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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

海底二万ヘルツ

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海底二万ヘルツ

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■脱出艇の確保に成功!

(……よし、敵の勢いが弱まっている。ライブ組が勝ったか)
 脱出艇の艦首に当たる部分――そこが唯一の出っ張りであるため、脆いかはともかく狙われやすかった――に装甲を施したブースを設置し、防御と支援攻撃拠点を兼ねた場所に立っていた龍造寺 八玖斗が、シャンティ・ドールのビートボクサーの統制が乱れていくのを目の当たりにして、リベレーター側の有利を確信する。

「その物騒な武器、破壊させてもらうっすよ!」
 シャンティ・ドールのビートボクサーが振り下ろしたドリルが、飛んで避けた緑青 木賊の先程まで立っていた地面を激しく穿つ。攻撃を避けられたビートボクサーがドリルを引き抜こうとするも、思ったほど出力が上がらなかったためにうまく抜けず、隙を晒す。
「ハッ!」
 拳に雷を纏わせ、気合のこもった一撃をドリルに叩き込み、バラバラに粉砕する。反動で後ろに転がったビートボクサーが恐れをなして退くのを見送り、ふぅ、と息を吐く。
「お相手の抵抗が弱まったっすね。……これはらいぶ対決へ向かった者が勝利を収めたからっすかね?」
『おそらくはな』
 呟きに反応するかのように、ブースを通じて八玖斗の声が届けられる。
「お相手、このまま大人しく引き下がってくれるといいんすけど」
『それは高望みだろうな。……来たぞ。一点突破を狙ってる』
 声が途切れ、代わりに多数の魚雷のような武器が地面を走っていく。それらは脱出艇の正面やや離れた場所で一斉に止まったかと思うとハルモニアの大音響を放ち、突撃を行おうとしたビートボクサーの集団の出鼻を挫く。
「流石に、一度にあれだけの人数を相手取るのは厳しいっす……そうだ! 八玖斗氏に使い方を教えてもらったこれを……」
 『爆裂轟音号』と当てられた、要はスタングレネードをビートボクサーの集団の後方へ撃ち出す。前方でなく後方なのには理由があり、ひとつは背後からの閃光と轟音で、挟み撃ちを受けたと思わせること。もうひとつは前方の味方を巻き込まないため。
「しまった! 増援か!?」
 果たして、一つ目の目論見は成功し、ビートボクサーたちに動揺が生まれる。
「ひるむな! 迷うな、突き進め!」
 しかし流石に実力者、すぐに体勢を立て直し再度突撃の準備を整える。
『緑青、関節を狙え。今の奴らは関節を護るハルモニアが不足している』
「了解っす!」
 八玖斗のアドバイスを受け、木賊が駆け出す。今まさに動き出そうとしていたビートボクサーの脚を狙って繰り出した一撃が見事に関節を外し、バランスを崩したビートボクサーが地面に倒れ、他のビートボクサーの突撃を妨害する形になる。


