海底二万ヘルツ
リアクション公開中!
リアクション
■状況、有利に傾く
『マスター、相手の動きが明らかに鈍くなりました。ハルさん達がライブに勝ったんですよ!』
スピカの嬉しそうな声を聞きつつ、イザークも自身の目でもって確認する。先程までリベレーター側とほぼ互角に戦っていたシャンティ・ドールのビートボクサーに、挙動の乱れが目立って発生するようになっていた。
「確認した。このまま押し返すぞ」
短く答え、手近に居たビートボクサーの不自由な右脚に拳を叩きつけ、完全に動作不能とする。
リベレーター側の反撃が開始されようとしていた――。
(あそこに見えるのが脱出用の潜水艇か……デカイな。まぁ住人が脱出するための船だから当然っちゃ当然なんだけど)
視界の向こうに見える潜水艇――少なく見積もっても三桁メートルはあるように見えた――を確認した行坂 貫が、これをどう守るかを思案する。都市の外へ逃がすにしても、シャンティ・ドール上層部メンバーが出入り口を管理している現状それは厳しい。先に沈めておけば接近は防げるかもしれないが、万が一爆雷でも投げ込まれれば余計に被害を受ける可能性がある。
(まさか簾を被せて偽装、ってわけにもいかないし――)
その時、侵攻してきたビートボクサーの挙動が明らかにぎこちなくなったのが貫の目からも確認できた。ディーヴァの力を抑えるため、中心部に向かった者たちの作戦が成功したのだろう、と貫は思い至る。
(となれば……早急に数を減らすのが上策、かな?)
その判断に至った貫が、最も港に迫っているビートボクサーの一人を標的に定め、地を蹴って跳躍する。瞬く間に十を超える距離を跳んで、両の肘付近に装備した銃を両手に握り、連射する。銃から放たれたハルモニアの弾がビートボクサーを襲い、弾に削り取られた金属片がそこら中に散った。
「ちっ、後もう少しのところで!」
侵攻の足を挫かれたビートボクサーが後退していくのを確認して、貫は消費したハルモニアの補填を済ませる。自身を守る光粒子の渦を新たに張り直し、不穏な動きを見せるビートボクサーへは、空気中の水蒸気を水滴に変えて高速で撃ち出す技にて牽制する。
「ノブレス・オブリージュを気取ってるのかもしれませんけど……自由を押さえつけるこのやり方、ドミネーターのやってきた事と何にも変わりはないじゃないですか!」
八重崎 サクラの、構えた細い警棒のようなそれが振り下ろされると、ヴィン、と特徴的な音が響く。
「貴様、何を使っている!? ただの棒ではないな!」
「その目で見えないのであれば、こちらからわざわざ教えてあげるつもりはありません。……来ないのでしたらこちらから行きますよ!」
これまでは防戦に徹していたサクラが、今度は攻勢に出る。
「行くよ、ジル……力を貸してっ!」
『はい! わたしはサクラさんの、パートナーですから!』
ジル・コーネリアスの声が聞こえ、サクラの左腕に装備していたパーツが光り輝く。
「はああぁぁ!!」
防御用にハルモニアを展開し、そちらへ防御を託すことで自身は攻撃のみに集中できるようになる。先程よりも速く、鋭い斬撃が何度か繰り出され、身体の後ろに剣を引いてからの切り込みが、ビートボクサーを捉える。
「ぎゃあぁぁ!!」
超音波を刀身とする剣の薙ぎ払いは、たやすくビートボクサーの装甲を切り裂き、脚部と胴体を別れさせる。人間であれば致命傷の一撃だが、身体の一部を機械化しているビートボクサーであるため、致命傷とはなり得ない。それでもろくに動くことはできないし、痛みは感じておりそれが許容量を超えるものだったため、がくり、と地面に伏せた彼はその後しばらく動くことはなかった。
「このっ!」
一人を無力化したサクラだが、攻撃の終わりを別のビートボクサーに突かれる。唸りを上げて突っ込んできたビートボクサーに反応するも、振り終えた剣を引き戻してまた振るうには時間が足りない。
「……なにっ!?」
必勝を確信したビートボクサーの攻撃は、しかし左腕のパーツに阻まれる。そして攻撃の際に生じた衝動をうまく利用され、距離を空けられてしまう。剣による反撃を警戒して備えたビートボクサーはしかし、サクラが無手で向かってきたことに動揺の声を発した。
