スピンオフ“戦戯嘘はどこにも存在しないと私だけが知っている”
リアクション公開中!

リアクション
■感謝の歌(2)
死 雲人が、戦戯 嘘を引き連れて登場した
雲人はいきなり、客席のゆうに手を差し伸べてきた。
「ゆう、お前を俺のハーレムに加えてやろう」
「ハッ!!!! ハー……」
ゆうが真っ赤になって絶句する。
「ちょっと! 私の作者さんを困らせないで欲しいのよっ」
「俺達は、確かにあまり接点はない」
雲人はそう言うと、【枠破りのバーンユニバース】で真っ白い白紙の世界を破く。
切り裂かれた先に現れたのはやはり真っ白い空間。
しかしそこは雲人が自由に動ける世界だった。
早速雲人は、背景に『戦場の城』を描いた。
「いきなりは、ピンとこないだろう。そのお前達の気持ちも分かる」
雲人は『戦場の城』を背景に【ヴァルハラを謳う剣】を振る。
剣が作り出した幻の雑魚敵の群れが現れ、派手な剣舞が始まった。
「だが俺はお前達に感謝してる」
ゆうと嘘を巻き込まぬよう心遣いをみせながら、雲人は言う。
「ゆうへの感謝は、嘘を生み出してくれた事。そして、嘘への感謝は、こうして生まれて、物語を歩んでいる事」
「私が嘘ちゃんを生んだ……?」
「私が、生まれたこと……」
2人の少女が敏感に反応したが、雲人は気づかずさらに続ける。
「今ここから、俺たちの絆は深まるのだ」
そして雲人は【BAD Invitation】の封を開け、その香りを漂わせた。
【BAD Invitation】には少量のノイズが入っており、自身を魅力的に見せることができる。
しかし大きなリスクも伴う。
「なに? この感じ……」
ゆうが目を見開きながら雲人を見上げる。
その目は、はにかんでいるくせに大胆に潤んでいる。
「はふぅ……こんなの嘘なのよ……」
2人の少女が雲人に吸い寄せられそうになったその時。
――またハーレムですの?
どこからともなく声が響いた。
「れっ、玲花!?」
怨念なのか執念なのか生霊なのか、はたまたもっと悪い何かを使って来たのかは判らないが、
――どうしても、わたくし一人では満足できないとおっしゃるのね
それは確かに天歌院玲花の声だった。
「ハーレムは俺の夢! 俺そのものだ!」
――『玲花のお願い』でも?
雲人は凍りついた。
『玲花のお願い』は、雲人にとってNGワードだ。
【BAD Invitation】を使うと自我が揺らいでしまい、嫌でも『天歌院玲花のお願い』を叶えたい気持ちになってしまうことがあるのだ。
従うつもりは毛頭なかった。しかし自我はどんどん揺らいでいく。
「くぅっ!」
雲人は、どうしても嘘とゆうを支配しきれない。
***
クロティア・ライハはライブの前、嘘に1冊のノートを渡した。
「以前PCゲームのセーブデータをロストしてしまったとき、データサルベージ(復旧)を勉強したの。
ここにそのやり方を判りやすく記しておいたわ。
もしも原稿作成にPCを使っていたとしたら、
削除したはずの『嘘さんのデータ』を、呼び出せるかも知れないから」
「私のために? ありがとうなのよ……」
嘘は、クロティアに深い感謝の気持ちを表した。
***
ステージに立ったナレッジ・ディアは、真っ白い白紙の世界を、感慨深げに見渡す。
(この世界は、なんだかマスターの手によって目覚める前の世界の事を思い出しますね……)
今日のナレッジは懐かしい【ナレッジウェア(エレガントゴースト)】を着ている。
それは、ナレッジがクロティアに出会う前……再起動する前から着ていた服だった。
♪ ♪
2人はいつものようにゲーム機を使ったスタイルで【アニメ化ゲーム(アニソン:注目のロック)】を演奏。
いつの通りの息のあった踊りを見せる。
今日のライブは、ナレッジがメインだった。
やりたいことがあるからとクロティアにお願いしてある。
(ナレッジは感謝の気持ちくらいしかあげる物は無いですが、
ライブで出来る限りこの気持ち!伝えさせていただきます!
