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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

海底二万ヘルツ

リアクション公開中!
海底二万ヘルツ

リアクション

■これからのフランティア

 中心部ではリベレーターとシャンティ・ドールのライブ対決が行われ、港では住人を移動させる手段である脱出艇を巡るバトルが行われている中。

「おい、どこへ行く! 外に出るなといっただろう!」
「さてはお前、離反者だな! こっちへ来い!」
「ち、違う! 離せ、違うんだ!」

 厳しい顔をした男二人が、気弱な男を両方から羽交い締めにして連行していく。少しでも怪しい素振りを見せたものは取り調べを受け、きつい処罰を受けることもある毎日。住人は自分が怪しまれるくらいならと、相手を監視し続ける毎日。

 息苦しさが蔓延し、いつか溺れてしまうような街の中を、これまで流れることのなかった音楽が流れる。
 どこにあっても自分の歌を、音楽を奏でるアイドルたちによって、フランティアの住人にかけられていた洗脳が少しずつ解かれていくのであった――。


「この世界は狭くて暗い。なぜか? それはお互いを信じられなくなっているからだ!
 疑心や憎しみは世界を麻痺させてしまう……だけど、友情や愛は世界を解放する!」

 龍崎 宗麟のハルモニアを込めた語りに合わせ、甘味 恋歌が彼の周囲に暗闇を作りそこへ色造 空が花火を打ち上げる。赤、青、緑と鮮やかな花火は遠くに居た者の目を惹き、やがて彼らの周囲に少しずつ、人が集まってくる。
「おい、なんの騒ぎだ!」
 監視の目を光らせていた男が数名、観客席に割り込もうとするが、恋歌がパチッ、とウィンクを披露すればまるで身体に電気が走ったように震え、それ以上強く出れずに逃げ帰る。
「さあ、お二人のカッコいいダンスを、見てください」
 恋歌がキーボードに触れ、前方でダンスパフォーマンスを繰り広げる宗麟と空を引き立てるような演奏を行う。宗麟が力強いダンスで住人を鼓舞し、空は光を放つ三個セットのジャグリング用ボールを器用に投げて魅せる。監視の目がなくなったことで、観客は普段抑圧されていたものが解放され、三人の演奏やパフォーマンスに盛んに声援を送るようになった。
「そうだ! いいぞ、皆の気持ちが伝わってくる。その調子だ!
 立ち上がることを恐れちゃいけない! 自由は待ってるだけじゃ手に入らないぞ。大丈夫、邪魔する奴らは空と海と大地を支えし竜、『バハムート』が蹴散らしてやるぜ!」
 決めポーズを魅せる宗麟へ、観客が熱い声援を送る。一瞬ステージに暗闇が落ち、直後ピンク色の電撃が見えたような気がしたかと思うと、恋歌が前に出て歌声を響かせる。

 彩のないモノクロの世界
 単調な日々が『あなた』との出会いで
 鮮やかに 色づき始める


 フランティアの住人にとって、自分たち『ドライ・リヒト』との出会いが、心の目覚めに繋がるように――そんな想いを込めて恋歌が歌を紡ぎ、空が指先一つで曲に介入して曲調を操る。恋歌の歌に合わせ、少しずつ世界が色づいていく様を表現すると同時に、ライブの冒頭でも使った花火を効果的に用い、光を取り入れていく。

 七色に光る虹の世界で
 私は『あなた』と どんな景色を見るのかな


 恋歌の歌が観客に熱を与え、眠っていた心に火をつける。もっと楽しくありたい、もっと輝きたい、もっと、もっと――。
 長い抑圧の中で押し潰されかかっていた欲求が溢れ、それがさらなる興奮を生み出す。
「その熱をもってすれば、世界に新たな風を呼び起こすことだってできる。いつまでも重苦しい空気では、楽しくないだろう?」
 空の吐息が会場を流れるそよ風に変わると、どこからともなく吹き込んできた風を『解放への道標』と感じるようになる。そして今度は自分たちが風を起こして乗り、新しい世界へ旅立たんとする気持ちが高まっていく。
「どうだ、俺達三人が力を合わせただけでも、こんなに鮮やかなものを生み出せる! ……ならば、ここにいる皆が一致団結すれば、さらに素晴らしい世界が生み出せるんじゃないか?」
 宗麟の呼びかけに、観客がお互い視線を合わせ、自然と手を取り合う。
「自分の信じるもののために行動する、そう、今ここにいる一人ひとりが、ヒーローになるんだ!」
 頭上を指差し、腕を高く突き上げた宗麟の動きに、観客も反応してそれぞれの手を高く上げる。舞い上がる熱気の風は押し潰そうとする空気をはねのけ、今こそ住人は自由の大切さを再び思い出したのであった――。


