよ」
かーっとなっているその様子から、それが本当の気持ちだということが感じ取れる。
「絶対誰にも言わないでよね。マジでこっぱずかしいんだから」
水希は輝夜に宵ノ微醺の僅かな瘴気を向け、ハープのような楽器「星影さざめく妖杖」を奏でてやった。
心地よく、リラックスさせるためだ。
宵ノ微醺の瘴気は舞芸の中で観客を相手に使うほどの僅かな瘴気だ。
だが、今の輝夜にはそれで充分だった。
郷太郎は渾身の†ブラックルミロザリオ†で、水希のアピールを効果的に盛り上げ、ロレッタはゆったりと踊り出す。
そこにだけ、戦場とは思えない穏やかな空気が流れる。
「クロツミに、言ってみればいいのに」
「こんな甘えた考え、兄上に言えるわけないじゃん!」
「この兄妹喧嘩の始まりはそこなんだから、輝夜がはっきりしないとクロツミは止まらないと思うんだ」
「でも兄上は、何をしたって止まらない。あたしたちのきょうだケンカっていうのは、いつだって命がけなの。あんた達の世界の神話だってみんなそんな感じでしょ?」
輝夜は、あっけらかんと答えた。
「そっか……」
輝夜の正直な言葉を聞けた水希が、突然、星影さざめく妖杖を、激しくつま弾いた。
ゆったりしたハープの音色が、まったく違うリズムになった。
「なにそれめちゃくちゃじゃん!」
「どう? ハープロックだよ。ハープでも、やればできるんだよ」
「そうね、これはこれで、悪くないかも」
「ほらね! 何でもさ、やってみなくちゃ判らないんだよ、輝夜」
その時――
「おのれ輝夜! みつけたぞ」
クロツミの怒声が割って入った。
絢狐の結界を警戒してか、クロツミは雷にならず人の姿のまま高速移動でこちらに向かって来た。
「だめなの! まだ途中なの!」
追いついたリーニャが、天津神々の力を剣に宿し、強大な一撃、神命天羽々斬を放つ。
ドン!
「やった! 命中なの♪」
「ぐおおお!!」
クロツミが苦しそうな雄たけびをあげる。
ヒラサカを持つ手のダメージは、確実に蓄積されているのだ。
(一日千人殺せなんて許せないんだよ
そんなことしたらすぐに皆いなくなっちゃうの)
「また貴様か」
クロツミはリーニャに視線を移した。
リーニャは、唇をぎゅっとかみしめ、邪神クロツミの前に立つ。
手にしている氷涙刀『海鳴』は、リーニャの大切な友が手をかけて用意した贈り物。
ワカサメと同じく水の加護を持ち、雷の力も切り裂く。
「では今度こそ、一日千殺を実行しよう。喜べ、お前が栄えある一人目だ」
クロツミが二刀流の構えをすると、ド派手な雷が起こった。
雷はあまり得意ではないはずのリーニャは、剣をぎゅっと握りしめる。
そうするだけで仲間たちの存在を思い出し、自然と勇気が湧く。
「悲しみが溢れちゃうのはやなの。天使として、みんなが悲しむことは防ぐの!」
氷涙刀『海鳴』は、クロツミの放った雷を斬り裂いた。
始まったリーニャとクロツミの戦闘を前に、
「行かないと」
輝夜は強く言い、郷太郎、ロレッタ、そして水希を見回した。
「あんた達の願いとは少し違うかも知れないけど……ここはやっぱ、あたしなりにやってみるしかないっしょ?」
輝夜らしい言葉と決断に、3人は深く頷き、理解と応援の気持ちをこめる。
「おかげでスッキリしたよ♪」
「輝夜、私の舞、いつか見てよね」
「全部終わったら、見に来るかも」
「あ、じゃあ!」
水希が興奮気味に前のめる。
「その時ついでに……あんたの名前の由縁、もっと細かく教えてよ」
「またそれ? 本当にあんたってヘンな人間。
まああたしもヘンな元・邪神だから、似た者同士かも。んじゃ、今度ね~」
いつも通り不適に笑うと、輝夜は水を得た魚のようにすいっと飛び立った。
クロツミと死闘を繰り広げるリーニャに、輝夜は近づいていく。
「もうちょっとで、落とせるの!」
リーニャは、隙を見つけてはちまちまとヒラサカを持つ腕に攻撃を仕掛けている。
輝夜は、そのヒラサカを、じっと見つめる。
1年ちょっと前。
悪行の限りを尽くして天津神宮から奪い去った魔剣ヒラサカは、今、兄クロツミの手の中で、邪気をはらんだ炎を称えている。
もう片方の神剣イツノオハバリも、邪気たっぷりの黒い剣気をまき散らしている……
どちらも今の輝夜では、とてもではないが奪還などできない。
ドーン!