***
クロティアは【プライドレス(チェンジカラードレス)】を着ているが、姿は仮想体のプライではなくクロティアそのままだった。 ナレッジが、そうリクエストしたのだ。
「マスター、私はあの時真っ暗な世界にいました。
電気信号で成り立っている、『0』と『1』に支配された世界です」
踊りながら、ナレッジはクロティアに聞いてもらいたいことをそのまま口にする。
ステージ上なので、もちろん観客達にもそれが聞こえている。
「その時の私は自分を示す名も家族も何もなく、ほとんどからっぽな人形でした」
ナレッジは音楽にのって、【超・背景描写】。
ステージ上に、殺風景な廃墟を描いていく。
それはクロティアが、再起動前の眠るナレッジをみつけた、思い出の場所。
「マスター。プライさんを召喚してもよろしいですか?」
承諾を得たナレッジが、【プライ(創作物:歌って踊れる共演者)】を召喚する。
プライは、ゲーム内で作成されたエディットキャラ。
クロティアが長年ゲーム内で使っていたもう一人の自分。
♪ ♪
3人で、慣れ親しんだ曲を踊っていく中、ナレッジが感謝の言葉を口にしていく。
「当時の私は、生まれた意味なんてない……と思っていた気がします。
でもその思いはクロティアという少女……マスターの手によってかき消されました」
クロティアは照れくさかったが、照れくさい顔をするのはさらにもっと照れくさく……。
「そうなの?」
踊りながら、ちょっと恥ずかしそうにそう返すのがやっとだった。
「はい! そうなのです!」
♪ ♪
曲が一番のサビに入った。
プライと同じ黒と黄色のデザインだったクロティアの【プライドレス(チェンジカラードレス)】が、曲のサビに合わせて青と白に変化した。
ナレッジは、並んで踊るプライとクロティアの両方に言葉をかける。
「マスターは私を目覚めさせてくれました。
何もない私に、名前をくれました。
ナレッジの名前の由来は、プライさんがゲーム内で習得したスキルから取ったものですよね。
それからマスターは、アイドルとしての居場所も与えてくれました」
そこでナレッジは、言葉に少し詰まった。
心の底からの感謝の気持ちを伝えたかったが、いざそうなると、なかなか難しい。
『そうゆうのは、きわめてシンプルでいいと思うのよ!』
気づけば嘘が、ステージの下から大きく見開いたノートを指さしている。
さっきクロティアが渡したノートに、走り書きしたものだった。
「シンプル……」
ナレッジの目がパっと輝く。
「ナレッジ? 今ここで言うの? ライブ中に!?」
「はい!」
ナレッジはにっこり笑って、大きく息を吸って、大声で言った。
「とにかく、2人ともありがとうござます!」
心からのその言葉に、観客からは拍手が沸いた。
「なんて尊い光景なの? ……うまく言えて、良かったのよ」
嘘が鼻息荒く安堵の声をあげた。
そして、ちょっと淋しそうに、観客席にいるゆうを見た。
***
「観客がいてこその俺達だ……だから俺達はいつだって、感謝を込めて演技をするんだぜ!」
『幻想演武』の睡蓮寺 陽介は、メンバーの堀田 小十郎、睡蓮寺 小夜と共に、その観客が待つ、ステージへ向かう。
どのような世界の、どのようなスタイルをしていても、陽介は常に自分が大道芸人であることを意識してきた。
オルトアースのナゴヤで、炎操りしストーリーテラーとしてステージに立つ、今、この時も……
――驚きと感動を届けてこその大道芸人
陽介はそう思っている。
とびきりの驚きと感動を届けることが、観客への感謝になる……その想いでこのライブに臨んだようだ。
ただありがとうと伝えるだけではなく、相手が一番喜ぶことを行う、それも感謝の表現なのだろう。
(大道芸で、最高のサプライズ(ありがとう)を届けるぜ!)