「撃てー!!」
 統制を効かせた炎の一斉射撃を阻むように、巨大な氷の塊が落ちてきて弾ける。弾けてもなお大きさを保った塊は炎を放ったビートボクサーを襲い、そして彼らが放った炎は冷気の風によって冷まされ、やがて消える。
「くっ、なんて冷気だ……!」
 体温を削り取るように吹き付ける冷気に、ビートボクサーがたじろぐ。お返しに水の攻撃を見舞ってやろうと考えていたが、その気はすぐに失せた。
「勝敗は決しました。無駄な抵抗は止めて、投降していただければ手荒な真似はいたしません」
 加賀 ノイがビートボクサー達に投降を促すが、それがかえって彼らに闘争心を再び呼び起こす。
「そんなわけのわからない着ぐるみで、俺たちをバカにしてるのか!?」
「……ツカサ、どうして着ぐるみを選んだのか説明してもらえると嬉しいかな?」
『え? だって相手がビートボクサーで、ディスコード緩衝材と合金が仕込まれた戦闘用着ぐるみの方が、ダメージを減らせるって思って』
 ユニゾンしている界塚 ツカサの声に、ノイが頭を抱える。……着ぐるみ姿なので実に愛らしい。
「確かにそうですが……この格好では『締まらない』でしょう」
『締める必要、ある?』
 ツカサにこう言われてしまうと、半分以上は見栄を張りたいに過ぎないノイは黙るしかない。
「ゴチャゴチャと何を抜かしている! 相手は一体だ、強引に押し通れ!」
 幸いにもノイが落ち込む暇もなく、ビートボクサーが束になって突撃してくる。
「固まっての行動は時に驚異ですけど、相手からすればいい的になる時もありますよ」
 ノイの頭上に、熱くたぎるハルモニアが生まれる。直後、ばらまかれた火球から火柱が生まれ、突撃してきたビートボクサーたちをまとめて飲み込む。
「……おおおおおぉぉぉ!!」
 ほとんどのビートボクサーが熱さにのたうち回る中、炎を耐え切った一人のビートボクサーがノイへ迫る。相手は遠距離攻撃を得意としているようだから、接近してしまえばこちらの勝ちだ――それが思い込みであったと、すぐに彼は悟ることとなる。
「囲んで殴り倒してくれるわ!」
 武器を振り上げたビートボクサーの身体が、複数に分裂する。それらでノイを取り囲み、一斉に武器を振り下ろす。……しかし響いたのは幻を潰した時のザッ、というノイズのみ。
「幻!? まさか――」
 異変に気付いて辺りを見回せば、ポップなようでいて実に殺伐とした雰囲気を纏った着ぐるみに囲まれていた。
「いつ、僕達が接近戦を苦手だと言いました?」
「最初からこれが狙いだったのか――」
 直後、高速で振動する刃に切り裂かれ、意識を失ったビートボクサーが地面に倒れる。


「みんな、あともうちょっと、がんばってなの」
 栗村 かたりの演奏が麦倉 淳ティリア・トレフォイルに、再び闘志を滾らせる。
「そうね、敵の数も減ってきてるし、勢いもだいぶ衰えてる。淳、かたり、支援よろしくね。……これを機にピジョンズの扱いに慣れておきなさいよ?」
 念を押してから、ティリアがビートボクサーへ接近を試みる。敵も疲弊しているのだろうか、幻を生み出して惑わせるような真似はしてこなかった。
「今なら、正面からでも……!」
 マシンアームにハルモニアの力を用い、水を纏った打撃を繰り出す。敵が全快であれば避けることも耐えることもできたかもしれないが、今の弱体化した、半壊状態のビートボクサーに抵抗をするだけの力もなく、打撃をまともに浴びて吹き飛ばされ、氷結効果によって凍らされて動けなくさせられた。
「もう十分慣れてるって。な?」
 淳が首を傾げながら小鳥の群れの一羽に問えば、? と首を傾げた反応を返す。
「ふふ、やっぱりかわいいの」
 かたりがつんつん、と撫でてやれば、スリスリ、と可愛らしい仕草を返してくれる。戦場にあって場違いなほど和やかな雰囲気は、ティルの鋭い声によって霧散する。
「ちょっと! まだ戦闘は終わってないわよ、気を抜かないで頂戴」
「いっけね! よーしおまえたち、今ティルと戦ってるあいつ……そうだ、見えるか? そいつを吹っ飛ばしてこい!」
 淳が命じれば、今度は無事に命令を理解した小鳥の群れが一斉に飛び立ち、ティリアと交戦していたビートボクサーに風圧を伴うハルモニア弾を浴びせる。
「ぐっ、このっ――ぐわぁ!」
 横から叩きつける風に似た力を受け、耐えようと踏ん張っていた脚のパーツが外れ、ビートボクサーが地面をしばらく転がる。片脚を失いつつも戦意は失わず、立ち上がった時にはしかし、かたりから投射された火球がすぐ近くまで迫っていた。
「これ以上は、無理か……!」
 脱出艇への攻撃を断念し、ビートボクサーが港を背に撤退を試みる。彼が直前まで居た場所は、火球の炎に包まれていた。
「逃げるわ、追う?」
「いや、いいんじゃないかな。もう逃げるのに精一杯って感じだし。それに戦いっぱなしで疲れたし」
「うん……まことおにーさん、わたし、ちょっと疲れちゃったの」
 へたり込んだかたりを、淳がお疲れ、と労う。少しだけ二人の様子を見守っていたティリアが、そういえばと口にして続ける。
「戦闘に巻き込まれて動けなくなってるレジスタンスが居るかも知れないから、見てくるわね。……はい、そういうわけだから、怯えてそうな人が居たら誘導してあげなさい。もし怪我しているようならすぐに伝えて」
 何故か自分に懐いているネズミを放ち、港に残されたレジスタンスが居ないかを確認する。
「ピジョンズにも手伝わせようか。……んー、なんて命令をすればいいんだ?」
「はい、ピジョンズちゃん、これを咥えて持っていってあげてね」
 淳が小鳥の群れに下す命令を考え、かたりが小鳥にうさぎクッキーを咥えさせる。もし取り残されたレジスタンスが居た場合は、それを口にすることで少しでも気分を和らげてくれたら、という想いだった。
「よし、これでいこう。……おまえたち、建物の中を見て回って、人が居たらクッキーを落としてくるんだ。気付いてもらえるようにするんだぞ」
 小鳥の群れが再び一斉に飛び立ち、半壊した建物をくぐるようにして中を見て回る。
「かたり、クッキー一枚もらうぞ」
「はい、どうぞなの」
 淳がかたりからクッキーを受け取り、頬張る。適度な甘さのクッキーが少しだけ、体力を回復してくれたような気がした。