「残念ですけど、むしろこっちが本職なんですよねっ!!」
左腕のパーツを下げて拳を覆うようにし、フックのように突き出す。脇腹を襲う瞬間ハルモニアを放出して振動を加え、まるで岩を砕くかのように削り取るように打撃を見舞う。
「がががががごほぉ!!」
ガクガク、と震えながら脇腹を削り取られたビートボクサーが吹き飛び、地面を転がって止まった後はしばらく動かなくなった。
「脱出艇は?」
『大丈夫です、損害はありません。フランティア住人の自由の翼、最後まで守り抜きましょう!』
ジルの声に頷き、一息の後サクラが次の標的へ歩を進める。
「リベレーターが攻勢に出たぞ! 援護しろ!!」
前方で激しい戦いが繰り広げられているのを見、彼らを支援するべく遠距離攻撃を得意とするビートボクサーが射撃の準備を行う。――だが彼らよりも一足早く、そこへ攻撃を加える者がいた。
「! 何か聞こえ――ぶはぁ!!」
何かが飛来する音を耳にした直後、凄まじい音圧が彼らを襲う。それにより意識を失う者、意識を失うまでに至らずともふらつき、次の行動が取れない者が多数発生した。
『命中ですねマスター! お見事です!』
「ん。ナレッジもサポートありがと。わかっていたけど大きいのは慣れないわね……」
賞賛するナレッジ・ディアの声に応え、クロティア・ライハが自分の身体にぐるりと巻き付く大型の武装管楽器を奏で、残りの遠距離部隊に追撃を与えて行動不能に陥らせる。大型だけあって複雑な機構で操作も難しいのだが、マスター想いのナレッジの調整により、ボタン一つ押しながら吹けば行動を起こせるというノービス仕様であった。
『前衛さんはまだまだ大丈夫そうです。敵の動きが鈍ってきたのが効いてますね』
「弱体化イベント発生かな。もう少し粘れそうなら、もう一つ二つ叩いておきたいね」
センサーを起動させ、前衛への支援攻撃を行っているビートボクサーのグループを索敵する。支援攻撃を得意とする者はたいてい、前衛への支援がメインのためそちらに意識を集中することが多く、自分たちが攻撃されることにまで意識を振り分けにくい。
(ゲームで白兵戦してる時、後衛の遠距離攻撃、すごく厄介だったな……。食らって怯んで前衛にころころされるの何度味わったっけ。こっちの支援は相手の前衛を狙うことが多かったけど、攻撃を届かせられるなら相手の支援を叩いた方が後々楽になると思うのよね)
クロティアは後衛部隊の厄介さをゲームで覚えていたのもあって、遠距離絶対ころころするマンと化したクロティアが敵の遠距離攻撃部隊に痛打を与えていく。砲撃の直前はハルモニアの出力を高め、そして威力を増した音圧が敵後方で炸裂、遠距離部隊をまた一人沈黙させることに成功する。
『この調子で完璧に脱出艇を護ってみせましょう! 無傷で護りきれば報酬アップ、ですね!』
「初回達成で石配布がお決まりね。……脱出艇は星3目標より星1目標な気がするけれど」
ゲームの話題に時折花を咲かせつつ、撃ち込む隙があれば音圧をぶつけて行動を阻害していく――。
「……ゲ、あそこに居るのはダイヤモンドじゃねぇか。同行してるって話は本当だったのかよ」
視界に捉えた見覚えある姿に、槍沢 兵一郎がなんとも言えない表情を浮かべる。ダイヤモンドとは先の決戦の折、大技にて撃破を試みたものの妨害が入り、直接相手するまでには至らなかった。故に向こうはこちらの顔を覚えてはいないだろう。
「まぁ、んなこたぁどうでもいい。後ろの脱出艇……こいつをやられちまったら俺たちの負けだ。だったら誰かが守らなくちゃいけねぇよなぁ?」
言って兵一郎が、両手に大型の機械の篭手を着け、脱出艇への侵攻ルートに立ちはだかる。
「ここを抜ければ、後は脱出艇まで一直線だ――!?」
すると、あちこち傷を負いながらもリベレーター側の迎撃を潜り抜けたのだろう、ビートボクサーが一人、兵一郎の前に現れた。