***
「今、ここで歌える事に感謝を込めて……貴女に、想いの歌を届けます…」
小夜は今日も、想いをこめて歌う。
♪ ♪
陽介は【チェシャ猫の見た夢】にて、ステージ上にカラフルな木々や花を芽吹かせる。
真っ白い白紙の世界のステージが、ちょっとした森のように見える。
♪ ♪
【チェシャ猫の見た夢】で現れた植物たちは陽介のパフォーマンスに合わせて左右に揺れる。
小夜の歌が森の景色と植物の踊りで賑やかになった。
歌っていると、小夜はゆうと目が合った。
ライブを楽しんではいるけれど、どこか怯えてて、自身のなさそうな少女、ゆう。
♪ ♪
(ゆうさん、あなたの想いを支えたい)
小夜は言葉ではなく、歌詞と歌とで、その気持ちを表現する。
***
【ヴァルハラを謳う剣】を手に凛と背筋を伸ばして、小十郎は陽介と小夜を見つめている。
(私にとっての感謝、それは)
「夢を抱くきっかけ……憧れ(オモイ)をくれた2人に他ならない」
小十郎が【ヴァルハラを謳う剣】を鞘から抜き、一歩前に出た。
「『人を魅せる演武を成す』」
小十郎はその夢を体現すべく、【ヴァルハラを謳う剣】を振る。
幻想ながら大勢の敵が出現し、小十郎に殺到した。
***
小十郎の演武が始まり、さらに小夜の歌は響き渡る。
♪ ♪
「さあさあ、粋なピエロの大奇術……篤(とく)と御覧あれ」
お道化て笑いながら、陽介は美しい銀色の羽根ペン【羽ばたきと囀り】で宙に歌詞を書きつけて、【言葉のコーラス】。
書きつけられた歌詞はバックッコーラスとなって奏でられると同時に、小夜の歌にふさわしい色に染まっていく。
その横では、小十郎が幻想の敵たちと派手な殺陣(演武)を繰り広げている。
【大殺陣回し】の演出も相まって、よりいっそう派手な殺陣(演武)になった。
突然、小十郎のすぐ目の前で、ステージが急に盛り上がった。
しかし小十郎は、その上に飛び乗り、その困難さえも演出に変え、さらに殺陣(演武)を盛り上げる。
(特に仮想体ではないが)小十郎が着た【イマジネイションスーツ】の【頼れる味方補正】が効いたのか、小夜と陽介もステージの盛り上がりに巻き込まれて転ぶこともなく事なきを得た。
***
(小夜の歌、陽介の大道芸のように……私の夢は演武にある。
故にこそ、私は2人の夢と共に己が全霊の演武を示し、感謝の想いをここに示したい)
敵を一掃し、小十郎は剣を鞘におさめ、次の大舞台を待った。
***
♪ ♪
小夜の歌は佳境を迎え、陽介は【ブレーメンの奇跡】を使用。
奏者が増えたように聞こえ、小夜の歌にさらなる奥行きが生まれる。
「感謝を込めて作る作品に間違いはねぇ……胸を張りな、ゆう!」
陽介がニッと笑って、【羽ばたきと囀り】の銀の鳩を羽ばたかせた。
宙に書きつけられた歌詞がカラフルな鳩となって一斉に飛び立った。
「わあっ……」
美しくカラフルな演出に、ゆうも観客も目を輝かせた。
「おめぇも思いっきり羽ばたけよ!」
***
そして小十郎が、再び前へ。
「誓いはここに、祈りは剣に……遍く希望(ひかり)は全ての人に……」
【枠破りのバーンユニバース】にて世界を切り裂いていく。
ステージもこれまで作り上げたステージの演出も、すべてが消失し、真っ白な空間が広がった。
さらに【枠破りのバーンユニバース】のクリエイション効果で、真っ白いその世界には、暁に照らされる世界が描かれる。
小十郎が、この時を待って準備していた【セイントコロネーション】。
眩い後光と共に輝く光の翼が出現させ、己が暁の中に飛び立つ姿で、夢へ進む姿を表現する。
たくさんの拍手の中、小十郎は【二次元キャラ:希望の救世主】を召喚。
希望を感じさせる輝きが振りまかれる。
暖かく希望に満ちた光を浴びて、ゆうはとても幸せそうだ。
「人は誰しも、その心に幻想(ユメ)を持つ
この希望(ひかり)が、君の幻想(ユメ)の後押しになる事を、切に願おう」
小十郎の言葉に、ゆうは恥ずかしそうにうつむいた。
「下を向くな。前を向いて…進んでいけ。
君の幻想(ユメ)を紡げるのは、兄でも……ましてや私達でもない」
「ゆうさん」
小夜の優しい声に導かれ、ゆうが顔を上げる。
「あなたたちは、すごい……。全部のライブが本当に素敵だった。