派手な音がクロツミの真後ろで轟いた。
クロツミの背に回り込んでいたリーニャ・クラフレットが、神威カグツチを纏い、放った炎だった。
「だめって言ってるの、聞こえないの?」
リーニャの持つ芸格と神通天幕はこれまで同様、クロツミとその剣を弱体させる助けとなる。
「次から次へと蠅のように湧き出て来よって! 群れなければ何もできない何も生み出せない、五月蠅いだけの下等動物め!」
クロツミが、ギロリとリーニャをにらむ。
「むううう! 負けないの!」
リーニャはぷうっとふくれて精一杯おっかない顔を作り、クロツミをにらみつける。
輝夜の誘導で、サクラとウサミ先輩は後衛に回った。
(我は今、飛ぶことと見守ることしかできぬ。なんとふがいことよ)
輝夜の心のうちは、炎のように熱くたぎっている。
「輝夜っち♪」
天導寺 朱と天導寺 紅は、リーニャとは反対方向から登場した。
朱も、芸格と神通天幕の両方を所持しており、クロツミと剣を弱体させている。
「あんた達、まだ出てこないでよ! 両側に行かれちゃうと困るじゃん!」
輝夜がひそひそ声で朱に抗議する。
「あいつ、結構ダメージ受けて弱って来てるっぽいから、一気に畳みかける作戦にしたのぜ」
朱も、そばを飛翔する輝夜に耳打ちのお返しをする。
「輝夜っち、みんなの御守りになってくれてサンキュー」
「あ……あたしは別に……」
「いくよ、朱!」
タイミングを見計らっていた紅が合図の声をあげ、朱の持つ剣……ユニゾンブレードにユニゾンする。
クロツミは、大きく舞うように剣を振り、ヒラサカの炎とイツノオハバリの黒い剣気、そして雷の攻撃をランダムに、そして強烈に朱とリーニャに浴びせてきた。
「輝夜っちは下がってろ!」
「私たちなら大丈夫。頑張れるの!」
「ムカツク! 足手まといだって言いたいの!?」
毒づきながらも、輝夜は朱とリーニャの声に従う。
(ここまでふがいないにも関わらず、真蛇から力を取り戻したいとは思わぬ。不思議だ)
輝夜がそんなことを想っていると……
「輝夜、こっち」
突然背後から手が伸びてきて、輝夜を捕まえた。
「何奴!」
「大丈夫。私だよ」
手の主は、千夏 水希だった。
「何だあんたか……ってゆか、みんな戦ってるのに何すんのよ」
クロツミ達が派手な戦闘を繰り広げるどさくさに紛れて、水希は輝夜を捕獲したまま走り出した。
「どう? ここならみんなの様子も見えるからいいでしょ?」
辿り着いたのは、先ほど皆が身を潜めていた廃屋。
戦いの音や響きが、ズンズンと腹に響いて伝わってくる距離だ。
「あたしを拉致って何するつもり?」
廃屋の屋根によじ登りながら水希は笑う。
「舞芸に決まってんでしょ?」
そして、桜稜郭の片隅。
廃屋の屋根の上で舞芸……輝夜に捧げるライブが始まった。
輝夜を連れて来た水希の瞳には、強い光が宿っている。
水希の想いに共鳴している白川 郷太郎は、その気持ちをパフォーマンスに変換して表現する。
(拙者は傾奇者。存在意義は舞芸を魅せること!)
