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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

邪神と妖狐と桜の城

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邪神と妖狐と桜の城

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■桜稜郭での激戦 ――信じる、ということ――(1)


「兄上!それ以上一歩も、この街に近づかせないんだからね」

 輝夜は、クロツミの周辺を飛び周る。

「ああ! うっとうしい!」

 ハエか蚊でも払うようにクロツミが、ぶん、と荒々しく腕を振れば、

「きゃ!」

 大きく飛ばされ、輝夜は地面に叩きつけられた。
 
「まったく。なんという情けない姿だ。こんなに小さいと間違えて踏んでしまいそうだな」

 本気とも冗談ともつかぬ声で笑うと、クロツミは、ズン、と重たい一歩を踏み出した。

 そのまま数歩行けば本当に踏みつけかねない、そんな気迫がこもっている。

「もしかして、間違ってあたしを踏むつもりとか?」

 輝夜は飛び立つが、強い力で叩きつけられたダメージは隠し切れない。


「……大丈夫!?」

 一番に輝夜の元へ駆けつけてきたのは、アルネヴ・シャホールだった。
 輝夜はほっとため息をついてアルネヴの手のひらに舞い降りた。
 アルネヴはそんな輝夜を【よしよし】で撫でまわす。

「遅くなってごめんね。この世界の為に戦ってくれて有難う、大好き♪」

「ちょっ……」

 手のひらの安心感にうっとりしそうになった輝夜だったが、すぐに腕を組んでそっぽを向いた。

「ま……まだ戦ってないし」

 輝夜はハッと我に返って、アルネヴの髪をひっぱった。

「そんなことより! 兄上は見た目以上に狂暴なの。早いとこなんとかしないと」

 向こうから、ゆっくりとした足取りでクロツミが近づいてくる。
 ズン、ズン、と、重たい地響きを腹で感じながら、アルネヴは真顔で輝夜に問いかけた。

「本気で……たたかうの?」

「いくしかないっしょ!」

 輝夜は迷うことなく、言い切った。

「うん、判った!」

 輝夜の意思を尊重したアルネヴは、夢想の剣を強く握って戦闘態勢に入る。
 雪女の身体には陰魄の幻獣ズィキスも融合しており、魔法(妖術)の底上げも図っている。
 
 まず手始めに、風を司る神に働きかけ翠風の光雨を降らせる。
 風の加護を受けたアルネヴと輝夜は、身のこなしが敏捷になった。

「こざかしい妖術を使いおって!」

 クロツミは荒ぶる雷を纏った足を動かし、稲妻の速さの高速移動を見せつけすぐにアルネヴと輝夜に急接近した。

「兄貴なら、妹の気持ちも尊重してあげなよ!」

 いきなりクロツミと急接近したアルネヴは、氷刃乱舞で無数の小さな氷の刃を放つ。
 クロツミは瞬時にヒラサカを大きく振り回し、大きな炎を産み出した。
 氷の刃は熱気によって鋭さをそがれてしまった。

「あいにく俺は、母上のおっしゃることしか聞き入れぬ!」

 クロツミの怒声を聞きながら、アルネヴは風神石の指輪をそっと撫で、鍵になる言葉を唱えた。

 ドン!
 
 すさまじい風の衝撃波が起き、魔剣ヒラサカの炎を煽って反撃する。
 これで炎の直撃は免れた。
 しかしヒラサカの炎と風神石の風が混ざり合い、すさまじい熱気の渦が生じた。

