邪神と妖狐と桜の城
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◆プロローグ
――桜稜郭。
妖怪と人間と、そしてそのあいのこであった半妖が長く共に暮らす街。
長くはがら空きの砦、そして半妖や罪人を閉じ込める流刑地であったそこは、今や葦原に生きる者が共に暮らす、手本のような都市となっていた。
その中央、桜の丸に作られた特設の会場では、
桜稜郭の殿姫此花が、高らかに幕開けを告げていた。
「……かつてこの街には、大きな災いがありました。
そして、それを治めるために、一人の妖怪が身を捧げました」
“悪しきイドラ”による、尋常ならざる瘴気の流出。
それを瀬戸際で堰き止めたのは、偉大な陰陽師であった狐の妖怪・絢狐(らんこ)だった。
絢狐は、桜稜郭の守りをつかさどる銀狐(ぎんこ)の――
幼いころに死んだと聞かされていた、母親だった。
「しかしもはや、災いは封じられて久しく、この地の下に憂うべきものはありません。
彼女が、呪縛から解き放たれるときが来たのです」
此花の言葉に、銀狐はぐっと涙をこらえて拳を握った。
一年前、母が生きていると知って、それでもまた封じなければならなかったこと。
……そして、今目の前に迫る危機に、寝起きの母の力を借りねばならないこと。
それらを思い、しかしそれでも、と顔は上を向ける。
(――母上と、もう一度会える。それに比べれば、些細なことだ)
「皆の者、どうか今日はめいっぱい楽しんで、ハレの気を出していってください。
この地下深くで要石となり、今日まで皆を守ってくれたものを、皆の力で目覚めさせるのです!」
舞台に向けて響く歓声。舞芸者たちも俄然気合が入る。
【名題前】の芸格を得た銀狐も、それは同じなのであった。
1ページ 目次・プロローグ
2ページ ■桜稜郭での激戦 ――信じる、ということ――(1)
3ページ ■桜稜郭での激戦 ――信じる、ということ――(2)
4ページ ■桜稜郭での激戦 ――信じる、ということ――(3)
5ページ ■桜稜郭での激戦 ――信じる、ということ――(4)
6ページ ■華乱葦原、花の舞――銀狐と絢狐の再会に、祝福と祈りを込めて――(1)
7ページ ■華乱葦原、花の舞――銀狐と絢狐の再会に、祝福と祈りを込めて――(2)
8ページ ■華乱葦原、花の舞――銀狐と絢狐の再会に、祝福と祈りを込めて――(3)
9ページ エピローグ
――桜稜郭。
妖怪と人間と、そしてそのあいのこであった半妖が長く共に暮らす街。
長くはがら空きの砦、そして半妖や罪人を閉じ込める流刑地であったそこは、今や葦原に生きる者が共に暮らす、手本のような都市となっていた。
その中央、桜の丸に作られた特設の会場では、
桜稜郭の殿姫此花が、高らかに幕開けを告げていた。
「……かつてこの街には、大きな災いがありました。
そして、それを治めるために、一人の妖怪が身を捧げました」
“悪しきイドラ”による、尋常ならざる瘴気の流出。
それを瀬戸際で堰き止めたのは、偉大な陰陽師であった狐の妖怪・絢狐(らんこ)だった。
絢狐は、桜稜郭の守りをつかさどる銀狐(ぎんこ)の――
幼いころに死んだと聞かされていた、母親だった。
「しかしもはや、災いは封じられて久しく、この地の下に憂うべきものはありません。
彼女が、呪縛から解き放たれるときが来たのです」
此花の言葉に、銀狐はぐっと涙をこらえて拳を握った。
一年前、母が生きていると知って、それでもまた封じなければならなかったこと。
……そして、今目の前に迫る危機に、寝起きの母の力を借りねばならないこと。
それらを思い、しかしそれでも、と顔は上を向ける。
(――母上と、もう一度会える。それに比べれば、些細なことだ)
「皆の者、どうか今日はめいっぱい楽しんで、ハレの気を出していってください。
この地下深くで要石となり、今日まで皆を守ってくれたものを、皆の力で目覚めさせるのです!」
舞台に向けて響く歓声。舞芸者たちも俄然気合が入る。
【名題前】の芸格を得た銀狐も、それは同じなのであった。
■目次■
1ページ 目次・プロローグ
2ページ ■桜稜郭での激戦 ――信じる、ということ――(1)
3ページ ■桜稜郭での激戦 ――信じる、ということ――(2)
4ページ ■桜稜郭での激戦 ――信じる、ということ――(3)
5ページ ■桜稜郭での激戦 ――信じる、ということ――(4)
6ページ ■華乱葦原、花の舞――銀狐と絢狐の再会に、祝福と祈りを込めて――(1)
7ページ ■華乱葦原、花の舞――銀狐と絢狐の再会に、祝福と祈りを込めて――(2)
8ページ ■華乱葦原、花の舞――銀狐と絢狐の再会に、祝福と祈りを込めて――(3)
9ページ エピローグ