でも私は……。ごめんなさい。やだよね、こんなうじうじしてる子」
そしてゆうは、キリっと前を向いた。
持っていたペンで、再び、演目を終えたアイドル達の姿を描いていく。
先ほどと同じで線画だが、とてもいきいきと特徴をとらえ、オリジナリティ溢れるタッチで描かれている。
「もっと見せて下さい。ライブを!」
ゆうは強い瞳でそう言った。
そんなゆうを、嘘は、少し悲しそうな目で見つめている。
死 雲人が、戦戯 嘘を引き連れて登場した
雲人はいきなり、客席のゆうに手を差し伸べてきた。
「ゆう、お前を俺のハーレムに加えてやろう」
「ハッ!!!! ハー……」
ゆうが真っ赤になって絶句する。
「ちょっと! 私の作者さんを困らせないで欲しいのよっ」
「俺達は、確かにあまり接点はない」
雲人はそう言うと、【枠破りのバーンユニバース】で真っ白い白紙の世界を破く。
切り裂かれた先に現れたのはやはり真っ白い空間。
しかしそこは雲人が自由に動ける世界だった。
早速雲人は、背景に『戦場の城』を描いた。
「いきなりは、ピンとこないだろう。そのお前達の気持ちも分かる」
雲人は『戦場の城』を背景に【ヴァルハラを謳う剣】を振る。
剣が作り出した幻の雑魚敵の群れが現れ、派手な剣舞が始まった。
「だが俺はお前達に感謝してる」
ゆうと嘘を巻き込まぬよう心遣いをみせながら、雲人は言う。
「ゆうへの感謝は、嘘を生み出してくれた事。そして、嘘への感謝は、こうして生まれて、物語を歩んでいる事」
「私が嘘ちゃんを生んだ……?」
「私が、生まれたこと……」
2人の少女が敏感に反応したが、雲人は気づかずさらに続ける。
「今ここから、俺たちの絆は深まるのだ」
そして雲人は【BAD Invitation】の封を開け、その香りを漂わせた。
【BAD Invitation】には少量のノイズが入っており、自身を魅力的に見せることができる。
しかし大きなリスクも伴う。
「なに? この感じ……」
ゆうが目を見開きながら雲人を見上げる。
その目は、はにかんでいるくせに大胆に潤んでいる。
「はふぅ……こんなの嘘なのよ……」
2人の少女が雲人に吸い寄せられそうになったその時。
――またハーレムですの?
どこからともなく声が響いた。
「れっ、玲花!?」
怨念なのか執念なのか生霊なのか、はたまたもっと悪い何かを使って来たのかは判らないが、
――どうしても、わたくし一人では満足できないとおっしゃるのね
それは確かに天歌院玲花の声だった。
「ハーレムは俺の夢! 俺そのものだ!」
――『玲花のお願い』でも?
雲人は凍りついた。
『玲花のお願い』は、雲人にとってNGワードだ。
【BAD Invitation】を使うと自我が揺らいでしまい、嫌でも『天歌院玲花のお願い』を叶えたい気持ちになってしまうことがあるのだ。
従うつもりは毛頭なかった。しかし自我はどんどん揺らいでいく。
「くぅっ!」
雲人は、どうしても嘘とゆうを支配しきれない。
***
クロティア・ライハはライブの前、嘘に1冊のノートを渡した。
「以前PCゲームのセーブデータをロストしてしまったとき、データサルベージ(復旧)を勉強したの。
ここにそのやり方を判りやすく記しておいたわ。
もしも原稿作成にPCを使っていたとしたら、
削除したはずの『嘘さんのデータ』を、呼び出せるかも知れないから」
「私のために? ありがとうなのよ……」
嘘は、クロティアに深い感謝の気持ちを表した。
***
ステージに立ったナレッジ・ディアは、真っ白い白紙の世界を、感慨深げに見渡す。
(この世界は、なんだかマスターの手によって目覚める前の世界の事を思い出しますね……)
今日のナレッジは懐かしい【ナレッジウェア(エレガントゴースト)】を着ている。
それは、ナレッジがクロティアに出会う前……再起動する前から着ていた服だった。
♪ ♪
2人はいつものようにゲーム機を使ったスタイルで【アニメ化ゲーム(アニソン:注目のロック)】を演奏。
いつの通りの息のあった踊りを見せる。
今日のライブは、ナレッジがメインだった。
やりたいことがあるからとクロティアにお願いしてある。
(ナレッジは感謝の気持ちくらいしかあげる物は無いですが、
ライブで出来る限りこの気持ち!伝えさせていただきます!