「ここまで来れた事は認めてやりてぇが、こいつをやられるわけにはいかないんでな。……そんじゃ行くぜ、己が盾に、不倒を誓えッ!」
気合を入れ、二つの篭手を前方に突き出す格好で兵一郎がビートボクサーに迫る。
「生身の身体で、機械の攻撃を防げるとでも思ったか!」
篭手ごと砕いてくれるとばかりに、ビートボクサーがハンマーを振り上げ叩きつける。――しかしビートボクサーの意図とは裏腹に、篭手は曲がりもせず歪みもせず、ブラッドレッドとディープブルーにカラーリングされた篭手はそれぞれハルモニアの光を滾らせていた。
「守ることには自信があんだ。その程度で俺を抜こうたぁ、ちょっとばかし甘ぇぞ」
篭手を打ち鳴らし、防御の構えを取る兵一郎。その姿はまさに『鉄壁』であり、手負いのビートボクサー一人に突破できるものではない。さらに彼にとって悪いことに、音を聞きつけリベレーター側の援軍が二名、やって来た。
「陽クン、これを。どう、楽になったかしら」
「ええ、身体が軽くなりました。少しくらいの攻撃なら、弾けるでしょう」
サビーナ・ベルトットの放つ高出力のハルモニアによって、光粒子の渦を付与された大吉 陽太郎が腕をグルグルと回し、ビートボクサーに向けて圧縮したハルモニアを拳に溜めた一撃を繰り出す。
「凄い音圧、だが避けられないわけじゃない! 反撃を――」
「あら、陽クンだけで終わりじゃないわよ? ビリッ、といくわ」
陽太郎の攻撃を回避したビートボクサーが反撃に移ろうとした直前、眼前に来ていたサビーナのかざした手から、雷が放たれる。
「ぐおおぉぉ!!」
直撃こそ免れたものの完全に避けられるものでもなく、全身を襲う痺れにビートボクサーが悲鳴を漏らす。衝撃で吹き飛ばされたことで距離が開いてしまい、遠距離から攻撃する術を使い切っていたビートボクサーは、ここに来て手詰まりとなった。
「退くくらいなら、いっそ――!」
覚悟を決めたビートボクサーの背中から、自分をも燃やす勢いでブースターの炎が迸る。
「特攻!? やれやれだなぁ。でも、帰れなくなると困りますからねぇ」
「そういうこったな。……俺があいつを受け止める、思い切り殴り飛ばしてやってくれ」
兵一郎が両手の篭手を構え、ビートボクサーの特攻を受け止める意思を示す。
「今度こそ、貴様を!」
「やれるもんならやってみろぉ!!」
――互いに叫び、そして激突する。爆発からの加速を乗せた突進に、兵一郎は後ずさりしながらも耐え切った。徐々にビートボクサーのブースターが勢いを失い、やがて炎がフッ、と消える。
「はーい、それじゃさようなら、っと」
兵一郎が押し出したビートボクサーへ、陽太郎がハルモニアを溜めた拳を叩きつける。大きく吹き飛ばされたビートボクサーは地面を転がって、止まった所で動かなくなった。
「お疲れさん、っと」
「そっちもね」
男二人の手が、頭上でバチン、と打ち鳴らされる。
「おかしいなぁ、部屋に戻って寝たつもりだったのに。……ま、いいか。
脱出艇を壊されたら帰れなくなるから……守ろう」
どうしてここに来てしまったのかよくわからない様子のリリィ・エーベルヴァインが、よくわからないまま脱出艇を破壊しようとするビートボクサーの迎撃に向かう。この頃になるとどのビートボクサーも少なからず損害を負っており、ユニゾンの効果も弱まっているため、各個に相手取ることができた。
「氷の刃よ、切り裂け!」
構えたサーベルを振り払うと同時、生まれた無数の氷の刃が手負いのビートボクサーを襲う。ひとつひとつの刃は小さくともそれが多数となると無視できない損害をもたらす。
「わからん技を!」
敵を遠距離攻撃使いと読んだビートボクサーは、接近戦を試みる。するとリリィはサーベルを収め、装甲を施した脚でビートボクサーの足を払った。
「しまった! 俺と同じ――」
機械パーツによって強化された存在であることを見抜けなかったのを悔しがる顔を見せたビートボクサーに、リリィの追撃が炸裂する。ハルモニアを溜めた拳を地面に転がされたビートボクサーへ叩きつけ、その意識を失わせる。
「……私が帰れなくなるから……脱出艇、諦めて」