「サプリ、サプリはいかがですかー! 赤、青、黄色、各種取り揃えてまーす!!」
 川村 萌夏の、役になりきった声――今回の役は、一発奮起してサプリ売りに挑戦する少年――がステージから観客席へ届けられる。ステージの端から端へ歩いていき、くるり、と振り返ってもう一度歩き出そうとしたところで、八上 ひかり演じる客がやって来た。
「一箱いくらだ?」
「はい、200ゴールドになります」
「なんだとぉ! おいお前ら、こいつを向こうへ運んじまえ」
「へい!」
 客の仲間が少年を担ぎ上げ、ステージの奥――路地裏――へと連れ込む。少年は壁を背に、両脇を客と仲間に阻まれて身動きが取れない。
「こんなサプリを200ゴールドで売ろうなんて、命が惜しくないのか!」
「そ、そそそんなことは」
「だったら20ゴールドにまけろ!」
「は、はいぃ」
 少年は脅され、20ゴールドに値切られてしまう。その上箱に山盛りの上、こぼれた分まで持っていかれてしまった。
「サプリはいかがですかー! 口の中で爽やか、何個でも食べたくなる後味!」
 それでもめげることなく、再び声を張り上げる。観客が萌夏の声を心地よく聞いていたところへ、ひかりが別の客に扮し再びやって来た。
「一箱いくらだ?」
「はい、2……0ゴールドになります」
「なんだとぉ! おいお前ら、こいつを向こうへ運んじまえ」
「へい!」
 再び、客の仲間が少年を担ぎ上げ、ステージの奥へと連れ込む。
「20ゴールドで買ったんじゃ示しがつかねぇ。もっと高くしろ」
「じゃあ、500ゴールドで」
「いいだろう」
 思いもかけない値段がつき、これならさっきの損も補えると喜んで少年が箱を差し出すと、客は首を横に振る。
「どうして山盛りなんだ。きちんとすり切れ。まだ多い、もっと除けろ」
「こ、こうですか?」
 客の言うことに少年が懸命に応えていく。やれ商売人はたくさん詰めたように見せかけるのが当たり前だとか、色々と文句を言われながらも少年は愛想を絶やさず、客の要望に応えていった。
「すみません、これ以上はサプリが残らなくなってしまいます」
 ほとんど中身が落ちてしまった箱を差し出して少年が言うと、客はふん、と鼻息を鳴らして言った。
「別に構わん。どうせ、俺は買わないんだからな」

「「ありがとうございましたー!!」」
 萌夏とひかりが並んでぺこり、と礼をすると、観客から拍手と歓声が起こった――。


 ロレッタ・ファーレンハイナーがステージに上がり、先にステージの奥にて待機していたドクタークルークアメジストの力も借り、ブースのコンソールを操作してステージの照明を調節する。
「お忙しいところ申し訳ありません……しかし、折角のご縁。海底都市ではなかなか見られない、満天の星々の煌めきをぜひ、皆様と共に……!」
 ゆったりとしたテンポの曲をバックに、ロレッタが指先からハルモニアを飛ばし、星を生み出す。ロレッタひとりだけでは満天、とはならなかっただろうが、ドクとアメジストのサポートにより、観客がおぉ、とため息を吐くには十分な星が出揃った。
「この世界の空の向こうには、沢山の星が輝いているのです。海底も勿論美しい……けれども、同じくらいに美しい世界が、この光の粒だけあるのですわ」
 いくつかの星が流れ星となって消え、同時に新しく星が生まれる。世界は移ろいながら、輝きを変えながら全体として煌めいている。海底都市もひとつの星ではあるが、世界にはそれこそ無数の星があり、海底都市のとは別の煌めきを放っている。
「わたくしの故郷も、水を愛する土地です。水に囲まれ生活し、水を愛する友として……」
 ハルモニアを観客の方へ飛ばし、差し出した掌に着地させる。同じ煌めきでも微妙に異なる煌めきが観客の掌に生まれ、観客は自分たちの見ている世界と違う世界に思いを馳せる――。



 ほら見てごらん 花は自由に咲いているでしょう?

