オギャリ・フロム・ストリート
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リアクション
【1-4】
「あと1曲、バッキバキのロックでソウルを弾けさせてやんよ!!」
ドミネーターたちがやたらと楽器を打ち鳴らす曲を披露していた頃、宝庭 シェプストはカジュアルな【フーリーフーズ】の衣装で労働者たちに紛れてこの場へやって来ていた。
マルベル・クロルに目的を説明し、彼女を最終的に説得したのはシェプストではなかったが、どうやらお互いに共通の認識は持てたようである。
ちょうどタイミング良くドミネーターたちの演奏が終わり、観客たちは果てしない疲労感に襲われていた。
「ふふふ、私をどきどきさせられるかなー?」
【DF.パーティドライバー】を用意し、早速、ライブ対決を挑んだシェプスト。
用意した楽曲は、【あしたおやすみんと】。
【音曲噺】でリズムに合わせて色んなテイストの語りかけを観客たちに伝える。
ただ激しいだけの音をぶつけるドミネーターたちとは異なる音楽性を目の前に、労働者たちはただ口を開けて見ることしかできない。
「ねー、はるやすみ、しよーよ。……スイーツ食べに行ってー」
過酷な労働から一気に解放された気分になった労働者たちは、別世界へトリップしたかのようだ。
「毎日まじめにこつこつ働くのって大切だけど。でも本当は、あなたもゆっくり、お休みしたいんじゃなーい?」
優しい口調でそのまま続けるシェプスト。
「明日お休みだから、また会えるよ」
少しトーンの低い声でそう言うと、【エキサイトブレイク】で音量をフェードアウトさせる。
やがてマルベル・クロルが キング・デイヴィソンと共に現れ、後はそのまま彼女にバトンタッチした。
「後は任せてくれ」
キングにそう言われて、シェプストは笑顔で応える。
……キングはマルベル・クロルとのやりとりを思い出しながら、次に彼女と会話するパターンをいくつもいくつも想像していた。
「……共演……? 別にいいケド」
サーカスの元花形で、人前でのパフォーマンスに対しては人一倍意識が高く、しかもアイドルが嫌いなマルベルの首を縦に振らせることができたのは、饒舌なキングだからこそである。
だが、決して彼女をおだてることはなかった。
あくまで本音をモチーフとした挑発的な言葉を並べ立て、マルベルのモチベーションを高めるために持ち札を惜しみなく使う。
個性に合わせて人を動かすのはビジネスマンの基本だというのがキングの持論だ。
彼女の完璧なパフォーマンスを目の前にしても、キングは決して賞賛することはなかった。
「マルベル君、このままでは随分と格好悪いんじゃないかい? D.D.には軽くあしらわれ、むざむざ仲間まで彼女に奪われるだなんて」
「……何ヨ、それ」
「君は本当にあの聖歌庁のエリートか? そんな事では椛音君を助けるのも到底無理だろう。 嫌なら証明してみせることだ。さあ、聖歌庁のマルベル様のライブで、D.D.に目にもの見せてやるといい!」
こうやって煽ることでマルベルを奮い立たせたのだった。
「ちょっと、早くしなさいよネ!!」
「はいはい」
「返事は一回!!!」
やれやれ、とキングは溜め息をつきマルベルを【ヴィークルブース】へと誘導する。
そして【メロウショコラ】を使い、甘い香りで観客たちを癒した。
マルベルは卓越した身体能力を生かしたパフォーマンスで、あっという間に観客の視線を惹きつけた。
その動きに合わせて【スムースバラディア】を使い、キングは観客たちをより一層、夢見心地な感覚へと誘う。
「さすがだ。……素晴らしいライブになったな」
キングは【パーティースポット】で、フィナーレを飾るマルベルを明るく照らす
「ほら、早く来なさいヨ」
「え?」
マルベルがキングの腕を自分の方へぐいっと引き寄せる。
「あんたのおかげで、ちょっとだけこましなステージになったって言ってんノ」
「……なるほど」
ぷいっと横を向いたマルベルだったが、機嫌が悪いわけではないらしい。
「先程はすまなかった、少し強く言い過ぎたな……怒らないでほしい」
「何のこと? もう忘れたワ」
そう言ったマルベルは、ふふっと笑って見せたのだった。
龍造寺 八玖斗と天地 和はできるだけ労働者たちが多く集まっている場所へ向かい、【DF.パーティドライバー】のミラーボールと【ディスコフライヤー】を展開して即席のライブ空間を演出した。
何の変哲もない路上が、たちまちエンターテイメントな雰囲気に早変わりする。
八玖斗は【スムースバラディア】と併用して「賛辞」を歌い始めた。
――疲れ切った眼に何が見えてる?