一人を沈黙させたリリィがふぅ、と息を吐いてそう口にした。
『マスター、相手の動きが明らかに鈍くなりました。ハルさん達がライブに勝ったんですよ!』
スピカの嬉しそうな声を聞きつつ、イザークも自身の目でもって確認する。先程までリベレーター側とほぼ互角に戦っていたシャンティ・ドールのビートボクサーに、挙動の乱れが目立って発生するようになっていた。
「確認した。このまま押し返すぞ」
短く答え、手近に居たビートボクサーの不自由な右脚に拳を叩きつけ、完全に動作不能とする。
リベレーター側の反撃が開始されようとしていた――。
(あそこに見えるのが脱出用の潜水艇か……デカイな。まぁ住人が脱出するための船だから当然っちゃ当然なんだけど)
視界の向こうに見える潜水艇――少なく見積もっても三桁メートルはあるように見えた――を確認した行坂 貫が、これをどう守るかを思案する。都市の外へ逃がすにしても、シャンティ・ドール上層部メンバーが出入り口を管理している現状それは厳しい。先に沈めておけば接近は防げるかもしれないが、万が一爆雷でも投げ込まれれば余計に被害を受ける可能性がある。
(まさか簾を被せて偽装、ってわけにもいかないし――)
その時、侵攻してきたビートボクサーの挙動が明らかにぎこちなくなったのが貫の目からも確認できた。ディーヴァの力を抑えるため、中心部に向かった者たちの作戦が成功したのだろう、と貫は思い至る。
(となれば……早急に数を減らすのが上策、かな?)
その判断に至った貫が、最も港に迫っているビートボクサーの一人を標的に定め、地を蹴って跳躍する。瞬く間に十を超える距離を跳んで、両の肘付近に装備した銃を両手に握り、連射する。銃から放たれたハルモニアの弾がビートボクサーを襲い、弾に削り取られた金属片がそこら中に散った。
「ちっ、後もう少しのところで!」
侵攻の足を挫かれたビートボクサーが後退していくのを確認して、貫は消費したハルモニアの補填を済ませる。自身を守る光粒子の渦を新たに張り直し、不穏な動きを見せるビートボクサーへは、空気中の水蒸気を水滴に変えて高速で撃ち出す技にて牽制する。
「ノブレス・オブリージュを気取ってるのかもしれませんけど……自由を押さえつけるこのやり方、ドミネーターのやってきた事と何にも変わりはないじゃないですか!」
八重崎 サクラの、構えた細い警棒のようなそれが振り下ろされると、ヴィン、と特徴的な音が響く。
「貴様、何を使っている!? ただの棒ではないな!」
「その目で見えないのであれば、こちらからわざわざ教えてあげるつもりはありません。……来ないのでしたらこちらから行きますよ!」
これまでは防戦に徹していたサクラが、今度は攻勢に出る。
「行くよ、ジル……力を貸してっ!」
『はい! わたしはサクラさんの、パートナーですから!』
ジル・コーネリアスの声が聞こえ、サクラの左腕に装備していたパーツが光り輝く。
「はああぁぁ!!」
防御用にハルモニアを展開し、そちらへ防御を託すことで自身は攻撃のみに集中できるようになる。先程よりも速く、鋭い斬撃が何度か繰り出され、身体の後ろに剣を引いてからの切り込みが、ビートボクサーを捉える。
「ぎゃあぁぁ!!」
超音波を刀身とする剣の薙ぎ払いは、たやすくビートボクサーの装甲を切り裂き、脚部と胴体を別れさせる。人間であれば致命傷の一撃だが、身体の一部を機械化しているビートボクサーであるため、致命傷とはなり得ない。それでもろくに動くことはできないし、痛みは感じておりそれが許容量を超えるものだったため、がくり、と地面に伏せた彼はその後しばらく動くことはなかった。
「このっ!」
一人を無力化したサクラだが、攻撃の終わりを別のビートボクサーに突かれる。唸りを上げて突っ込んできたビートボクサーに反応するも、振り終えた剣を引き戻してまた振るうには時間が足りない。
「……なにっ!?」
必勝を確信したビートボクサーの攻撃は、しかし左腕のパーツに阻まれる。そして攻撃の際に生じた衝動をうまく利用され、距離を空けられてしまう。剣による反撃を警戒して備えたビートボクサーはしかし、サクラが無手で向かってきたことに動揺の声を発した。