「危ない輝夜さん!」

 アルネヴは輝夜をかばうように抱きかかえ、その場にうずくまった。

「よかった……無事だった?」
「ちょっと。あたしを誰だと思ってんの! そんなにか弱いお姫様に見える!?」
「でも……ボクは輝夜さんを守りに来たから」

 熱気をもろに浴びたアルネヴは、立ち上がれない。
 アルネヴの手から抜け出て飛翔すると、輝夜は彼(彼女)の髪に、よしよし を施した。
 
「ふふふ……くすぐったいけど、なんかいいね。元気が出る」

 よろめきながらも立ち上がり、追撃を試みようとしたアルネヴの前に人影が現れた。


「あとは俺に任せろ」

 死 雲人だった。雲人は、クロツミに聞こえぬよう小声で伝える。

「皆到着しており、あの廃屋の影に隠れている。まずはダメージを癒せ」

「アルネヴちゃんマジ感謝。おかげでみんなと合流できたわ。あたしも一発キメてくるから、見ててね♪」

 輝夜は勝気に笑ってアルネヴに手を振ると、ふわり、雲人の肩に舞い降りた。


「人間は、皆、殺す!」

 衝撃波に耐え、動きを取り戻したクロツミは激昂している。
 そんな戦う気……というか殺す気満々の満々のクロツミを前に、雲人はといえば神器を手にしている。

「輝夜。お前は俺に、見惚れていろ」

「あ……あんた、ここで舞芸をするつもり?」

 雲人は天津剣士の力で、天津鈴笛の杖の鈴を鳴らす。
 舞神召喚を発動しれば、舞芸を愛する天津神々が華々しく現れ、雲人と共に荒武者咆哮。迫力ある大声で吠える。

「俺は、強い!」


「兄上の前で舞芸をするなんて、命知らずにもほどがあるっつーの」

 呆れながらも、輝夜は雲人のそばを離れない。
 アルネヴとの戦いの時、クロツミが力をある程度抑えていることを、輝夜は感じ取っていた。
 意図的か無意識か不明だが、兄の攻撃は自分がいることで手加減されるのかも知れない……輝夜はそれに賭けている。

「貴様! 俺が舞芸ギライだと知っててやっているな?」

「もちろんだ」

 怒り狂ったクロツミは、雲人のことしか見えていない。
 廃屋で身を潜めていたアイドル達が、その隙に思い思いの方向へ散って行く。
 輝夜は兄にバレぬようこっそりとそれを感じ取り、心強い気持ちになった。

「俺と輝夜はラブラブだ! 俺のハーレムの女に手は出させない」

 雲人は神器を武器――神涙刀サワメに持ち変える。
 
「らぶらぶもはーれむも、何だか知らぬが兎に角許さぬ!」
 
 クロツミは、炎と雷、そして黒い剣気をまとわせながら、二振りの剣で豪快に雲人に攻撃を仕掛ける。
 雲人の神涙刀ワカサメは、刃に宿る強力な水の加護で炎を抑え、雷を切り裂く。
 さらに雲人の芸格が、確実にクロツミの剣の力を弱め、勝負は互角だった。

「お前の許可はいらん。もう輝夜は俺の女だ。だから俺が守る」

「誰があんたの女だって? あんたってマジでイっちゃってるね。ま、悪くないけど♪」

「輝夜は照れ屋だな。お前はもう、俺の女だぞ」

「はあぁぁ!?」

「……何をいちゃいちゃしているのだ」

「兄上の目は節穴なの? これのどこがいちゃいちゃなわけ!」

 続いて雲人は、神通天幕を開いた。
 辺りは神々の力を感じさせる空間と化し、空気がすぅっと清く澄み渡った。
 
「何という清々しさ! 気分が悪くなるわい」

 邪神クロツミは悶々と身体をよじり、その隙に雲人がワカサメを振りかざし、雲人の大技、我雄覚醒剣を放った。

「この技は女性を助けるときに特に威力を発揮する! 輝夜! 俺はお前を助け、そしてお前をハーレムに加える!」

 美しく輝く神速の斬撃がクロツミの両腕を確実に襲う。


「おのれ! らぶらぶもはーれむも、許さぬぞ!」

「あ~、それに関してはあたしも兄上にマジ賛成かも」



 クロツミに確かなダメージを与えた雲人の前に、八重崎 サクラが妖艶に現れた。
 両の手には、蛇神の鱗が埋め込まれた大扇。
 両者は色が異なって、片方は蒼鱗。もう片手は碧鱗だった。

「さあ、私の舞にお付き合い願いましょうか?」

 輝夜は雲人の肩から離れ、サクラに近づいた。

「そばをうろちょろするけど、気にしないでね」

(別に、あんたたちのことを必死で守ってるわけじゃないんだからねっ)