***
クロティアは【プライドレス(チェンジカラードレス)】を着ているが、姿は仮想体のプライではなくクロティアそのままだった。 ナレッジが、そうリクエストしたのだ。
「マスター、私はあの時真っ暗な世界にいました。
電気信号で成り立っている、『0』と『1』に支配された世界です」
踊りながら、ナレッジはクロティアに聞いてもらいたいことをそのまま口にする。
ステージ上なので、もちろん観客達にもそれが聞こえている。
「その時の私は自分を示す名も家族も何もなく、ほとんどからっぽな人形でした」
ナレッジは音楽にのって、【超・背景描写】。
ステージ上に、殺風景な廃墟を描いていく。
それはクロティアが、再起動前の眠るナレッジをみつけた、思い出の場所。
「マスター。プライさんを召喚してもよろしいですか?」
承諾を得たナレッジが、【プライ(創作物:歌って踊れる共演者)】を召喚する。
プライは、ゲーム内で作成されたエディットキャラ。
クロティアが長年ゲーム内で使っていたもう一人の自分。
♪ ♪
3人で、慣れ親しんだ曲を踊っていく中、ナレッジが感謝の言葉を口にしていく。
「当時の私は、生まれた意味なんてない……と思っていた気がします。
でもその思いはクロティアという少女……マスターの手によってかき消されました」
クロティアは照れくさかったが、照れくさい顔をするのはさらにもっと照れくさく……。
「そうなの?」
踊りながら、ちょっと恥ずかしそうにそう返すのがやっとだった。
「はい! そうなのです!」
♪ ♪
曲が一番のサビに入った。
プライと同じ黒と黄色のデザインだったクロティアの【プライドレス(チェンジカラードレス)】が、曲のサビに合わせて青と白に変化した。
ナレッジは、並んで踊るプライとクロティアの両方に言葉をかける。
「マスターは私を目覚めさせてくれました。
何もない私に、名前をくれました。
ナレッジの名前の由来は、プライさんがゲーム内で習得したスキルから取ったものですよね。
それからマスターは、アイドルとしての居場所も与えてくれました」
そこでナレッジは、言葉に少し詰まった。
心の底からの感謝の気持ちを伝えたかったが、いざそうなると、なかなか難しい。
『そうゆうのは、きわめてシンプルでいいと思うのよ!』
気づけば嘘が、ステージの下から大きく見開いたノートを指さしている。
さっきクロティアが渡したノートに、走り書きしたものだった。
「シンプル……」
ナレッジの目がパっと輝く。
「ナレッジ? 今ここで言うの? ライブ中に!?」
「はい!」
ナレッジはにっこり笑って、大きく息を吸って、大声で言った。
「とにかく、2人ともありがとうござます!」
心からのその言葉に、観客からは拍手が沸いた。
「なんて尊い光景なの? ……うまく言えて、良かったのよ」
嘘が鼻息荒く安堵の声をあげた。
そして、ちょっと淋しそうに、観客席にいるゆうを見た。
***
「観客がいてこその俺達だ……だから俺達はいつだって、感謝を込めて演技をするんだぜ!」
『幻想演武』の睡蓮寺 陽介は、メンバーの堀田 小十郎、睡蓮寺 小夜と共に、その観客が待つ、ステージへ向かう。
どのような世界の、どのようなスタイルをしていても、陽介は常に自分が大道芸人であることを意識してきた。
オルトアースのナゴヤで、炎操りしストーリーテラーとしてステージに立つ、今、この時も……
――驚きと感動を届けてこその大道芸人
陽介はそう思っている。
とびきりの驚きと感動を届けることが、観客への感謝になる……その想いでこのライブに臨んだようだ。
ただありがとうと伝えるだけではなく、相手が一番喜ぶことを行う、それも感謝の表現なのだろう。
(大道芸で、最高のサプライズ(ありがとう)を届けるぜ!)