郷太郎は、派手派手しく名乗りを上げた。
「やあやあ、少年少女紳士淑女に翁媼、猫も鼠も、さあおいで。
ポンと包みを鳴らしてみれば喝采轟く。
我らが弦の鳴りは如何、黄泉にも届く天声乗せて。
戦じゃ戦、目には目を、武芸には舞芸で魅せてみよう。
我は傾奇屋舞芸者なり。新羅楽師の郷太郎見参!」
言い終えるた郷太郎は、葦原製のギター、蒼竜六絃琴を掻き鳴らす。
♪~
歌うのは持ち歌『ToDoiTe』。
「ヤバイ。結構いいじゃん!」
粗削りな和風ロック曲に、新来芸道を好む輝夜は目を輝かせる。
♪~
「新来芸道がお好きならば。地球のダンスもお気に召すと思いますわ」
郷太郎の歌と演奏にのって、ロレッタ・ファーレンハイナーは華麗に舞い始める。
郷太郎同様、輝夜に対する気持ち、さらにこの戦場でライブを行うことを決めた仲間に対する気持ち……それらに共鳴するべく、もっとも自信があり、そしてもっとも愛する地球の「ダンス」を踊る。
♪~
熱情のクロスコードにのって、エレガンスアティチュード。
バレエのように指先までに気を配った細やかな所作から、高貴な印象が放たれる。
(これは、どんな状況でも自分の想いを貫き歩む輝夜様のイメージ)
♪~
(わたくしはあなたをそんなにたくさんは知らない。
それでも知っているすべてをもって、あなたを尊敬していますわ。
応援申し上げております……)
「あんたの舞……マジ珍妙だけど、超綺麗」
♪~
郷太郎は『ToDoiTe』に一念通天応援歌をミックスさせ、そこにメッセージをこめる。
(諦めなければ叶うんだってよ。
だから拙者らは諦めない。輝夜の胸の内が晴れるまで舞い続けるさ)
♪~
郷太郎のメッセージが乗った歌に合わせて、ロレッタはさらに舞う。
繰り広げるのは、ショピアニーナ。
優雅さを追求したバレエ・ダンスから着想を得た、力強くも繊細なパフォーマンス。
美しい動きの随所に、詞的なメッセージを宿し、相手に届けることができる。
――あなたは何がしたいですか?
舞いながら、ロレッタは輝夜を見つめる。
輝夜はというと、今や郷太郎とロレッタの舞芸にくぎ付けだ。
「さっきまでダメダメな自分に対してマジギレ5秒前だったんだけど、今は超穏やかになってる」
輝夜は静かに目を細め、向こうで戦いを繰り広げている兄とアイドル達をじっと見つめる。
♪~
輝夜の気持ちを探るわけではなく、ただ輝夜がよい方向に向くようにという一心で繰り広げられた舞芸は、輝夜にしっかりと届いている。
「輝夜……」
そして水希が、歩み出る。
同じ頃――
輝夜が消えたことに気づいたクロツミは、歯ぎしりをしていた。
「輝夜め、逃げおったか?」
輝夜がいなくなったことは不安要素でもあったが、クロツミにしてみれば逆に好機でもあった。
「あやつがヒラヒラしていると気が散って困ったが、これで思う存分暴れられるわい!」
「それじゃあ、暴れてみるのぜ!」
朱がビシッとクロツミを指さす。
「貴様、挑発しているつもりか?」
クロツミは、高速移動で朱の目の前に来て、二刀を構え雷を走らせる。
かわす朱の動きは、素早い。
忍者のスタイルに加え、ユニゾン中の紅のクロックアップの能力を引き継いでいる。
さらにドロップチャームver1.0にて、クロックアップの能力は増強され、速度の他ジャンプ力や反応速度は上昇。
クロツミの攻撃も見切りやすくなっているのだ。
朱の手には二振りの剣。
赤い忍び刀の灼火鬼灯・影打ちと、紅とユニゾン中のユニゾンブレード。