過去や明日の事じゃねぇ 聞いてるんだ、今を生きてる?
節々の痛みに 変わらぬ日々のハードさ
それに対して当たり前に 流れ行く日々さ
でもオレだけでも言ってやるよ お前は頑張ってるよ そして最大限の賛辞を
だから今は休んでいいんだ この曲を聞いてていいんだ
まずはゆっくり休め
多少遅れたっていいんだ 動きたくなったら動け それは許されてんだ
よくやった 自分を褒めれるの 自分しかいねえだろ?
優しいリズムと歌詞は、疲弊した人達をリラックスさせ、穏やかな表情へと変えていく。
「歌なんか……久しぶりに聴いたよ。アンタ、歌うまいなぁ……それに歌詞も、沁みるよ……ここに」
胸元を押さえて目を細めた中年の男性が、表現できる精一杯の「賛辞」を八玖斗に送る。
照れくさそうに笑った八玖斗は、ぽりぽりと頭をかいた。
「はっくーん、いたいた、麻雀できる人たち!」
和はどこから見つけてきたのか、せっかくのライブ中に労働者たちに紛れて浮かない顔をしていた人々を4人引きつれてくる。
「はいっ、じゃあ……いくよー!」
【高級麻雀セット】を広げて、早速麻雀を開始する和。
「姐さんにはほんと、いつも驚かされっぱなしだ……」
八玖斗が【パーティスポット】で和に注目が集まるように麻雀熱を伝播させる。
勢いづいた和は手際よく麻雀のルール説明を始め、
「最初は役とか点数とか考えず、和了る事だけ考えてみよう!」
明るくそう言って、【ハーモナイズプレイ】で牌の音を楽しそうに響かせた。
「近くで見ると、牌ってけっこうきれいなんですねぇ……」
「そうでしょ!?」
興味を示してくれたら、後はもうこちらのもの。
まずは和が1局打って手順を示し、勝ち方の説明をしたり、次の手を考えたりとなかなかに手厚い。
「うーん……そうきましたか……」
詰んでしまったのか、頭を抱える労働者に八玖斗は【DF.パーティドライバー】で熱くなれる曲を流し、場を盛り上げようとする。
「そう簡単に、勝負が終わってしまったらつまらないからな……」
そしてひそかに【エキサイトブレイク】で嵐の前の静けさを演出して、何かが起こりそうなわくわくした雰囲気を醸し出した。
「リーチだっ!」
和は八玖斗に合図を送ると、曲を盛りあげてもらうのに合わせて、もう1つの【高級麻雀セット】をじゃらじゃらさせたり牌の音を響かせたりして、更なる【ハーモナイズプレイ】で気分を盛り上げる。
こんな形のライブもあるのだということを、労働者たちに十分示すことができただろう。
勝負の行く末よりも、勝負に夢中になることで疲労を忘れてくれることの方がずっとずっと大事だということを、八玖斗と和は伝えたかったかも知れない。
遠巻きに見ていたドミネーターたちは、ばつが悪そうに麻雀を楽しむ様子を眺めていた。