***
「今、ここで歌える事に感謝を込めて……貴女に、想いの歌を届けます…」
小夜は今日も、想いをこめて歌う。
♪ ♪
陽介は【チェシャ猫の見た夢】にて、ステージ上にカラフルな木々や花を芽吹かせる。
真っ白い白紙の世界のステージが、ちょっとした森のように見える。
♪ ♪
【チェシャ猫の見た夢】で現れた植物たちは陽介のパフォーマンスに合わせて左右に揺れる。
小夜の歌が森の景色と植物の踊りで賑やかになった。
歌っていると、小夜はゆうと目が合った。
ライブを楽しんではいるけれど、どこか怯えてて、自身のなさそうな少女、ゆう。
♪ ♪
(ゆうさん、あなたの想いを支えたい)
小夜は言葉ではなく、歌詞と歌とで、その気持ちを表現する。
***
【ヴァルハラを謳う剣】を手に凛と背筋を伸ばして、小十郎は陽介と小夜を見つめている。
(私にとっての感謝、それは)
「夢を抱くきっかけ……憧れ(オモイ)をくれた2人に他ならない」
小十郎が【ヴァルハラを謳う剣】を鞘から抜き、一歩前に出た。
「『人を魅せる演武を成す』」
小十郎はその夢を体現すべく、【ヴァルハラを謳う剣】を振る。
幻想ながら大勢の敵が出現し、小十郎に殺到した。
***
小十郎の演武が始まり、さらに小夜の歌は響き渡る。
♪ ♪
「さあさあ、粋なピエロの大奇術……篤(とく)と御覧あれ」
お道化て笑いながら、陽介は美しい銀色の羽根ペン【羽ばたきと囀り】で宙に歌詞を書きつけて、【言葉のコーラス】。
書きつけられた歌詞はバックッコーラスとなって奏でられると同時に、小夜の歌にふさわしい色に染まっていく。
その横では、小十郎が幻想の敵たちと派手な殺陣(演武)を繰り広げている。
【大殺陣回し】の演出も相まって、よりいっそう派手な殺陣(演武)になった。
突然、小十郎のすぐ目の前で、ステージが急に盛り上がった。
しかし小十郎は、その上に飛び乗り、その困難さえも演出に変え、さらに殺陣(演武)を盛り上げる。
(特に仮想体ではないが)小十郎が着た【イマジネイションスーツ】の【頼れる味方補正】が効いたのか、小夜と陽介もステージの盛り上がりに巻き込まれて転ぶこともなく事なきを得た。
***
(小夜の歌、陽介の大道芸のように……私の夢は演武にある。
故にこそ、私は2人の夢と共に己が全霊の演武を示し、感謝の想いをここに示したい)
敵を一掃し、小十郎は剣を鞘におさめ、次の大舞台を待った。
***
♪ ♪
小夜の歌は佳境を迎え、陽介は【ブレーメンの奇跡】を使用。
奏者が増えたように聞こえ、小夜の歌にさらなる奥行きが生まれる。
「感謝を込めて作る作品に間違いはねぇ……胸を張りな、ゆう!」
陽介がニッと笑って、【羽ばたきと囀り】の銀の鳩を羽ばたかせた。
宙に書きつけられた歌詞がカラフルな鳩となって一斉に飛び立った。
「わあっ……」
美しくカラフルな演出に、ゆうも観客も目を輝かせた。
「おめぇも思いっきり羽ばたけよ!」
***
そして小十郎が、再び前へ。
「誓いはここに、祈りは剣に……遍く希望(ひかり)は全ての人に……」
【枠破りのバーンユニバース】にて世界を切り裂いていく。
ステージもこれまで作り上げたステージの演出も、すべてが消失し、真っ白な空間が広がった。
さらに【枠破りのバーンユニバース】のクリエイション効果で、真っ白いその世界には、暁に照らされる世界が描かれる。
小十郎が、この時を待って準備していた【セイントコロネーション】。
眩い後光と共に輝く光の翼が出現させ、己が暁の中に飛び立つ姿で、夢へ進む姿を表現する。
たくさんの拍手の中、小十郎は【二次元キャラ:希望の救世主】を召喚。
希望を感じさせる輝きが振りまかれる。
暖かく希望に満ちた光を浴びて、ゆうはとても幸せそうだ。
「人は誰しも、その心に幻想(ユメ)を持つ
この希望(ひかり)が、君の幻想(ユメ)の後押しになる事を、切に願おう」
小十郎の言葉に、ゆうは恥ずかしそうにうつむいた。
「下を向くな。前を向いて…進んでいけ。
君の幻想(ユメ)を紡げるのは、兄でも……ましてや私達でもない」
「ゆうさん」
小夜の優しい声に導かれ、ゆうが顔を上げる。
「あなたたちは、すごい……。全部のライブが本当に素敵だった。
でも私は……。ごめんなさい。やだよね、こんなうじうじしてる子」
そしてゆうは、キリっと前を向いた。
持っていたペンで、再び、演目を終えたアイドル達の姿を描いていく。
先ほどと同じで線画だが、とてもいきいきと特徴をとらえ、オリジナリティ溢れるタッチで描かれている。
「もっと見せて下さい。ライブを!」
ゆうは強い瞳でそう言った。
そんなゆうを、嘘は、少し悲しそうな目で見つめている。