さらに極火二刀を使っての二刀流のため、二振りの剣には炎が走り、ユニゾンブレードは紅とのユニゾン効果で刀身が光を帯び、斬撃を飛ばす。
ファングトルーパーズによる小型ドローン群のブレード攻撃と、ユニゾン時の効果で、火炎をはらんだ紅の幻も現れ、さらなる炎の攻撃を重ねる。
これらの攻撃を、無常迅速で間髪入れず、ヒラサカと持つの手の、同じ側面に向けての攻撃を仕掛けていく。
炎を使う戦いは過酷で、防御と涼をとるため、朱は雹遁術で自分の周囲に大小無数の氷塊を作り出す。
氷の塊は周回しながら、時にクロツミを狙って飛んできたりもするが、2人の熱い戦いの中、あっけなく溶けてしまう。
「ただ暑苦しいだけじゃ、ホット&クールな俺を倒すには足りないのぜ。お前に俺は燃やせないのぜ」
「ユニゾン」の概念のないクロツミにしてみれば、いろいろな属性の武器や道具が、1つならずいくつもの方法で攻撃を繰り出してくる……そんな状況だろう。
「面妖な妖術を使いよって!」
クロツミは両手の剣を派手に構える。
朱はヒラサカを持つその手に向かって、絶海の一太刀。
この強力な一撃に、トレイルウォーターを乗せて、放つ。
「ぐおおぉ!」
ヒラサカの纏う炎に紛れたトレイルブレイズが、朱の合図で爆発。
クロツミの手は手痛い攻撃を受けるとともに、ヒラサカ自体は水の攻撃を受ける結果となってしまった。
「とどめなのぜ!」
朱が背負っていたアシュラユニットから、一発きりの鉄球が、ヒラサカに向かって発射される。
「貴様、俺がこれを落とすのを待っているのか! 腕が落ちようと手を離さぬぞ!」
憎々し気に叫んだクロツミの視線が、朱を通り越し、あらぬ方向へ飛んだ。
「あいつめ、あんな処におった!」
クロツミは、朱を置いて高速移動を始めた。
水希達のいる廃屋をみつけたようだ。
「待て! まだトドメを刺してないのぜ! 逃げるのかーっ!」
(あのまま続けていたら、この剣、落としていたかも知れぬ)
朱の声が遠ざかる中、クロツミは表情をゆがめ、ヒラサカを持つ手をこっそりとさすった。
廃屋の屋根の上。
水希は輝夜に話しかける。
「輝夜はさ。何で一日千殺辞めて、お母さんに会いにいこうとしてたの?」
水希の問いかけがただの興味本位などではなく、自分をおもんばかっての発言であることは、輝夜はこれまでの経験上、重々承知している。
「色々あったあんたと、そのお仲間だから包み隠さず言うけどさ」
輝夜は少しだけ言いにくそうに、ぼそっとつぶやく。
「母上に会いたい気持ちに、難しい理由付けなんて必要ないっしょ」
さらに輝夜は、分が悪そうに言い放った。
「強いて言うなら、淋しかった……ってとこ? ほら、包み隠さず言ったわよ」
かーっとなっているその様子から、それが本当の気持ちだということが感じ取れる。
「絶対誰にも言わないでよね。マジでこっぱずかしいんだから」
水希は輝夜に宵ノ微醺の僅かな瘴気を向け、ハープのような楽器「星影さざめく妖杖」を奏でてやった。
心地よく、リラックスさせるためだ。
宵ノ微醺の瘴気は舞芸の中で観客を相手に使うほどの僅かな瘴気だ。
だが、今の輝夜にはそれで充分だった。
郷太郎は渾身の†ブラックルミロザリオ†で、水希のアピールを効果的に盛り上げ、ロレッタはゆったりと踊り出す。
そこにだけ、戦場とは思えない穏やかな空気が流れる。
「クロツミに、言ってみればいいのに」
「こんな甘えた考え、兄上に言えるわけないじゃん!」