 心の中でそんなことを毒づきながら、 輝夜はサクラの周辺を飛翔する。

 サクラはしゃがみこみ、二つの大扇の影に隠れる。

「腹立たしい! 貴様も俺に舞芸を見せる気か!」

 雲人の大技のダメージから回復したクロツミが、大きな声で吠え、二振りの剣をふるった。
 立ち上がったサクラの手には、神通天幕。しかし、まだ開かない。

 既にサクラの両手に芸器はなく、
 両手に1対の、黒鱗甲・上顎と、黒鱗甲・下顎をはめている。
 黒鱗の蛇神の鱗を纏わせる、肘ほどまである手甲だ。

 サクラの横には、ウサミ 先輩が立っている。
 ウサミ先輩の手にも、神通天幕。
 
 2人は顔を見合わせて、同時に神通天幕を開いた。
 辺りは神々の力を感じさせる空間と化し、空気がすぅっと清く澄み渡り、クロツミを弱体化させる。


「くうぅ! こしゃくな」

 クロツミが乱暴に剣を振り回す。
 しかし、サクラとウサミ先輩の芸格は、二振りの剣の力を抑えつける。
 
「御代はその双剣……耳を揃えて頂きましょうかね!」

 サクラは、このチャンスを利用して、クロツミの懐に入りこんだ。

「美しい蛇には毒があるって、聞いた事ありませんか?」

 人の大きさとはいっても、十分大きなクロツミを見上げると、サクラは両手の手甲に氷雪の武威の冷気とあられを纏わせ、無刀術で挑みかかる。

 距離が近すぎて高速移動をする隙も、剣を当てる距離も保てないクロツミは、剣を握ったままの手の拳でサクラを打撃。
 サクラは黒鱗の手甲で、頭や顔や腹を守って耐える。
しかも、氷雪の武威の氷とあられを纏った手甲は結構よく滑るため、クロツミもやりにくそうだ。

「ほら、蛇の鱗だって馬鹿にならないで……しょっ!」

 サクラは隙を見逃さず、剣を握るクロツミの手や腕を掌打で打ち抜く。

(この戦いは倒す為の戦いじゃない……)
 
 そう。刀を落とすことが目的だった。
 両手の黒鱗甲にて攻防を繰り返し、徹底して肘まわりを狙い、ダメージを蓄積させる。
 その猛攻撃は同時に防御ともなっており、クロツミに、剣を振る隙を与えない。

 ウサミ先輩は、氷雪の武威で冷気を纏い、神色自若で平常心を保ちつつサクラの動きをサポートしている。
 防御とサポートに徹し、この戦いを冷静に眺めていると、輝夜がサクラの周りをぴったりとくっついて周っているのが見て取れた。 クロツミの抑止力になっているつもりなのだと、ウサミ先輩には見て取れた。

(輝夜君がそうであったように、彼ともまた戦いの末に強敵(とも)として分かり合える事を望む)

 サクラのじわじわした蛇のような攻撃が功を奏し、クロツミに疲れが見えてきている。
 そしてもちろん、当のサクラにも……。
 「その時」を感じ、ウサミ先輩は擬神刀クサナギを強く握りクロツミを見上げた。

「今だっ、ここっ!!」

 タイミングを察知したサクラが、ヒラサカを持つクロツミの腕に、己の黒鱗甲の手を巻き付けた。

 同じタイミングでウサミ先輩が、擬神刀クサナギにて無明絶刀。
 高速で構えをとり、その速さを乗せて大上段から、イツノオハバリを持つ腕を斬りつける。

「今こそ好機。この一刀に全てを込める!」

 二人とも確かな手ごたえは感じたが、二振りの剣はまだクロツミに握られたままだった。

「まだ、いけるわ」

「もちろんだとも!」

 ウサミ先輩とサクラがさらに挑もうとするが、輝夜が2人の前に立ちはだかる。

「これ以上やったら死んじゃうかもだし!」

「輝夜、何を戯けておる。人間の命は守るものではなく、奪うもの也」

 クロツミが両方の手を少しかばいながらウサミ先輩とサクラの前に高速移動で到達。
 乱暴に輝夜を手で払い、地面にたたきつける。

「きゃっ!」

「俺としたことがさっきから殺し損ねているから、今ここで殺してみよう」

 命がけの接近戦をしたばかりのサクラはだいぶ疲弊している。
 剣を構えたウサミ先輩が、サクラを守るように立ち、臆することなくクロツミを見上げる。

「兄上……そんなことは、だめっつってるでしょ」

 クロツミを止めようと、輝夜はその腕に絡みついた。
 
「邪魔だ!」

「きゃあっ!」
 
 強い力で地面にたたきつけられた輝夜は、すぐによろよろと飛翔する。

「だめだって」

「輝夜……」

 ――お前はもはや、俺や母上の知る輝夜ではないのか?
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