「残念ですけど、むしろこっちが本職なんですよねっ!!」
左腕のパーツを下げて拳を覆うようにし、フックのように突き出す。脇腹を襲う瞬間ハルモニアを放出して振動を加え、まるで岩を砕くかのように削り取るように打撃を見舞う。
「がががががごほぉ!!」
ガクガク、と震えながら脇腹を削り取られたビートボクサーが吹き飛び、地面を転がって止まった後はしばらく動かなくなった。
「脱出艇は?」
『大丈夫です、損害はありません。フランティア住人の自由の翼、最後まで守り抜きましょう!』
ジルの声に頷き、一息の後サクラが次の標的へ歩を進める。
「リベレーターが攻勢に出たぞ! 援護しろ!!」
前方で激しい戦いが繰り広げられているのを見、彼らを支援するべく遠距離攻撃を得意とするビートボクサーが射撃の準備を行う。――だが彼らよりも一足早く、そこへ攻撃を加える者がいた。
「! 何か聞こえ――ぶはぁ!!」
何かが飛来する音を耳にした直後、凄まじい音圧が彼らを襲う。それにより意識を失う者、意識を失うまでに至らずともふらつき、次の行動が取れない者が多数発生した。
『命中ですねマスター! お見事です!』
「ん。ナレッジもサポートありがと。わかっていたけど大きいのは慣れないわね……」
賞賛するナレッジ・ディアの声に応え、クロティア・ライハが自分の身体にぐるりと巻き付く大型の武装管楽器を奏で、残りの遠距離部隊に追撃を与えて行動不能に陥らせる。大型だけあって複雑な機構で操作も難しいのだが、マスター想いのナレッジの調整により、ボタン一つ押しながら吹けば行動を起こせるというノービス仕様であった。
『前衛さんはまだまだ大丈夫そうです。敵の動きが鈍ってきたのが効いてますね』
「弱体化イベント発生かな。もう少し粘れそうなら、もう一つ二つ叩いておきたいね」
センサーを起動させ、前衛への支援攻撃を行っているビートボクサーのグループを索敵する。支援攻撃を得意とする者はたいてい、前衛への支援がメインのためそちらに意識を集中することが多く、自分たちが攻撃されることにまで意識を振り分けにくい。
(ゲームで白兵戦してる時、後衛の遠距離攻撃、すごく厄介だったな……。食らって怯んで前衛にころころされるの何度味わったっけ。こっちの支援は相手の前衛を狙うことが多かったけど、攻撃を届かせられるなら相手の支援を叩いた方が後々楽になると思うのよね)
クロティアは後衛部隊の厄介さをゲームで覚えていたのもあって、遠距離絶対ころころするマンと化したクロティアが敵の遠距離攻撃部隊に痛打を与えていく。砲撃の直前はハルモニアの出力を高め、そして威力を増した音圧が敵後方で炸裂、遠距離部隊をまた一人沈黙させることに成功する。
『この調子で完璧に脱出艇を護ってみせましょう! 無傷で護りきれば報酬アップ、ですね!』
「初回達成で石配布がお決まりね。……脱出艇は星3目標より星1目標な気がするけれど」
ゲームの話題に時折花を咲かせつつ、撃ち込む隙があれば音圧をぶつけて行動を阻害していく――。
「……ゲ、あそこに居るのはダイヤモンドじゃねぇか。同行してるって話は本当だったのかよ」
視界に捉えた見覚えある姿に、槍沢 兵一郎がなんとも言えない表情を浮かべる。ダイヤモンドとは先の決戦の折、大技にて撃破を試みたものの妨害が入り、直接相手するまでには至らなかった。故に向こうはこちらの顔を覚えてはいないだろう。
「まぁ、んなこたぁどうでもいい。後ろの脱出艇……こいつをやられちまったら俺たちの負けだ。だったら誰かが守らなくちゃいけねぇよなぁ?」
言って兵一郎が、両手に大型の機械の篭手を着け、脱出艇への侵攻ルートに立ちはだかる。
「ここを抜ければ、後は脱出艇まで一直線だ――!?」
すると、あちこち傷を負いながらもリベレーター側の迎撃を潜り抜けたのだろう、ビートボクサーが一人、兵一郎の前に現れた。
「ここまで来れた事は認めてやりてぇが、こいつをやられるわけにはいかないんでな。……そんじゃ行くぜ、己が盾に、不倒を誓えッ!」
