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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

オギャリ・フロム・ストリート

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オギャリ・フロム・ストリート

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【1-2】


 少し入り組んだ場所の路上に雨宮 いつきが用意した【ヴィークルブース】は、周囲に建物が多く並んでいるにも関わらず、一際目を引く物としてそこに存在していた。

「これでよし……っと!」

メイド姿に身を包んだシャーロット・フルールは、ようやく【ヴィークルライザー】で演奏と演出を自動で流すようにプリセットし終えた。
 思っていたよりも時間はかかってしまったが、ライブパフォーマンスを最大限に発揮するため、絶対に手は抜けなかった。

「ねーっ、準備はオーケー?」

「ああ、こっちは問題ない。……ってかさ、今更だけど、もっと他にコンセプトなかったのかよ? メイドライブって、なんつーベタな……」

 シャーロットがじろりとアレクス・エメロードを見やる。

「な、何だよ、いや、別に文句あるわけじゃねぇよ。第一、お前は友人に雇われたみてぇな立場だしな。元からお前、猫っぽいし、周りからもよく言われてんだろ?」

「えぇ? そんなことないよぉ。ところでアレクちゃん……♪」

「だーかーら! 何度言ったら分かる? んなキラキラした目で見ても、俺はぜってーメイド服なんか着ねぇからな!」

「ケチーーーー!! いつきくんを見習わなきゃアレクちゃん、ねっ?」

 シャーロットに話をふられたいつきは、はぁ……と小さな溜め息をつく。

「働き疲れたウェストレヴンの人を癒して元気付けるためにライブを行う、そのためにメイドや執事になりきってパフォーマンスをする。ここまでは分かります」

「うんうん♪」

「メイド喫茶とか執事喫茶とか、お世話して貰えて癒される~って人もいますもんね」

「そうそう、さすがいつきくん、分かってる~!!」

「けど……なんで僕がメイドさんなんですかー!?」

 いつきはふるふると握り拳を震わせ、恥ずかしそうに頬を赤らめる。

「え、てっきり女装が好きなのかなーって思ってたけど」

 アレクスに言われて、ますます真っ赤になるいつき。

「じょ、女装が好きなわけないじゃないですかー!」

 いつきの横でメイド服のスカートをヒラヒラとさせていた奏瀧 鈴は、

「なんでかって、そりゃあ、とてもよくお似合いだからです。こんなに似合うのに、メイド服を着ないなんてもったいないのです!」

 そう言って、執事服姿の日下部 穂波に賛同を求める。

「雨宮くん、頑張って!」

 穂波はいつきの背中を軽く叩いて、

「さぁ、ボクらのライブ、最高のものにしようか!」

 うんうんと自分でも頷きながら言った。

「や、やっぱり着替えて……」

「さぁさぁ、時間もないですし、早く行きますよ!」

 鈴に引っ張られ、結局いつきは断り切れずにメイド姿のままライブに参加することとなった。

「いつきはいつき、オレはオレ。……ほらシャロ、本番前からいきなり曲がってんぞ」

 アレクスが曲がっていたシャーロットの猫耳をまっすぐに直し、スカートについた埃も払ってやった。

「ま、まぁ……なんつーか、似合ってんよ。悪くねーってか」

「あーっ、アレクちゃんがデレた!!」

「はぁ~?! ったく、勝手に言ってろ!! こっちはレイ・アルバの音調整すっから、お前はダンスに集中しとけ」

 ぶっきらぼうな言い方だったが、アレクスがシャーロットのことを一番に考えているのは彼女もよく分かっている。

「……負けたら怒るからな」

「分かってるもんっ! ――それじゃ、いっくよーーーっ!」

 シャーロットの掛け声に合わせ、Dフレームにユニゾン【ユニゾン:シャーロット・フルールのDF.プラズマベース】したアレクス。
 2人はフレイムポールの火柱と共に【ヴィークルブース】上に登場した。
 まばらな拍手。
 わずか数人しか見ていないライブだが、そんなことは気にしていられない。

「いぇーい!! ウェストレヴンの皆を元気にしちゃう猫猫妖精メイド、シャロちゃんの登場だよーーっ!」

 寂れたその場の雰囲気にそぐわない明るいシャーロットの声は、ビルとビルの間を駆け抜けてゆく。

「さぁ~、ボクのきゃっつだんすをとくと見よっ☆」

 シャーロットが高く足を上げた瞬間、スカートの裾がふわりと舞い上がり、何となく彼女を見ていた労働者たちが思わず赤面して大歓声を上げた。
 アレクスが【レイ・アルパ】を展開させると、浮遊ドローンが放つレーザー光の中を本物の猫のように飛びまわる。
 軽やかでしなやかな体の動きは、まばらだった観客たちを次々と引き寄せていった。
 曲を【コアポップハーモナイズ】で奏でると、観客たちも一緒にリズムに合わせて拳を振り上げ始める。