 街を行く剣堂 愛菜の手からハルモニアが離れ、地面に落ちるとたちまち花を開かせる。そして歌いながら進む愛菜に合わせて踊ったり歌ったり、自由に音楽を楽しむ様を街の住人に魅せる。
(海底都市、街並みは綺麗だなぁ。せっかくこんな素敵な街に住んでいるんだから、もっと自由に、ね。
 もうあなたたちを脅かす者は、ないんだよ)
 仲間を増やしながら、街を行く。途中、歌う彼女を取り締まろうと監視の者が近付こうとするが、植物に阻まれ逆に追い返されてしまう。するとチラチラと愛菜を気にしていた住人が一人、二人と賑やかな輪に仲間入りを果たし、思い思いに踊ったり歌ったりし始める。
(そうだよ。自由で居ていいんだよ。自由になることは、誰だってできるもの)
 輪に入ってくれた住人と手を取って、他の住人の周りをクルクルと回って、一緒に楽しむ。その楽しいという気持ちは伝播し、鬱屈していた街の雰囲気を明るくしてくれる。
(ふふ、よかった。みんなきっかけがあれば、自由を選び取ろうとしてくれる。押し潰されそうになっていたかもしれないけれど、栄養をあげたらちゃんと活き活きとしてくれた)
 反応してくれたことへの感謝の気持ちを込めて、愛菜がより盛大に、より楽しく歌う。やがていつの間にか、ちょっとした人の波が街の一角に出来上がっていた――。



 笑った顔も真面目な顔も『は?』って顔も
 マジ天使! マジ天使! とにかく圧倒的天使!


 ビジュアルが実に天使なブースが一台だけでも相当賑やかなのに、いま現場には――公園の一角、中央にオブジェクトが設置された開けた敷地――二台のブースが並び、芹沢 葉月とユニゾンした橘 樹と、アメジストとユニゾンしたドクタークルークが揃って、『マジ天使』というフレーズと具体的にどのへんが天使かというのを延々とだだ漏れさせていた。
「マジ天使、ってなんだ?」
 耳にした住人は『マジ天使』というフレーズの意味が分からず首を傾げながら、二人のジョッキーが生み出すパワーに惹かれる形で集まってきた。
「マジ天使とは、愛しい存在を讃える魂の叫び」
 そして曲が間奏に入り、音量を落とした樹が『マジ天使』の概念を観客に聞かせる。あの子かわいい、あの子キレイ……いやいやこんなんじゃ足りない、あの子マジやばい……やばいんだけどもっといい言葉を――そうだ、天使! マジ天使! ……とまぁこんな具合に、音楽に載せながら『マジ天使』の精神を伝えていく。
「それじゃこれから、仮の天使を召喚します。よかったら彼女を天使だと思って、応援してあげてね」
 樹がユニゾンを解くと、葉月が観客の前に現れアップテンポで可愛らしい曲をラララ、と声を乗せて歌う。
(ほら、ドクさんも? あなたの思う愛されアイドルを全身で表現してくれればいいので!)
(簡単に言ってくれるけど難しいよ? ボクよりアメジストの方が適任であるように思うがね!)
(多様な需要に応えるためには、違うタイプが必要なのです!)
(確かに、葉月さんの仰ることに一理ありますね)
(いやいや、葉月クンとアメジストもだいぶタイプ違うよね?)
 ――そんなやり取りが一瞬のうちに交わされ、結局押し切られたドクタークルークがアメジストをブースに置き、葉月の高音とハモる低音で曲を彩る。

 可愛いあの子も 残念なイケメンも どんな人でも
 マジ天使! マジ天使! とにかく圧倒的天使!


 最後は再び『マジ天使の歌』を流し、観客に『マジ天使』を歌ってもらう。二度、三度と繰り返されるうちに観客はなんだか楽しくなってきて、「そっか、これがマジ天使ってやつか!」と分かったような結局分からないような、でも実に楽しそうな様子で音楽に合わせて踊ったり歌ったりしていた。
(魅力的なものを見たり聞いたりして応援するのって、すごく楽しいと思う。今回は二人にその対象になってもらったけど、これからは皆さんそれぞれが、自分にとっての『天使』を見つけてほしいな)
 そんな想いを抱きながら、樹が曲を締め、観客は拍手と歓声でもって出迎える――。