気合を入れ、二つの篭手を前方に突き出す格好で兵一郎がビートボクサーに迫る。
「生身の身体で、機械の攻撃を防げるとでも思ったか!」
篭手ごと砕いてくれるとばかりに、ビートボクサーがハンマーを振り上げ叩きつける。――しかしビートボクサーの意図とは裏腹に、篭手は曲がりもせず歪みもせず、ブラッドレッドとディープブルーにカラーリングされた篭手はそれぞれハルモニアの光を滾らせていた。
「守ることには自信があんだ。その程度で俺を抜こうたぁ、ちょっとばかし甘ぇぞ」
篭手を打ち鳴らし、防御の構えを取る兵一郎。その姿はまさに『鉄壁』であり、手負いのビートボクサー一人に突破できるものではない。さらに彼にとって悪いことに、音を聞きつけリベレーター側の援軍が二名、やって来た。
「陽クン、これを。どう、楽になったかしら」
「ええ、身体が軽くなりました。少しくらいの攻撃なら、弾けるでしょう」
サビーナ・ベルトットの放つ高出力のハルモニアによって、光粒子の渦を付与された大吉 陽太郎が腕をグルグルと回し、ビートボクサーに向けて圧縮したハルモニアを拳に溜めた一撃を繰り出す。
「凄い音圧、だが避けられないわけじゃない! 反撃を――」
「あら、陽クンだけで終わりじゃないわよ? ビリッ、といくわ」
陽太郎の攻撃を回避したビートボクサーが反撃に移ろうとした直前、眼前に来ていたサビーナのかざした手から、雷が放たれる。
「ぐおおぉぉ!!」
直撃こそ免れたものの完全に避けられるものでもなく、全身を襲う痺れにビートボクサーが悲鳴を漏らす。衝撃で吹き飛ばされたことで距離が開いてしまい、遠距離から攻撃する術を使い切っていたビートボクサーは、ここに来て手詰まりとなった。
「退くくらいなら、いっそ――!」
覚悟を決めたビートボクサーの背中から、自分をも燃やす勢いでブースターの炎が迸る。
「特攻!? やれやれだなぁ。でも、帰れなくなると困りますからねぇ」
「そういうこったな。……俺があいつを受け止める、思い切り殴り飛ばしてやってくれ」
兵一郎が両手の篭手を構え、ビートボクサーの特攻を受け止める意思を示す。
「今度こそ、貴様を!」
「やれるもんならやってみろぉ!!」
――互いに叫び、そして激突する。爆発からの加速を乗せた突進に、兵一郎は後ずさりしながらも耐え切った。徐々にビートボクサーのブースターが勢いを失い、やがて炎がフッ、と消える。
「はーい、それじゃさようなら、っと」
兵一郎が押し出したビートボクサーへ、陽太郎がハルモニアを溜めた拳を叩きつける。大きく吹き飛ばされたビートボクサーは地面を転がって、止まった所で動かなくなった。
「お疲れさん、っと」
「そっちもね」
男二人の手が、頭上でバチン、と打ち鳴らされる。
「おかしいなぁ、部屋に戻って寝たつもりだったのに。……ま、いいか。
脱出艇を壊されたら帰れなくなるから……守ろう」
どうしてここに来てしまったのかよくわからない様子のリリィ・エーベルヴァインが、よくわからないまま脱出艇を破壊しようとするビートボクサーの迎撃に向かう。この頃になるとどのビートボクサーも少なからず損害を負っており、ユニゾンの効果も弱まっているため、各個に相手取ることができた。
「氷の刃よ、切り裂け!」
構えたサーベルを振り払うと同時、生まれた無数の氷の刃が手負いのビートボクサーを襲う。ひとつひとつの刃は小さくともそれが多数となると無視できない損害をもたらす。
「わからん技を!」
敵を遠距離攻撃使いと読んだビートボクサーは、接近戦を試みる。するとリリィはサーベルを収め、装甲を施した脚でビートボクサーの足を払った。
「しまった! 俺と同じ――」
機械パーツによって強化された存在であることを見抜けなかったのを悔しがる顔を見せたビートボクサーに、リリィの追撃が炸裂する。ハルモニアを溜めた拳を地面に転がされたビートボクサーへ叩きつけ、その意識を失わせる。
「……私が帰れなくなるから……脱出艇、諦めて」
一人を沈黙させたリリィがふぅ、と息を吐いてそう口にした。