「命までは取らない。安心して燃えろ」
 ミーニャ・クラフレットの指先で操られた火炎の筋が、既に満身創痍だったビートボクサーの最後の抵抗を奪い、地面に倒れさせる。ふぅ、と息を吐いたところでリーニャ・クラフレットの自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ミーニャ! えへへ、終わったから来ちゃった♪」
「おつかれ、リー姉。もうほとんどやっつけた感じかな」
「んーどーだろ? 私が来た時には誰も居なかったけど――」
 ミーニャから飴をもらって満足といった表情のリーニャに頷きつつ、これで幕引きならそれでよし、と考えていたミーニャの視界に、リベレーター側の猛攻を振り切って脱出艇に一撃を浴びせようとするビートボクサーの姿が映った。
「リー姉、最後の仕事だよ。俺がユニゾンするから、リー姉はあのビートボクサーを全力でやっちゃって!」
「ん、わかったよ、ミーニャ!」
 答え、リーニャがミーニャの前に、鋼鉄の杭を発射することもできる打撃武器を掲げる。ソウルドロップの煌めきを残してミーニャがユニゾンすると、翼のような飾りからハルモニアの光が溢れ出す。
「天使さん、お願い! あの人の足を止めて!」
 天使型の飛行ドローンに命じれば、複数の天使が先行するビートボクサーの足を止めるべく攻撃に移る。一撃は軽くとも多数ともなれば無視できないダメージを与え、その間にリーニャはビートボクサーを追い越して背後に脱出艇への道を背負う形で回り込むことができた。
「少女とて、手加減はしない! どけ!」
 ドリルが唸りをあげ、そしてビートボクサーがリーニャに迫る。
「ミーニャ、とっておきのアレ、いくよ!」
『了解、怪我だけは気をつけてね、リー姉』
 頭上に掲げた打撃武器に、上空から落ちた雷が宿る。
「いっけー!!」
 電撃を纏った武器を突き出せば、下腹部の辺りに杭の先端が当たり、大きな音と衝撃が生じてビートボクサーが激しく後方に吹き飛ばされる。
「油断大敵! 最後までしっかりやるよ!」
 ビートボクサーが起き上がってこないように、リーニャが転がり終えて動きを止めていたビートボクサーへ、追撃の雷を落とす。生じた煙が晴れた先では、全身を焦げ付かせたビートボクサーが地面に倒れて動かなくなっていた。
「……ふぅ。これで今度こそおしまい、かな?」
「そうなるかな。改めておつかれ、リー姉」
 ユニゾンを解いたミーニャに労われ、リーニャがえへへ、と笑った。


 各地で続々と、脱出艇防衛成功の報が流れる。リベレーターたちは無事、フランティアの住人が地上へ向かうための船を守り切ったのだ。
「……だが、一度に全員を脱出させるには足りないな」
『はい、フランティアには相当の数の住人が居ます。乗せられなくはないのですが……」
 イザークの言葉にスピカが答える。全員を一度に乗せて一気に街を空にすることは、できなくはなかったが相当の困難を要した。
「どうするかを話し合う必要がありそうだ。俺たちも中心部へ向かおう」
『はい!』
 その場の対応をアイドルたちに任せ、イザークは街の中心部へと向かっていった――。
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