「ねえ、最近、不穏な人たちが入り込んでるって知ってる? コレの打ち筋で、好ましい人物か大体わかるんだけど――」
 天地 和がパチン、と麻雀牌を置いた音が店の中に響き、その後店内がざわつき始める。店はフランティアの住人がよく利用する飲食店であり、もしここでの会話をうっかりチクられでもしたら大変なことになる。あからさまな犯人探しをする真似はしなかったが、明らかに場の雰囲気が悪くなってしまった。
(あ、あれ? ちょっとこれは良くない感じ?)
 和としては、麻雀を通じて『もっと自由を求めたっていい』と伝える目的だったのだが、そのとっかかりでつまづいてしまった感じだ。
「えぇーい! とにかく四人で牌を囲んで打ち合えば、すべてが分かるっ!」
 ――なのでちょっと強引に、近くに居た三人を牌を囲んで座らせ、山から牌をひとつ持ってきて自分の手牌に加える。右端でパチン、と音が鳴るとそれがハルモニアを生み、『どんな打ち方をしてもいい。どんな生き方をしてもいい』という気持ちが牌を通じて同じ牌を囲む三人に届けられる。
「……じゃあ、これで」
 最初は何が起きるか半信半疑だったメンバーも、牌を自摸して捨てるを繰り返すうち、自分の目指す打ち方、生き方を少しずつ模索するようになっていった。和は自分の手をあえて育てようとはせず、自分の生き方を示したメンバーに欲しそうな牌を渡すことで、目指す生き方を叶えてあげようとする。
「できた!」 白一二三四五六七八九白一二三
「できた!」 一一五五①①⑤⑤1155中中
「できた!」 東東東南南南西西西北北北①①
 そして、三人が役を完成させることに成功する。
「うん、その意気だよ! 常識に囚われない生き方をしたっていいんだ!」
 とりあえずこの人達は体制側ではないな、というのをチェックして、和は一緒に牌を囲んでくれた者たちを見送った。


 ……そんな具合で、ビル内の劇場だったり公園だったりでライブを行うアイドルと観客の交流が交わされる。
「見てきた感じだと、エンターテイメント施設は作りもしっかりしてたし、公演が行われていた痕跡もあった。シャンティ・ドールの連中、その辺はそれなりに気を使っていたんじゃないかな」
「ふへ? ほーかもひれないね~」
 屋台で手に入れた魚料理を頬張るスピネル・サウザントサマーをちらりと見て、千夏 水希がため息を漏らしつつ話を続ける。
「住人から話を聞けた限りでは、住人はシャンティ・ドールがドミネーターの支配から自分たちを護ってくれていたことは理解しているし感謝もしている。ただ、いつ終わるかわからない篭城戦が疑心暗鬼を生んで……が今回の大筋っぽいから、シャンティ・ドールと住人が互いにそれぞれの声を聞いておくのは、今後を見据えるに悪くない手だと思う」
「なるほど~。……で、具体的には? どうも話の流れ的に、ひとつ仕事しなくちゃいけなそうなんですけどー」
 ヘソを曲げるスピネルへ、千夏が「嫌なのか?」と言葉を含めた視線を突き刺す。
「へいへい。やーりますよーっと。結局これも、あたしのやりたいことの一つだもんね」
 『機械と自然が共に在る世界を創る』。昔のディスカディアにはあったはずの自然を取り戻そうとするため、二人は暗躍してきた。リベレーターが各地の緑化に努めるようになったのも、彼女らの働きが影響していた。
「よし、行くぞスピ。一気に住人の洗脳を解いて、そいつらの声をシャンティ・ドールの特権階級共に聞かせてやる」
「アイアイサー」
 ――そして二人が向かった先は、電波局。フランティア全域に映像と音声を配信することができる施設であり、施設もまた映像と音楽を投射することで住人への伝達機能を果たす。
「なかなか大きなビルですねー、んじゃジャック開始っと」
 千夏がハルモニアを生み出せば、ビルの壁面に色鮮やかな植物が生えていく。まるで珊瑚礁のように、幻影に彩られるビルをイルカが泳ぎ、その光景はフランティアのかなり遠くの地域からでも見ることができた。
「ここであたしの出番! ねーねーみんな、足元を見てごらん? そこには何があるか、分かる?」
 浮遊ドローンの張り巡らせるレーザー光に触れて演奏をしながら、映像を見ている住人の意識を海の中から、陸へと引き上げていく。蒼の世界に赤や黄色が混ざり、緑が生まれる。海底都市ではそうそう感じられない、花の香りや暖かな風も住人の意識をくすぐり、互いに抱いていた疑心暗鬼の気持ちを吹き飛ばしていく。
「あっ、ほらマスター映ってるよ、ぴーすぴーす」
「馬鹿やめろ映すな……」
 最後にスピネルと千夏が映し出され、すぐに消える。住人にとってはそれもちょっとしたエンターテイメントとなって楽しんでいたりもしたのだが。


 ――こうして、フランティア住人にかけられていた洗脳は少しずつ、しかし確実に解けていった。
 確かに住人は相互監視を強いられていたが、一方でフランティアが自分たちをドミネーターから護ってくれていたことも忘れていなかった。
「今なら住人とシャンティ・ドールが膝を突き合わせて、話し合いができるかもしれないねぇ」
「存続することが可能なら、私はその道が……いえ、それはこの街の者が決めることですね」
 ドクとアメジストが、事の済んだフランティア中心部へと足を向けた――。
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