「そーーーれっ♪ ボクのフレンズ登場だよ~☆」

 シャーロットは【U.エレクトリカルグルーヴ】で猫の幻を出現させると、自分の体の上を走らせたり、頭に乗せてみたりと小粋なパフォーマンスを繰り広げていった。
 疲れた労働者たちを楽しませるのに、もはや十分すぎるくらいだろう。

「ボクはあなたのメイドちゃんだよ☆ 雇いたいご主人様は、ぜひぜひ合いの手を♪」

 【プチョヘンザ】で手拍子を促す。
 そのまま手拍子が鳴り響く中、【ヴィークルブース】上から観客の近くまで大ジャンプを決めてみせたシャーロット。

「ようこそ、いらっしゃいましたご主人様♪ 妖精シチューを召し上がれ!」

 まるでおとぎ話に出てくる魔法のようにナチュラルシチューを出現させ、観客たちにひとつずつ差し出す。

「ふふ、ボクお手製だよっ♪ アツアツだから気をつけて食べてね?」

「あ、ありがてぇ!」

 予想だにしていなかった軽食の登場に、観客たちはまさに大盛り上がりとなった。

「そーだ。あーんって食べさせたげよっか? はい、あーん♪」

 スプーンでシチューをすくったシャーロットの前に、長蛇の列ができたのは言うまでもない。
 その背後で、いつきが流していた楽曲はポップなカジュアルソングだった。
 メイドや執事といった職を全うする人々の、仕事熱心な雇い主に対する切実な思いを綴った歌。
 もっと私達を見て、そして――頼って。
 切ないメロディに合わせて、鈴が【ハーモナイズギター】で【ハーモナイズプレイ】を発動し、演奏する。
 穂波も【ハルモニアチューニング】で最高の調子にセッティングしてライブに臨んでいた。
 かわいらしい【マイクロッド】を使用して、歌い始める。
 メイドと執事が織り成すハーモニーはまさに絶妙。
 世間一般的に、こういう曲は「萌えソング」と言うのだろう。

「あの人達に頼りたい、甘やかされたいって思ってもらえるような曲ですよね……」

 穂波と背中合わせになって、いつきが曲の合間にぽつりと言った。

「まさに狙いどおり……だよね!」

 穂波のリードでくるっと回転したいつき。
 いつきは自分の理性を振り切って、腕を大きく振って見せたり、かわいらしくピョンピョン跳ねてみせた。
 鈴も一緒になって、カーテシー(お辞儀)の動作を取り入れたり、ロングスカートが舞うようにターンをする。
 いつきは鈴の周囲をくるくると回りながらスカートの裾をふくらませ、お互いに身体を使って躍動感を表現していった。
 いつきのしなやかな動きに合わせて、観客たちからはいつの間にか拍手が沸き起こる。

「皆さんも、どうぞご一緒に!」

 観客のノリに合わせて、鈴は【ブーギーハルモニア】で踊りだしたくなるような演出をする。
 間奏中、穂波が観客たちに近づき、

「お疲れ様。今日はただ、ボクらだけを見てくれよ?」

 優しい笑顔で、うっとりした表情の女性労働者たちから求められた握手に応じていく。
 ビシッと決まった執事姿には、男性も思わず見惚れてしまうほどだ。

「あなたのハートに、ラブパッション!」

 曲が一番盛り上がるところで、いつきは両手でハートを作ってみせた。
 首を横に傾けて投げキッスをすると、いつきの周囲にもたくさんのギャラリーができて
いたのだった。

「や、やっぱり恥ずかしいです……!」

 だが、仕事で疲れ切った労働者たちを癒してあげれるなら、と。
 いつきは顔をひきつらせながらも、最後まで手を抜かずにメイドとしての自分をアピールし続けたのだった。
 ライブの終了後は、観客たちと共に和んだ一時を過ごす。

「ご主人様、今日のライブいかがでしたか? 喜んでいただけたら幸いです」

 鈴はつつましやかに一礼すると、メイドとして最高の締めくくりを観客たちに届ける。

「今日はご主人様が多いので、【豚骨魂】を持ってきました。お家で食べて、元気になってくださいね」

「さぁ、一休みついでに、こちらもおひとつどうだい? 形は気にしないでくれ。料理はあまり得意ではないんだ」

 穂波が準備していた【ケミカルBLTサンド】も一緒に差し出す。
 あたたかい【豚骨魂】と共に、空腹だった観客たちの胃袋をやさしく満たす――。
 身も心も満たされた観客たちは、また明日に向かって力強く進むことができるだろう。
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