「この兄妹喧嘩の始まりはそこなんだから、輝夜がはっきりしないとクロツミは止まらないと思うんだ」
「でも兄上は、何をしたって止まらない。あたしたちのきょうだケンカっていうのは、いつだって命がけなの。あんた達の世界の神話だってみんなそんな感じでしょ?」
輝夜は、あっけらかんと答えた。
「そっか……」
輝夜の正直な言葉を聞けた水希が、突然、星影さざめく妖杖を、激しくつま弾いた。
ゆったりしたハープの音色が、まったく違うリズムになった。
「なにそれめちゃくちゃじゃん!」
「どう? ハープロックだよ。ハープでも、やればできるんだよ」
「そうね、これはこれで、悪くないかも」
「ほらね! 何でもさ、やってみなくちゃ判らないんだよ、輝夜」
その時――
「おのれ輝夜! みつけたぞ」
クロツミの怒声が割って入った。
絢狐の結界を警戒してか、クロツミは雷にならず人の姿のまま高速移動でこちらに向かって来た。
「だめなの! まだ途中なの!」
追いついたリーニャが、天津神々の力を剣に宿し、強大な一撃、神命天羽々斬を放つ。
ドン!
「やった! 命中なの♪」
「ぐおおお!!」
クロツミが苦しそうな雄たけびをあげる。
ヒラサカを持つ手のダメージは、確実に蓄積されているのだ。
(一日千人殺せなんて許せないんだよ
そんなことしたらすぐに皆いなくなっちゃうの)
「また貴様か」
クロツミはリーニャに視線を移した。
リーニャは、唇をぎゅっとかみしめ、邪神クロツミの前に立つ。
手にしている氷涙刀『海鳴』は、リーニャの大切な友が手をかけて用意した贈り物。
ワカサメと同じく水の加護を持ち、雷の力も切り裂く。
「では今度こそ、一日千殺を実行しよう。喜べ、お前が栄えある一人目だ」
クロツミが二刀流の構えをすると、ド派手な雷が起こった。
雷はあまり得意ではないはずのリーニャは、剣をぎゅっと握りしめる。
そうするだけで仲間たちの存在を思い出し、自然と勇気が湧く。
「悲しみが溢れちゃうのはやなの。天使として、みんなが悲しむことは防ぐの!」
氷涙刀『海鳴』は、クロツミの放った雷を斬り裂いた。
始まったリーニャとクロツミの戦闘を前に、
「行かないと」
輝夜は強く言い、郷太郎、ロレッタ、そして水希を見回した。
「あんた達の願いとは少し違うかも知れないけど……ここはやっぱ、あたしなりにやってみるしかないっしょ?」
輝夜らしい言葉と決断に、3人は深く頷き、理解と応援の気持ちをこめる。
「おかげでスッキリしたよ♪」
「輝夜、私の舞、いつか見てよね」
「全部終わったら、見に来るかも」
「あ、じゃあ!」
水希が興奮気味に前のめる。
「その時ついでに……あんたの名前の由縁、もっと細かく教えてよ」
「またそれ? 本当にあんたってヘンな人間。
まああたしもヘンな元・邪神だから、似た者同士かも。んじゃ、今度ね~」
いつも通り不適に笑うと、輝夜は水を得た魚のようにすいっと飛び立った。
クロツミと死闘を繰り広げるリーニャに、輝夜は近づいていく。
「もうちょっとで、落とせるの!」
リーニャは、隙を見つけてはちまちまとヒラサカを持つ腕に攻撃を仕掛けている。
輝夜は、そのヒラサカを、じっと見つめる。
1年ちょっと前。
悪行の限りを尽くして天津神宮から奪い去った魔剣ヒラサカは、今、兄クロツミの手の中で、邪気をはらんだ炎を称えている。
もう片方の神剣イツノオハバリも、邪気たっぷりの黒い剣気をまき散らしている……
どちらも今の輝夜では、とてもではないが奪還などできない。


